今回は、ユーモアセンスのない私なりに色々とやってみました!少しでも笑って頂けたら、私は爆発するぐらい喜びます!
それでは第9話、どうぞ!
〈私は東風谷早苗。守矢神社の風祝、そして現人神として神奈子様と諏訪子様に仕えています。ある日、天空寺タケル君と出会い仮面ライダーゴーストの力を受け継いだ私は、襲撃してきた眼魔と呼ばれる化け物たちを、アイザック・ニュートンさんの力を借りて撃破。こうして、私とタケル君の幻想郷を守るための戦いが始まった...〉
昼下がりの守矢神社。私とタケル君は縁側に腰掛けて、柔らかい日差しを浴びながらのんびりとお茶をすすっていた。昼食の片付けも終えたこの時間は、私にとって比較的ゆっくりと寛げる時間だ。特に最近はタケル君が色々と手伝ってくれるおかげで、こういった時間も多く取れる。
「いい天気ですね~。お昼寝日和です。」
「そうだね。こういう平和な時間が、俺は一番好きだな...」
「ふふっ、そうですね。今みたいな平和を守るため、私たちも頑張りましょう!」
私はエイエイオーと気合いを入れたが、何を頑張ればいいのかと思い直す。何かが起こればそれに対して頑張るのは当然だけど、何もないときは何を頑張ればいいのやら...そんな私の心情を知っていたかのように、タケル君はボソッと呟いた。
「そのためにも、英雄アイコンを早く見つけないと...」
「英雄アイコン?」
首を傾げた私に対して、タケル君は「例えば...」と居間の机に置いてあったニュートンアイコンを持ってくると、それを私に示しながら続ける。
「これは万有引力を発見したアイザック・ニュートンさんの魂が宿ってるアイコン。ニュートンさんと同じように命を燃やしきった英雄の魂が宿っているのが、英雄アイコンだ!」
楽しそうな表情で語りきったタケル君だったが、突如としてその顔が複雑な表情に変わる。お腹でも痛くなったかなと心配になった私は、「どうしたんですか?」と言いながらタケル君の顔を覗き込んだ。タケル君は少し頭を掻くと、申し訳なさそうに話し始めた。
「実は幻想郷に来てからいろんな人に話を聞いて探してるんだけど、ほとんど収穫がなくてね...どうしようかと思ってたんだ。」
タケル君の打ち明け話を聞いた私は、彼が参拝に来た方々となにやら話し込んでいたことを思い出す。タケル君は人当たりがいいから、世間話でもしてるんだろうとばかり思っていた自分の浅はかさに、少し恥ずかしくなった。
「そうだったんですか...困ってたんなら、相談してくれれば良かったのに。」
「ごめん。早苗は風祝としての仕事で忙しいだろうし、迷惑をかけたくなくて...」
私はタケル君が英雄アイコンのことを黙っていた理由を聞いて、その底無しの優しさと責任感に暖かい気持ちが湧き上がってくるが、それと同時になにも言ってくれなかったことに対するモヤモヤした不満も湧き上がった。
「もう!私たちは一緒に戦うパートナーなんですから、困ったことがあったらお互い様です!一緒に幻想郷を守るって決めたんだから、私だって英雄アイコンを探すの手伝いますよ!」
「早苗...ありがとう!」
意地でも手伝うくらいの意気を込めた私の言葉を聞いたタケル君は、私の手を取って太陽のような笑顔を浮かべる。その過程でタケル君の持っていたニュートンアイコンが私の目に入り、私の中にふと一つの疑問が浮かび上がった。
「あれ?そういえば、どうしてこの神社にニュートンアイコンがあったんでしょう?」
英雄アイコンの話を聞いた私は、分身したブック眼魔たちとの戦いの際にニュートンアイコンが守矢神社から飛び出してきたことを思い出した。なぜニュートンアイコンが守矢神社にあったのかが分かれば、残る英雄アイコンを探す手がかりになるかもしれない。そう思って呟いた私の言葉に、居間でゴロゴロしていた諏訪子様が応えてくれた。
「そのアイコンなら、うちの池に沈んでたのを拾ったよ~。最初は所々色が抜けてたけどね。」
「最初は所々色が抜けてた...?どういうことだ...?」
諏訪子様の言葉を聞いたタケル君は、顔をしかめて考え込む。タケル君の疑問に対して、私はふと思いついた仮説を話してみた。
「本来の力を失っていた、とかじゃないですか?ほら、昔のものが風化するのと同じように。」
「なるほど!さすが早苗、頭の回転が早いね!」
「いえいえ、それ程でもないですよ~!」
タケル君は私の答えが腑に落ちたらしく、私のことを誉めてくれる。ついつい調子に乗った私は、もう一つの思いつきを口走った。
「もしかしたら、力を失ったアイコンは近しい人物に惹かれるのかもしれませんね!私、化学や物理が大好きなんです!神奈子様と諏訪子様も幻想郷の技術革新を推し進めている第一人者ですし、それでニュートンさんがこの神社に...なんて、あるわけないですよね~!」
言ってる途中で非科学的な自分の論理が恥ずかしくなってしまい、私はおどけて誤魔化そうとしたが、タケル君は予想外なことに私の論理に食いついてきた。
「いや、可能性は十分にあるよ!それに、自分たちの目で見るまで真実は分からないでしょ?それが分かるまでは、心の眼で見たものに賭けてみてもいいんじゃないかな。」
タケル君はそう言って笑うと、懐から一冊の分厚い本を取り出してペラペラとページをめくっていく。私がしばらくそれを見守っていると、タケル君はページをめくる手を止めて私にその本を差し出す。私が本を受け取って開かれたページを見ると、そこには二本の刀を構えた男性の肖像画が描かれていた。
「これは...お侍さん?」
「伝説の剣豪、宮本武蔵!二刀流の剣術を得意とした剣豪で、佐々木小次郎との巌流島の決闘が有名だけど...聞いたことない?」
タケル君はキョトンとした顔でこちらを見てくるが、私には全くと言っていいほど聞き覚えがない。少し恥ずかしさを感じながら、私は首を傾げる。
「むさし...?い、いやぁ...私、どうにも歴史とか日本史が苦手で、偉人とかもあんまり知らないんです...科学とか物理は得意なんですけどね。」
「あぁ...そっか。」
タケル君は静かに呟いたが、その表情はどこか懐かしそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔に疑問を持ちつつも、話の流れでこの人物がなにを示すかを察した私は話題を本筋に戻す。
「つ、つまり!この武蔵さんも英雄アイコンの一つで、彼に近しい人物を探してみようってことですよね!」
「そういうこと!早苗、誰か心当たりはないかな?」
タケル君に尋ねられた私は、即座に一人の...いや、
「武蔵さんは二刀流の剣豪なんですよね?だったら、知り合いに二刀流の剣士がいます!」
「本当に!?その人は、どこにいるの?」
少女の居場所を聞かれた私は、人差し指を伸ばした手をゆっくりと上げていく。やがて、腕が天に向けてまっすぐ伸びたところで、私は手を止めた。
「まさか...空!?」
「いいえ...空をも越えた向こう側、幽霊の彷徨う"冥界"ですよ...!」
もったいぶったのに、タケル君はゴーストハンターやってたからかあまりビックリしませんでした...タケル君の驚いた顔も見てみたかったので、ちょっと残念です。
それから早苗はタケルを連れて守矢神社を出て、守矢神社よりも少し標高の高い丘に移動した。そこには木々も茂っておらず、空に浮かぶ太陽の輝きが遮られることなく送られてくる。つまるところ、空が一望できる場所だ。
「でも早苗、冥界ってどうやって行くの?」
冥界を目指すことしか聞かされていないタケルは、立ち止まった早苗に問いかける。すると早苗は、タケルに見えないように悪戯な笑みを浮かべて言い放つ。
「ふふふっ...もちろん、"飛んでいく"んですよ!」
「えっ!?ご、ごめん早苗...俺、飛べないんだけど...」
わたわたと慌てるタケルを眺め、早苗はニヤリとほくそ笑む。驚いた顔を見てみたいという想いは、僅か数分後に達成されることになった。慌てタケルをひと通り楽しんだ早苗は、胸の前で両手を組んで奇跡の準備に取りかかる。呪文の詠唱で神への願いを捧げた早苗は、ばっとタケルに手をかざして叫ぶ。
「"飛翔"!」
「わっ...!」
早苗がパル○ナの鏡の女神さまのように奇跡をかけると、タケルの身体は宙に浮き上がり、まるで空中を泳いでいるかのような状態になる。ふわふわと浮遊するタケルは、感心を示しながら早苗に笑いかけた。
「これが早苗の力...すごいね!まるで俺がゴーストだったころみたいだ!」
「ふふっ、お褒めに預かり光栄です♪ただ、その奇跡で自由に空を飛べるのは五分間ですから、優雅に空の旅ってわけには行きませんけどね。」
早苗は冗談混じりに笑うと、身体に霊力を込めて自分も空中に浮き上がる。
「さて、それじゃ行きましょうか...冥界に!!」
「あぁ!!」
タケルは力強く頷き、早苗と共に空気を蹴って空高くへと昇っていく。それからしばらく上空を目指して飛行していくと、タケルはその途中で雲の輪っかのようなものを見つけた。不自然なまでに整った形の雲に疑問を持ったタケルは、風の音に負けないよう、大声で早苗に話しかける。
「早苗っ!あれは?」
「目ざといですね、タケル君!あれが冥界の入り口です!あの輪っかの中をくぐり抜けますよ!」
「冥界へのゲートってことか...分かった!」
早苗と並んで飛ぶタケルは、早くも奇跡による浮遊に慣れた様子で上昇していく。呑み込みの早いタケルに早苗は微笑み、その後に続く。雲の輪をくぐり抜けた瞬間、タケルの目に写る景色は青空から一変した。灯籠を両端にもつ石畳の道に、広がる鬱蒼とした森林。その中に、大きな和風の屋敷が佇んでいた。圧巻と言える冥界の光景に呆然としていたタケルだったが、浮遊していた身体が急に重力に引かれ、石畳の道に顔面からダイブする羽目になった。
「あ...五分経って"飛翔"が切れたんですね。タケル君、大丈夫ですか?」
「いてて...うん、大丈夫。」
少し遅れて冥界に着いた早苗は、大の字で石畳に寝そべるタケルに手を差し伸べる。その手を借りて立ち上がったタケルは、改めて冥界を見回した。着いた瞬間には気づかなかったが、冥界の空中には半透明で尻尾がピョロンとした幽霊が至る所にいる。そんな幽霊たちを目にしたタケルは、思わず微笑む。
「へぇ...ここが冥界か。なんか、幽霊って思ってたより可愛いね。」
「ですよね~!一匹連れて帰ってペットにしようかな?」
「えっ!?いや、それは止めといた方がいいんじゃないかな...?」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
突拍子もないことを言い出し、目を輝かせる早苗に驚愕しながら彼女を制止するタケル。そんな彼ら耳に、冥界の少し冷たい空気を切り裂くような悲鳴が届いた。その悲鳴を聞いた二人は顔を見合わせ、悲鳴の聞こえた方へ一気に駆け出した。
「ひぃっ...!オ、オバケッ!!?」
白銀の髪に黒をリボンを付け、緑のジャケットを着た少女は、目の前で右腕と一体化している刀を構える化け物を"オバケ"と呼びながら尻餅をついた。二本の刀を背負うその少女の周りには、一匹の白い幽霊が漂っている。
「オ、オバケだと...?まぁいい、お前のアイコンを寄越せ。それが"あの方"の望みなのでな...!」
そんな彼女に迫る化け物──刀眼魔は可愛らしい呼称に動揺しながらも刀の切っ先を少女に向け、威圧的に要求を行う。対する少女はパニックに陥っている様子で、今にも泣き出しそうな顔で「悪霊退散...!悪霊退散...!」と繰り返し呟きながら両手をこすりあわせていた。そこに駆けつけた早苗は、少女の姿を見るなり大声で叫ぶ。
「"妖夢"っ!!」
「眼魔...!」
「タケル君、行きますよ!」
「む?貴様らは...!」
橙の光となったタケルが早苗と一体化し、シンクロした早苗は走りながらゴーストドライバーを出現させ、オレゴーストアイコンを起動。続けてドライバーのカバーを展開し、オレアイコンを装填してカバーを閉じる。するとドライバーから飛び出したオレパーカーゴーストが左右の腕で刀眼魔に攻撃を仕掛け、少女から引き離していく。
『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』
「くっ、むうっ!」
「「変身!!」」
『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!』
タケルと声をあわせて叫んだ早苗はドライバーのトリガーを操作し、粒子を身にまとってトランジェント態に変身。戻ってきたオレパーカーゴーストを着込み、オレ魂に変身して刀眼魔に突撃する。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
早苗は疾走してきた勢いを乗せた拳を、オレパーカーゴーストの攻撃に怯んでいた刀眼魔に浴びせて吹き飛ばす。刀眼魔が草の上を転がる中、早苗はドライバーからブレードモードのガンガンセイバーを召還して装備する。右腕の刀を支えに立ち上がった刀眼魔と早苗が、互いの得物を手ににらみ合う...その光景を、状況について行けない少女はぼんやりと眺めていた。
「ぬうっ...そうか、お前がゴーストの力を継承した小娘か...!」
「まぁ、そんなとこです。お近づきの印に、どうして妖夢を狙ってるのか教えてもらいましょうか?」
「フンッ...断るっ!」
「でしょうねっ!」
早苗と刀眼魔は同時に駆け出し、ガンガンセイバーのと右腕の刃をぶつけ合う。激しく鍔迫り合う早苗は火花を散らすガンガンセイバーに力を込めて刀眼魔を押し返し、刀眼魔はそれに合わせて飛び退く。そして着地と同時に鋭く突きを放つが、それを見切った早苗は身を翻して回避するとともにガンガンセイバーでの斬撃を見舞った。
「くっ...なかなかやるな。」
「それはどうも。と言っても、見切ったのはタケル君ですけどね。」
一定の間合いを保ったまま会話する早苗と刀眼魔。そして、再び剣戟が始まろうとしたその時──
「ガルルルッ!」
「えっ!?きゃぁっ!!」
「早苗っ!」
──疾風の如き"黄金の豹"が早苗に襲いかかった。赤いマフラーを巻き、人型の豹のような姿をしたその化け物が森林の中から現れ、鋭く尖った爪で早苗の右肩を切りつけたのだ。
「なんですか!?豹!?」
「眼魔...じゃないよね。」
傷を負った右肩を押さえながら、早苗は四つん這いでこちらを睨んでくる豹の化け物を見据える。痛みをこらえ、早苗がガンガンセイバーを握り直した時、豹の化け物が小さく呟いた。
「ア...ギト...?」
「「えっ?」」
早苗とタケルが豹の化け物の言葉に疑問を抱いた瞬間、豹の化け物は瞬く間に間合いを詰め、素早い格闘術で早苗に攻撃を仕掛ける。早苗はとっさに腕をクロスさせて防御しようとするが、豹の化け物はその腕を弾き、ガンガンセイバーの柄を握る右手首に手刀を叩き込む。それによってガンガンセイバーを手放してしまった早苗を、豹の化け物は容赦なく攻め立てる。突然現れた豹の化け物に苦戦を余儀なくされる早苗に対し、邪魔者がいなくなった刀眼魔は再び獲物に刀を向ける。
「...さぁ、貴様のアイコンを出せ。さもなくば、命はない!」
「ひっ...ア、アイコンってなんですか!?わっ、私はなにも知りませんっ!!」
威圧感のある催促の声で我に帰った少女は、迫り来る刀眼魔に背を向けて逃げ出す。がむしゃらに逃げる少女に対し、刀眼魔は散歩でもするかのようにゆっくりと彼女を追う。そして、歩みはそのままに右腕を素早く振り抜いた。すると刀の軌跡に真空刃が生成され、少女に向けて射出される。
「きゃっ...!」
空気を切って飛んでいった真空刃は逃げる少女のふくらはぎを掠め、足がもつれた少女はその場で転ぶ。そして、体を打ちつけた拍子に彼女のジャケットの内ポケットの中から、綺麗に磨かれた鉄製の刀の鍔が飛び出し、ころころと地面を転がっていく。やがて足下に転がってきた刀の鍔を、刀眼魔は左手でつまみ上げた。
「これは...?」
「っ...あっ!返して!!それは、おじい様の...」
刀眼魔の手中にそれを見た少女は、目を見開いて必死に手を伸ばす。一方、豹の化け物に押されていた早苗の目に、地面に伏して追い詰められた少女の姿が写る。
「くぅっ...!妖夢っ!!」
「早苗、ニュートンだ!」
「はいっ!」
その身を震わせ、渾身の力を込めて豹の化け物を振り払った早苗は、ニュートンアイコンを起動してドライバーに装填し、カバーを閉じる。
『アーイ!バッチリミナー!』
ドライバーから出現したニュートンパーカーゴーストが体当たりで豹の化け物を阻害している隙に、早苗はトリガーを操作する。
『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか~!』
ニュートンパーカーゴーストを羽織った早苗はニュートン魂に変身。再び飛びかかってきた豹の化け物に右手の球体を突き出し、斥力波で遠方に吹き飛ばす。豹の化け物と距離を取った早苗は刀眼魔に向けて左手の球体を突き出し、引力を利用して自分の近くに引き寄せていく。
「ぬおっ...!?」
「はあっ!」
そして、早苗は接近して来た刀眼魔に斥力を纏った右手でパンチを叩き込み、豹の化け物と同じ方向へと吹き飛ばした。地面を転がる刀眼魔だったが、すぐさま立ち上がり早苗を睨みつける。
「くっ、面倒な...!まぁいい、ここは退くとしよう...」
「グルゥ...」
刀眼魔は悪態を吐きながらも退却を開始し、豹の化け物も小さなうなり声を上げると、あっという間に森林の中へと消えて行った。
「ま、待てっ...ッ!」
「早苗!今は、あの子と君の手当てが先だ。」
「...はい。」
『オヤスミー』
早苗はすぐさま追いかけようとしたが、右肩の痛みで座り込んでしまう。タケルの言葉を聞き入れた早苗は、顔を歪ませながら変身とシンクロを解除した。早苗から出てきたタケルは、早苗の表情を見て声をかける。
「早苗、大丈夫?ごめん、君のこと守れなくて...」
「気にしないで、タケル君。このくらい、大したことないですよ!私のことより、妖夢を!」
「あ...うん。」
早苗は曇っていた表情を一瞬の内に笑顔に変えて立ち上がると、右肩を押さえながら少女の下へ向かう。その表情にどこか引っかかりを感じながらも、タケルはその後に続いた。少女の下にたどり着いた早苗は、口も半開きでぼんやりと森林を見つめている少女に声をかける。
「妖夢、大丈夫?」
「・・・」
早苗が優しい口調で問いかけるが、少女は心ここに有らずといった様相でまるで反応がない。タケルと顔を見合わせ、早苗は大きな声で少女に声をかける。
「ねぇ、妖夢!妖夢ったら!!」
「...みょん!?さ、早苗...おどかさないで下さいよぉ...」
世にも珍しい驚き声を上げた少女はビクッと女の子らしく跳ね上がるが、早苗の顔を見てホッと胸をなで下ろす。優しく微笑んだ早苗は少女に手を差し伸べ、その手を取った少女はゆっくりと立ち上がった。
「いやぁ、あんまり呆けているものだから...心配になっちゃって。」
「あ、そうだったんですか...ごめんなさい。気が動転してしまって...」
丁寧な口調で話す少女は、気恥ずかしそうに頬をかく。ジャケットとスカートの土を払い、身嗜みを整えた少女は、深々と頭を下げた。
「ともかく、助けくれてありがとうございました!早苗に、え~っと...あなたは?」
「俺は天空寺タケル。ゴーストハンター...だったけど、今は早苗の助手みたいな感じかな。」
「そうですか...タケルさん、ありがとうございました!私は"
妖夢とタケルが互いに自己紹介を終えたところで、早苗はタケルに告げる。
「そして妖夢こそが、さっき話した"知り合いの剣士"なんです!」
「えっ、この可愛い子が!?」
「ふぇ!?か、可愛い...!?えっと...と、と、とりあえず!
顔を真っ赤にした妖夢に連れられ、早苗とタケルは白玉楼と呼ばれる冥界唯一にして最大のお屋敷に向かうのだった...
「そう...妖夢がお世話になったのね。ありがとう、タケルくん。」
タケルの正面に座るふんわりとした雰囲気で、桃色の髪と淡い水色の服装の女性はそう言って微笑んだ。彼女は冥界を彷徨う幽霊たちの管理者であり、妖夢の主人にあたる西行寺幽々子。幽々子と妖夢の家にあたる屋敷──白玉楼に招かれたタケルは幽々子に居間に来るように促され、ここに至るまでの経緯を彼女に説明していたのだ。ちなみに、早苗と妖夢は別の部屋に傷の手当てをしに行っている。
「いえ...」
だが、感謝されたタケルの返事は暗い。幽々子はその態度を不思議に思いながら木製の皿から醤油せんべいをつまみ、茶を啜る。マイペースな幽々子を尻目に、タケルは小さな声で呟いた。
「妖夢に怪我させちゃってますし、一緒に戦ってくれてる早苗にまで...俺は、これから早苗のことを守っていけるのか...?」
「ねぇ、タケルくん。あなた、仮面ライダーってやつだったのよね?」
「えっ...?あぁ、はい。」
タケルの独白が聞こえていなかったのか、幽々子は唐突な質問をタケルに投げかける。いきなりな質問にタケルは一瞬たじろいだが、すぐに答えを返す。
「何故、あなたは戦っていたの?傷つくことだってあったでしょうに、それでも戦っていた理由は、なに?」
いきなり真剣味を帯びた声になった幽々子の質問で、タケルは気が引き締まる感覚に包まれる。そしてその答えを探したタケルは、少し間を置いて答える。
「それは...俺の命を、みんなの命を、未来に繋ぐためです。」
「そう...それはきっと、早苗も同じよ。」
まるで答えが分かっていたかのように幽々子は言葉を返し、2枚目の醤油せんべいに手を伸ばす。
「あなたが命を燃やして、みんなを守るために戦っていたように、早苗も誰かを守るために戦うことを望んでるなら...」
途中で言葉を切った幽々子は手にした醤油せんべいを綺麗な二等分に割り、その片割れをタケルに差し出しながら告げる。
「あなたがやるべきことは"守ること"じゃなく、それを"助けること"なんじゃないかしら?」
(「もう!私たちは一緒に戦うパートナーなんですから、困ったことがあったらお互い様です!」)
その言葉を聞いたタケルは、はっとした表情でうつむき加減だった顔を上げた。そして、幽々子からせんべいの片割れを受け取り、まろやかな醤油の味わいを口の中で楽しむ。しばらくしてそれを飲み込んだタケルは、いつもと同じ眩しいほどの笑顔を浮かべ、スッと立ち上がった。
「俺、早苗と話してきます!幽々子さん、ありがとうございました!」
「ふふっ...私は、おやつを食べてただけよ?」
茶目っ気のある幽々子の返事を聞いたタケルは小さく微笑み、廊下に出て突き当たりの部屋に向かう。そして、二人の談笑が聞こえたことで部屋の中に早苗がいることを確信したタケルは、目の前の襖を迷いなく開けた。
「早苗~!少し話したいことが...ってあぁっ!!?」
そこには、上半身の服をほとんどはだけさせた姿の早苗が座っていた。更に、その隣にはスカートをかなり捲って生足を晒す妖夢も座っていた。そう、俗に言うラッキースケベである。慌てて背を向けたタケルだったが、時すでに遅し。皆さんご存知の通り、こういった事態に居合わせた者の末路は...
「ふぇっ!!?ちょっ、タケル君!!?」
「きゃぁぁぁっ!!?変態っ!!けだものっ!!覗き魔っ!!」
「ちょっ、ちょっと待って!妖夢!いたっ、痛いって!!」
とりあえず手近にあるものを投げつけられる、というお約束の餌食になったタケルは、妖夢から様々なものを投げつけられながら居間に逃げ帰る羽目になる。その最中、投げつけられたものの中の一つがタケルの足下に転がった。
「(これ...もしかして!)」
物の弾幕をかいくぐりながらそれを拾い上げたタケルは、ホームベースに滑り込む野球選手さながらの飛び込みで居間に帰還する。コブを作って倒れ込むタケルを、幽々子は穏やかな笑みで眺めていた。もちろん、醤油せんべいを片手に。
「はぁ...はぁ...!ビ、ビックリしたぁ...!」
「妖夢、大丈夫?タケル君、別に悪気はないんでしょうけど...女子が着替え中の部屋をノックもなく開けるのは、流石に宜しくないですね。」
覗き魔の汚名を着せられたタケルを撃退した妖夢は、息を上げながら胸に手を当てる。パニック状態でやったらめったら物をぶんなげた妖夢に対し、早苗は比較的落ち着いた様子で服装を正して立ちあがる。
「早苗は落ち着いてますね...先に居間に戻ってて下さい。私は片付けてから行きますから。」
妖夢の言葉に「分かりました。」と返した早苗は、包帯を巻いた肩の調子を確認しながら廊下を戻っていく。部屋に残った妖夢はふくらはぎに巻いた包帯を指でなぞり、強く唇を噛み締めた。
「(おじいさま...幽々子様...私...私は...!)」
そんな時、妖夢の隣の畳に一本の矢が撃ち込まれた。妖夢は即座に警戒を強めるが、その中で矢にくくりつけられたら紙に気づく。
「これは...矢文?一体誰が...?」
その矢文を取り外した妖夢は、その上に綴られた文字を読み進めていく。そして、その文章を読み終えた妖夢は周りを漂う幽霊──"自らの半身たる霊"を、静かに見上げた...
「ふぎゃ!?」
「幽々子さ~ん、タケル君はどこに?」
「あら、あなたの下にいるわよ~。」
「あ、ほんとだ!」
居間に戻った早苗は、倒れていたタケルを踏んづけているのに気づかないという漫才みたいな展開を披露する。事故ではあるが、これも女子の着替えを覗いてしまった天罰なのかもしれない...そんなことを、早苗の足に敷かれたタケルはひしひしと感じるのだった。
「あぁ...大丈夫ですか、タケル君?」
「だ、大丈夫...」
タケルの上から降りた早苗は彼に手を貸し、タケルはその手を取って立ち上がる。そんな彼らの背後から、妖夢がぴょこっと顔を覗かせた。
「あれ?妖夢、どうしたんです?なんだか顔色が悪いような...?」
「う、うんと...えっと...わ、わたし!お茶、つくって、くる!」
「えっ?あっ、はい。」
ふと早苗が尋ねると、妖夢は慌てた様子で机の上の急須を手に取り、覚束ない足取りでそそくさと台所の方へと向かっていった。訝しげな表情で顔を見合わせる早苗とタケルだったが、幽々子は変わらぬ調子で「あなたもおせんべい食べる?」と早苗に醤油せんべいを差し出す。
「あ、はい!頂きます!」
せんべいを受け取りながら座った早苗に合わせ、タケルもその隣に座る。そして、懐からところどころ色の抜け落ちたアイコンを取り出した。そのアイコンの色が抜け落ちていない部分には、うっすらと赤色が残っている。
「んっ!ほれっれらいろんれすあ?」
「うん、早苗。ひとまず食べてから喋ろうか。」
「MGMG...では、改めて。えっ!それってアイコンですか?」
せんべいを食べ終えた早苗の質問に、タケルは頷きで答える。
「多分、ムサシアイコン...さっき、妖夢から投げつけられた物の中に混じってたんだ。」
「じゃあ、やっぱりムサシアイコンは妖夢が持ってたんですね。」
「きゃうっ!!?」
ムサシアイコンについて話し合っていたタケルたちの背後で、お茶を運んできた妖夢が躓き、悲鳴を上げた。「ん?」と振り向いたタケルの顔面に、妖夢が手放してしまった急須から熱々入れ立てのお茶がぶっかかる。そして、タケルがうめき声を上げるより先に急須が額に激突した。ちなみに、隣で座っていた早苗には一滴もお茶はかからなかった。まさに、奇跡。
「あっつぅぅぅぅぅ!?」
「はわわ..ごめん、なさい!タケ...ル!」
「(...タケル?それに...!)」
妖夢は床の上でゴロゴロと悶えるタケルに駆け寄り、片言な喋り方で必死に謝罪する。妖夢が座り込んだ際に見えたふくらはぎに、早苗は違和感を覚えた。その時、お茶を一口飲んだ幽々子が話を切り出した。
「さて、妖夢。あなたの本体はどこにいるのかしら?」
「えっ・・・!?わ、わたしが、妖、夢です!」
「ふふっ...ごまかしても無駄よ。私はあなたが小さいころから見てるんだから、ね。」
「顔色が悪いのも、霊体だからですよね?ふくらはぎの包帯がないですし、妖夢はタケル君のことを"タケルさん"って呼んでましたからね。」
幽々子と早苗に諭された妖夢──いや、彼女の"半霊"が扮した妖夢は少しの間うなだれる。だが、急にバッと顔を上げると、震えた声で話し始めた。
「ごめん、なさい...わたしに、たの、まれた。けっとう、だから、って...!」
「け、決闘だって!?まさか...!」
決闘という単語を聞いて、床に突っ伏していたタケルは飛び起きた。まさかという彼の言葉に、半霊の妖夢は小さく頷く。
「うん...!さっき、のかいぶつ、おじいさま、の、刀の鍔、取ってった...!とりかえし、たければ、ひとり、で来い、って...!」
「じゃあ、妖夢は刀眼魔のところに行ったんですね?決闘の場所は?」
本来の妖夢よりも気が弱い半霊の妖夢に、早苗は幼い子どもに尋ねるごとく優しく話を聞き出していく。
「おっきな、さくら、の木...たぶん、さいぎょう、あやかし。おねがい...わたし、をたす、けて!ほんとは、こわいけど、おじいさまの...」
早苗は、必死で声を絞り出す半霊の妖夢の頭を優しく撫でる。そして、穏やかな笑顔を見せながら「大丈夫、大丈夫。わかってるよ。」と繰り返した。すると半霊の妖夢は落ち着いたらしく、早苗の顔を見て頷いた。
「
「えぇ、分かったわ。」
「ちょっ、ちょっと待って!早苗~!」
半霊の妖夢を幽々子に任せた早苗はタケルに声をかけつつ、床でか転がっていたムサシアイコンをかっさらって白玉楼を飛び出した。タケルはヒリヒリした顔の痛みを気にしながら早苗を追いかける。端正に整えられた白玉楼の庭園にさしかかった辺りで、タケルは早苗の背に叫んだ。
「早苗っ!早苗はどうして戦うの?」
「どうしてって...ここに来る前、話したとおりです!」
早苗は振り向かず、真っ直ぐに走りながら答える。
「私は、みんなが当たり前に笑っていられる時間を!幸せを!護りたいんです!!」
「じゃあ、さっきの戦いの後に暗い顔だった理由は...」
「妖夢に怪我させちゃいましたから...だけど、絶対に死なせません!」
早苗は一層力強く叫んで更にスピードを上げたが、タケルもそれに負けはしない。加速する想いを乗せて、二人は庭園を駆け抜けた...
冥界にある小高い丘に、ただ一本根付く桜の木。永久に花咲くことはないと言われている西行妖を咲かせようと、幽々子が幻想郷中の春を集めたことで、冬が終わらない「春雪異変」と呼ばれる事件が起こったこともあった。そんな西行妖の下で、刀眼魔は静かに決闘の時を待ち構えていた。
「...来たか。」
小さく呟いた刀眼魔の前に、妖夢は堂々と姿を現した。冷たく、どこか淋しい冥界の風が、彼女の銀髪を小刻みに揺らす。刀眼魔は妖夢に示すかのように刀の鍔を掲げた。
「おじいさまの鍔...返してもらいます。」
刀の鍔を見た妖夢は、背中に背負った二本の刀を鞘から抜き出す。右手には長剣"楼観剣"を、左手には魂魄家に受け継がれてきた"白楼剣"を装備した妖夢は、刀眼魔に向かって駆け出した。
「かかって来るがいい!アイコンは、貴様を殺してからゆっくりと探すとしよう...!」
「はあっ!」
妖夢は溢れんばかりの気迫と共に切りかかるが、それを刀眼魔は左手で軽々と払いのけた。それからも、刀眼魔は妖夢の攻撃を防いだりいなしたりするだけ。敢えて攻撃はせずに、必死で攻める妖夢を弄ぶのだ。
「どうした?さっきから掠めてもいないぞ?」
「くっ...!嘗めた真似を...!」
「妖夢っ!」
刀眼魔の分かりやすい挑発を受けた妖夢が悔しさに顔を歪ませるなか、彼女を追ってきた早苗とタケルも西行妖に到着する。早苗の声を聞いた妖夢は、戦闘中にも関わらず視線をそちらに向けてしまった。
「早苗!?どうして...うっ!」
「邪魔はさせん...!」
隙を見せた妖夢を左手で殴りつけ、刀眼魔は懐から尻尾のようなデザインのあるアイコン──眼魔アイコンをいくつも取り出す。それを刀眼魔が早苗たちの前にばらまくと、眼魔アイコンがそれぞれ黒い霧のようなものに覆われ、のっぺらぼうな人型の怪物に変化した。
「ウゥ...アァ...!」
「えっ!?アイコンが怪物に...!」
「眼魔アサルトだ!そこまで強くないけど、数が多いから気をつけて!
初めてタケルから行くよと言われた早苗はその言葉に少しだけ微笑み、力強い頷きと共に、いつもより大きな声で「はいっ!」と返した...
幻想郷のすべての命、すべての幸せの為に、共に戦う"相棒"として。
タケルと背中を合わせてシンクロした早苗は、即座にオレアイコンを起動してゴーストドライバーに装填し、カバーを閉じてトリガーを操作する。
『アーイ!バッチリミナー!』
「「変身っ!」」
『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』
オレ魂に変身した早苗はガンガンセイバーを召喚し、ゾンビのような動きで周りを取り囲む眼魔アサルトたちと対峙する。ナイフ形状の武器を振り回す眼魔アサルトを早苗が切り裂いていくと、黒い墨のようなものを撒き散らしながら眼魔アサルトたちは消滅していく。あっさりと散っていく眼魔アサルトだが、その数だけは相当なもので、早苗の周りにはまだ50体もの眼魔アサルトが蠢いていた。
「あぁっ、もう!早く片付けないと、妖夢が...!」
「早苗、こういう時は...」
「...了解!」
早苗はブレードモードのガンガンセイバーの片刃を取り外し、柄の端に刃の根元がくるように取り付ける。早苗は、集団戦に適するナギナタモードに切り替えたガンガンセイバーをくるっと一回転させて、再び眼魔アサルトたちを蹴散らしていく。
「くっ...おじいさまの鍔を、返せぇぇぇぇっ!」
「お呼びでない客も来たことだ、お遊びはここまでにしよう...!」
刀を手放して地面に倒れ込んでいた妖夢は、手近にあった楼観剣を杖代わりにして立ち上がり、感情的な叫びとともに刀眼魔に突撃する。間合いに入ったところで真正面から切りかかるが、刀眼魔は右腕を素早く振り上げ、鋭い金属音を響かせながら楼観剣をはじきあげた。
「きゃっ...!」
刀がぶつかり合った衝撃で妖夢は尻餅をつき、地面に転がっている白楼剣の隣に楼観剣が突き刺さる。得物を失った妖夢に勝利を確信した刀眼魔は、彼女にゆっくりと迫りながら言う。
「お前の実力など、所詮はその程度だ...」
「私は...おじいさまに、幽々子様に誓ったんです...もっと強くなるって...!」
「その誓いがあって、弱い。なんとも愚かしいな...」
刀眼魔の容赦ない言葉に唇をかみしめ、涙を浮かべる妖夢に──
「なにが..."道"を駆けてる人間の!なにがッ!」
命を燃やす
「愚かしいんだ!!」
叫びが届いた。
「人の想いに限界なんて無い!諦めない限り、どこまでだっていけるんだ!!」
タケルが戦いの合間を縫って妖夢に激励を送る。それを鼻で笑いとばした刀眼魔は、妖夢の首めがけて右腕の刀を勢い良く振り下ろした。
「死ねっ!」
「・・・お断りです。私は...足掻く。」
小さく、だが確かに呟いた妖夢は尻餅をついた姿勢から刀眼魔の腹部に蹴りを入れ、白楼剣と楼観剣のもとに向かう。楼観剣を引き抜き、白楼剣を拾い上げてそれぞれ鞘に収める。柄から両手を離して両目を瞑り、大きく深呼吸をした妖夢の脳裏に、幼い頃の祖父の声が蘇った。
「(よいか、妖夢。生きるとは...足掻くこと。儂も、お前も、その権化のような存在だ。だからこそ、どんな時でも諦めることだけはするな。逆境でこそ、お前は真の力を引き出せるだろう...)」
「くっ!小娘がっ...!」
とどめを刺す寸前で妖夢に反撃を許してしまった刀眼魔は、すかさず追撃をするべく妖夢に向けて駆け出す。
「魂魄流...」
その瞬間、妖夢の姿が揺らいだ。ぼんやりとした蜃気楼に包まれ、妖夢の視認が困難になっていくのだ。攻撃対象の姿が消え始めたことに動揺した刀眼魔が、走る速度を遅めたその時だった。
「..."幻双斬"ッ!」
刀眼魔の背後から、妖夢の声とシャリンという2つの金属音が流れたのだ。それと同時に──
「ぐおっ!!?」
刀眼魔の全身に激痛が走り、切り裂かれた部位から墨を噴きだす。白楼剣には霊を成仏させる力があり、それは霊体である眼魔にも有効だったらしい。片膝をついた刀眼魔は、荒い息のまま妖夢に怒号を上げる。
「な...なにをしたっ!?」
「存在感を限界まで薄めて、お前に姿を隠しながら切り捨てたまで。半人である私の..."私たち"だけの、剣術です!」
「なにぃ...!ふざけるなッ!!」
刀眼魔は傷ついた身体に鞭を打って立ち上がり、妖夢に切りかかる。一方、早苗はガンガンセイバーの柄の付け根にある瞳のマーク──エナジーアイクレストを、ドライバーの瞳にかざして"アイコンタクト"を行う。
『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』
早苗の背後に橙炎の紋章が展開され、その炎がナギナタモードのガンガンセイバーの両刃に宿る。
『オメガストリーム!』
「はあぁっ!」
早苗はガンガンセイバーを振り回して、橙炎の旋風で10体もの眼魔アサルトを一掃する。それでも、彼女の周りにはまだ25体の眼魔アサルトが残っている。息もつけぬ状況で戦う早苗の懐から、赤い閃光が走った。
「うわっ!?」
早苗の懐から自ずと飛び出たムサシアイコンは、赤い光に包まれながら浮遊して妖夢のもとに飛んでいく。その途中で赤い霧に包まれたムサシアイコンは、ノースリーブの赤いパーカーゴースト──ムサシパーカーゴーストに変化。右腕を振り上げた刀眼魔のがら空きの腹部に、腕のブレードで回転切りを叩き込んだ。
「うおっ...!!」
「きゃぁぁぁぁ!オ、オバケッ!?」
刀眼魔が斬撃に怯んだ隙に、ムサシパーカーゴーストは赤い霧を発生させながら妖夢の周りを旋回。霧で妖夢を包み込み、その霧を従えて早苗から少し離れた場所まで移動した。そこで霧を晴らして妖夢を解放すると、ムサシパーカーゴーストは舞うような動きで眼魔アサルトを斬りつけながら、早苗の前に躍り出る。
「武蔵さんっ!!」
ムサシパーカーゴーストはタケルの嬉々とした声に頷くと、再び赤い霧を纏ってムサシアイコンに戻る。重力に従って落下するムサシアイコンを、早苗は見事にキャッチしてみせた。
「色が戻った...!あとは任せて下さい、妖夢!」
「うん...!」
「力を貸して下さい...ムサシさん!」
早苗はムサシアイコンに強く念じ、スイッチを押した。黒いシャッター風の瞳が「01」という数字に切り替わったムサシアイコンを、早苗はドライバーのオレアイコンと入れ替えてカバーを閉じる。
『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』
ラップ調の待機音と共にドライバーから飛び出したムサシパーカーゴーストは、その腕のブレードで手近な眼魔アサルトを軽く斬りつける。それに合わせて、早苗はいつものようにトリガーを操作した。
『カイガン!ムサシ!』
『決闘!ズバッと!超剣豪!!』
ドライバーの瞳が交差する二本の刀の絵柄に変わり、早苗は粒子なって消滅したオレパーカーゴーストと入れ替わりにムサシパーカーゴーストを羽織る。すると、早苗の髪飾りがドライバーの瞳と同じデザインに変わり、早苗はムサシ魂へと変身を遂げた。
「おぉ...!よぉし~!」
歓声を上げた早苗はガンガンセイバーをナギナタモードにした際のパーツを取り外し、収納されていたグリップを引き出して小刀形状に変形させる。
「天下無双!かかって来なさい!!」
二刀流モードに切り替えた二本のガンガンセイバーを構えて大見得を切った早苗は、襲い来る20体もの眼魔アサルトたちを多彩な剣術で切り捨てていく。一文字斬り、袈裟斬り、交差斬り、回転斬り。次々と繰り出される華麗な技に眼魔アサルトたちは手も足も出ずに倒れ、一体残らず霧散した。
「さぁ、あなたが最後ですよ!刀眼魔っ!!」
「使えん雑魚どもめ...!いいだろう、刀の錆にしてくれるッ!!」
消えた眼魔アサルトたちに汚い言葉を吐き捨てた刀眼魔は、早苗目掛けて荒々しく右腕を振り抜く。早苗はそれを片方のガンガンセイバーで受け止め、小刀のガンガンセイバーで刀眼魔の胴を横一閃に切りつけた。
「くっ...!」
「まだまだっ!」
火花を散らしながら後退する刀眼魔に、早苗は舞うような剣術で怒涛の追撃を行い、連撃の締めに二本同時の突きを繰り出す。刀眼魔は派手に吹き飛ばされ、西行妖に打ちつけられる。
「ぐっ...おぉ...!」
「終わりですっ!」
早苗は、パラパラと木屑を散らしながら着地した刀眼魔に力強く宣言し、エナジーアイクレストをドライバーの瞳にかざしてアイコンタクトを行う。
『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』
背後に赤い炎の紋章が形成され、そのエネルギーが早苗の握る二本のガンガンセイバーの刃に蓄積されていく。赤い光に包まれたガンガンセイバーを頭上と脇にそれぞれ構え、受けの姿勢を整えた早苗は、刀眼魔を待ち受ける。
「くっ...ウォォォォ!」
全身全霊の叫びと共に突撃した刀眼魔は、早苗の頭上から唐竹割りを放つ。だが、早苗は頭上に構えたガンガンセイバーで刀眼魔の腕を受け止め、がら空きになった刀眼魔の腹部をすれ違いざまに斬りつける。刀眼魔は苦し紛れに右腕を振り抜こうとしたが、その腕を早苗はガンガンセイバーで弾きあげる。そのまま頭上に持ち上げたガンガンセイバーを真っ直ぐ静止させ──
「命、燃やすぜ!」「命、燃やします!」
『オメガスラッシュ!』
──素早く振り下ろした。刀眼魔は二つの赤い刃に切り裂かれ、身体中から墨を吹き出しながら倒れ込む。
「かはっ...申し訳ありません..."ジャクス様"...!」
その言葉を最後に、刀眼魔は爆散した。
『オヤスミー』
刀眼魔の最期を見届けた早苗は変身とシンクロを解除し、タケルも彼女の中から抜け出す。戦いを終えた二人の下に、妖夢はぱたぱたと駆けてくる。
その笑顔を見た早苗は、どこか誇らしげに優しく微笑んでいた。
「はい妖夢、あーん。」
「あむ...んっ!おいしいです、幽々さま~♪」
「あらあら、抱きついちゃって...可愛いわっ♪」
「「「いや、どうしてこうなった!?」」」
白玉楼に帰り着いた早苗たちは、早々にツッコミを余儀無くされた。幽々子の膝の上に
「ゆ、幽々子様!?それってまさか...!?」
「そのま・さ・か。あなたの半霊よ♪本体と離れすぎて幼児化しちゃったのね~。」
「へぇ~!妖夢の小さい頃ですか!可愛いですね~!」
「あっ、さなえ!わたし、助けてくれて、ありがとう!」
早苗に駆け寄って、ぺこりとお辞儀をした幼い妖夢を早苗はよしよしと撫でる。もう既に蒸発寸前のような状態の妖夢だが、盛り上がる幽々子と早苗は止まらない。
「そうでしょ~?この頃は幽々さまなんて呼ばれてたんだけどね。今でも呼んでくれていいのよ、妖夢?」
「い、いえ...!主である幽々子様に、そんなご無礼は...!」
「幼い妖夢だから...妖夢じゃなくて、"幼夢"ですねっ!」
「早苗っ!茶化さないで下さいっ!!」
「そうそう、他にも可愛い話が五万とあってね...」
「ぜひ!ぜひ!聞かせて下さいっ!!」
「タケルも、ありがとう!」
「ううん、妖夢が無事で良かったね。」
「も、もうやめてくださぁぁぁいっ!!」
幼夢がタケルにも撫でられ、恥ずかしさが限界点に達した妖夢の叫びと、穏やかな笑い声が冥界に響き渡った。早苗の"道"は、まだ始まったばかり...
「あっ、そうだ早苗。」
守矢神社への帰り道、冥界の出口へ向かう石畳の途中で、タケルがふと早苗に声をかけた。少し前を歩いていた早苗は、半身だけ振り向いてタケルを見る。
「ん?なんですか?」
「色々、ありがとう。あと...」
言葉を切ったタケルは、少し照れくさそうに頬を掻いて続けた。
「改めて、よろしく。パートナーとして...ね!」
その言葉を聞いた早苗の笑顔を、冥界の出口から差し込む夕焼けが艶やかに照らした。早苗たちが取り戻した英雄アイコンは、2つ...
「ねぇ~ミツ!お腹すいた!おやつないの?」
「ばっか、喋るな!バレるだろうがっ!!」
冥界から立ち去る早苗とタケルを、木の上で観察している二つの影があった。お腹がすいたとだだをこねている幼い方は、白の輝光子ことシェイン。ミツと呼ばれたもう一人の黒い革ジャンスタイルの青年──
「むぅ~!なによ、こっちをわたしに押し付けてどっか行ってたくせに!ご褒美のおやつくらいあっていいじゃん!」
「うっ...ったく、ほらよ。」
小さくため息をついた影光は、革ジャンのポケットからクッキーの入った小袋を取り出し、シェインに投げ渡す。それをキャッチしたシェインはにんまりと笑ってクッキーを頬張る。
「んん~♪...んっ!」
ご機嫌なシェインだったが、急に籠もった叫び声を上げると、光に変化して一瞬の内に影光に肩に移動する。
「うおっ!?見えない!前が見えない!!」
「んんっ!んんっ!」
肩車の状態でシェインの手によって視界を塞がれた影光は、不安定な足場の上でぐらぐらと揺れる。クッキーの入った口で何か伝えようとするシェインの手をなんとかどかし、影光は視界を開く。その目前には、自分の十倍以上もの大きさを誇る幽霊が浮遊していた。
「「ギャァァァァァッ!?」」
幽霊たちの暇潰しにまんまと引っかかったシェインと影光は、木の上からひっくり返り、冥界の地面で目を回しながらのびることとなった。それを見た巨大幽霊は十体の幽霊に分裂し、満足そうに解散していくのだった...
「...早苗、なんか聞こえなかった?」
「う~ん、気のせいじゃないですか?」
~次回予告~
「あれ...?なんで...俺、死んだはずじゃ...?」
「おいっ!諏訪子っ!諏訪子ッ!!」
「こうなったら...やるっきゃない!」
「「変身っ!!」」
「っしゃあ!」
第10話 ~無双龍、神の如く~
戦わなければ、生き残れない!
キャラクター・アイテム紹介コーナー!
~魂魄妖夢~
白玉楼の庭師兼、幽々子の剣術指南役の半人半霊な少女。とはいえ、これは祖父である妖忌の肩書きを継いでいるだけであり、前者は天性の才能を見せているが、後者はまだ幽々子に及ばない。"剣術を扱う程度の能力"の持ち主。性格は生真面目で、個性の強い者が多い幻想郷でなにかと苦労している。
~西行寺幽々子~
ふんわりした雰囲気の、白玉楼のお嬢様。"死を操る程度の能力"の持ち主。妖夢の主という立場ではあるが、彼女が幼い頃から面倒を見てきた本人としては、どこか母親のような感情も抱いている。幽霊なのだが食欲旺盛で、食べても食べても限界はない無限の胃袋を持つ。
~ゴースト(早苗) ムサシ魂~
タケルとシンクロした早苗が、ムサシアイコンを使って変身した姿。ガンガンセイバー二刀流モードを扱い、手数で敵を圧倒する。
いかがだったでしょうか?
実はこの東方時哀録、まだすごく序盤なんですよ。多分200話くらいはゆうに超えると思われます。なのに、更新ペースが遅すぎるっ!私の作品には...速さが足りない!ちょっと本気で更新ペースを上げないとですね...頑張ります。
それでは、チャオ~!