東方時哀録   作:シェイン

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皆さん、1ヶ月も間隔が開いてしまってすみません!!第2話の時点で100以上の閲覧、お気に入りまで頂けたのに本当にごめんなさい!

前書きにだらしなく言い訳を書いても仕方が無いので、とりあえず第3話をご覧ください!


第3話 ~共鳴!元幽霊と奇跡の巫女~

時刻は午前9時。

 

幻想郷が迎える、清々しい朝。幻想郷は外の世界ほど機械技術が発達していないが故に、空気は自然体のまま体と心に染み込んでくる。だが、ここの空気は一層清々しいものである。その理由は場所。幻想郷で一番の大きさを誇る、妖怪の山の頂上なのだ。とはいえ、妖怪の山は特殊な形状をしている。連なる山脈が円形を築き、それによって生まれたクレーターのような空間に、妖怪の里等が点在しているのだ。その大きさ、範囲が最大なのであり、頂上と言えど雲を越えるようなものではない。だからこそ、このように清々しい環境なのだ。そんな心地よい朝をもたらす妖怪の山の頂には、荘厳かつ大きな神社が構えている。その境内を、朝から綺麗に掃き清める少女がいた。

 

「よしっ!これで境内の掃除は終わりですね。」

 

少女は落ち葉1つなくなった境内を見渡して、満足そうに笑う。そんな誠実な彼女の名前は東風谷(こちや)早苗(さなえ)。この神社に仕える巫女であり、風祝、現人神と呼ばれる、若くして神格化された奇跡の子。整った顔立ちに、脇を大きく出した巫女装束、新緑の長髪に蛙の髪飾りを付けている。そんな麗しい彼女の姿に、神社に祭られる二柱の神への信仰関係なしに神社訪れる男たちもいるという。

 

「さて、次は...本殿の掃除ですね。」

「早苗~!」

 

一つの仕事を終えた早苗は境内に背を向け、自らの仕える神の社...守矢神社の本殿に向き直る。木造でありながらも揺るぎない力強さを醸し出す神社から、やや高い声が聞こえた。どうやら早苗の仕える二人の神の片方がお呼びのようだ。

 

「は~い!どうされました、諏訪子様?」

 

大きな声で呼び掛けに答える早苗。そこへ、二つの目玉をつけた高い帽子を被る少女が近寄る。服装は青と白を主にしており、身長はやや低めで、髪は美しい金髪。そんな幼い容姿の少女は他でもない、早苗の仕える土着の祟り神、洩矢諏訪子である。諏訪子は早苗のいる縁側までたどり着くと、少し屈んで縁側の下にいる早苗と目線を合わせる。そのまま称賛を送るように笑うと、自分の手にある新聞を早苗に向けて差し出した。

 

「さすが現人神だね~。昨日の山火事は被害を最小限に抑えることが出来たとさ。」

「そうですか!無事に鎮火して何よりです...ん、これは何でしょう...?」

「なになに?」

 

「文々。新聞」と題されるその新聞の見出しには、昨晩起きた突然の山火事について書かれており、河童たちの協力と局地的な豪雨により速やかに鎮火されたそうだ。その脇に写真も載っていたが、その写真はブレが多く、正確な状況を窺い知ることは不可能だが、二つの存在が争っていることは何とか理解出来た。写真の隣には「二つの謎の存在!彼らが山火事の原因か!?」と書かれており、早苗は写真を指で示しつつ諏訪子にも意見を求める。

 

「さぁ...何だろうねこれ。まぁ、あのブン屋のことだし、またでっち上げなんじゃない?」

「やっぱりそうですかね...?」

「何だ、二人してやけに夢中じゃないか。どれ、私にも見せてくれ。」

 

二人してこの場にいない鴉天狗を疑う中、もう一人の神も興味をそそられ現れる。大きなしめ縄を背負い、胸元に鏡を備え付けるという独特な装飾品の彼女は、紫と赤を主とした服装の女性で、身長は三人の中で一番高い。少し大人な雰囲気の強い彼女は早苗が仕えるもう一人の相手、八坂の神である八坂神奈子だ。神奈子は新聞を覗きこむと、呆れたようにため息をついて縁側にどっしりと腰かける。

 

「全くあの鴉天狗は...新聞に精を出すのはいいが、虚実をばらまくのは迷惑だな。」

「神奈子様...虚実は言い過ぎですよ。良いじゃないですか、何もないよりはワクワクしますよ!」

 

渋い顔をする二人は、やれやれといった仕草でちゃぶ台のある居間へと戻って行く。神奈子は、その際にふと気付いた様子で早苗に告げる。

 

「何もないと言えば...早苗、冷蔵庫の中、ほとんど何もなかったんじゃなかったか?」

「あっ!?忘れてました...!あぁ、ど、どうしましょう!」

「...掃除はまだ大丈夫だろうから、買い出しに行って来てくれるか?」

 

急に思い出したはずみで竹箒を取り落とし、それを拾うのに苦労する程に慌てる早苗に、神奈子は父親のように落ち着いた口調と寛大さで買い出しを促した。ぱっと顔を輝かせた早苗は、明朗な声で「はいっ!」と返事をする。それは諏訪子の耳にも届いたらしく、壁にかけられていた手提げ袋を手に取り、神奈子に向けて投げ渡す。それを片手で掴み取った神奈子は、掲げるようにして早苗に差し出す。

 

「じゃあ、頼んだぞ。」

「はいっ!もし小腹が空いたら林檎を食べてて下さい!前に買ったのが、残っちゃってますので。」

「あぁ、分かった。」

「それでは、行って参ります!」

 

袋を受け取った早苗はしれっと残り物の処理を頼みつつ、軽快に駆け出して守矢神社の鳥居を潜って行った。その背中を見送った神奈子は、早苗が落としたまま放置して行った竹箒を拾い上げながら笑う。

 

「ここに来てもう4年か...あいつも19才になるのに、相変わらず落ち着かないな。」

「まっ、あーいう元気さとか全力さが早苗のいいとこなんだけどね~。」

 

境内の逆側にある溜め池を眺めていた諏訪子は、神奈子の独り言に背を向けたまま答える。それに対して神奈子は小さく笑うと、竹箒をくるりと一回転させて柱に立て掛けた。一方の諏訪子は溜め池を泳ぎ回る鯉の間に、異質なものを見つけて声を上げた。

 

「おっ!何だろこれ?」

「ん?今度はなんだ、隕石の写真か?」

 

神奈子が皮肉を言いながら溜め池に向かう間、諏訪子は池に手を入れてそれをつまみ上げる。手をスナップさせて水滴を払うと、それの見た目が明らかになる。

 

「「...目玉?」」

 

思わず声が揃う二人。それは目玉を模した機械のような物で、元の色であっただろう水色が所々に残っているが、一部水色が抜け落ちて薄い灰色になっていた。左右には対になる形でスイッチがついているその機械の目玉、二人はしばらくの間、茫然とその目玉と見つめ合っていた。

 

 

 

早苗は軽快な足取りで石段を下りていく。心地よい風を感じながら歩む早苗がふと空を見上げると、空は透き通った青で、雲は欠片一つない。ただ一つ空にあるのは、大きな黒い流れ星のようなものである...そう、午前9時に流れ星だ。

 

「あっ、流れ星!珍しいこともあるものですね~!お願いごとをしないと...」

 

能天気に喜ぶ早苗は両手を合わせて、「守矢神社が安泰でありますように...」と三度繰り返す。願いの内容は極めて模範的なものであるが、この現象への対応は極めて異常である。願いを終えた早苗は両手をほどき、嬉しそうに再び歩き出した。だが、急に流れ星に視線を集め、目を細める。

 

「流れ星ならば発火による光がある、黒く見えることなんてないはず...」

 

自分の科学知識から違和感を感じた早苗は必死に目を凝らし、その正体を捉えた。

 

「人間...!?」

 

早苗が目を丸くして呟いた通り、一人の人間が空中でもがいていたのだ。その体は今も重力に引かれ、幻想郷の大地に向かって落下し続けている。この危険な状況を理解した彼女は、再度両手を合わせて願いの構えを取る。そして小さな声で呪文のようなものを呟き始めた。

 

「天を司りし神々よ...我、汝の祝福を願いし者なり。汝に我等の幸吉を願いし思いが存ずるならば、汝の操りし神風を以て汝の祈願を我等に届け賜え...」

 

神々に願いを捧げる途中から、早苗の緑髪を小さく揺らす追い風が吹き始める。その風は願いを続ける間、徐々に強くなっていく。この風は早苗の周囲だけで起きている訳では無く、落下し続ける人間を中心にして集まるように各所でも吹き荒んでいた。収束していく風は、落下の予測地点で踊るように回り、勢い良く小規模な竜巻に進化していく。

 

「...“風祝(かぜはふり)”!!」

 

早苗は呪文の最後に叫ぶ。その叫びに合わせて竜巻に変化が起きる。収束していた風が空高くへ一気に巻き上がり、激しい上昇気流を発生させたのだ。上昇気流は、落下する人間の勢いを殺しながら自らの勢いも弱めていく。やがて人間の姿が地面に接近する頃には、竜巻の如き風は人間を優しく浮遊させる程度に収まっていた。

 

これらは偶然に起こったのだ。()()()()人間を助けるような風が吹いただけである。これが早苗の能力。“奇跡を起こす程度の能力”である。奇跡の風に救われた人間が舞い降りた位置を確認した早苗は、緊迫した面持ちで駆け出した。

 

 

「た、助かった~...」

 

気が抜けたように草葉に横たわる青年。そう、彼こそが奇跡の風に救われた人間だ。彼は落ち着いた黒髪で、パーカーの上に着物風のジャケットを着ているが、強風に晒された影響で大きく乱れた服装になってしまっていた。服装の乱れを気にすることなく、青年は生きていたことに安堵していた。清んだ空気の中、深呼吸をした青年はゆっくり立ち上がり、土を払ったりして服装を整えた。それから少しして髪を揺らしながら走る早苗が、大声を出しながら駆けつけた。

 

「あの~!大丈夫ですか~!?」

「うん、大丈夫。俺は天空寺タケル!君は?」

「私は東風谷早苗と申します。守矢神社の風祝...まぁ、いわゆる巫女をやってます。ご存じないですか?」

 

お互いに自己紹介を終えた早苗とタケル。彼は守矢神社という場所に聞き覚えがないらしく、困った顔をしながら首をかしげている。その様子を気にすることなく、早苗は目を輝かせてタケルに質問を浴びせる。

 

「それはともかく、どうして空から落ちてきたんですか!?どうやってあんな上空まで行ったんですか!?もう興味が尽きません!!」

「ちょ、ちょっと待って!俺も気付いたらあんな所に放り出されてて、ここがどこかもわからないんだ...空から見た景色も随分と古風に見えたし、一体ここはどこなんだ?」

 

物凄い勢いで身を寄せてくる早苗に静止をかけつつ、自分の現状を説明するタケル。彼の説明を聞いた早苗は落ち着きを取り戻し、古風という表現と、洋風も混ざっている服装から、タケルが幻想郷に訪れて間もないことを理解する。そして、タケルにこの世界の概要を説明した。忘れられたもの達が訪れること。妖怪、妖精などが生きる世界であること。そして、彼が忘れられた可能性が高いことを。

 

「そんな...俺、みんなに忘れられたのか...?」

 

タケルは寂しそうな口調で呟きながら、自分の体を見回す。きっと多くの友人、仲間、かけがえのない家族がいたのだろう。そんな彼を励まそうと早苗は他の可能性を示唆する。

 

「で、でも、まだ決まった訳じゃないですよ!現に私も、自らの意思でこの世界にやって来ましたからね。もしかしたら誰かに連れて来られたのかも...一人、心当たりもありますし。」

「心当たり...?」

 

タケルは早苗の発言に疑問を抱いて、思考を前に向ける。彼は立ち止まってなどいられない。どんな時でも前を向き、未来に向かって走り続ける。過去に生きた英雄の思いを知り、その思いを今に繋ぐ。それが偉大な父、そして大切な仲間たちとの誓いだから。心の内に秘めた魂を呼び覚ましたタケルは、鋭く研ぎ澄まされた感覚を取り戻し、ある気配に気づく。

 

「誰だ!?隠れても無駄だ!」

 

今までの能天気な雰囲気から一転、威厳を感じさせる表情と声になったタケルは大きな木の陰に怒号を飛ばす。タケルの大声にびくっと体を震えさせた早苗は、タケルに身を隠しつつ覗きこむようにして木の陰を見た。

 

「えっ!!?」

「...お前にも姿が見えるのか小娘?全く、面倒な体だぜ...」

 

早苗が目にしたのは、黒づくめの姿に槍を携えた青い炎のような目をした存在。人でも妖怪の類いでもないのは早苗の目にも明らかだった。首をゴキゴキと鳴らしながら二人の前に姿を現す化け物。その化け物は槍を構え直し、その切っ先を二人に向ける。その異形の存在に向けて、タケルは何故か哀愁を漂わせながら声をかける。

 

「眼魔...どうして君が...?」

 

明らかに動揺した様子のタケルに、化け物は首をかしげる。タケルはその化け物、“眼魔”をよく知っているが、目の前の"槍眼魔"の側には一切の認識がないようで、迷いのない殺気がひしひしと伝わってくる。早苗は、この噛み合わない二人の間にタケルを庇うような形で割って入り、眼魔に対して堂々と神串を突きつけ、名乗りを上げた。

 

「あなたが何者でどんな存在なのか非常に気になりますけど、そういう状況でもなさそうですし...あなたを退治してからゆっくりと話を聞かせて貰いましょう!」

「ダメだ、早苗!」

 

切羽詰まった様子で必死に腕にしがみついたタケルに、早苗は大きく困惑する。というのも、これが早苗の使命であり、為すべきことなのだ。守ろうとしている相手からそれを止められるという経験は、早苗にとって初めてだったのだ。この時、彼女は気づけなかった。目を丸くしてタケルを眺める間、背後にもう一つの殺気が現れていたことを。小鳥の乗ったシルクハットを被り、肩には開いた状態の本を備えた眼魔、"ブック眼魔"は表情の読めない無機質な顔にも関わらず、その不敵な笑い声を小さく漏らす。そのまま手のひらに紫の光弾を作り上げ、それを二人の背に向けて放った。風を切り裂き迫る光弾に、揉み合う早苗とタケルが気づくことはない。

 

「ぐっ...!!」

「何だっ!?」

 

しかし、光弾が二人の体を撃つことは無かった。それどころか槍眼魔の胸部の鎧に命中し、彼は予想外に襲われた痛みに苦悶の声を漏らす。一方のブック眼魔も、目の前で起きた現象に驚嘆する。そんな彼らの眼前にはそれぞれ一つずつ、無数の目の覗く裂け目..."スキマ"が開かれていた。

 

そう、早苗の言っていた"心当たり"。

 

八雲紫、その人だった。

 

「あら、案外間抜けね...眼魔さん?」

「紫さん!?」

 

上空から降り注ぐ紫の声は眼魔たちを挑発するような言葉をかけるが、その態度も同様。扇子で口元を隠しながらクスクスと挑発的に笑っていた。光弾が炸裂した音でようやく落ち着いた早苗は、状況を認識する中で紫の姿を捉え、思わず声を上げる。それと同時に理解した。

 

彼女が手を出すと言うことは、今まで携わってきた数々の異変とは規模、脅威共に格がが違うことを。

 

紫はスキマを閉じながら、ふわりと早苗たちの側に降り立つと穏やかに告げた。

 

「戦いなさい。東風谷早苗、天空寺タケル。」

「で、でも...」

 

紫に戦いを促された早苗は、戸惑いながらタケルに目を向ける。拳を固めながら震えるその表情は曇り、唇を噛み締めている。彼は戦おうとする早苗をを必死で止めていた。もしかしたら眼魔たちはタケルの知り合いなのかも知れないと考えた早苗は、この化け物たちを倒す踏ん切りがつかずにいた。だが早苗は、タケルが決意と共に拳を握りしめていたことに気付いていなかった。

 

「大丈夫...俺、戦うよ。眼魔のみんなを傷つけるのは辛いけど...命が奪われるのを見過ごす訳にはいかないんだ!」

 

そう呟きながら力強く前に踏み出すタケル。自分の傍にいる二人の少女を庇うように仁王立ちすると、両手で何かを囲むようにして腰の辺りにかざした...

 

「「「「・・・?」」」」

 

が、何も起こらなかった。タケル、早苗、槍眼魔、ブック眼魔が呆然とする中、紫が忘れてたと言わんばかりに言う。

 

「あ、タケル君。あなた、変身出来なくなってるわよ。」

「...えぇ~~~~!!?」

 

紫により非常にあっさりと伝えられた事実に急に恥らいが込み上げてくるタケル。それも当然、大見得を切ったにも関わらず、塵が風に飛ばされるように自分の行動は無意味でしたと教えられたのだから。そんなタケルに対し、眼魔の二人は口元を押さえて笑い声を堪えていた。

 

「ハハッ!ダッセェなぁ~!」

「くくっ...傑作ですね~!」

「う、うるさい!!」

 

口々にタケルを貶す眼魔たちに対して半ばヤケクソ気味に声を荒げるタケルだったが、早苗はそんな彼に駆け寄り、真っ直ぐに笑顔を見せた。

 

「大丈夫ですよ!変身っていうのが何かは分かりませんけど、私はタケル君が私たちを護ろうとしてくれたことが嬉しかった。すごく、格好良かったですよ?」

「早苗...!」

 

早苗は優しく語りかけながらタケルの隣に並び立ち、気合いをいれるように神串を横に一振りして続けた。

 

「今は事情があるのでしょう?今度は私の番です。君を護らせて下さい!」

 

タケルに代わり戦意を露わにする早苗。彼女の新緑の髪を爽やかな追い風が駆け抜けて行った。そんな早苗を嘲笑うように槍眼魔とブック眼魔は並び立ち、挑発的なセリフを言い放つ。

 

「ほぉ...そっちの金髪ならともかく、ただの人間が俺らの相手するってか?おもしれぇ、オレの槍で串刺しにしてやろう、感謝しろよ?」

「どんなストーリーを辿っても、あなたの勝利という結末は訪れない。フフッ、あなた方が無様に散る。それが美しいエンディングです...」

 

言いたいことを言い切った二人の眼魔は、各々に早苗たちを殺しにかかる。いち早く行動を起こしたのはブック眼魔。先ほど放ったものより小さな光弾を複数撒き散らし、地面への着弾によって発生した土ぼこりで早苗たちの視界を悪化させる。続いて槍眼魔は発生した土ぼこりに紛れ、二人の背後に回り込む。そのまま第一の獲物を選ぶように、槍の切っ先を左右に振る。言うなれば死のメトロノーム。一定間隔で揺れていた切っ先は、ピタリと止まった。その切っ先、死の宣告を向けられていたのは緑髪の少女。槍眼魔は心の底で狂気に満ちた笑みを浮かべ、獣の如く早苗に飛びかかった。

 

戦うことを促して以降、傍観を決め込んでいた紫は一つの確信を得ていた。タケルと一つになれる相手は早苗しかいない、と。

 

だからこそ、タケルに向けて叫んだ。今度は強い願いと想いを乗せて。

 

「天空寺タケルッ!!彼女と融合(シンクロ)しなさい!あなたにはその力がある!」

「えっ!?」

 

視界の悪い中、自分の知り得ない情報を伝えられて困惑するタケル。声の主である紫の姿を探す内に、タケルは土ぼこりの中で蠢く影を捉えた。その影が持つ長物の先が冷たく煌めいた瞬間、タケルの体は無意識に動いていた。狂槍に狙われる早苗を護るため、必死で地を駆けるタケル。例え力を失っても、彼の魂は、命の火は失われなかったのだ。

 

早苗の細く柔らかな肉体が、血を求める槍に貫かれる直前、両腕を広げたタケルは倒れ込むような勢いで彼女に飛び込んだ。タケルがその勢いのまま早苗を抱きしめた瞬間、辺りに橙色の閃光が走る。その眩しさに早苗や眼魔が怯む中、紫は静かに口角を上げる。

 

「(これで二人目ね...)」

 

閃光が収まった頃、早苗は辺りにタケルが居ないことに気がつく。眼魔もそのことに気がついたようで、自分達の周辺を見渡して状況を探っていた。その時、早苗の胸元から先ほどと同じ橙色の光が溢れ、かなり慌てた声が流れた。

 

「なんだこれ!?俺、どうなっちゃったんだ!?」

「タケル君!?」

「それが融合(シンクロ)よ!さぁ早苗、変身しなさい!」

 

早苗は、今まで理解の出来なかった変身というキーワードに対して、一気に燃え上がる炎のようにイメージが湧き始めた。早苗はそのイメージに従って身体を導いていく。

 

両腕で空間を囲むようにして腰に手を翳す。すると橙の炎が腰の周りに舞い、火の粉が弾ける。その炎が消えた頃には、単眼が特徴的な機械仕掛けの上に水色で半透明のカバーが被っているベルト、”ゴーストドライバー”が早苗の腰に装着されていた。

 

「なんでゴーストドライバーを...!?」

「タケル君!君の魂、貸してもらいますね!」

 

驚愕するタケルをよそに、早苗はステップを進める。ドライバーの上部に備えられたスイッチを押し込みカバーを前方に展開させると、掌の上に橙の炎を燃やす。やがてその炎は、黒と白を基調とした目玉のようなアイテムに変化した。タケルは見慣れたそのアイテムの名を叫んだ。

 

眼魂(アイコン)!しかも、”オレ”の!」

 

早苗の手に握られた眼魂(アイコン)と呼ばれるアイテム。中でもこの眼魂(アイコン)は、オレゴーストアイコンと呼ばれるものだ。その由来は単純明快、心優しき英雄、天空寺タケルの魂が込められていたからだ。

 

「タケル君!君の魂を貸してください!」

「...分かった!一緒に行こう、早苗!」

 

タケルと魂を重ね合わせた早苗は、アイコンを右手の人差し指と中指で上から、同じく右手の親指で下から挟み込み正面に構える。そのまま静止させたアイコンのスイッチを左手の掌で押し込むと、アイコンの黒目に当たる部分の柄が変化した。黒いシャッターのような絵柄から、大きく「G」とかかれた絵柄に変化し、一瞬その絵柄が浮き出た。早苗は絵柄の変わったアイコンを、開いたカバーの間からスロットに装填し、左手で勢い良くカバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナ~!バッチリミナ~!』

 

カバーを閉じた瞬間、ドライバーの単眼部分に橙色の渦が発生し、独特なラップ調のメロディーと共に、黒にオレンジのラインの入った、自立浮遊をするパーカー、オレパーカーゴーストが現れた。オレパーカーゴーストは橙のつり目で睨みつけながら眼魔たちに接近し、リズムに乗りながら腕のような部分で眼魔たちに打撃を加えていく。眼魔たちが妨害を受けている間、早苗は右手でドライバーの右側のトリガーを外側に引き出した。するとドライバーの単眼部分のまぶたが閉じられ、オレゴーストアイコンの絵柄が見えなくなる。早苗はそのまま流れるような動きで両腕を前方に伸ばし、人差し指と中指を伸ばした両手を重ねる。そこで一呼吸置いてから、一気に両腕を回転して右腕を天に向けて伸ばし、それにより開いた脇に左手を被せる。そして伸ばした右腕を肘を曲げつつゆっくりと下ろし、顔の正面で止める。そして全ての準備が整った二人は、声を揃えて叫ぶ。

 

「「変身っ!!」」

 

早苗は気迫のこもった叫びと同時に、引き出されていたドライバーのトリガーを右手で叩くようにして押し込む。その瞬間、閉ざされていたドライバーの瞳が開かれた。

 

『カイガン!オレ!』

 

ドライバーから流れた音声の通り、開眼したその瞳には、オレンジをベースに大きな黒い複眼が描かれていた。その瞳が開かれた瞬間、早苗の周囲の空間に水色の粒子が出現し、彼女の全身に纏われていく。少しして粒子が集結すると、早苗の姿に変化が起きた。前髪は銀、そして後ろ髪になるにつれ黒になっていくグラデーションの髪の毛。特徴的な巫女装束は、黒い下地の上に骨を表現したようなオレンジのラインが走り、胸の谷間の辺りには瞳の燃え上がる単眼のマークが刻まれていた。早苗の変化を察知したオレパーカーゴーストは、眼魔たちにより重い一撃を与えて帰還した。そのまま早苗の周囲を一周すると、彼女に被さるべく自身を伸ばして早苗に向かう。早苗もそれを受け入れるため、腕を大きく回しながら上に伸ばす。そのタイミングは完璧に重なり、早苗はオレパーカーゴーストを羽織ると腕を下ろした。

 

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

再びドライバーから音声が鳴り響くと、早苗の付けていた蛙の髪飾りが瞳に描かれていた仮面と同じデザインに変わり、前髪は明るめのオレンジに変化した。早苗は多くの過程を経て、ついに変身を完了させた。

 

「何だ...!?その姿は!?」

「まさか...ゴースト!?」

「私にもよく分かりませんけど、1つ教えてあげましょう。幻想郷では、常識に捕らわれてはいけないんです!行きますよ、タケル君!」

「じょ、常識に...?まぁいっか、分かった!」

 

早苗は代名詞とでも言うべきセリフを言い放ちながらフードを外し、タケルと息を合わせる。タケルは早苗の発言に困惑していたが、戦闘に意識を集中させていく。そんな中、槍眼魔はとうとう痺れを切らしたようで、怒りの叫びを上げた。

 

「あああぁっ!!姿が変わったから何だ!所詮はただの人間だろーが!!ぶっ殺してやるっ!!」

「ま、待て!槍眼魔(ランス)!」

 

ブック眼魔からの静止も聞かず、早苗に槍を向けて突っ込む槍眼魔。加速を付けて地を駆ける槍眼魔はは、自分の攻撃範囲に早苗が入った瞬間にブレーキをかけ、早苗の喉元に狙いを定めて、速度と怒りを乗せた槍を突き出した。しかし早苗はその槍を左手で弾き軌道を逸らすと、腰の捻りの効いた右手の拳を槍眼魔の胸部に叩き込む。その衝撃に後ずさる槍眼魔は少しでもダメージを抑えるため、ブック眼魔のいる辺りまで飛び退いた。

 

「チッ...お前の言う通り、姿は違えどゴーストって訳か...」

「だから言っただろう!本気でやらなくては、私たちがやられるぞ!」

 

「ふぅ、弾幕ごっこで鍛えた反射神経が役に立ちました。とは言え、これを繰り返すのもキツいですね...」

「だったら良いものがあるよ!武器が出るように念じてみて!」

「分かりました...!」

 

タケルの指示通りに早苗が念じると、ドライバーの瞳を中心に魔法陣が形成され、そこから一本の大剣が飛び出した。その名もガンガンセイバー。今のガンガンセイバーは多くの物を切り裂く大剣、ブレードモードだ。ガンガンセイバーは橙の炎を纏いながら浮遊し、自動で早苗の右手に柄を乗せた。早苗はそれを握ると、目を輝かせて眺める。

 

「おぉ!凄く機械的な武器ですね~!私の科学心がそそられます!」

「それは後で!今は戦いに集中しないと!」

「おっと、そうですね。私としたことが...あれ?」

 

自分の欲求を抑え込んだ早苗は眼魔たちのほうに視線を戻すが、そこに眼魔たちの姿は無くなっていた。逃げたのかなと考える早苗に対し、タケルはこの行動の意図が分かっていた。棒立ちで思考にふける早苗の背後では、狂気の槍が再び狙いを澄ましていた。

 

「(今度は外さねえ...一撃で殺して、名前の通り幽霊(ゴースト)にしてやる...)」

 

「(少し危険だけど、大丈夫?)」

「(オッケーです...何とかやってみます。)」

 

シンクロする意識の内で、タケルと早苗が何かについて話し合っていたことなど知らず、槍眼魔は突撃を開始。無音で茂みから抜け出して早苗に接近、三度目の正直と言わんばかりに槍を突き出した。しかし、妖怪の山に響いたのは悲鳴では無く金属音。瞬間的に振り向いた早苗が、縦に構えたガンガンセイバーの面を使って槍を止めていたのだ。

 

「仏の顔も三度までです!覚悟して下さい!」

「フン...調子に乗ってると痛い目見るぜ!」

 

言葉と武器、二つの要素で同時にせめぎ合う早苗と槍眼魔。時にお互いの得物から火花の飛び散る戦いの中、唐突に橙色の輝きを強めてタケルが叫ぶ。

 

「今だッ!!」

 

その叫びを聞いた早苗は、今まで堪えていた槍を一気に押し上げて槍眼魔の体勢を大きく崩す。早苗はがら空きになった槍眼魔の腹部に、両手で構えたガンガンセイバーの刃を押し当てながら、右足を軸にして回転する。勢い良く振り抜かれたガンガンセイバーは火花を散らしながら槍眼魔の肉体を斬りつけ、回転して振り向いたことにより、早苗の背中に迫っていた紫の光弾さえも横一閃に切り裂いた。

 

「ぐおっ...」

「馬鹿な!?私たちの連携を...!?」

「凄いですね!タケル君の読み通りでしたよ!」

「早苗の命もかかってるんだ、絶対に外さない!」

 

先程の打撃よりも絶大なダメージを被った槍眼魔は腹部を押さえてうずくまり、自分の策を破られたブック眼魔は驚愕した様子で木陰から飛び出す。少し前に早苗は、タケルからシンクロする意識の中で眼魔たちの作戦の予想と、その対策を伝えられていたのだ。早苗から賞賛を受けたタケルは、今までよりも強い口調で返していた。

 

「決めよう、早苗!」

「ええ!任せて下さい!」

 

早苗は地面にガンガンセイバーを突き刺すと、姿を表したブック眼魔の方を向いて変身の時と同じようにドライバーのトリガーを引き出した。再びドライバーの瞳が閉じ、絵柄が見えなくなる。それと同時に、早苗の背後に橙色の炎から成る紋章が浮かび上がる。早苗は紋章が形成される間に両手で印を結ぶ。早苗たちの力にうろたえ、逃げることさえままならないブック眼魔に対し、戦いの最中に背を向けられた屈辱感に身を焦がす槍眼魔。その怒りは頂点を迎え、怒号を上げながら早苗に特攻を仕掛けた。

早苗はそんなことは意に介さず、紋章が完成したタイミングでトリガーを押し込んだ。

 

「ウオォラァァァ!!」

「命、燃やすぜ!!」「命、燃やします!!」

『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!!』

 

 

ドライバーの瞳の絵柄が勢いに乗った足の絵柄へと変化、ドライバーから音声流れると、紋章が橙色の炎になって分離、早苗の右足に集束していく。全ての炎が早苗の右足に集束した頃、彼女の近くにたどり着いた槍眼魔は怒りと憎しみを存分に込めた槍を袈裟に振りかぶる。しかし、早苗は軽く地面を蹴ってゆったりとジャンプし、その槍を回避。そのままバック宙の要領で槍眼魔の背後に回り込んだ。そう、早苗が狙っていたのは正面にいたブック眼魔では無く、背後にいた槍眼魔だったのだ。自分が嵌められたことに気づいた槍眼魔は慌てて振り向くが、時既に遅し。そこには、今まさに蹴りを放つ直前の構えを取る早苗の姿があった。

 

「「はあぁぁっ!!」」

「ぐぁぁっっ!!」

 

早苗が放ったゴーストのライダーキック、”オメガドライブ”は槍眼魔の喉元を捉え、その威力に耐えられなかった槍眼魔は苦悶の叫びを上げながら爆発した。彼は皮肉にも、自分が狙っていた喉元への攻撃で散ったのだ。敵を一人撃破することに成功した早苗はゆっくりと大地に降り立ち、もう一人の相手に目を向ける。自らの同胞を倒した相手にロックオンされたブック眼魔は既に逃げ腰になっており、とうとう早苗に背を向け、山の上の方に逃げ出してしまった。

 

「う、うわぁぁっ!」

「あっ!ちょっと待って!早苗、追いかけよう!」

「はっ、はい!」

 

追撃すると言った雰囲気ではないタケルに、早苗は困惑しながらも同意。ガンガンセイバーを地面から引き抜き、走り出す。その背中を見届けた紫は、満足そうに笑顔を浮かべてスキマの中に消えていった。

 

 

「どこ行っちゃったんだ...?」

「確かにこっちの方に行ったはずですけど...あっ、いた!」

 

木々の間にブック眼魔を探す早苗とタケル。木陰にブック眼魔の背中とシルクハットを見つけた早苗はガンガンセイバーを構えて攻撃を仕掛けようとするが、タケルがそれを止める。

 

「早苗、ちょっと待って!俺に任せてくれないかな?」

「えっ?は、はい...」

 

早苗はタケルからの頼みを受け、戸惑いながらもブック眼魔の近くで足を止める。タケルは橙色の光を放ちながら、背を向けたままのブック眼魔に優しく語りかける。

 

「俺たちが戦う理由なんて、もう無いはずでしょ...?俺は、これ以上君たちを傷付けたくない...だから、もうやめてくれ...!」

「タケル君...」

 

自分たちを殺そうとした相手に歩み寄り、手を取ろうとするタケルの姿に感銘を受ける早苗だったが、同時に一つの危惧がよぎった。しかしその危惧を見つめ直すより先に、早苗の意識を弾けるような痛みが支配した。

 

「きゃあっ!」「うわぁっ!」

 

思わず悲鳴を上げる二人。その衝撃で早苗の身体は吹き飛ばされ、いくつかの木に衝突しながら減速していき、地面に落ちてからも少しの間転がってしまう。歯を食いしばって痛みを堪える早苗の耳に、聞き慣れた二つの声が届く。

 

「さっきの轟音といい、何事だ!?」

「そんなの分かんないよ!あれ...?早苗ッ!!?」

「何ッ!!?」

 

早苗に駆け寄ってくる二つの足音。早苗の目に映ったその正体は、自らの仕える二柱の神。八坂神奈子と洩矢諏訪子だった。

 

「ハァ...ハァ...神奈子様!?諏訪子様!?」

「うっ...だ、誰?」

 

早苗が慌てて辺りを見渡すと、そこには今朝も自分が掃き清めた境内が広がっていた。何者かに吹き飛ばされたことによって、守矢神社のある妖怪の山の山頂まで戻って来てしまっていたのだ。早苗は再び来るであろう謎の敵から二人を守るため、ガンガンセイバーを支えにして立ち上がった。

 

「来ないで下さいっ!!敵がいます!!」

「その通りです。近くにいたら怪我をしてしまいますよ?」

「まっ、そいつを倒したらどっちみち始末するけどね~♪」

「ブック眼魔...!?」

 

大きな声で止められた神奈子と諏訪子は、戸惑いながらもそこで立ち止まる。落ち着いた口調で早苗に賛同しながら山林の中から出て来たのはブック眼魔だったが、一体ではない。ほとんど同じ姿をしたハイテンションな眼魔がもう一体現れたのだ。容姿の違いは一つ。ハイテンションな方にはシルクハットの上に鳥が乗っていないのだ。そして、タケルが声をかけていたブック眼魔のシルクハットには、鳥は乗っていなかった。これらの状況から、早苗とタケルは全てを理解した。

 

「騙したのか...?」

「許せない...!タケル君の心を踏みにじって...!」

「騙される方が悪いんだよ、バ~カ!」

「...神奈子様たちは離れていて下さい...こいつらは私が倒します!!」

 

早苗に今までに見たことのない気迫で避難を促された神奈子と諏訪子は、動揺しながらも神社の裏側へと飛び立って行った。それを見届けた早苗はガンガンセイバーの柄を握り締め、怒りに身を任せてブック眼魔二人に立ち向かった。並び立つ二人を狙い横に大きく振りかぶるが、それぞれ身を反らしたり、屈伸したりで回避されてしまいカウンターで二つの光弾を受け、再び吹き飛ばされる。今度は神社の柱に身体を打ち付け、その身体はゆっくりと地面に落ちる。しかし、これが戦局を変えるなど、誰一人として思っていなかった。

 

早苗が柱に激突した衝撃で神社全体も振動し、居間にある家具なども少しだけ浮き上がった。それによって棚の上に置かれていた籠も浮き上がり、そこに入っていた林檎が一つ外に飛び出した。空中に放り出された林檎は重力に引かれて床へと迫っていき、やがて床にたどり着くと二、三回バウンドして静止した。そんな誰もが当たり前に考えている事象を、机上に残されたくすんだ目玉は見つめていた。

 

そして、アイザック・ニュートンは覚醒した。

 

諏訪子が溜め池で見つけたニュートンゴーストアイコンは鮮やかな水色を取り戻し、空中を浮遊して早苗の下に訪れた。

 

「これって...!?」

「ニュートンさんっ!!助けてくれるんですか!」

 

突然現れたニュートンアイコンに警戒態勢に入る早苗に対し、タケルはシンクロ越しにでも伝わる程に嬉々としていた。ニュートンアイコンはタケルの質問に対して頷くような仕草を見せると浮遊能力を解除し、落下を始めた。早苗は慌てて両手で受け皿を作りニュートンアイコンを手にすると、それを見つめた。

 

「土壇場ですが...やるしかないですね!」

「ああっ!サポートは任せて!」

「ほう...?」

「なになに~?何してもムダだけどね~♪」

 

早苗はニュートンアイコンのスイッチを押し込み、瞳の絵柄を黒いシャッターの絵柄から大きく「04」と描かれた絵柄へと変える。続けてドライバーのカバーを開きオレゴーストアイコンをスロットから外すと、オレパーカーゴーストが粒子になって消滅した。トランジェント状態になった早苗は、ニュートンアイコンをスロットに装填、流れるようにしてカバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナ~!バッチリミナ~!』

 

するとオレパーカーゴーストと同じようにして、両手に水色の球体の付いたダウンジャケット風の”ニュートンパーカーゴースト”が出現して浮遊する。早苗はそこから間を置かずにトリガーを操作、一気に引き出して押し込んだ。

 

『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか~!』

 

瞬きを経たドライバーの瞳はナンバリングから、リンゴと矢印の描かれた絵柄へと変化。それと同時に早苗はニュートンパーカーゴーストを羽織り、髪飾りはドライバーの瞳と同じものに変化する。早苗は万有引力の力を操る姿、”ニュートン魂”へと変身した。

 

「って、なんですか!?この球体は!?」

「それで力を操るんだ。右手が斥力で、左手が引力ね!」

 

早苗が両手の球体に驚愕していると、この姿の力を熟知しているタケルが解説を行った。一方のブック眼魔たちはうろたえる様子もなく、余裕の態度を見せつける。

 

「斥力やら引力やらが何ですか?武器にもならないじゃないですか。」

「そんなので戦おうなんて、正真正銘のバカだね~!」

「英雄の力を馬鹿になんてさせない...!」

「物理の偉大さ、思い知らせてあげましょう!!」

 

ブック眼魔たちは早苗やタケルだけに留まらず、英雄の力をも侮辱してしまった。それはタケルの琴線に触れる行為だったのだ。一方、早苗にとっても大好きな物理や科学を侮辱されるのは許し難い行為だった。ブック眼魔たちは再び早苗を吹き飛ばすべく、同時に光弾を放つ。螺旋を描いて迫り来る光弾に対して、魂の燃え上がっている早苗は力強く右腕を伸ばした。すると斥力を持つ赤い波動が球体を発信源にして放たれ、徐々に光弾の勢いを止めた。しかもそれだけに留まらず、光弾をブック眼魔たちに向けて押し返していったのだ。ブック眼魔たちは予想外の挙動に為す術も無く、自分たちの放った光弾を胴体に受ける。それぞれの胴体に光弾は炸裂し、落ち着いた口調の方は傷を押さえて片膝を付き、もう一人の方は大袈裟に倒れ込んだ。

 

「うっ...!?」

「いった~!何なんだよ、それぇ!!」

 

地面に倒れ込んだハイテンションな方のブック眼魔が子供のようにわめき散らすが、起き上がった視線の先に早苗はいない。その代わり、そこでは先程と同じ赤い波動が天から降り注いでいた。ブック眼魔たちがその波動を目で辿ると、斥力を使って遥か上空に浮き上がった早苗の姿が確認できた。しかし、それと同時に早苗は、斥力と引力を器用に使い分けてドライバーのトリガーを操作した。

 

『ダイカイガン!ニュートン!オメガドライブ!』

 

瞳の絵柄が勢いよく落下するリンゴに変わると、早苗の正面に水色の紋章が形成される。今度は紋章の炎を纏うことなく、目の前の紋章に向かって左手を伸ばす。すると紋章が拡声器のような役割を果たし、左手の球体から放たれた青い波動の影響範囲を広げる。左手の球体が操る引力に引かれて、二人のブック眼魔は宙に浮き上がり、紋章の方へどんどん手繰り寄せられていく。

 

「うおっ!?」

「うわああああっ!?」

 

ブック眼魔たちは引き寄せられる間も光弾を放って抵抗するが、光弾は紋章に阻まれて弾ける。結局悪あがきも意味を成さず、ブック眼魔たちは紋章の目の前まで引き寄せられる。

 

「さぁ、とどめですっ!」

「ひいっ!?」「いやだぁぁぁっ!」

 

右腕を目一杯引いて構える早苗にブック眼魔たちは怯えるが、早苗はそんなブック眼魔たちをしっかりと見据え、右腕を紋章に叩きつけた。

 

「「うぎゃあぁぁぁぁ!!」」

 

紋章から放たれた斥力で一気に吹き飛び、痛烈に地面へと叩きつけられたブック眼魔たちは、なんとも情けない断末魔を上げながら爆発した。その最期を見届けた早苗はゆっくりと地面へ降り立つと、引力でカバーを開き、同じく引力でニュートンゴーストアイコンをドライバーから取り外し、最後に斥力でカバーを閉じた。

 

『オヤスミー!』

 

カバーを閉じるとニュートンパーカーゴーストは粒子になって消滅、早苗の姿も元の頭髪、服装に戻る。早苗が戦いの終わりに安堵して深呼吸をしていると、早苗の身体から橙色の光が抜け出して人型に集結し、その光はタケルの姿になって融合(シンクロ)が解除された。

 

「タケル君!」

「も、戻れた!そうだ早苗、怪我は大丈夫?」

「えぇ、これくらいなら大丈夫ですよ!タケル君も大丈夫ですか?」

 

戦いを終えてお互いの無事を確認する早苗とタケル。そこに、隠れていた神奈子と諏訪子が謎だらけといった表情で合流する。

 

「早苗から男が出て来た...!?それにさっきの格好は!?あの変なのは!?」

「お、落ち着け諏訪子!!そんなに矢継ぎ早に聞いていたら答えられないだろ!」

 

ピョンピョンと跳ねながら質問を続ける諏訪子に、神奈子は落ち着くように言い聞かせる。その光景が日常のままで、戦いで気の張り詰めていた早苗はほっとする。タケルもその光景ののどかさに、思わず笑顔になっていた。そんな中、居間からさっきも聞いた女性の声が聞こえた。

 

「そうね、お茶でも飲んで落ち着くといいわ。」

 

一同が居間に目を向けると、そこには他人の神社で優雅にティータイムを嗜む紫と、全員分の湯呑みに急須でお茶を注ぐ藍の姿があった。

 

「おいコラ紫!私たちの神社で勝手に茶を飲むな!」

「あら...そんな口利いていいのかしら?せっかく情報提供をしてあげようとしてるのに。」

 

自分たちの神社でくつろぐ妖怪の賢者に、怒りのツッコミを入れる神奈子。それを紫は飄々と受け流して緑茶をすする。そんな主人を見かねた藍は、話を進めるため会話に割って入る。

 

「まぁ、少し紫様の話を聞いて下さいませんか?これは、幻想郷全体に関わる話なんです。」

「「幻想郷全体に...!?」」

 

藍の言葉で事の重大さを理解した神奈子と諏訪子、紫が現れた時点で理解していた早苗はもちろん、部外者であるタケルも紫に促され、全員が居間で紫の話に耳を傾けた...

 

 

 

「なるほど...事情は理解した。」

「まさか、幻想郷でそんな事件が起こってたとはね...」

 

紫の話が一通り終わった頃、神奈子と諏訪子は神妙な面持ちで呟いた。幻想郷のこと、妖怪や妖精のこと、異怪の大乱のこと、暗躍するタイム・トラベラーズ(時の旅人)のこと、そして活動を再開したグロンギや眼魔のような化け物たちのこと。一気に多くのことを知ったタケルは、混乱して声も出ない様子だったが、一つの決意は固めていた。そして、その決意を固めていたのはタケルだけではない。

 

「これで仮面ライダーの力を得たのは、ルーミアに続いて二人目。早苗、タケル、この幻想郷を守るために、ゴーストの力を貸してくれないかしら?」

「「もちろんです!」」

 

早苗とタケルは即答かつ声を揃えて叫んだ。彼らが固めていた決意、それは”この世界に生きる命を守るために戦う”という決意だったのだ。その返答を聞いた紫は心底嬉しそうに笑い、両手を二人に差し出した。

 

「ありがとう。頼むわね、早苗!タケル!」

「えぇ!任せて下さい!」

「この世界を未来に繋いでみせます!」

 

二人は差し出されたその手を握り、固い握手を交わした。こうして二人目の仮面ライダーの力を宿す少女の戦いが始まった。

 

 

「ところでタケル。お前、行く宛もないんだろ?だったらこの神社に住め。」

「えっ!?いいんですか?」

 

紫と藍が立ち去った後、神奈子はタケルに神社に居候を提案する。驚いた様子で恐縮するタケルに、神奈子は力強く頷き、諏訪子は満面の笑顔で歓迎した。

 

「こんな状況になったんだ。早苗のそばに居て貰わないとな!」

「ふつつか者だけど、よろしくね~!」

「諏訪子さん...それは本人が言うセリフですよ。」

「あぁっっ!!」

 

三人の笑い声が響く守矢神社の居間に、台所で湯呑みを洗っていた早苗の叫び声が響く。タケルが驚いて台所のほうを覗くと早苗がダッシュで台所から飛び出してきて、危うく衝突しそうになる。

 

「結局買い出しに行ってませんでした!今すぐに行って来ます!!」

「ちょっ、ちょっと待って!!俺も行くよ!!」

 

神社さえも突風の如く飛び出していった早苗を追いかけて、タケルも神社を飛び出していく。そんな二人にやれやれと言った仕草を取る諏訪子。二人の背中を見届けた神奈子は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。こうして守矢神社に、落ち着かない居候が一人増えたのだった。

 

 

~次回予告~

 

「たくっ!一体ここはどこなんだよォォッ!?」

 

「駄目だ...地球(ほし)の本棚にアクセス出来ない...」

 

「あの怪物は...!」

 

「とにかく今はやるしかねぇ!!」

 

『サイクロン!』

 

『ジョーカー!』

 

「「「「変身!!」」」」

 

第4話 ~吹き込みしW/地底の姉妹と探偵コンビ~

 

これで決まりだ!

 

 

 

ここからは恒例(まだ3回目)のキャラクター、アイテム等の紹介コーナーです!

 

~東風谷早苗~

 

守矢神社に仕える心優しい巫女。奇跡を起こす程度の能力の持ち主。基本的に口調、物腰ともに丁寧で、嫌われることは少ない善人。ある日タケルと出会い、眼魔と交戦。タケルとのシンクロを果たしてゴーストの姿に変身、眼魔たちの撃破に成功する。それからは居候となったタケルと共に、幻想郷を守るために戦うことを決めた。

 

~天空寺タケル~

 

勇敢で正義感の強い青年。外の世界では仮面ライダーゴーストとして戦っていた。常に相手のことを思いやって接するが、優しすぎる接し方はウザいと評されることもしばしば。そんな罵倒にもめげずに正論を貫くメンタルの強さを持つ。守矢神社に居候し始めてからは、少しでも早苗の負担を無くそうと家事を手伝っている。

 

~ゴースト(早苗) オレ魂~

 

「仮面ライダーゴースト オレ魂」を模した早苗の姿。オレパーカーゴーストはそのままに、全身の巫女装束にゴーストのアンダースーツを再現したデザインがされている。いわゆる基本フォームであり特徴は少ないが、タケルの魂であるために彼の感情の昂りでスペックが上昇する性質がある。基本装備はガンガンセイバーのブレードモード。状況に応じてナギナタモード、ガンモードを操る。

 

~ゴースト(早苗) ニュートン魂~

 

「仮面ライダーゴースト ニュートン魂」を模した早苗の姿。ニュートンパーカーゴーストの両手に付いている球体で引力と斥力を操る。今回では、早苗が地面に斥力を放って空中に跳ね上がるという応用を見せた。




いかがでしたか?

少なくとも1ヶ月のクオリティではないですね...少し言い訳をさせて貰いますと、私生活が忙しくてこっちに手が回りませんでした。内海さんに「あの世で詫びろォ!!」と言われてしまいそうです。

実を言うと、原因はもう一つあります。ゲーム好きの私にとって一年に一度のビッグイベント、E3があったことです。(スマブラ楽しみです!)

こんな感じで、他の趣味にも手を出しながらやらせて頂いている東方時哀録、これからも気長に付き合って頂けると嬉しいです。

それでは、チャオ!
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