Jedem Narren gefällt seine Kappe 【完】 作:トラロック
むかしむかし
妹のカルカは城で祈りを捧げ、兄のカスポンドは自室で亜人達の襲撃にガクガクブルブル。
しかし、そんな生活をいつまでも続けていられるはずがありません。
ある日のこと、一念発起して外に出る事にしました。
引きこもり生活を続けていては食料が尽きてしまう。よし、少しは働こうと――
そうしてカルカは
ところが、この亜人達はすこぶる強くてずる賢いではありませんか。
いくつかの連合を作り上げて近隣住民に迷惑行為の数々を断行。
壁の落書きから始まり、女子供の顔ばかりを嘗め回し、山羊の姿なのにメーメーと羊の鳴き声で騒音を撒き散らす。
まことにはた迷惑な奴らよ、と引きこもっている筈のカスポンドはすこぶる激高。働きに出たカルカはそんな事はお構いなしに亜人共の首を狩り続けるのです。
§
ある日のこと。
亜人達の血で出来た川に向かったカルカは不思議な双子の赤子を見つけるのです。
どんぶらこっこと。――思えば、この擬音はどういう意味合いで作られたのでしょうか。
いかにも頭の悪そうな――、いえ、元気な赤子でしたが戦力として育てれば役に立つかも、と思い立ったカルカは血の川から拾い上げ――もちろん、魔力系第三位階『
亜人達の襲撃により、赤子の両親はきっと死んでいる――筈です。
個々の家庭事情はカルカも把握し切れませんので仕方がないのです。
城に持ち帰り、部下達に身奇麗にされた赤子。
充分な教育と武術を仕込んで育てること十数年。
その間に老け顔にならないかカルカは心配で新しい美容魔法を開発。その普及で財を得たり、美貌で人民の支持を取り付けて聖王女としての地位を固めていきました。
亜人特需と後の経済学者は言いました。
引きこもりのカスポンドは今日も引きこもりをこじらせていました。最近流行の『そしゃげ』なるものにはまっており、国の資金を勝手につぎ込んではカルカの右パンチ左パンチ右ストレートしゃがみ頭突き左ジャブ右アッパー小ジャンプ弱パンチ降下しつつ右パンチ立ち左ジャブ右ストレート後ろ回し蹴り左ローキック右肘打ち左アッパー右コークスクリューパンチキャンセル『
オルタの淫紋がどうたらとほざいておりましたが少しは日の光を浴びろと外に蹴り出しておきます。
それはさておき、すくすくと育った赤子は『レメディオス・カストディオ』と『ケラルト・カストディオ』と名付けられ、立派に成長していきました。
レメディオスは勉強はさっぱりでしたが武術脳では西国無双。
妹――暫定的に――のケラルトは賢さによって高い位階魔法の使い手となりました。しかし、力はからっきしでした。
「おじいさん、おばあさん」
「聖王女様とお言い。まだそんな歳でもないわ」
玉座にふんぞり返るカルカの言葉にレメディオスは何を思ったのか、目を輝かせて忠誠の証しを立て始めました。
このお方こそ自分の守るべき主である、と。
妹はそんな単細胞の姉を支えるべく、見掛けだけ倣う事にしました。
「今まで育てていただいた恩に報いる為に我らは亜人連合の首魁『ヤルダバオト』を討伐しに向かいたいと存じます」
「……話の流れ的にヤルダバオトなどという単語は何処から出て来たのかしら?」
生まれた時から殺すべき敵は決まっている、という風な強い眼差しをレメディオスは持っていたようだがカルカには全くの意味不明。
確かに亜人達は厄介な隣人で皆殺しにしようと常々思っていましたが、首魁の情報はさっぱりございません。
「いきなり大ボスのところに乗り込んでも太刀打ちなど出来ないでしょう。亜人の一部隊程度の殲滅ならば許可しますが……」
やる気だけは一人前。けれども亜人も放ってはおけません。
彼女に先祖代々から受け継がれる『聖剣サファルリシア』を授けます。
その実力を存分に発揮するがいいと言うとレメディオスは大層喜んで受け取りました。――妹の方は厄介ごとを押し付けられ、姉の暴走に付き合わされる事になりそうだと呆れていましたが。
§
戦力が二人だけでは心許ないのですが。いかんせん、新しい兄弟を今から用意する事はとても難しく、また時間もかかります。
妊娠期間とか。――そもそも結婚相手が居ません。カスポンドは夫ではなく兄だし、近親相姦というわけにも――。
また血の川からどんぶらこっこと何かが流れてくるわけでもないでしょうし。
とにかく、道中腹が減っては困るのでお弁当に亜人の首を三つ渡そうかなと思いましたが気持ち悪いので却下。――というより食えませんよ、こんなもの。
キビダンゴとかいう団子三つだけでよく
兵站はとても大事です。
飲み水と塩。他には香辛料に干し肉、穀物。それと道中いかなる場所でも食べられるように調理技術と毒草の見分け方――これはケラルトに――を教えていきます。
少なくとも敵に突入する上で必要最低限のサバイバル術は必須。
脳筋だけで事が済むほど世の中は甘くはありません。
「では、頑張って亜人どもを殲滅してくるのですよ」
「この剣はカルカ様の為に!」
完全武装したレメディオスの――頭は残念だが――実力は折り紙つき。
単騎で
信仰系魔法をたしなむ妹と組ませれば亜人どもを――全滅とまではいかないが――かなりの大ダメージは与えられる事でしょう。
こうして彼女達の旅が始まりました。
目に付く亜人は片っ端から斬り殺し、妹は
戦闘に関しては野獣の如く、また順応力も高いので亜人の種類は把握できなくとも倒し方は身体で覚えていきます。
§
旅が始まって二日目にレメディオス達のお供がしたいと殊勝な心がけで近付くものが現われました。
見た目から妖しいものは全て切り伏せていたレメディオスも平身低頭をいきなりされれば驚きに包まれます。
いわゆる犬、
動物が何故、人語を解するのかレメディオスは首を傾げてしまいます。
これが三体共に
例えば『
「……チェンジで」
実力はあるのかもしれないが不定形では何かと精神衛生上の問題が発生しそうです。
『
『
『
「……ハムスターなる種族など聞いた事がないが……」
一体目は体長二メートルほどのモンスター。遠い森で『賢王』と呼ばれていたらしく、魔法と武技を使う事が出来るとか。
この賢王なるハムスターの尻尾は緑色の鱗に覆われたような形状で、どう見てもハムスターのものとは思えない。だが今は無視する。邪魔なら切り捨てるまでだ、と。
まずお試しとして仲間に入れておくことにしました。――見た目に気持ち悪くないとレメディオスが判断したので。
二体目はモンスターではなく、近所に住む猿――、もとい共に
「……猿みたいなものかもしれませんが。遠距離攻撃ならばお任せください。このアルティメイト・シュー……」
「武器の名前などどうでもいい。従者としての責務を果たせ」
「はっ」
人間なのに凶悪な面構え。この顔で亜人共がたじろぐのだから仲間としては合格です。
――女の子としては残念極まりない。
こんな顔に生んだ親を恨め、とケラルトは思いましたとさ。
§
飛び道具を持っているのはいいのだが矢の補充はどうするのかとレメディオスは尋ねました。
戦闘に関して頭が回る戦闘狂は妹も驚くほど。
「
「なるほど。……よく分からないが問題が無いのであれば構わない」
「はっ」
眉根を寄せて不満いっぱいにしか見えないが嬉しがっているらしい。
ネイアの表情を読むのはケラルトには難しいがレメディオスは一切動じていない。それはそれで凄いのだが。
最後の一体はどんなモンスターなのかと逆に期待が膨らみます。
「ならば魔導王陛下はいかがでしょう?」
三体目が居ると思っていたが実は居なかった。――きっと諸事情とか大人の都合とかです。
「アンデッドなので却下」
「姉様。そういう偏見はいけません。かの王は物凄い位階魔法の使い手と聞きます。それに人間と交渉事の出来る存在です。仲間にしても損は無いと思います」
「邪悪なアンデッドの手は借りない!
「ならば、この私に魔導王との交渉の場を持たせてはいただけませんか? カストディオ様は私に命令すればいい」
従者らしい礼節をもってネイアは言いました。
「なるほど。そのアンデッドの制御はお前に任せよう。だが、私に近づけるなよ。それが害のないアンデッドだろうと私は
「よく分からぬでござるが……。聖なるアンデッドは存在しないものでござるか?」
「そもそもアンデッドモンスターは信仰系が弱点となる。それを克服するものは見た事も聞いた事も無い。それに回復はどうしても
ケラルトもびっくりするほどの博識さを披露するレメディオス。
戦闘に関して知能指数の上がり方は尋常ではありません。けれども
欠点の無い完璧超人などに魅力など欠片も存在しない。
§
目的地は『アベリオン丘陵』という亜人達が一大帝国を築き上げている荒涼とした場所です。
力こそ正義。――という世紀末のような暮らしを送る彼らは何を楽しみに生きているのでしょうか。
殺し殺されるだけの毎日はとても不健康です。――だから見た目が醜悪に進化してしまうのですよ、きっと。
「来る日も来る日も
「人間を食べる亜人なら、その逆も然り、ではないのか?」
焚き火に朝方殺してきた
こんがりと火が通ってくると良い匂いが漂ってくる。けれども安全な肉なのかは未検証。
「……先ほどまで敵であった者を食べようとは……。殿は凄いでござるな」
巨大ハムスターが感心しました。ですが、こいつが何を食べるのかレメディオスは知らなかった。
そもそも種族も良く分かりません。
尋ねてみると草食動物である事が分かりました。
特徴的な口調ですがレメディオス達は全く気にした素振りを見せません。気付いていないのか、それとも気にする程の事が無かったのか。
§
猿こと従者バラハに毒見を申し付けると嫌がりました。――誰でも得体の知れないものは口にしたがりませんよね。
匂いだけで我慢する事にしたレメディオスは新たな敵影の調査に乗り出します。
単純な戦闘であれば古今無双の働きを見せる彼女ですが、敵との相性を考慮しない部分は妹が補います。
お供が本来は前面に立って活躍しなければならないのに荷物持ちと化していました。――それはそれで危険度が低いのでハムスターとネイアは黙っていましたが。
「次から次へと。雉など探さずにこのまま本拠地に行くか」
「多勢に無勢です、姉様。剣技だけでは体力ばかりを失います。……いくら体力バカの姉様でも限界がありましょう」
「……一理あるが我等は進まねばならない。カルカ様のためにも」
彼女達の進む道に亜人の軍勢。背後は
従者ネイアは間近で見る鬼神レメディオスの強さに驚きました。
貴女こそ
顔は可愛らしい女性なのに首から下は筋肉お化けそのもののような気がしてきました。
§
三人目の供を見つけたとしてもキビダンゴはありません。仲間になれ、と命令するのも何かが違う気がしました。
妹は頭脳担当として考えを巡らせますが良い案が浮かびません。
このまま見つからなくてもいいか、と思えてきました。
雑魚は順当に倒せている。問題は彼ら亜人達を束ねるボスモンスターです。
それぞれ『ロード』を冠する上位種族たち。さすがのレメディオスも苦戦するはず――
「そういえば……。どうして魔導王の話になったんだっけ?」
そもそも『魔導王』って何だ、とレメディオスは妹と従者達に尋ねます。
「仲間の話で出しました。……魔導王とは物凄い魔法を使うことのできる
「そうだった。アンデッドの王だったな」
種族を気にしなければ充分すぎるほどの戦力になる。けれども
素直に仲間にするわけにもいきません。それどころか魔導王すら退治する対象にするかもしれません。
そうなれば新たな火種が出来て面倒くさくなります。――世間的にも。
§
もやもやする場合は亜人を討伐するに限ります。
ネイアは遠距離支援。ハムスターは意外にも尻尾の攻撃が強烈で見た目に反してなかなか強い。レメディオスも感心するほど。
ケラルトは暇さえあれば信仰系による支援と姉の方向調整に入っていました。
戦力は僅か。敵は膨大。
このまま戦っていても不毛極まりない。尽きぬ敵勢力をなんとかしたいのはレメディオスとて分かっていましたが、どうにもなりません。
やはり素直に三人目を見つけるべきか、と苦悩していると空から邪悪な天使が降りてきました。――早速、レメディオスは突貫しました。
野生の勘で相手を敵だと察知したようです。
「こちらが名乗る前に襲ってくるとは……。所詮は人間……。下等な思考しか持ち合わせていないようね」
腰から垂れ下がっている黒いボロボロの布をはためかせている天使。
黒い
頭上に光り輝く輪はありませんでしたが、見ようによれば堕天した天使。または空飛ぶ悪魔です。
ケラルトもネイアにも見覚えの無い姿なので何とも言えないのですが、雰囲気は紛うことなく邪悪なもの。
敵かもしれませんが、亜人達とも違うような気にさせます。
「……こいつ強いな」
数度斬りかかったレメディオスの攻撃を片手に持つ
「……貴様はアンデッドか!?」
「は? ……私は……鎧で分からないかもしれないけれど……。アンデッドではないわ」
側頭部から生えた角がついた黒い兜を撫でる謎の敵。
空を自在に移動しつつレメディオス達を睥睨する存在。
「そうか。それは失礼した。私はレメディオス・カストディオ。貴殿の強さに感動した。もし、都合が良ければ亜人どもの殲滅に加わってもらいたい……」
剣を収めて胸に手をあて、誠意をもって言い放つ。
§
レメディオスの名乗りに対し、黒い堕天の騎士は首を傾げました。
この人間は何を言っているのかしら、と。
興味の無い事にはとことん理解不能を示す異形の存在――
人間とは違う概念や
「貴女が私を誘うに足る対価は何なのかしら? ……まさかタダで雇おうとか?」
「報酬は名声だ。……金品の都合は我らには無い。ただひたすらに脅威を打ち払うのみ」
黒い
無報酬で仲間になれと言われて仲間になるほど自分は安くはない、という自負がありまました。――もちろん名声は欲しい。むしろ
二つ返事をしてもいいのだけれど――。それはそれで面白くないと悪魔は思いました。
「……堕天使から悪魔にされてますが……、気にしても仕方がないのでしょうね」
堕天でも堕天使でも構わないが、と。
「人間の分際で私に攻撃を仕掛けた勇気に免じて……。仲間になってあげましょう。……少し興味が湧きました」
「そうか。それは心強い」
相手の正体を確かめようという気持ちがまるで無いレメディオスの言葉に妹は頭を痛めます。けれども話がまとまっているようなので口出しは控えました。
余計な戦闘が続くよりはマシですから。
姉の攻撃に怯まない力量にも興味があり、仲間として迎えられるのであれば歓迎しましょう、と胸の内で呟くケラルト。
§
こうして無事に
レメディオスはここで疑問に思いました。
アベリオン丘陵のどこに敵の本拠地があるのか、と。
「各亜人共の根城を一つずつ潰していけば分かるんじゃないですか? 捕虜も取ってないですし」
目に付くモンスターは全て殺していますので。
そもそも『ヤルダバオト』が本当に居るのかも実は確認しておりません。
レメディオスの単なる野生の勘だけで進んでいるので。
「この人数で亜人を殲滅することも荒唐無稽だと思いますが……」
いくら
「それでもやらねばならん」
「心意気だけで困難は打破出来ませんよ」
それでもここまでレメディオスはよく戦った。だが、敵はまだまだ控えている。
戦士だって休息が必要です。空腹を覚える人間ですから。
本来ならばある程度、討伐した後は拠点に戻って充分に身体を休ませる。その繰り返しです。けれどもレメディオスの場合は休息期間が短く、また戦闘は荒々しいものばかり。
今のところ彼女の実力で倒せる敵ばかりだからいいものの、より強力なモンスターが居ないとも限りません。
「露払いはやってあげなくもないけれど……。一日で全滅は流石に無理よ」
正論を悪魔が言いました。それにケラルトとネイア達は同意します。
「期限については言及されていません、姉様。休むこともまた戦略です」
「しかし、
それは子供向けの昔話だからですよ、レメディオス・カストディオさん。
実際の鬼はもっと凶悪な面構えです。ネイアの顔より怖いかもしれません。というか、小動物だけでどうやって勝ったのか謎ですね。
同じ仲間でこちらの
現実のモンスターの恐ろしさというものを味わうといい。
§
ヤルダバオトよりも初期の目的である亜人連合の殲滅を優先すべきではないのか、という意見が多数に上ったのでレメディオスも渋々了承する事にしました。
とはいえ、文句を言いつつも流石は西国無双の
次々と討伐していく様は惚れ惚れするほどでございました。次点は黒き悪魔。――そういえば名前を聞いていなかった。
片手で
大雑把な攻撃を掻い潜る者達はケラルト達が倒していきます。その連携は回数を増すごとに洗練されていきました。
何度目かの小休止の後で彼らは気付きます。
弁当が尽きたことを。
思えば無補給の強行軍です。食料が無くなるのは当たり前――
回復魔法だけでは腹は膨れません。
非常食として残したハムスターも心なしか痩せていて食べる部分が無さそうに見えるほど。
「……こんな荒野では草木もろくに手に入らないか」
「たくさん倒してきたのですから、ここらで帰還すべきだと思います」
「無理に進んでも空腹で倒れるのは時間の問題だと思います」
レメディオスも空腹を覚えていてもおかしくないのですが、彼女の場合は感覚が鋭くなっているようです。
飢えた獣は何者よりも恐ろしい存在、という風に。
そして、戦うごとに強くなっている彼女は引き返す選択が取りにくい状況になっていたようです。
妹達の言葉で
無謀な戦いは確かに悪手。
戦闘に関しての勘は誰よりも洗練されている。だからこそ撤退も視野に入れられた。
「……分かった。今日中にたどり着けると思っていたのだが……。次の機会に取っておこうか」
「そうですよ、姉様。顔色も肌の艶も悪く、目元に
「……そうなのか? いや、そうだな。敵に弱みを見せるのは良くない……」
こうして妹によって帰還を決めたレメディオス。
ネイア達からすれば生きた心地がしませんでした。なので、やっと温かい風呂やご飯にありつけるとなった今は何よりも幸福を感じていました。
それを邪魔しようとする亜人の追跡があったとしても怖くはありません。奴らは殺すべき敵です。容赦する価値すらありえない、と思うほど。
今の彼女達に近づく事は悪魔でも躊躇うでしょう。
§
好き放題倒しまくった亜人の総数はおよそ五百体をゆうに超えました。
数字というのはちゃんと数えると思っていたより少ない場合があります。それゆえにこの数は意外と正しかったりします。
数万の軍勢と言われても実際には三千体しか居ない事も。
引きこもりのカスポンドが――死体のように――部屋の片隅に転がっていたのは無視しました。
「レメディオスの力を持ってしても亜人の軍団の壁は厚いようですね」
「申し訳ありません」
片膝を付いて謝罪する彼女を咎める気持ちはカルカにはありません。多くの敵を討伐した事をまずは誉めなければなりません。
それと旅の途中で仲間にした者たちにも謝礼金などを用意する事を伝えました。
それはそれとして――
カルカは驚いていました。つい先日、旅を始めたばかりの彼女が怒涛の殲滅数を叩き出した事を。
現在、近隣の脅威となっている亜人は少なくとも野良のモンスターよりも強い部類に入ります。それを数百体もいきなり倒してくるとは、と。――本来ならば話の真意を探るべく、調査隊を送るところです。
『
育ての親たるカルカはレメディオスの言葉を疑う事は出来ません。それは自分の育て方を否定する事でもあるで。
それでも国の長として念を入れる事に――多少の呵責は感じました。
「次の戦いまでに充分に休むとよいでしょう」
「はっ。では、失礼致します」
姿勢正しく立派な動きを見せるレメディオスが部屋から居なくなるまでカルカはしっかりと見届けました。
立派に育ってくれてありがとう、という言葉は胸の内で。
§
一日で全ての亜人を殲滅する事は不可能だ、という事実に気付いたレメディオス。
ならば、と次の作戦を妹に伝えます。
一日に千体以上を殺し続ける。そうすれば一年後には絶滅できる筈だ、と力強く言い放ちました。
「毎日それだけの敵を殲滅する体力は私達の方にはありませんよ」
「だからこそ私が先陣を切る。お前たちは補佐だけしてくれればいい」
「いや……。それでも姉様の体力は無限では無いでしょうに……」
と言いつつも姉ならば不可能を可能にしうるだけの実力があるかもしれない。
そう思ってもやはり自分以上の強敵に出会えばレメディオスとて強気に出られないのではないか、と妹は不安に思いました。
今はまだ雑魚ばかりだから慢心しているのでは、と。
「殿は亜人を全滅させるのが目的なのでござるか?」
なし崩し的に拠点に招き入れたハムスターだが、狭い室内だと窮屈この上ない。
子供のネイアが更に小さく見えるほどです。――黒い悪魔はハムスターに押し潰される形で文句を言わずに
「脅威を排除する為だ。敵は全て殺す」
眉を怒りに歪めて力強く言い放つレメディオス。
「人間の国に長きに渡って好き放題荒し回ってきた亜人連合はここらで退場してもらいたい。完全に絶滅させるのが無理でも彼らの王は倒したいな」
各亜人達には『
力こそ正義だ、と
「……こんな少人数で亜人を全滅させるのは現実的ではないのは分かっています。ですが、相手だってそう思っています。こちらの戦力を侮って王がのこのこ出てくれば……、勝機が見える……、かもしれません」
王をとにかく倒せば後は有象無象の集まりに過ぎない。残りは別働隊の兵士達でも充分に攻略できます。
――さすがに最初の内で全てが解決するほど世の中は甘くありませんでした。