東方時哀録   作:シェイン

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どうも、シェインです!
アーツのジオウとゲイツを買いたいなぁって、切に思う今日この頃。

挨拶も済んだことですし、第7話どうぞ!


第7話 ~Code555・夢の守り人~

幻想郷の中心にそびえる妖怪の山の東に位置する大きな人里。青龍の里と呼ばれるその人里の外れには、子供たちの学び舎である寺子屋がある。そこでは人妖関係なしに、一つ屋根の下で子供たちが勉学に励んでいる。そんな寺子屋の廊下を、銀髪の美しい女性が険しい表情で歩いていた。胸元の大きく開いた青い服を着て歩みを進める彼女は、上白沢慧音。この寺子屋で教師を務めている者だ。

 

「また行方不明事件...これで何件目だ...!!」

 

慧音は、昼下がりの廊下で小さく怒りを零した。最近、青龍の里で立て続けに起こっている行方不明事件。先程、新たに行方不明者が出たとの知らせが彼女に届いた。この事件は里の自警団に所属する慧音にとっては無視出来ない問題だったのだが、これといった対策をすることも出来ずに次の犯行を許してしまった。慧音は自らの無力に唇を噛み締めながら、生徒たちの待つ教室の引き戸を開けた。

 

「あっ!慧音先生!」

「慧音先生、どうしたんですか?」

 

教室に入るなり、二人の生徒が慧音を囲む。慧音は可愛い生徒たちの顔を見て思わず顔が緩んでしまうが、今だけは気を引き締めなければ、と自らを律する。慧音は二人に席に座るように促し、教卓に向かった。

 

「みんな、聞いてくれ。最近起きている行方不明事件は知っているだろう?その事件がまた発生した。」

 

その言葉を聞いた瞬間、教室がどっとざわめいた。慧音は「静かに!」と生徒たちを一喝し、話を続ける。

 

「そのため今日の授業はこれで終了とし、君たちは速やかに帰宅。人里に帰る者たちの帰路には、先生が付き添うことになった。」

「えっ!じゃあ、先生と一緒に帰れるの!?」

 

他の生徒が不安そうな表情を浮かべている中、一人の女子生徒は顔をぱっと明るくしていた。だが、他にも浮いている雰囲気の生徒は居た。その女子生徒は薄い水色の髪を生やし、背中には六つの氷翼を備えている。

 

「よし分かった!サイキョーなアタイが、犯人をぶっ飛ばしてやるわ!」

 

足を椅子と机に乗せ、昼間の太陽を指差して無謀な宣言をした女子生徒は、自称サイキョーの氷の妖精"チルノ"。自信の塊のようなチルノに、慧音が一言「座ってなさい。」と言って済ませる光景も、この学級では日常の一部である。無鉄砲なチルノの言葉で和んだ生徒たちは、いつも通りに下校の準備を始めるのだった。

 

 

「全員揃ったな?」

「「「「「はーい!」」」」」

 

寺子屋の前に集合した生徒たちの返事を受けた私は、別の場所で集まっている妖怪や妖精の生徒たちの下に向かう。和気あいあいと騒ぐ生徒の内の一人、白いシャツに青い服を着用し、背中に一対の羽を持つ少女──大妖精に声をかけた。

 

「大妖精、すまないが妖怪のみんなを頼めるか?あの子たちは無茶が過ぎる。」

「はい、任せて下さい!チルノちゃんのおかげで、無茶な友達には慣れてますからね。」

 

短い緑髪を揺らして笑う大妖精に、私はどことなく安心する。彼女も他の子とそう変わらないというのに、非常に頼もしいものだ。それはきっと、彼女が背負う()()の影響だろう。そんなことを考えている内に、大妖精の背後から生徒の一人であるルーミアが近づいてきた。

 

「安心して大ちゃん!わたしが居るから、大丈夫なのだー!」

 

なにやら不思議なことを言って笑うルーミア。なんとも言えない不安を感じた私と大妖精は苦笑をこぼした。

 

「じゃあルーミア、大妖精、みんなのことを頼んだぞ!」

「はーい!」

「はい!先生もお気をつけて!」

 

妖怪の生徒たちを二人に任せ、私は他の生徒たちを連れて青龍の人里に向けて出発した。その道中、皆は沢山の話を聞かせてくれる。友達の話、家族の話、私の授業が難しいという話も聞かせてくれた。もう少し、噛み砕いて教えられるよう努めなくてはな。共に歩く生徒たちと会話を楽しむ内に、里までの道は無事に終わりを告げた。

 

「慧音さん!お疲れ様です!今の所、怪しい人物は見かけていません!」

「そうか...引き続き、門の見張りを頼む。」

「はいっ!!」

 

門番を務めてくれている自警団員に声をかけ、青龍の里に入る。最近の事件に伴い、こうした警備を強化しているにも関わらず事件が止まる気配はない。

 

「考えたくは無いが、もしかしたら...」

「ねぇ、慧音先生!」

「ん?どうした、美良?」

 

嫌な想像をしてしまっていた私は、さっき教室で表情を明るくしていた少女──美良の声で我に返った。美良の方に顔を向けると、彼女はスケッチブックを片手にこれ以上無いような笑顔を浮かべていた。

 

「ふふっ、やけにご機嫌だな。」

「うん!これ見て!」

 

美良は大きく頷くと、スケッチブックを開いて見せる。そこには、まだ10才の少女が書いたとは思えない程に美麗な景色が、水彩を駆使して描かれていた。ささやかに流れる小川に、生い茂る森林、そこで生活を送る人々。ごく当たり前で、何よりも大切な日常。それが、描かれていた。

 

「上手いな...」

「でしょ!私、いつか画家になりたいの!そして、私の絵を見たみんなに幸せな気持ちになって貰うのが"夢"なんだ!」

 

楽しそうに夢を語る美良と隣り合って歩く中、私たち一行は十字路にさしかかる。その瞬間、美良の笑顔は消えた。当然だろう...

 

彼女がスケッチブックに描いたような日常が、現実で踏みにじられていたのだから。

 

「あーあ、君もハズレだったねー。残念でしたー。」

 

通りの角から出てきた妖怪とも似つかない全身灰色の化け物は、首を掴んでいた男性を壊れたオモチャを捨てるかのように片手で放り投げた。地面に転がった男は既に亡くなっていたようで、力無く倒れ込むと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その全身は灰と化して崩れ去った。

 

「きゃああああっ!!」

 

化け物の行った凶行を目の前ににした美良は甲高い悲鳴を上げた。その悲鳴で化け物の存在に気づいた人々は散り散りに逃げていき、後続の生徒たちも皆それぞれに逃げていく。そんな中、恐怖で足が動かなくなった美良はスケッチブックを取り落とし、後ずさりするも尻餅をついてしまう。そんな彼女が化け物の視界に入ってしまった。

 

「んー?君、逃げ遅れちゃったのー?」

「あっ...あ...!」

「君もこっちに来なよ...」

 

気の抜けた声で、化け物は美良に迫る。可愛い生徒に化け物が迫る様を見て、私は我が身を奮い立たせて化け物と美良の間に割って入った。

 

「け、慧音先生!!」

「私の生徒に...手は出させないッ!」

 

美良を庇うように立ち、化け物に相手に啖呵を切った私は奴の観察を行う。顔の口のような部分は極端に細長く、尻尾は地面に着く程の長さ。両腕には小さな針のようなものが備えられている。その特徴はさしずめ、アリクイと言った所だ。実際に遭遇したことはないが、外界から来た図鑑に載っていた情報と通じるものがある。

 

「うーん、いいよー。じゃ、君からおいでー。」

 

標的を私に変更した化け物は、口から先端の鋭く尖った舌を射出した。それを半回転しながら回避した私は、伸びた舌を脇に固く抱え込んで美良に叫ぶ。

 

「逃げるんだ!こいつは先生がなんとかする!」

「う、うん!」

 

震えながらも頷いた美良は両手をついて立ち上がり、里の遠方へと駆け出した。それを見届けた私は、暴れる舌を抱える腕と両足にぐっと力を込め、その場で回転する。そこそこの距離を伸びていた舌は大きな遠心力を生み出し、一般男性より上の重量を持つアリクイの化け物の身体を宙へと誘う。

 

「うぉぉぉぉらぁっ!!」

 

十分な勢いを付けたところで私は手を緩め、化け物をつなぎ止めていた舌を離す。勢いはそのままに放り投げられたアリクイの化け物は、数回バウンドしながら十字路を転がった。土埃が舞い、化け物の姿は見えなくなったが、私は土埃に浮かぶシルエットを頼りに動向を探る。しばらく観察を続けていると、その不気味なシルエットはゆらりと立ち上がった。

 

「...邪魔すんなよ。」

 

怒りを滲ませる低い声が私の耳に届いた瞬間、アリクイの化け物は私の眼前に現れた。

 

「ッ!?」

「オラァッ!」

 

投げ飛ばした距離を一瞬にして詰めてきた化け物に驚愕する間もなく、私は化け物の猛攻を受ける。両腕から繰り出される攻撃は凄まじい破壊力を誇り、体にぶつかる度に砕けそうな痛みに襲われる。私はなんとか攻撃を凌いでいたが、その痛みに耐えきれずに怯んでしまった。その瞬間に生まれた隙を、化け物は見逃してくれなかった。

 

「あっ、がぁっ...!」

 

腹部に腕を叩きつけられ、私の体は簡単に吹き飛んだ。回転しながら地面に落ちた私は、風穴が空いたかのような腹部の痛みに悶える。そんな私をあざ笑うように化け物が迫ってくる中、細く開けた私の目に美良の"絵"が描かれたスケッチブックが映った。地に落ちたスケッチブックは化け物が歩む軌道の上にあり、やがて踏みにじられるのは容易に想像出来た。

 

「うぅ...あぁぁぁ!」

 

私は痛みを振り払って駆け出すと、スケッチブックを覆うように倒れ込む。全身全霊という言葉通り、この身全てをかけて美良の"絵"を守るために。私の傍までたどり着いた化け物は、私の背中を踏みつけて笑い声を上げた。

 

「あははっ、その絵がそんなに大事なの?」

「くっ...当たり前だ...!」

 

体の痛む私の苦しみながらの返答を聞いた化け物は、踏みつけていた足をぐりぐりと背中に押し付けながら、より一層高笑いする。

 

「なんでさ?その絵を守る理由はなに?」

 

含み笑いをしたまま問いかけてくる化け物をキッと睨み付け、私は叫ぶ。

 

「この"絵"は、美良の"夢"なんだ!私は、子どもたちの夢を守りたい!私は..."守らなくちゃならない"んだッ!!」

 

私の叫びを聞いた化け物の顔に、優しそうな男性の顔が少し揺らいで見えた。揺らいだ顔は驚愕の表情をしていたが、その瞳には底知れない程の悲しみが見えたような気がした。だが、その表情は一瞬で憤怒に塗りつぶされ、男性の顔は化け物の顔に戻ってしまった。

 

「...なんだよそれ。夢だとか未来だとか、そんな下らない言葉を僕の前で言うなぁぁぁ!!」

 

気の抜けた口調から荒い口調に変わった化け物は、私の背中を何度も踏みつける。彼は相当気が動転しているようで、当初の飄々とした態度は面影もない。

 

「け、慧音先生から離れて!」

 

夢中になって足を動かす化け物に、一人の少女が叫んだ。声の方に顔を向けると、そこには逃げたはずの美良が一本の瓶を両手で握り締めて立っていた。

 

「美良...!?なんで戻って来た!!」

「だ、だって先生が心配で...!」

「あぁぁぁ!!お前ら鬱陶しいんだよ!!まずガキから消えろッ!!」

 

髪の毛をかきむしるような仕草をした化け物は、美良に狙いを定めて先端を鋭く尖らせた舌を伸ばす。私は回避出来たから良かったが、もしあの舌が命中すれば美良の小さな身体は貫かれてしまうだろう。それが分かっているのに、踏みつけられた私の体は動かない。笑われる程の苦し紛れに、私は手を伸ばした。

 

──きっと、また失ってから気付くのだろう。何も出来なかった自分の力、覚悟の出来ない自分の心に。

 

誰か、助けてくれ──そう、心から願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、風を切って飛んできた一つのボストンバッグが化け物の舌に衝突した。地に落ちたボストンバッグからは、派手な色のパンツが顔を覗かせている。真っ直ぐ伸びていた舌の軌道が歪んだ隙に、一人の男が颯爽と美良を抱えて建物の陰へと駆け込んだ。

 

「先生は俺が助ける。だから、君はここに隠れてるんだ。いいな?」

「う、うん。」

 

降ろした美良に優しく微笑みかけた男は、彼女の頭を撫でると通りに戻ってきた。男が化け物を見る眼光はまるで狼のように鋭く、その眼光に化け物も少し怯む。

 

「お、お前...誰だ!?」

「うるせぇ。子どもに手を上げるような奴に名乗る名前なんて持ち合わせてねぇよ。」

「ふ、ふざけんな!死ね!」

 

ぶっきらぼうな返答に逆上した化け物は、ゆっくりと歩いてくる男に対して舌を伸ばす。しかし、男は必要最低限の動きでそれを回避し、着実に距離を詰めてくる。その威圧感に押された化け物は、一歩後ずさる。それによって体の自由を取り戻した私は、立ち上がりざまに化け物の腹に蹴りを入れ、立ち上がってから胸部に渾身の頭突きをお見舞いする。スケッチブックを拾い上げ、バッグステップで化け物と距離を開けた私の隣に、先ほどの男が並んだ。

 

「助かったが、普通の人間がここにいるのは危険だ。美良を連れて逃げてくれ!」

「断る。」

 

私の頼みを冷淡に拒否した男は、小さな声で言う。

 

「俺も、あの子の"夢"を守ってやりたいからな。」

「グラァァァァッ!!」

 

男の言葉が終わった瞬間、理性ある人の言葉とは思えない咆哮と共に、化け物の舌がこれまで以上のスピードかつ鞭のような動きで放たれた。私たちは前転を編み込んだ動きで後退しつつ、それを回避していく。

 

「それに、俺は普通の人間じゃない!お前たちの言う、"仮面ライダー"とやらだ!」

「お前が...!?」

 

男は前転の途中で自分のボストンバッグをひっつかみ、その中から『スマートブレイン』というロゴの入った銀のアタッシュケースを取り出すと、男はそれを私に投げ渡した。アタッシュケースを受け取った私が手早くそれを開くと、そこにはバックルに空洞のある銀のベルトと、黄色い複眼を持つ仮面があしらわれたプレートの差し込まれた携帯電話、そしてそれらのサブデバイスが一式揃っていた。

 

「これは...?」

「そいつは"ファイズギア"だ!それを使えば、ファイズの力を扱える!」

 

化け物は届かない舌での攻撃に業を煮やしたようで、長く伸ばした舌をシュルシュルと引き戻していく。舌を戻しきるまでの間に、男は私と合流を果たす。

 

「守ろうぜ、俺たちの守りたいものを、俺たちの力で!」

 

男はその言葉と共に私の肩に手を置いた。その瞬間、彼の全身は赤い光となって私に吸収されていく。シンクロを果たした私と男──「乾巧」はお互いに名前を理解し、声をかけ合う。

 

「これがシンクロ...不思議な気分だな。」

「へぇ、さっき読んだ新聞通りだな。確かに、心が一つになってるぜ。」

 

シンクロによって巧の記憶の一部を読み解き、ファイズギアの使い方を理解した私は銀のベルト、「ファイズドライバー」の左右にサブデバイスをマウントし、腰に装着した。少し空洞のあったアタッシュケースに美良のスケッチブックをしまい、私は仮面のあしらわれたプレートの差し込まれた携帯電話、「ファイズフォン」を握る。

 

「行くぞ、巧!」

「あぁ...!」

 

大きく叫んだ私はファイズフォンを手首のスナップで開くと、表れたキーを使って「555(ファイズ)」のコードを入力し、続けざまに「Enter」を入力する。

 

『Standing by』

 

準備が出来たことを告げるファイズフォンを左手で折り畳み、私は晴れ渡る青空に向けて真っ直ぐ右腕を伸ばした。

 

「「変身っ!!」」

 

私は空に掲げたファイズフォンをファイズドライバーの空洞の右端に勢い良く突き立て、流れるような動きで左側に倒した。仮面のあしらわれたプレート、「ミッションメモリー」の仮面が正面に来るように、綺麗に空洞にはまったファイズフォンは、赤い輝きと共に全ての変身工程が完了したことを告げる。

 

『Complete』

 

クールな電子音声を合図に、ファイズドライバーの両サイドから全身に赤い血管のようなライン、赤の「フォトンストリーム」が広がっていく。全身にフォトンストリームが張り巡らされた瞬間、フォトンストリームがより一層強く輝き、赤い閃光が私の全身を包んだ。

 

「ウッ!?」

 

アリクイの化け物、「バーミリンガオルフェノク」はその輝きに声を上げ、目を覆う。やがて閃光が穏やかになった頃、私は変身を終えた。銀の髪は黒く染まり、瞳は煌々と輝く黄色。服のベースカラーは青から黒に変わり、その上からフォトンストリームが走っている。胸部には銀のアーマーが備えられたジャケットを纏い、ジャケットのアーマーは肩にも装着されている。ファイズの力を纏った私は、小さく手首をスナップさせ、バーミリンガオルフェノクに宣言する。

 

「さぁ、お仕置きだ。覚悟しろ!」

 

バーミリンガオルフェノクを目指し、私は地面を蹴って駆け出した。理解の追いつかない状況に動揺していたバーミリンガオルフェノクの間合いまで一気に侵入し、固く握った拳を振るう。初撃を見舞われたことで、バーミリンガオルフェノクもその衝撃で戦闘に回帰する。目の前の私が数刻前とは別のものであると認識したバーミリンガオルフェノクは、手甲に収納されていた針のような武器を伸ばし、応戦の構えを取る。睨み合う私とバーミリンガオルフェノク。刹那、互いの拳が胸部に炸裂した。

 

「くっ...!」

「うあっ...!」

 

胸部アーマーから火花が上がるが、肉体へのダメージはほとんど感じない。その確かな性能に微笑みつつ、私はアーマーに残る煙を手で払う。対するバーミリンガオルフェノクは相応のダメージを負ったようで、よろめきながらも体勢を整えていた。これを好機と見極め、私は攻勢へ転じる。

 

「ハッ!セイッ!」

 

軽く飛びかかりながらのパンチを皮切りに、交互に両腕でバーミリンガオルフェノクの面長な顔を殴りつける。それを二回程繰り返したタイミングで、バーミリンガオルフェノクは右の拳を突き出して抵抗を見せるが、私は身を翻してそれを回避。その勢いを利用して、バーミリンガオルフェノクに肘うちを叩き込む。その衝撃に仰け反り、後退したバーミリンガオルフェノクは大きな隙を見せる。その瞬間に、私は連続して正面蹴りを放った。

 

「はぁっっ!!」

「うぐあぁっ!!」

 

大きく吹き飛ばされたバーミリンガオルフェノクは勢い良く地面を転がるが、手甲の針を地面に突き立てて勢いを殺し、舌での反撃を試みてきた。辺り一帯を凪払うようにして迫り来る舌を右手で弾くと、私はベルトの右側にマウントされているデジタルトーチライト、「ファイズポインター」を手に取る。ファイズフォンの前面に差し込まれていたプレート、「ミッションメモリー」を抜き取り、ファイズポインターのレーンに差し込む。

 

『Ready』

 

電子音声と共にファイズポインターの先端部分が少し伸び、ポインターモードに移行する。変形したファイズポインターを右脚のふくらはぎに巻き付けられたホルスターにセットし、直角の向きから九十度回転させてロックする。ファイズポインターのライトが下に向くようにセットした私は、ファイズフォンを開いて「Enter」のキーを押した。

 

『Excced charge』

 

電子音声を合図にファイズドライバーの右側にあるサイドランプが点滅し、オルフェノクに特攻性を持つエネルギー毒素、「フォトンブラッド」が充填。右脚のフォトンストリームを辿って、ファイズポインターに流れ込んでいく。ファイズフォンを畳んだ私は、フォトンブラッドのチャージが完了するまでの間、肩の力を抜いて曲げた膝の上に腕を乗せて待機する。

 

「はぁぁ...」

 

肩の力を抜いて待っている内に、ファイズポインターのシリンダーにフォトンブラッドが満ちる。それが光となって私に知らされた時、バーミリンガオルフェノクは再び舌での凪払いを行う。バーミリンガオルフェノクの攻撃を見切った私は一気に駆け出し、その勢いのまま跳躍して舌を回避する。それを見たバーミリンガオルフェノクは往復するように舌を操り、空中の私を狙う。しかし、私は舌を右脚で蹴り弾き、同時に蓄積されたフォトンブラッドをファイズポインターの先端から撃ち出した。直線状で発射されたフォトンブラッドは、舌に振られて体勢を崩したバーミリンガオルフェノクに高速で迫り、その眼前で円錐形に広がった。円錐形に広がったフォトンブラッドは、空気中に放射される余剰フォトンブラッドでバーミリンガオルフェノクの行動を抑止する。私は空中で跳び蹴りの姿勢を整え、円錐形のフォトンブラッドの中心に向けて真っ直ぐに飛び込んでいく。

 

「「せぇりぁぁぁ!!」」

 

熱く叫びを上げた私たちが円錐形のフォトンブラッドに触れた瞬間、私の身体はフォトンブラッドへと変換され、円錐形のフォトンブラッドはバーミリンガオルフェノクの体に突き刺さり、同時に体内を貫いていく。体内に入り込んでくる多量の毒素と、私の放った跳び蹴りの衝撃に襲われるバーミリンガオルフェノクは、声にならない程の苦痛に悶絶する。やがてバーミリンガオルフェノクの身体を突き抜けた私は、フォトンブラッドから元の身体に再構築され、両足でしっかりと着地した。振り返ることもしない私の耳に、消え入りそうな声が届く。

 

「なん..で...僕は...生き..たかった...だけ....なのに...!」

 

少しばかり嗚咽を混じらせたその声を聞いて、私は慌てて振り返る。だが、そこには──

 

 

 

 

 

 

──浮かび上がるファイズの印(死の証)と、青い炎を上げる灰の小山(儚い命の亡骸)があるだけだった。だが、遺された灰すらも風に乗って消えていく。呆然として立ち尽くす私の髪を、灰を乗せた風が掠めた。

 

「おい、どうかしたか?」

「...いや、何でもない。」

 

気だるそうな巧の声で我に返った私は、ファイズドライバーから抜き取ったファイズフォンを開き、クリアキーを押して変身を解除した。同時にシンクロも解き、巧は赤い光となって私の身体から抜け出す。

 

「改めて名乗らせて貰おう。私は上白沢慧音。この里を守る者として、協力に感謝する。」

「乾巧だ。」

 

互いに軽い自己紹介を済ませ、私はアタッシュケースを、巧は自分のボストンバッグをそれぞれ拾い上げて美良の下に向かう。通りに出てきた美良の顔は明るく、さっきまで死線をさまよっていたとは思えないものだった。そんな彼女の表情につられて、私も小さく微笑んだ。

 

「やれやれ、子供は無邪気だな。」

「まぁな。だが──」

 

 

 

自己紹介でも無愛想な表情だった巧が、小さく微笑みながら告げた。

 

 

 

「──守って良かったろ?」

「...あぁ。」

「慧音先生ー!お兄さーん!」

 

その言葉に頷いた私は、駆け寄ってきた美良をこの手で抱き留める。顔は笑顔でありながらも瞳はうっすらと充血しており、少し前まで涙を流して恐怖に震えていたことを告げている。本当は逃げ出したかっただろうに、必死で勇気を振り絞り、私を救いだそうとしてくれたのだ。自然と抱きしめる力が強くなる。

 

「怖い思いをさせてしまって、すまない...私は先生失格だな...」

「そんなことねぇだろ...馬鹿だな。」

「...え?」

 

美良の頭を撫でながら呟いた自虐の言葉を、巧はすぐさま否定した。そのきっぱりとした言い方に私は戸惑い、巧の顔を見上げる。

 

「その子は、お前が大好きだから助けたかったんだろ。お前が、その子を守ろうとしたのと同じようにな。」

「巧...」

「それだけ生徒から愛されてる。教師に、それ以上の資格がいると思うか?」

 

ぶっきらぼうな言い方だが、巧のその言葉は私の迷いを真っ白に洗い流してくれた。

 

「お兄さんの言うとおりだよ!だって先生は、私の夢を守ろうとしてくれもん!」

「夢...そうだ。」

 

私の顔を見上げて頷く美良の言葉で、私はアタッシュケースの中身を思い出す。アタッシュケースを開いて、その中に大切にしまい込んだ美良のスケッチブックを差し出す。

 

「ほら、もう落としちゃ駄目だぞ!」

「先生...!ありがとう!いつか夢が叶ったら、先生たちのことを描いてあげる!約束だよ!」

 

スケッチブックを大事そうに抱きかかえた美良は、満面の笑みで小指を差し出す。私はその小指に、自分の小指を絡ませ──

 

「あぁ、楽しみにしてるよ...約束だ。」

 

──約束を結んだ。私との指切りを終えた美良は、先生たちのもう一人に小指を差し出した。

 

「まさか...俺か!?」

「うん!」

 

自分が約束を催促されたことに明らかに動揺している巧。出会ってから少しの間だが、今まで冷静沈着な態度を貫いてきた巧がしどろもどろになっている様子は、少しばかり面白く思えてしまう。巧は助け船を求めて私に視線を送るが、私はわざと気づかないふりをする。ふふっ、少し意地が悪かったかな。

 

「いや、俺は...」

「あっ...嫌だったらいいの、ごめんなさい...」

 

なんとか断ろうとした巧だったが、どうやらしゅんとしてしまった美良を見て断り切れなくなったらしい。ウェーブのかかった茶髪をかきむしりながらしゃがみこみ、美良の小指に、一回りも二周りも大きい、自分の小指を絡ませた。

 

「分かったよ...ほら、約束だ。その代わり、絶対に夢、叶えろよ?」

「うん!」

 

優しく笑う巧の横顔を見て、私は確信した。きっと彼は酷く無愛想で、非常に不器用で、ただただ言葉足らずなだけで、本当は優しい男なんだろうと。

 

 

奇遇な話だ...()()()によく似ているよ。

 

 

そんな事を考えていた私は、巧の言葉に気づくのが一拍遅れてしまった。

 

「ほら、お前のご両親も心配してんだろうから、早く帰ってやれ。」

「あ......うん...」

 

その瞬間、手遅れだと分かっていながらも自分の配慮不足に唇を噛み締めた。そして、巧に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巧、美良の両親は...もう居ないんだ。」

 

この世界には、理不尽な涙が溢れていることを。

 

 

 

 

 

 

「そうか...美良の両親は化け物に...」

 

親を失った子供たちを保護することを目的とした場所、簡単に言えば青龍の里の児童養護施設「ひかり」に美良を送り届けた俺は、ボソッと呟いた。並んで歩く慧音が、小さく頷く。

 

「あぁ..."異怪の大乱"で現れた化け物たちに襲われ、命を落としたそうだ。」

「悪いことを言っちまったな...」

 

美良は「大丈夫...気にしないでね。」と笑っていたが、その目尻は少しだけ濡れていた。考え込むのはらしくないが、こういうのは心が痛むな...。思わず視線が下に向いていく俺に、慧音は優しい声で語りかけてくる。

 

「まぁ、仕方ないさ...あまり気に病むな、巧。」

「...あぁ。」

 

その短い返答を最後に、しばらく俺たちの間に会話はなかった。無言で歩いていく俺たちが向かう先は、慧音の自宅。俺にこの世界、幻想郷のことを詳しく教える為、とりあえず自分の家にということらしい。里の外れに建っている木造の小さな一軒家にたどり着いた俺は、慧音に中へと案内された。外観は和風のそれだが、内装も同様。まるで、本当にタイムスリップでもしたかのようだな。まぁ、椅子とかテーブルとか、多少洋風のものも混じってるが。

 

「さて、私は茶を持って来る。適当に座っていてくれ。」

「あぁ...」

 

短く返事を返した俺は、テーブルを挟んで二個づつ並んだ椅子の一つに腰掛ける。そして、自分の置かれている現状を自分なりに考察しようとした、その瞬間だった。

 

「慧音!!無事だったか!?」

「...お前、入ってくるなら玄関だろ...」

 

白いシャツに赤いもんぺ姿の銀髪少女が、凄い勢いで窓から突っ込んで来たのだ。少女は俺の呆れた声を聞くと、顔をしかめて俺の顔をまじまじと見つめた。そして──

 

「泥棒か、この野郎!!?」

「いや、窓から突っ込んできたお前が言うか!!?」

 

鬼のような形相で有らぬ疑いをかけられた。その上、片手には準備万端と言わんばかりに炎を纏わせている。お前、泥棒追っ払うのに家焼き払ったら被害拡大してんじゃねぇか。

 

「妹紅!?よせ、その男は私の知り合いだ!」

「へっ...知り合い?泥棒じゃなくて?」

 

慧音の言葉を聞いた少女──藤原妹紅は、ポカンとした顔で片手の炎を収める。戻ってきた慧音が止めてくれたから良かったが、下手をすると丸焼きにされてたかも知れねぇな。全く...そんな終わり方、俺はまっぴらだな。落ち着いた妹紅を加え、俺たちは情報交換を始める。昼過ぎから始まったそれは、日が傾くまで続いた...

 

 

 

「...巧。もし良ければ、ここに住まないか?」

「ん...?あぁ、そういや今日どうすっかも決めてねぇな。」

「オルフェノクや化け物たちが活動を再開している以上、私もいつ動くことになるか分からない。できる限り、巧と距離を取るべきではないと思うんだ。」

「...分かった。ただし──」

 

慧音の提案を承諾した俺は、一つだけ条件を提示する。

 

「──飯は熱くないので頼む。」

「...?あぁ、猫舌なのか!」

「さっき、お茶飲むのにずーっとふーふーしてたもんなぁ。」

「ちっ...悪いかよ!!」

 

こうして、慧音との共同生活が幕を開けた。だが同時にそれは、終わりの始まりだったんだろう。俺たちの歩く道は──

 

 

 

 

 

 

──フォトンブラッドが照らし出す。

 

 

~次回予告~

 

「アイツの気配も無いし、奴の声も聞こえない...一体どうなっているんだ...?」

 

「わたしがアイツを引きつける!その隙に、二人は逃げて!」

 

「まったく...しょうがないわね。」

 

「私と戦えることを光栄に思いなさい!」

 

「変身。」「変身ッ!」

 

『Trun up』

 

第8話 ~永遠の切り札~

 

 

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~上白沢慧音~

 

青龍の里にある寺子屋で教師を務める女性。歴史を食らう程度の能力の持ち主。里の自警団に属しており、正義感が強い。自身が人間と妖怪のハーフであるが故に、人間も妖怪も分け隔てなく接している。基本的に冷静な彼女だが、夢にはどこかこだわりを持っており、感情的になることもある。

 

~乾巧~

 

無口で、無愛想で、不器用な性格の男。外の世界ではクリーニング店に住み込みで働いていた。突然訪れた幻想郷で独自に情報を集め、慧音とのシンクロにすぐさま対応した。ぶっきらぼうな態度が目立つが、本当は友情に厚かったり、正義感が強かったりする。慧音とシンクロを果たし、戦いに身を投じる。

 

~ファイズ(慧音)~

 

巧とシンクロした慧音が、ファイズフォンとファイズドライバーを使って変身した姿。仮面ライダーファイズを模した服装をしている。戦闘時に手首をスナップさせる動作は、巧の癖が反映されたもの。フォトンストリームの中では低出力の赤いフォトンストリームを使用しているが、そのコントロールの容易性から多彩な拡張デバイスを持ち、手数の多さが特徴的である。必殺技は、ファイズポインターを使ってフォトンブラッドを射出、相手を拘束して蹴りを入れる「クリムゾンスマッシュ」。




第7話、いかがでしたか?本当は、ジオウのファイズ回に合わせたかったんですけどね。間に合いませんでした...

さぁ、次回はブレイド編です!剣崎のパートナーとなるのは誰なのか?楽しみにお待ちください!

それでは、チャオ!
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