思った以上に早く完成しましたよ!待ってる人はいるか分からないけど!
兎に角にも第6話、どうぞ!
私たちは縛られている。
運命、宿命、血筋、種族、歴史。自らが望んだ訳でも、受け入れた訳でもない鎖に縛られて生きている。顔も知らない者たちが、通りすがりに巻きつけていった鎖に縛られて生きている。気づいた時にはがんじがらめで、逃げるなんて考えも起きない。ほとんどの者は、その鎖を見てみぬふりをして、そうあるものと決めつけて生きている。
どう生まれるかは選べない。でも、どう生きるか、どう死ぬかは選べるはずだ。
だから、鎖を壊せ。
生きる道を選ぶため、死ぬ場所を選ぶため。全ての生き物が心に持つ命という音楽は、究極の即興曲だ。それを奏でるやつが縛られているなんて馬鹿馬鹿しい──
──そうだろう?
霧の湖と呼ばれる湖の孤島に鎮座する、目が痛くなるほど真っ赤な洋館、紅魔館。そこには、かつてこの世界を赤い霧で覆った異変の主犯たちが住んでいる。強力な力を持つ妖怪の住処であるため、滅多なことがない限り、多くの者は近寄らない。そんな紅魔館の一室で紅茶を嗜む、青みがかった銀髪の少女は、通称でっちあげ新聞の文々。新聞に目を通していた。
「人里で連続切り裂き事件ねぇ...」
外装とは大分印象の違う、落ち着いた内装の部屋で呟く少女はパタパタと背の黒翼をはためかせる。その翼は鋭く尖った形状で、コウモリのそれに近い。少女の名はレミリア・スカーレット。吸血鬼の血を継ぐ、この紅魔館の主だ。レミリアは、手に持っているのが面倒になった新聞をテーブルに広げ、ペラペラとめっくていく。そこには、あちこちで異形の目撃情報!とか、博霊の巫女が苦戦!?とか、連続行方不明事件!とか、物騒な記事がつらつらと並んでいる。
「あの鴉天狗のことだから、どこまで本当か分からないけど...幻想郷の運命も大きく変わっているのかしらね。」
レミリアは幻想郷の運命を案じながら、完璧で淑女なメイド長の入れていた紅茶をすする。流石は仕えて十年以上のベテランメイド。レミリアの好みを絶妙に捉えた味わいを、寸分違わずに出している。最高の紅茶を飲むレミリアの耳に、美しいバイオリンの音色が聞こえてきた。その音色は深い優しさや愛情を感じさせるが、その中に儚い悲しみや苦しみを抱えている。知らず知らずの内に、レミリアはその演奏に聞き入っていた。忌み嫌っていた楽器のはずなのに、耳を傾けずには居られなかった。理由も分からぬまま、レミリアは演奏に魅入られていた。
「最近さぁ、お嬢様体調悪そうだよね~。」
「そうだね~。まっ、吸血鬼なんだし大丈夫でしょ?」
窓拭きをしながら主人の体調を気遣う...というより、主人の体調を話題におしゃべりしてるだけの妖精メイドたちは、後ろでモップがけをする青髪の妖精メイドに同意を求める。
「ねっ、シルフィ?」
「そうね、確かに生命力は強そう。でも、妖精だって生命力をたっぷり持ってるでしょう?」
話を振られた青髪の妖精メイド、シルフィは同意の後に不可解な質問をする。それはまるで、この2つの野菜の栄養価はほとんど同じでしょうと聞いているかのようだ。そんなおかしな質問に動揺しつつ妖精メイドたちは応える。
「えっ?まぁ、そうだね。」
「ウチらは自然の生命力の塊みたいなもんだしね。」
それが最後の言葉となるなど、露にも思わずに。
「そうよね...なら、お腹いっぱいにしてちょうだいね?」
そう告げたシルフィの頬には、鮮やかな刺々しい柄が浮かび上がっていた。その顔を見た彼女たちが驚愕するより前に、首筋に鋭い痛みが走った。その痛みの根源を見ると、そこにはそれぞれ二本の半透明な牙が突き刺さっている。互いに顔を見合わせ、得体の知れない恐怖に震える二人の体は徐々に透明になっていく。やがて全身が透明になった二人は───
───粉々に砕け散った。
彼女たちの生命力、ライフエナジーを吸い取ったシルフィは、満足そうに舌なめずりをする。
「さて、まだ足りないわ...次はお嬢様ね。」
遺されたメイド服を踏みつけて、シルフィは次の獲物の下へと向かうのだった。
最後に弦を弾く音が響きわたり、演奏はフィナーレを迎えた。はっとしたレミリアは慌てて立ち上がり、テラスから奏者を探す。そこには、茶髪の青年がバイオリンとバイオリンの弓を持って辺りを見回していた。彼に間違いないと確信したレミリアは、手近にあった黒い日傘を手にテラスから飛び降りた。
「美しい音色ね。」
「君は...?」
日傘を開いてフワフワと落下してくるレミリアを見て、青年は動じることなく問いかける。
「相手に何かを問いかけるより先に、自分が名乗るのが礼儀ではなくって?でも、まぁいいわ。あなたの演奏に免じて答えてあげる。私はこの屋敷の主、永遠の紅い月ことレミリア・スカーレットよ。」
「あっ...ごめんなさい。僕は紅渡、しがないバイオリン職人です。」
ぺこりとお辞儀をした渡。今の彼を見て、人見知りの引っ込み思案で、お化け太郎なんて呼ばれた時期があったなんて、そう簡単には信じてもらえないだろう。そんな渡を見た瞬間、レミリアの脳内にぼんやりとしたビジョンがよぎった。
そこに映っていたのは渡と自分が光を放って一つになる運命。レミリアの持つ能力、運命を操る程度の能力が見せたビジョンだ。
「(これは...!なるほど、これが紫の言っていた...)」
「レミリアさん、危ないっ!」
渡の声で現実に引き戻されたレミリアは、空気を切る音がする方を見る。そこには2つの半透明な牙、吸命牙が高速で飛行しており、その切っ先はレミリアに向いている。吸命牙を認識したレミリアは、一枚のカードを取り出した。
「神槍【スピア・ザ・グングニル】!」
カードを赤色のエネルギーに変換して槍状に形成したレミリアは、グングニルと称される魔力の槍を軽く振り払い、吸命牙を砕いた。レミリアが牙が飛来してきた方を見ると、そこには頬に模様を刻んだシルフィが、くすくすと笑っていた。
「うーん、やっぱり一筋縄ではいかないかー。」
「いい度胸ね。妖精メイド如きが私に逆らうつもり?」
「そ。吸血鬼だもの、ライフエナジーをたっぷり持ってるでしょ?それを吸わせて貰いたいの。」
シルフィは笑みを絶やすことなく、吸命牙を生成、射出していく。対するレミリアは、それを必要最低限の動きで回避する。彼女には吸命牙の運命が見えているのだ。当たる前に辿る運命、すなわち、軌道が見えてしまえば回避は容易であるということだ。吸命牙を易々とかわしつつ、グングニルを放り投げたレミリアは新たにカードを取り出した。
「へぇ、下克上ということね。いいわよ、カリスマとの格の違いを見せてあげるわ!紅符【スカーレット・シュート】!」
余裕の態度を取るレミリアは、背丈と同じ位のサイズの紅いエネルギー弾を放ち、数本の吸命牙を包み込んで消滅させる。そのまま突貫していくエネルギー弾はシルフィに迫るが、当たる直前で跳躍してシルフィは回避した。着地したシルフィだったが、スカーレット・シュートが前座であることには気づいていなかった。
「さぁ、紅い花を咲かせなさい!」
空中に浮かび上がって放り投げたグングニルをキャッチしたレミリアは、シルフィの喉元に狙いを定めてグングニルを投射した。
「フフッ、流石はお嬢様。やってくれますね。」
紅の槍に狙われたシルフィは不敵に笑うと、その正体を露わにした。ステンドグラスのような柄が全身に張り巡らされており、四枚の羽を持つ化け物、フェアリーファンガイアへと姿を変えたのだ。フェアリーファンガイアに変身したシルフィは、羽をはためかせて強風を起こし、グングニルを構成する魔力をかき消した。着地したレミリアは、シルフィの奇怪な姿に目を細める。
「あの姿は...?」
「奴らはファンガイア...人間のライフエナジーを喰らう怪物です!」
レミリアのかわした吸命牙を全てよけた渡は、はっきりと告げた。近くの木にバイオリンを立てかけた渡はレミリアの隣に並び、フェアリーファンガイアを威厳ある眼差しで睨みつける。
「ライフエナジーとかいうのが何か知らないけど、私は吸血鬼よ?」
「ファンガイア以外の生命体なら、なんでもいいのかもしれませんね。」
レミリアに言葉を返した渡は、化け物を目の前にしたとは思えないほど堂々とした足取りで、フェアリーファンガイアに向かって歩みを進める。フェアリーファンガイアは、鋭い眼光を向けながら近づいてくる渡にうろたえる。
「なっ、なに!?人間のくせに、こんな威圧感を放つなんて...!」
うろたえながらも吸命牙を放つフェアリーファンガイア。それに対し、渡は小さな相棒の名を力強く呼んだ。
「キバット!」
「待ってたぜ~渡!!」
意気揚々と現れた金と黒の機械的なコウモリ、キバットバット三世は、翼で吸命牙を弾き飛ばして渡の周りを飛び回る。
「気づいたら変な屋敷の前にいるわ、寝ぼけてる門番に殴られるわ、ナイフがあっちこっちから飛んでくるわで大変だったんだぜ!」
「そっか、無事で良かったよ。」
今までの受難を語るキバット。その受難の内、寝ぼけてる門番と襲い来る無数のナイフに心当たりがあったレミリアは、後ろで目をそらしていた。それに気づいていない渡たちは、互いの無事を確認してフェアリーファンガイアに向き直る。
「行くよキバット!あいつを倒す!」
「よっしゃ!任せろ渡!」
「(今ね!)」
このタイミングを好機と見たレミリアは渡の下へと向かうと、同じ想いを胸に宿してその背中に手を触れた。その瞬間、渡は紅い光となってレミリアの身体に取り込まれる。光を放って佇むレミリアの身長は少し伸び、渡と同じ威圧感を放っていた。
「ふぅ、運命どおりね。これがシンクロ...なんだか不思議な感じね。」
「こ、これは一体!?」
「なんだ、なんだ!?渡が光になって消えちまった!?コウモリの嬢ちゃん!お前、渡に何したんだ!?」
少しばかり成長した自分の身体の感覚を確認していくレミリアに、流石に動揺する渡、大騒ぎするキバット。すっかり置いてけぼりをくらっているフェアリーファンガイアは、そんな光景を眺めることしか出来なかった。
「お前とは失礼ね!私は高貴なる吸血鬼、レミリア・スカーレットよ!よく覚えときなさい、このチビコウモリ!」
「誰がチビコウモリだ!俺様は偉大なるキバット族の末裔なんだぞ!このクソガキめ!」
「言ったわね!カリスマたるこの私に対してケンカをふっかけるとはいい度胸じゃない!」
「チービ!」「ガキ!」といった調子で不毛な争いを始めたレミリアとキバットのお陰で冷静さを取り戻した渡は、レミリアの中から二人の仲裁に入る。
「ちょっと落ち着いて!ケンカしてる場合じゃないでしょ?」
「おっと、そうだ。ファンガイアがいるんだった。」
「うー☆...あの不届き者をぶちのめしてから、けちょんけちょんにしてやるんだから!!」
気配を空気にして眺める存在を思い出したレミリアとキバットは、一時休戦を果たして反逆者たるフェアリーファンガイアを見据える。これから戦うというのに、ステンドグラスの裏でシルフィは大歓喜していたとかいないとか。
「行くわよ!渡!キバット!!」
掛け声をかけるレミリアは、手の甲を上にして指を指すような形で右腕を差し出す。
「いよっしゃぁ!何だかよく分かんねぇけど、キバって行くぜ!」
その気迫に感化されたキバットも、レミリアに応えるべく気合いを入れる。準備運動がてらレミリアの周りを旋回したキバットは、差し出された右手の掌に二本の牙を突き立てる。
『ガブッ!』
キバットに蓄えられたエネルギー、魔皇力が牙を介してレミリアの身体に流れ込む。それに従ってレミリアの頬に刺々しい柄が刻まれていく。同時に、腰に数本の鉄の鎖が巻かれ、それが赤いベルト、キバットベルトへと変化する。掌から離れたキバットを右手で掴んだレミリアは、正面にキバットを示すように突き出した。そして、渡と声を合わせて呟く。
「「変身...!」」
レミリアは止まり木に見立てたキバットベルトにキバットを装着。するとキバットから赤い波動が放出され、レミリアの全身が銀の膜に覆われていく。膜に覆われたレミリアの身体の形状が変化し、やがて銀の膜はガラスのように砕け散った。
「その姿は...!?」
レミリアの姿は大きく変化していた。特徴的な帽子には黄色の小さめな角が生え、真ん中には翠玉がはめ込まれた赤い装飾が追加。胴体の服は赤く染まり、黒い筋が入っている。さらにその上から、正面の開いた銀の鎧を纏っている。両肩と右足のふくらはぎには、銀の鎖"カテナ"が巻きついた鎧が現れていた。その姿は、ファンガイアの王に献上するべく作られたキバの鎧を、レミリアが身に纏った姿、"キバフォーム"の姿である。変身したレミリアは、試着した服を確認するように自分の身体を見回す。
「ふ~ん...意外といいじゃない。気に入ったわ。」
ご機嫌に笑ったレミリアは、改めてフェアリーファンガイアと対峙する。
「こんなに月が紅いから...今夜は楽しい夜になりそうね!」
「月も出てないし、真昼ですけど...」
「うっさい!」
勢いで言ってしまった恥ずかしさを拭うように叫んだレミリアは、フェアリーファンガイアへと迫る。片手に日傘を携えたまま戦うレミリアが初撃として繰り出したのは、左足での中段蹴り。それを防御したフェアリーファンガイアは、手甲の形状を刃物のように変化させて反撃を行う。連続して振るわれる手甲を右手で弾きながら、レミリアは後退していく。それをしばらく繰り返した後、レミリアはフェアリーファンガイアの腹部に蹴りを入れ、その反動を利用して大きく飛び退いた。
「ふぅ...驚いた。手甲がブレードになるなんてね。」
「器用なんですね。日傘を差したまま戦うなんて...」
「ハァッ!!」
少しよろめいたフェアリーファンガイアだったが、すぐに体勢を立て直して四枚の羽をはためかせる。羽によって巻き起こされた風が、刃のように練り上げられていく。あっという間に完成した五本の風の刃を、フェアリーファンガイアはレミリアに向けて発射した。まず牽制的に放たれた一本は、レミリアの軽いサイドステップにてかわされる。続く二本は横向きで平行に放たれるが、レミリアは飛び上がって回避。最後の二本は挟み込むように放たれ──
着地したレミリアの日傘を一閃した。
「しまっ...!」
はじきの部分から切断された日傘は空へと吹き飛ばされ、レミリアの全身に陽の光が照りつける。吸血鬼であるレミリアとって、陽の光は最大の天敵。当たれば肉体は燃え上がり、やがて炭と化す。フェアリーファンガイアはレミリアの吸血鬼としての特性を逆手に取って、日傘に狙いを定めていたのだ。愕然とするレミリアに対し、太陽は容赦なく光を放つ。そして───
「...あれ?」
───レミリアはなんともなく中庭に立っていた。身体が燃え上がることも、当然、炭になることなく立っていた。
「そんな馬鹿な!?」
驚愕して声を上げるフェアリーファンガイア。計算が狂い、思考が停止した瞬間を見逃さなかったキバットは、レミリアに指示を出す。
「今がチャンスだ!決めろ!レミリア!」
「えっ?あ、うん!」
レミリア自身も無事だったことに大きく動揺していたが、キバットの声で正気を取り戻し、ベルトの両脇に備えられたフエッスルホルダーに手を伸ばす。レミリアは収納されている三本のフエッスルの中から、赤いコウモリような形状の物を選び出した。そのフエッスルの名は、ウェイクアップフエッスル。その名の通り、キバの力を最大まで覚醒させることが出来るものだ。レミリアはウェイクアップフエッスルを大きく開いたキバットの口に差し込み、その口を閉じる。
『ウェイクアップ!』
ウェイクアップフエッスルを吹き鳴らしたキバット。紅魔館に、キバットの叫びと高音の音色が響き渡る。そのフエッスルが奏でられる中、明るく澄み渡っていた空は黒い霧に支配され、その中には紅い満月が煌々と輝く。紅い月下に佇むレミリアは、両腕を胸の前でクロスさせて吐息を漏らす。
「はぁぁぁ...!」
感覚を最大まで研ぎ澄ましたレミリアは、キッと目を見開いて目一杯に右足を振り上げる。フエッスルを吹き終えたキバットはベルトから飛び立ち、右足の鎧に巻かれたカテナを砕く。締め付けていた鎖を失った鎧は左右に展開し、その中のヘルズゲートを覗かせる。紅に染まるヘルズゲートには、大きな魔皇石が等間隔に三つ埋め込まれていた。左足の屈伸でそこから跳躍したレミリアは、空中でとんぼ返りして姿勢を変える。体勢を整えたレミリアは、紅の満月をバックにヘルズゲートの力を纏うキック、ダークネスムーンブレイクを放つ。
「ハアッ!!」
「くっ...はぁぁぁ!!」
相対するフェアリーファンガイアは、迫り来るレミリアに向けて強風を放って勢いを相殺せんとする。せめぎ合う疾風とダークネスムーンブレイク。吹き荒ぶ風は真空刃に変わってレミリアに迫るが、ヘルズゲートから溢れる魔皇力にかき消されていく。真空刃を消し飛ばして突き進むレミリアの右足は、フェアリーファンガイアの胸元に突き刺さった。そこから踏みつけるようにして、レミリアはフェアリーファンガイアを押し倒す。ひびの入ったその身体が横たわった瞬間、地面には大きなキバの紋章が刻まれた。
「眠りなさい。それがあなたの運命...」
死の宣告を終えたレミリアは、右足により一層力を込めてフェアリーファンガイアを踏みつけた。ヘルズゲートの魔皇石を輝かせながら魔皇力がフェアリーファンガイアに流れ込み───
その身体は粉々に砕け散った。
レミリアが目の前に浮かぶ光球、フェアリーファンガイアの魂を見つめる中、足元に散らばったシルフィの亡骸は淡い光を放って消えた。そして、浮遊していた魂はやがて天へと昇っていく。シルフィの最期を見届けたレミリアは、変身とシンクロをゆっくりと解除した。
「運命通り...ね。」
そう呟いたレミリアの表情は、朧気な悲しみを纏っていた。
そんな彼女に、渡は声をかける。
「あの、レミリアさん...大丈夫ですか?」
「怪我はないわ。この私に心配は無用よ。」
「いえ、そうじゃなくて...日光が、当たってますよ?」
「・・・あ。」
渡の言葉で気がついたレミリアは、早くも燃え始めた翼を唖然として眺める。そして───
「ぎゃーーーー!!?燃えてるーーーー!!?咲夜ーー!!咲夜ぁーーーーー!!!」
このあと、突然現れた銀髪のメイドのおかげで事なきを得ましたとさ。
「し、死ぬかと思った...」
自分の部屋に戻った私は、勢い良くテーブルに突っ伏した。戦闘で意識を研ぎ澄ませていた疲れもあるが、何より焦げ付いた翼がまだじんじんと痛む。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん。」
私は、隣で心配そうな表情を浮かべる銀髪のメイド長、咲夜の言葉に気丈に応える。もう十数年の長い付き合いと言えど、私は主で彼女は従者。一屋敷の主人として、威厳を失う訳にはいかないのだ。私は咲夜に向けていた視線を正面に戻し、テーブルを挟んだ向こうに座る渡と、その周りを飛び回るキバットに向き合う。
「なぁ渡、本当になんともないのか?」
「うん。少しびっくりしたけどね。」
「さて、改めて紹介するわね。彼女はこの屋敷の従者を束ねるメイド長...」
「十六夜咲夜よ。」
私は咲夜を手で示し、渡たちに紹介する。私に促された咲夜は名を名乗ったが、その口調は妙にぶっきらぼうで、渡に向ける目はまるで仇敵を睨むかのように攻撃的に見えたが、その直後にはいつも通りに慎ましい表情を浮かべていた。
「(気のせいかな...?)」
少しばかり引っかかりを感じながらも、私はそこまで気に留めずに話を進める。
「そうだ、渡に提案があるんだけど...うちに住み込みで働かない?これから先も戦いがある以上、出来るだけ近くにいた方がいいでしょうし、あなたは咲夜の補佐ってことで。」
私の提案を聞いた瞬間、咲夜の表情が見たこともないものに変わった。
「お嬢様!!?本気ですか!?こんな素性も分からない人間を屋敷に住まわせるなんて!」
早口でまくし立ててくる咲夜。その瞳孔は大きく開き、小さく充血している。明らかに態度のおかしい咲夜に、私は震える彼女の手を握って語りかける。
「落ち着いて、咲夜。渡たちの素性についてはこれから聞くつもりだし、何より運命がそう告げているの。だから、安心して。」
「...はい、お嬢様。」
咲夜は苦い顔をしながらも、小さく頷いてくれた。実際の所、運命が告げているというのは嘘で、最近は運命の見通しが悪い。見えた運命も大きく変わることが珍しく無くなってきている。
なにかが変わり始めていることは間違いない。
「ありがとうございます!これからどうするか当てがなかったので、すごく助かります!」
「俺様の寝床は...改めて渡に作ってもらうか。」
そう、私自身も例外ではない。こうして目の前の青年が現れ、戦いの道を踏み出している。今思えば、渡が奏でた出逢いのメロディーは、運命の
さぁ、ここからは第一楽章。命という究極の即興曲は、どんな旋律を奏でるだろうか?
それは、まだ誰にも分からない。
なんで?
なんであんな男が...!?
私の補佐...!?
だめ。だめよ。ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!
お嬢様の御側にいるのは私だけでいい!!あんな奴は要らない!!
私がお守りするんだ...危険は全て排除する。
あいつはお嬢様を危険に晒した危険な存在。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!!
───ユルサナイ。
『タイム!』
誰もいない紅の廊下に、地球の囁きが小さく響いた。
~次回予告~
Open Your Eyes For The Next Φ's
「君もこっちに来なよ...」
「私の生徒に...手は出させないッ!」
「あの子の"夢"を守ってやりたいからな。」
「「変身っ!!」」
『Complete』
第7話 ~Code555・夢の守り人~
キャラクター・アイテム紹介コーナー!
~レミリア・スカーレット~
紅魔館の主である吸血鬼の少女。幼い容姿に見合わず、その年齢は500を超える。運命を操る程度の能力の持ち主。生粋の自信家であり、常に余裕のある態度を取っているつもりだが、大抵の行動は子供が見栄を張っているようにしか見えない。自称カリスマで、吸血鬼としてのプライドは非常に高い。紅魔館の主人としての偉そうな振る舞いが目立つが、本当は心優しい少女。自らとシンクロした渡を紅魔館に迎え入れ、戦いの運命に身を投じる。
~紅渡~
ファンガイアと人間、両方の血を継ぐ青年。普段は物静かで控えめな性格だが、心の底には熱い信念と深い優しさを秘めており、時には相手を怯ませる程の威圧感を放つ。父の作り上げたバイオリン、ブラッディローズを手に幻想郷に訪れ、レミリアとシンクロを果たした。その後は紅魔館に住み込みで働きながら、バイオリン作りに精を出している。
~キバットバット三世~
コウモリ型モンスター、キバット族の末裔。その身に魔皇力を宿しており、魔皇力を注入した相手をキバに変身させる能力を持っている。性格はお調子者で気分屋。レミリアとの口げんかは日常茶飯事だが、戦闘の際は的確なサポートを行う。
~キバ(レミリア) キバフォーム~
レミリアが変身する、「仮面ライダーキバ キバフォーム」を模した姿。体の各所に鎧を纏い、それぞれに銀の鎖、カテナが巻かれている。コウモリをモチーフとしているため、天井からぶら下がっての戦闘が可能。アクロバティックな動きを得意としており、意表を突いた動きで相手を翻弄する。必殺技は、右足のヘルズゲートを解放して放つ「ダークネスムーンブレイク」。
いかがでしたか?
最後の部分をあんなに強調しましたけど、紅魔館の物語の続きは少し先になります。次回はファイズ回です!もうしばらくすると、各所での事件が少しずつ絡んできますのでお楽しみに!
最後に、たっくんと草加さん、ジオウに本人出演おめでとうございます!
それでは、チャオ!