(「」)の表示は、過去の発言を思い出したときの描写ですよ。
それでは第4話、どうぞ!
木製のテーブルに乗ったティーカップに、紫がかった髪の少女がトクトクと紅茶を注ぐ。10歳程度の見た目にはそぐわず、少女は慣れた手つきでもう一つのティーカップに紅茶を注ぐと、片方のティーカップを丁重に差し出した。そのティーカップを上品に微笑みながら受け取るのは、妖怪の賢者である八雲紫。少女は来客である紫に紅茶を入れていたというわけだ。少女は自分のティーカップを手に取ると椅子に座り、目の前で紅茶の香りを楽しむ紫に話を切り出した。
「それで紫さん、この度はどのようなご用件でこんな所までいらしたのですか?」
「あら、相変わらずストレートね?」
「その紅茶を気に入って下さったのは嬉しいですが、話が進まなそうでしたので。」
紫の発言を冷静に受け流した少女は、ゆっくりと両目を閉じて紅茶を一口すする。しかしその間も、おどけた表情で肩をすくめる紫を見つめる瞳があった。少女の身に纏う、フリル付きの洋服から伸びる赤いチューブが繋がる第三の目、サードアイだ。ティーカップから口を離し、ふぅと息を漏らすこの少女は、心を見る妖怪「覚」であり、二人の談話するこの地霊殿の主、古明地さとりである。先程のかみ合わない会話も、さとりの心を読む力ゆえだ。さとりと共に紅茶で喉を潤した紫は、仕方ないといった様子で話を始めた。
「まぁ、今日は私も忙しいから、さっさと本題に進もうかしら。六年前、まだ地上と繋がる前の地底でも異怪の大乱の現象が起きたのよね?」
紫の言葉に、さとりの眉がピクリと動いた。さとりの脳裏にその時の惨状が蘇る。地底で当たり前の日常を送っていた者たちが襲われ、化け物たちにささやかな幸せの全てを奪われた。血の気の多い者も数多といる地底では襲われる者を守るため、化け物たちに立ち向かった者もいたが、そんな勇敢な者たちも皆殺しにされた。血と悲鳴と恐怖に塗り尽くされた地底は、正真正銘の地獄と化していたのだ。その光景を思い出して気分の悪くなってしまったさとりは、紅茶を飲み干す事でその気分を誤魔化し、紫に言葉を返した。
「はい...しかし、何故今更そんなことを...!?」
「私の心を読んだようね...そう、あの化け物たちが再び活動を始めたの。」
紫の心理を読み取ったさとりは、驚愕した様子で小さく開いていた双瞳を大きく見開いた。その表情でさとりの心中を察した紫は、その事実を改めて口にすることで肯定する。さとりはそれに対して渋い顔を浮かべる。
「そんな...!?」
「だけど、まだ希望は残ってる。仮面の英雄、仮面ライダーよ。」
「仮面の英雄...仮面ライダー?」
仮面ライダーという未知のワードに首をかしげるさとりだったが、仮面の英雄という単語には覚えがあった。地獄絵図と化した地底の街に単身殴り込み、怒号を上げながら化け物たちを蹴散らした黄金の戦士。その戦士が知らず知らずの内にそう呼ばれていたのだ。その戦士を仮面ライダーと呼ぶことを理解したさとりは、紫に事情を問う。
「仮面ライダーが希望?仮面の英雄が戻って来てくれるのを期待している...訳ではないみたいですね。」
自分の推測を口にする間に、紫の心を読むことで答えを得たさとりは一方的に話を進める。それに紫が気を悪くすることを配慮したさとりは、静かにサードアイを閉じた。さとりの配慮を汲み取った紫は、優しく微笑みながら話を進める。
「えぇ。化け物たちの活動の再開に合わせて、外の世界で仮面ライダーと呼ばれていた者たちが幻想郷に現れているの。彼らは幻想郷の中でたった一人の相手と
長々と語り終えた紫は、残っていた紅茶に口を付ける。それを静かに飲み干すとふぅと溜め息をついて、耳を澄ましていたさとりに目を向ける。彼女は落ち着いた様子でサードアイのまぶたを開き、再び紫の心を探る。それに気づいた紫は、さっきの配慮の返礼としてさとりの探っているであろう情報を心に浮かべる。
「(あら...?気を使って下さったのですね...)」
さとりは紫の気遣いに感謝しつつ、彼女の心を読み取っていく。十分に
「ふふっ...そういう魂胆ですか、構いませんよ。少し待っていて下さい。」
「あら、悪いわね。」
わざとらしく笑う紫に背を向け、タンスの中から「サルビアティー」と表記された小袋を取り出して席に戻ると、笑みを浮かべて紫に差し出した。先程の紫の願望は、この紅茶を譲って欲しいというものだったのだ。
「ありがとう、嬉しいわ。ところで、このサルビアって何かしら?」
「花の名前ですよ。その花の葉っぱと花びらを使っているんです。いい香りだったでしょう?」
「それで花の香りがしたのね...良いものを貰ったわ。」
嬉しそうに笑顔を浮かべる紫。その笑顔が心の底からであることは、さとりの第三の瞳にはっきりと映っていた。小袋をスキマにしまった紫は、そらしてしまった話題を自ら矯正する。
「さて、それで本題。あなたには地底に現れた仮面ライダーのシンクロをサポートして欲しいの。今のところ、彼らは初めて会った幻想郷の住人とシンクロしている。そして、必ずベルトやドライバーを所持しているわ。」
「分かりました。あの悲劇は、もう二度と繰り返させない...!」
さとりは、終始丁寧だった語尾を少し強めて呟いた。紫はさとりの頼もしい言葉に、真剣な表情で頷きを返した。
「それじゃ、頼んだわ。」
用件の済んだ紫は、ひらひらと手を振りながら展開したスキマに入って行った。それを見送ったさとりは、気を使っていたことによる疲労感から大きな溜め息をつく。実際の所、心読める彼女にとってそんな気苦労は日常茶飯事なのだが、時々こうして疲れてしまうこともあるのだ。
「(...サルビアティー、買ってこようかな。)」
紫に渡した分で切れてしまったお気に入りの紅茶を飲むため、さとりはゆっくりと外出の支度を始めた。
俺は左翔太郎。風の吹き止まぬ街、風都で私立探偵をやっているハードボイルドな男さ。あの街では大きな不幸も、小さな幸せも、全て風が運んでくる。その風に自慢の帽子が飛ばされぬよう、俺は帽子をグッと被り直す。
「風、吹いてねぇよなぁ...」
微塵も揺れることのない自分の前髪が視界に入り、否が応にも整理のつかない現実を直視させらせる。全く、現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ、こんなのどんなハードボイルド小説でも読んだことねぇよ...。気持ちの落ち着かない俺は、無駄に大声で叫んだ。
「たくっ!一体ここはどこなんだよォォッ!?」
空を覆うごつごつとした岩肌、地面から発せられる熱気、遠くに見える古風な町並み、どれも俺の庭では見覚えの無い景色。勝手も分からねえどこかに放り込まれた俺の唯一の救いは、地球規模の図書館のような最高の相棒が傍らにいることだ。
「落ち着きたまえ、翔太郎。アクセスに集中出来ない。」
「...すまねぇ、フィリップ。」
前言撤回、こいつは冷たい相棒でしたよ。俺の目の前で両手を広げる相棒、フィリップに心の中で悪態をつきつつ、その姿を見守る。だがその様子に俺は違和感を感じた。いや端から見るとこのポーズ自体違和感だろうが、まぁそこは置いておこう。いつもなら色々と呟きながらこのポーズを取るんだが、今日はただ首をかしげたり、険しい表情をしたりを繰り返すだけだ。そんなことを思いながら、俺は傍観を決め込んだ。また怒られるのはお断りだからな。フィリップはしばらくして大きな溜め息をつくと、ゆっくりと両眼を開いた。
「どうだった?何か芳しくない表情してるが。」
「駄目だ...
「冗談だろ...」
俺はフィリップの言葉に耳を疑った。どうやらここの風はとことん俺たちに向かい風らしい。こんな日に限って、相棒の図書館は臨時休業だ。一応言ってみたが、フィリップが冗談を言うような奴じゃないのはよく分かっている。途方にくれる俺は受け入れられない現実から目を背けるように、呆けて遠くの町並みを眺める。だが、フィリップはその程度の時間もくれずに話を続けた。
「冗談ではないさ。
「なんだそりゃ。
不思慮な相棒の疑問に、呆けていた俺は適当な返事をした。俺は何も考えずに応えたんだが、そこにキーワードがあったらしい。フィリップは俺の気分とはかけ離れたテンションで、また突拍子もない推論を立て始めた。
「もしかしたら、ここは風都が存在する地球とは違う地球なのかもしれない!」
「はぁっ!!?」
フィリップのぶっ飛んだ推論を聞いた俺の叫びと同時に、付近に爆音が響き渡った。俺たちが慌てて音源を探ると、俺の眺めていた町並みの上に立ち上る黒煙が目に入る。それに気づいた瞬間、俺の体は勝手に走り出していた。フィリップも推論の興奮を一気に冷まし、俺に続いて駆け出した。
俺たちは吹き抜ける二陣の風のように町を目指す...
「あら、さとりさん!いらっしゃい!」
「こんにちは、
地底の里の一角にある、花香茶と書かれたのれんをくぐったさとりに、元気な挨拶と花のような笑顔を贈った長髪の女性。さとりは彼女の名前を呼んで控え目に挨拶を返した。この紅茶店はさとりの行き着けで、先ほどのサルビアティーもここで買ったものだ。
「う~ん、その顔はサルビアですね。待っていて下さい、取ってきますから。」
「...相変わらず凄いですね。覚でもないのに相手の顔を見ただけで気分が分かるなんて。」
「まぁ、こんなことぐらいしか出来ないんですけどね!」
あはは、と朗らかに笑いながら店の奥の棚を漁る花名。彼女は隠し事をしない、厳密に言えば出来ない直情的な性格で、思ったことはすぐ口に出すので、さとりにとっては気を使わなくていい相手なのだ。それが、常連である理由でもある。さとりは店に漂う花畑のような香りで待ち時間を楽しむ。
「あったあった!あ痛っ!」
「ふふっ...大丈夫ですか?」
棚の中からサルビアティーの袋を取り出した花名は、勢い良く振り返ろうとして小指を棚の角にぶつけたらしく、小さく飛び跳ねながら袋を持ってない方の手で足をさすっていた。その可愛らしい光景に、さとりは笑みをこぼす。目に涙を浮かべる花名は片足で飛び跳ねながらさとりに近づいた。
「いたた...はい!サルビアです!」
「ありがとうございます...!?」
「きゃっ!?」
さとりが差し出された袋を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、この和やかな空気を引き裂く爆音が辺り一帯に轟いた。花名は悲鳴を上げて体をすくめたが、さとりは音の大きさと振動から里の中で爆発が起こったことを察する。喧嘩っ早い者も多いこの里だが、大勢を巻き込んでまでの暴動など今まで一度も起こったことは無かった。さとりの脳裏に紫の言葉がよぎる。
(「あの化け物たちが再び活動を始めたの。」)
「まさか!?花名さん、ここから離れてて下さい!!」
「えっ?さとりさん!?」
愕然とする花名とセルビアティーの袋を残して、さとりは嫌な予感を胸に花香茶を飛び出した。店外の道には激流の如く人が走っておりその全員が恐怖の表情や切羽詰まった表情を浮かべている。小さな体でこの流れに逆らうのは不可能だと考えたさとりは、少量の妖力をその身に込めて浮遊する。里を見渡せる程度の高度まで上昇したさとりは、立ち上る黒煙の源を探す。やがて発見した源は、里の中心寄りにある広場。店も多く構える広場で起きた災厄にさとりは焦りを募らせ、そこに向かって急降下する。
「ウガァァァッ!!」
「あの怪物は...!」
降りていくさとりの視界に、人間でも妖怪でもない化け物が映る。さとりの嫌な予感は的中、その化け物の雰囲気は異怪の大乱で確認された異形たちに似ているものだった。その化け物は恐竜の頭蓋骨を模した頭部、全身は黒をベースに各部位の骨の意匠がある。シルエットは人型といえど、姿は怪物と言っていいだろう。その怪物は狂ったように咆哮し、近くにいるものに手当たり次第に食らいつこうと骨の顎を震わせている。逃げ惑う人々の姿を目にしたさとりは速度を上げて地上に降り立ち、怪物に向けて叫んだ。
「やめなさいっ!!」
「グゥル...?」
背後からの声に気を引かれた怪物は鈍い動きで振り返り、穴の空いた目でさとりの姿を捉える。目の前で堂々と睨みつけてくるさとりにターゲットを切り替えた怪物は、うなり声を上げるとさとりの小さな体を目指して突っ込んでくる。
「ウガァッ!!」
「(速いッ!?)」
その速度はさとりの予想を裏切るもので、先ほどまでの鈍い動作が嘘のような速さで駆けてくる。予想はすれど警戒は怠らなかったさとりは即座に横に飛び出して突進を回避、怪物は勢い余ってその先の店に突っ込んだ。木造の店が音を立てて崩壊する中、2つの音がさとりの耳に届く。一つは崩れた木材の破片を怪物が噛み砕く音。そしてもう一つは...
「うわぁっ!!」
少年の悲鳴だ。運の悪いことにあの店に隠れていたらしい。崩壊に巻き込まれなかったのは不幸中の幸いだが、目の前の怪物に思わず声を上げてしまった。その声に気付いた怪物は木材を貪る口を止め、生きる食料に狙いを変えた。さとりは口早に挑発を繰り返すが、怪物は目の前の獲物に夢中で気にとめない。怪物の牙はゆっくりと少年に迫っていく。そんな時、少年の手に柔らかく暖かい感触が伝わる。
「こっち!」
「う、うん!」
少年は耳元の優しい声に導かれて立ち上がり、手を引かれるままに店から抜け出した。怪物は少年がいなくなったことに気づかずにその口を閉じ、再び木材を味わう羽目になる。
「早く逃げて!」
「うん、ありがとう!」
店から少年を連れ出し、笑顔で送り出した少女。こんな状況にも関わらず、走り去る少年に手を振るその少女を見たさとりは、反射的にその名前を叫んだ。他でもない、たった一人の妹の名前を。
「こいしっ!?」
「あ、お姉ちゃん!元気~?」
薄い緑の髪に黒いドーム形状の帽子を被り、まぶたの閉じた青いサードアイを持つさとりの妹、古明地こいし。彼女は姉であるさとりに呑気に手を振りながら、今日のコンディションを確認してくる。妹の相変わらずなマイペースっぷりに苦笑いしつつ、さとりは小さく手を振り返す。だが、それで気が抜けてしまった。怪物が木材の山から抜け出し、自分に向かって猛進していたことにさとりは気がつけなかった。彼女が怪物の接近に気付いた時には、既に眼前で顎が開かれていた。さとりの体に怪物の牙が鋭く突き刺さる直前...
「うおぉらぁぁぁっ!!」
黒き突風が怪物に突っ込んだ。
脇腹にタックルをくらった怪物はなかなかの勢いで吹き飛び、土煙を立てながら地面を転がる。一方タックルをかました黒い帽子に黒い服装の男、翔太郎は一度帽子を外して汚れを払ってから被り直すと、背を向けたままさとりに声をかける。さとりが心を読めることを知らずに...
「...大丈夫かい?綺麗なお嬢さん。」
「やせ我慢しながらカッコつけるのは止めた方がいいですよ?体に悪いですから。」
「えっ!?何で分かんの!?って言われたら痛くなってきた!あぁ~!いった!」
翔太郎のキザな振る舞いは、さとりの気遣いの言葉で一瞬にして崩壊した。怪物に叩きつけた右肩の痛みに耐えながら、翔太郎はさとりの前に立つ。ゆらゆらと起き上がる怪物を見据える翔太郎の耳に、相棒の声が聞こえた。
「あの容姿...ドーパントだね。恐らく小型の恐竜、ヴェロキラプトルだろう。」
「ドーパントってなぁに?」
ぱたぱたと走ってさとりの傍に来たこいしが、翔太郎と同じ方から現れた少年に疑問を投げかける。短めの緑髪をいくつかのクリップで留め、小脇に一冊の本を抱えた少年、フィリップは淡々と歩みを進めつつ質問に答える。
「人間があるものを使って変身する超人のことさ。見た目はほとんど化け物だけどね。さぁ、君たちは逃げたまえ。ここは僕たちが引き受けよう。」
「あなたたちは一体...?」
さとりは一つの予感の確証を得るために、肩を並べた二人にその正体を問いかける。それに対して彼らは口々に答え始めた。
「俺たちは探偵で...」「僕たちは相棒で...」
二人で声を返す、その答えはたった一つ。
「「二人で一人の、仮面ライダーだ!!」」
この言葉でさとりは一つの確証を得た。それは彼らが仮面ライダーであること。そして彼らがシンクロする相手は自分たち姉妹である可能性に気付いた。そんなさとりに気付かず、翔太郎はジャケットから赤を基調とした機械のバックル、ダブルドライバーを取り出した。それを腹部に押し当てると、ドライバーから射出された銀のベルトが翔太郎の腰に巻き付く。それから少し時間が経つと、フィリップの腰にもダブルドライバーが出現した。ドライバーを装着した二人は、それぞれ若葉色と黒色の長方体の小箱を取り出して構える。フィリップが持つ若葉色の方には吹き荒れる風のエフェクトで「C」、翔太郎が持つ黒色の方には刺々しいデザインで「J」と描かれていた。
『サイクロン!』『ジョーカー!』
彼らが小箱のスイッチを押すと、疾風と切り札を意味する音声が鳴り響く。フィリップは自分の持つ小箱を、ドライバーに二つあるスロットの内の右側に差し込んだ。何が起こるのか、目を輝かせて二人の動作を見つめるこいし。だが、二人の動作はそこで止まってしまった。これを見たさとりは、更にもう一つ、紫が言った通り彼ら二人も変身が出来なくなっているという確証を得た。
「...ん?おいフィリップ!メモリ来ねぇぞ?」
「なぜだ?こんなこと、今まで一度も...」
「ウガァッ!!」
「やべっ!」
起き上がったヴェロキラプトルドーパントは、しばらくの間翔太郎とフィリップの動きを目で追っていたが、二人の動きが止まったことで再び獲物に向けて駆け出した。それに気付いた翔太郎とフィリップは、さとりとこいしをそれぞれに抱えてヴェロキラプトルドーパントの軌道上から外れる。再三突撃に失敗したヴェロキラプトルドーパントだが、何も学習しない訳ではない。回避された少し先でブレーキをかけ、頭蓋骨を大きく回して振り返る。このままではらちがあかないと判断したさとりは、翔太郎とフィリップに緊迫した声で語りかける。
「探偵さんたち、私とこいしに力を貸して下さい!この里を守りたいんです!」
「力を貸すって、どうやって!?」
「簡単です、私たちと一つになるイメージをして飛び込んで来て下さい!」
もちろんさとりは真剣に言っているのだが、シンクロの現象を知らない者が聞いたら、幼い少女が三十路の男を誘っているような状況である。さとりに発言に困惑を隠せないフィリップに、こいしは彼の腕の中で抱きついた。連続して動揺するフィリップに対し、さとりを下ろした翔太郎は最早やけくそ気味な口調で言う。
「とにかく今はやるしかねぇ!!そうだろ!相棒!」
「翔太郎...君の言う通りだ。こいしと言ったね?君は悪魔と相乗りする勇気、あるかい?」
相棒の言葉で自分に今出来ることを見つめ直したフィリップは、かつて自分が翔太郎にかけた言葉を、腕の中の純粋無垢な少女にも問いかけた。こいしは澄んだ笑顔を浮かべて、フィリップに向けて頷いた。こんな質問に笑顔で答えるこいしの明るさに小さく笑い声を漏らすと、フィリップはこいしと一つなる漠然としたイメージを胸に、こいしを優しく抱きしめた。
「え~っと...」
「古明地さとりです。行きますよ、翔太郎さん!」
「さとりか...いい名前だな。うっし!」
今更ながらにさとりの名前を知った翔太郎はさとりと一つになるイメージを固め、さとりに向かって駆け出した。やがてさとりと翔太郎の体は重なりそうな程に近い距離になる。その瞬間、恐怖に塗りつぶされた地底の里に緑と紫の閃光が走った。光が収まった頃、胸元を緑に輝かせるこいしはふわっと地面に降り、腰に巻きついているダブルドライバーから若葉色の小箱を抜き取って眺める。一方、胸元を紫に輝かせるさとりは右手に握られた黒い小箱を見つめ直す。
「これは...?」
「何だろ?」
「なんじゃこりゃ~!?本当に一つになっちまった!!」
「おぉ...これがシンクロというものか!実に興味深い!ゾクゾクするねぇ!」
「グルゥッ...ガアアアァッ!!」
姉妹の疑問をそっちのけで騒ぎまくる探偵コンビに、喝を入れるかのように咆哮するヴェロキラプトルドーパント。その咆哮で自分たちが戦っていた相手を再認識した翔太郎とフィリップは、それぞれのシンクロ相手に手順を解説する。
「いいかい、こいし。これはガイアメモリといって地球の記憶を内包した小箱で、それぞれに一つ地球の物質、事象、概念などの記憶が込められており...」
「さっきここのスイッチ押してたよね?」
『サイクロン!』
「さとり!メモリのスイッチ押せ!」
「これですね...」
『ジョーカー!』
二本のガイアメモリのスイッチの起動に合わせて地球の囁き、ガイアウィスパーが流れ、その内部に秘められた記憶のタイトルを告げる。フィリップの細かすぎる解説を無意識にスルーしたこいしは、さとりの右隣に並び、サイクロンメモリを握る左手をV字に構える。隣に並ぶこいしを優しく見たさとりは、ジョーカーメモリを握る右手をV字に構える。二人の構えた腕が描くのは、W。それを果たした二人...否、四人は、声と心を合わせて叫ぶ。
「「「「変身!!」」」」
どこか嬉しそうな笑みを浮かべるこいしは、サイクロンメモリをダブルドライバーの右スロットに差し込む。その数秒後、サイクロンメモリが緑の光となってスロットから消失した。それと同時に、こいしの身体が傾き始める。
「こいし!?」
倒れるこいしを反射的に受け止めたさとりは、心配そうにその顔を覗き込む。表情は安らかな寝顔で、少し久しぶりに見る妹の寝顔にさとりは微笑する。さとりはゆっくりとこいしを地面に寝かせると、自分のドライバーの右スロットに目を向ける。その瞬間、先程と同じ緑の光が溢れ、サイクロンメモリがスロットに差し込みきらない状態で出現した。さとりはサイクロンメモリを左手で押し込こんで挿入し、続けて右手に握るジョーカーメモリを左スロットに挿入した。その直後、さとりはダブルドライバーの両方のスロットを外側へと弾く。
『サイクロン!ジョーカー!』
スロットの小窓から覗くシンボルがホログラムで空中に拡大表示され、二つのシンボルがぶつかり合う。その瞬間シンボルは砕け散り、ステンドグラスのようなエフェクトと旋風がさとりを取り巻く。やがて、足元から頭にかけてステンドグラスで全身が纏われていく。右半身の服装や頭髪は光沢のある黄緑色に変化し、対する左半身はマットな黒色に変化。胸元、手首、足首には左右で違うの柄の装飾が出現した。首には銀のマフラーが巻かれ、最後に瞳が赤く染まり、強く輝く。さとりは、二人で一人で二色の戦士、「仮面ライダーW」を模した姿に変身を果たしたのだ。
「おぉ~!変わったね、お姉ちゃん!」
「Wを再現した服装になったのか...実に興味深い。」
「結構出来いいじゃねえか!」
「それはともかく、今はあの怪物...ドーパントとやらの対処に集中しますよ。」
右目やら胸元やらがカラフルに点滅するさとりは、自分の心の内でテンションを上げるこいしたちを冷静になだめる。さとりの変身に気をとられていたヴェロキラプトルドーパントは、変化を終えたさとりを目指して突進を開始、その大口を開けてさとりに襲いかかった。さとりはその噛みつきをしゃがんで回避、その姿勢から風を纏う右足でヴェロキラプトルドーパントの足を払う。バランスを崩したヴェロキラプトルドーパントはその身に風を受け、空中に浮き上がる。右回転しながら立ち上がったさとりは、その勢いのまま紫の炎を纏う左足でヴェロキラプトルドーパントの胴体に回し蹴りを叩き込んだ。
「ウガッ...!」
「すごいね、お姉ちゃん!こんなに運動できたっけ?」
「なんだか体が軽いの。思い通りに動かせるわ。」
「ジョーカーには身体能力とかを強化する力があるからな。」
「ヴェロキラプトルはすばしっこい相手だ。サイクロンジョーカーのままで行こう。」
さとりが一人で会話する中、地面に倒れたヴェロキラプトルドーパントはうなり声を上げて立ち上がる。ヴェロキラプトルドーパントは空洞の目でさとりを睨み付けると、右に向けて駆け出す。獣の如く荒々しく駆けるヴェロキラプトルドーパントは、さとりを中心に周回し始めた。
「撹乱作戦のようだね。気をつけるんだ、さとり。」
「えぇ...」
フィリップに注意を促されたさとりは、素早く動き回るヴェロキラプトルドーパントを目で追う。その動きは意外にも戦略的で、時にブレーキをかけて方向転換、時に足の回転を緩めて減速するなど、速さに緩急をつけて翻弄してくる。その走りで注意を乱されるさとりの死角から、ヴェロキラプトルドーパントは鋭い爪をさとりに突き立てる。
「きゃっ...!フィリップさんの言うとおり、すばしっこいですね...」
「お姉ちゃんっ!」
「大丈夫だよ、こいし。どうやらこの姿は、Wの装甲と同程度の守備力を持つようだからね。」
「けどよフィリップ、こっちの攻撃が当たらなけりゃ、いずれは倒されちまうぞ?」
爪の当たった二の腕で火花が弾け、さとりは短い悲鳴を上げる。確かにダメージはあるが、攻撃を受けた部分からは少しの煙が上がるだけ。この現象から、フィリップはさとりの服がアーマーとして機能していると分析する。これの繰り返しでやがて倒されることを危惧する翔太郎の言葉に、さとりたちは焦燥にかられ始めた。その焦りに乗じて、ヴェロキラプトルドーパントは的確に攻撃を仕掛ける。二発、三発と繰り返し突き立てられる爪。さとりは引き裂かれる痛みに耐えつつ、打開策を探る。そんなさとりの心の中に、翔太郎の叫びが響いた。
「(左後ろか!!)」
「...はあっ!」
「グギャアアアッ!」
翔太郎の叫びに従い、左足を目一杯左後方に突き出すさとり。さとりの左足はヴェロキラプトルドーパントの頭部を捉え、その骨格にひびを入れる程の衝撃を与える。その衝撃を受けきれなかったヴェロキラプトルドーパントは、大きな悲鳴を上げながら倒壊した家屋に突っ込む。
「今ださとり!ジョーカーメモリを右腰のスロットに入れろ!」
このチャンスを逃すまいと翔太郎がさとりに指示を出す。さとりはドライバーの左スロットからジョーカーメモリを抜き取り、右腰にマウントされた黒いスロット、マキシマムスロットにジョーカーメモリを差し込んだ。
『ジョーカー!マキシマムドライブ!』
その瞬間、さとりの足下から風が巻き上がり、徐々にその勢いを増していく。やがて風が小さな竜巻に成長した頃、両腕を広げたさとりの体はその竜巻に乗って上昇を始め、空中に浮き上がる。
「さとり、こいし!この技の名前は、ジョーカーエクストリームだ!技を出す時に一緒に叫べ!」
「なんかかっこいいね!その名前!」
「私たちも言うんですか?」
「メモリブレイクには、変身している全員の心を一つにしなければならないんだ。さぁ、これで決めよう!」
フィリップの説明に納得したさとりは、倒壊した家屋から這い出てきたヴェロキラプトルドーパントに狙いを定めると、紫の炎を纏う左足での飛び蹴りの姿勢をとる。そしてマキシマムスロットのスイッチを叩くと、浮遊していた体に強烈な追い風が吹いて一気に加速する。
「「「「ジョーカーエクストリーム!!」」」」
追い風を受けたさとりの左足はヴェロキラプトルドーパントの胸部に勢い良く突き刺さる。胸部を焦がす紫の炎に苦悶の声を漏らすヴェロキラプトルドーパント。さとりは胸部から左足を離して、連続して風を纏った右足での飛び蹴りを胸部に見舞う。さとりの右足が当たった瞬間、足の裏に突風が発生して、ヴェロキラプトルドーパントは後方にのけぞり、さとりはバック宙を挟んで着地した。一瞬、二人の動きが止まり...
「グギャアアアッッッッッ!!」
ヴェロキラプトルドーパントは、獣のような断末魔と共に爆発した。左腕で爆風から顔を隠すさとりは、爆煙の中から飛び出したガイアメモリに気づく。そのメモリにはジョーカーメモリなどとは明らかにデザインが異なり、骨のような意匠がある本体に、口を開けた恐竜の顔で「V」を表しているシンボルがある。さとりがそのメモリを見つめていると、シンボル部分の表面が割れて、文字通りのメモリブレイクが行われた。
「あれは...?」
「ガイアメモリの一種さ。あれを生物の体に差すと、ドーパントになる。」
「メモリの使用者への負担を減らすために、体内のメモリだけを破壊する。それがメモリブレイクさ。」
翔太郎たちと話している間に爆煙が晴れ、ヴェロキラプトルドーパントの正体が明らかになってくる。
「
「花香茶」で働いている、優しくて少し気弱な青年だ。さとりとは面識があり、人柄もよく知っているが、先程のヴェロキラプトルドーパントの凶暴さは、彼のものとは到底思えなかった。動揺して彼に駆け寄るさとり。だが、彼に近づく者はもう一人いた。その目的は、知り合いへの心配ではなく、獲物の捕獲だ。
「「なっ!?」」
思わず驚愕の声を漏らす、さとりと翔太郎。ヴェロキラプトルドーパントの頭部より巨大な恐竜の頭蓋骨が、地面から飛び出してきたのだ。頭蓋骨はその顎で土、木片、家屋すらも噛み砕き、一直線に進む。その先にあるのは、倒れている静真の体。
「やべぇっ!!」
全てを貪る頭蓋骨が、疑惑を抱えた優しき青年に迫る...
~次回予告~
「風都に戻れないってどうゆうことだよ!!」
「目の前で泣いてる相手がいれば、その涙を拭わずには居られないのが左翔太郎だろう?」
「お前はどうして戦うんだ?」
「ふふっ...いただきまぁす♪」
『ティーレックス!』
「「「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」」」
第5話 ~吹き込みしW/この
これで決まりだ!
人物・アイテム紹介コーナー!
~古明地さとり~
地底に存在する地霊殿の主であり、地底周辺の管理者。心を読む程度の能力の持ち主。能力のせいもあって気を使いすぎる苦労人。時に気の使い方を間違える。地位的には相当高いが、前述の能力で嫌われていたり、地底には地位を気にする者が少なかったり、自分も引きこもりがちだったりであまり目立たない。翔太郎たちと出会い、仮面ライダーWの力を得た。
~左翔太郎~
自称ハードボイルドの私立探偵。義理人情に篤い性格で正義感が強く、理屈より感情で動く男。ハードボイルドに憧れているが冷酷になれず優しいので、仲間たちからはハーフボイルドといじられる。風都で仲間たちと私立探偵を営んでいたが、突然幻想郷に訪れる。
~さとり(W) サイクロンジョーカー~
「仮面ライダーW サイクロンジョーカー」を模したさとりの姿。全身のカラーリングが変化しており、装飾品も一部増えている。サイクロンのスピード、ジョーカーの体術を活かした接近戦でのラッシュが特徴。必殺技はそれぞれの力を宿した両足を左、右と連続で叩きつけるジョーカーエクストリーム。
みなさん、いかがでしたか?
Wに関してはまだ展開があるので、次回予告の通り二話続きで書きます!(あれ?ビルドまで出すつもりなのに、一章は何話まで続くんだろう...)
ここでアンケート!一回やってみたかったんです!
第6話はキバとファイズ、どっちが良いですか?
返答はメッセージにお願いします。締め切りは次回の完成までです!一通も来なかったら私の独断と偏見で決めよう!
次回は熱い展開のW回!にしたいです。
それでは、チャオ!