Jedem Narren gefällt seine Kappe 【完】   作:トラロック

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#4 Quid de quoque viro et cui dicas, saepe videto.

 

 更なる追撃を加えつつアルベドは炎の悪魔を滅多切りにしていき、天空から降ってくる隕石との衝突も時間の問題でした。

 ――ここまで追い詰められている炎の悪魔こと『憤怒の魔将(イビルロード・ラース)』は『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』という魔法を習得しています。

 あと少しで隕石に激突する事態に陥ります。タイミングを見計らって転移で逃走する事も想定している筈――

 

「……ここまでのお役目ご苦労様」

「……いえいえ、お役に立てて私は幸せものにございます」

 

 それは下界に居る者達には決して聞かれることのない小声――

 けれども念のために声を潜めるのは悪事を働いている自覚を持っているから、かもしれません。

 アルベドにとっては憤怒の魔将(イビルロード・ラース)が本(・)当(・)の(・)意(・)味(・)で(・)の(・)敵であっても倒す時は全力で倒します。

 吐いて捨てる部下に容赦する心など微塵も持ち合わせていません。――それが女淫魔(サキュバス)たるアルベドの本性――

 いえ、魔導国に属する己の役目に殉じているだけです。

 最後の一撃を受けた後、憤怒の魔将(イビルロード・ラース)は己の魔法で作り出した隕石と激突しました。――アルベドはもちろん隙を見て撤退しました。

 彼女が地面に着地する頃には空中で大爆発が起きて地上の人間達は驚愕します。

 現地の人間は誰もが大規模魔法を見る機会を持ちません。だからこそ――というわけではありませんが、派手な魔法に釘付けになりやすい。

 戦闘終了と共に落下してくるモンスターの肉片――

 それらをハムスター達は避けつつ改めて勝利を確認しました。

 

        §

 

 悪魔を退けたアルベドを出迎えたのは復活したてのレメディオスです。――日頃から身体を鍛えていたとしてもよく復活できました。それはそれで人類代表として誇っていい偉業ではないかと。普通なら死んでいても不思議はありません。

 ケラルトはただただ号泣して姉の復活に喜んでいました。それは紛れもない真実でしょう。――アルベドの勝利など二の次だと言わんばかりが気になりますが――

 全身の骨はまだ充分に治癒されたとはいえません。しかし、懸命に二本の足で立ち、仲間を出迎えます。

 

「よくやってくれた」

 

 泣いているケラルトに支えてもらいながら礼を述べるレメディオス。

 それに対してアルベドは兜を取って静かに一礼するのみ。

 魔導国の思惑があるとはいえ――自分の役目をただ務めただけだと小さな声で言いました。

 

「騎士団の団長として……、改めて礼を言う。これは貴女の勝利だ。そして……私はそれを自分の手柄にするつもりはない」

「……貴女がそうおっしゃるならば……」

「……世の中には計り知れない強き者が居ることを思い知った。……そして自分はまだまだ無力で脆弱な存在である事を……。だが、仕事は残っている。最後まで付き合ってくれるとありがたい」

「もちろんですわ。このアルベド、尽力させていただきます」

 

 弱気なレメディオスに一番驚いたのは兵士よりもケラルトでした。

 いつもは気丈な姉が今はとてもしおらしくて、とても可愛らしい女性となったことに――

 ますます愛してしまいそうになります。

 このおバカで、強くて、そして、頼りになったりならなかったりする姉を。

 

        §

 

 強大な敵を倒したとはいえ、レメディオスには一週間ほどの休養が必要だとケラルトは強(・)引(・)に(・)通達しました。

 先の戦闘で身体から様(・)々(・)な(・)も(・)の(・)が漏れ出てしまった彼女の鎧の中身は人前に見せられない有様となっています。――あと、とても臭かったのですが言葉に出せません。まずは即刻風呂場行きから――

 懸念であった亜人討伐はほぼアルベド頼り。――しかし、このアルベド。とても強い人間――というか悪魔ですが――で頼りになります。いえ、と(・)て(・)も(・)頼りになります。

 姉とは違って賢く、戦略も練る事が出来る有能さを持ち合わせておりました。

 魔導国侮りがたし――

 途中退場したレメディオスはとても大人しく拠点で過ごしており――カルカも驚いておりましたが――無謀な人間の相手をしないだけで物事がかなり進みました。

 レメディオスは厄介な人間かもしれませんが、戦力は西国無双の二つ名に恥じません。

 

「残る亜人部族は……もう……一つくらいでしょうか。……このまま絶滅させるべきか……、それとも交渉を持つべきか……」

 

 ここでケラルトはアルベドに意見を求めます。

 かの魔導国は様々な種族を住まわせているユニークな国で有名です。

 脅威という理由で珍しい種族を全滅させては魔導王の怒りに触れるかもしれません。

 

「いくつかの種族に興味を持っている事は確かです。それらとは既に交渉しておりますので……。残っている敵については排除しても良いと……」

「そうですか。聖王国の平和が約束されているのであれば我々も今以上の攻勢は望みません」

 

 とはいえ、レメディオスがこの場に居れば絶滅は確定です。

 カルカの邪魔をするものは人間でも皆殺しと言いそうなほど聖王女を尊敬し、敬っている人間なので。

 

「……でもまあ」

 

 姉が居ないだけで話がとてもスムーズに済むのは不謹慎な気がしないでもない――ケラルトは苦笑します。

 真面目な討議には邪魔であっても自分にとっては居てくれると何かと心の支えになって助かっています。特に自分が苦手とする者に対して容赦なく突っ込んでくれますので。

 暴力で姉に勝るのは悪魔くらいです。

 た(・)か(・)が(・)人間程度ではびくともしない。

 とても自慢の姉です。

 

        §

 

 脅威となる亜人連合は一週間と経たずに滅び去りました。けれども聖王国の敵が居なくなったわけではありません。――正確にはカルカの敵が――

 次は人間同士の醜い戦いが始まります。しかも、この戦いにレメディオスはほぼ役に立たないでしょう。

 事は政治や貴族間の問題ですので。

 暴力は悪手です。さすがのレメディオスも攻略に時間がかかることでしょう。

 亜人討伐に付き合ってくれた『な(・)ん(・)と(・)か(・)の(・)賢王』ハムスターは森に帰り、従者ネイア・バラハは鍛錬を更に積んで弓の名手に一歩ずつ近づいているようです。――もちろん聖騎士(パラディン)としての鍛錬も同時進行で――

 地味な活動しかしていませんでしたが的確に亜人を討伐し、実力を高めていました。それについてレメディオスも満足気です。

 大きな活躍をしないと腹を立てるような人間では――決してありません。

 兵士一人ひとりを誉める事も団長としての仕事だと分かっています。というかそういう脳筋気味な方向に知恵が良(・)く(・)回るのです。

 

 戦闘狂侮りがたし。

 

 戦闘の傷が癒えたレメディオスと仲間達はしばしの休息の後、カルカから様々な恩賞を得ます。

 物語的には亜人共の拠点から夥(おびただ)しい宝を持ち帰るのがハッピーエンドなのですが――

 世の中は早々都合が良く出来ておりません。――敵側のマジックアイテムはいくつか手に入りましたが――

 

「姉様、戦いが終わったばかりだというのにもう鍛錬ですか?」

「我らの戦いに終わりは無い。備えあればなんとやらだ」

 

 手ひどく痛めつけられて心がすっかり折れ切った、とケラルトが思ってしまうほど敗北したのに――

 そんな事はもう無(・)か(・)っ(・)た(・)事(・)にする超人レメディオス。

 治癒魔法があればまだまだ自分は戦えると平(・)然(・)と(・)豪語しました。――もしケラルトならば隠居して平和に暮らす道を選びます。むしろ生きているだけで幸せを噛みしめられるほど――

 脅威がある人生に平和など夢物語なのですが――

 

「アルベドが倒せたのだから。もう少し努力を積み重ねれば同じ事が出来る……かもしれないではないか」

「……時々、そういう単細胞……、短絡的な思考が羨ましいです」

「そうか? 知識はケラルト。私は力を司っていれば……。何も怖くない」

 

 悪口を悪口だと思わず、またレメディオスは相手の言葉の意味を本当は理解している節(ふし)があります。――けれども、それでもレメディオスは平然と振舞っています。

 聖騎士(パラディン)としての矜持なのか。雑魚の言葉は耳に入らない、という絶対的な自信の表れか――

 自信に満ち溢れる強い言葉――

 それが言えるのはレメディオスだからではないでしょうか。

 

        §

 

 一時(いっとき)の平和が訪れてからしばらくして、聖王国にあ(・)る(・)一(・)団(・)の到来の報告が来ました。

 北にある大きな国家『リ・エスティーゼ王国』では名の知れたアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』――

 国家に従属するレメディオスにしてみれば冒険者は金のためなら国のことなどどうでも良い連中程度――の認識しか無く、あまり好かない部類で(・)し(・)た(・)。

 物事には例外があり、蒼の薔薇は異色の存在だという噂を耳にしていました。――実際に直接見て確認したわけではないけれど、ケラルトがいつか会いたいと言っていた冒険者達。

 全員が女性――

 リーダーは『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』という剣を主体に戦う戦士。――その彼女が持つ武器は『魔剣キリネイラム』――

 夜色の刀身を持つ大剣。

 名のある武器は騎士としても興味があり、レメディオスは早速出迎えの準備を整えます。

 大勢の部下を従えるような物々しさでは失礼だと判断し、ケラルトと従者ネイア。それと数人の気心の知れた部下を伴なうことにしました。

 『アベリオン丘陵』は魔導国と共同で街道の治安維持に務めていて今では貿易の為の行路作りが盛んです。

 今まで亜人達に好き放題荒らされた土地の回復には時間がかかります。

 

「蒼の薔薇の連中はどんな奴らなんだ?」

 

 馬での移動途中でレメディオスは部下達に問いかけます。

 聖王国に閉じ込められた生活が続いていたせいで他の国との交流は殆どありません。だからとても興味が湧きました。――それは部下達も同じことでした。

 

「見た事はありませんが……、全員が歴戦の戦士と聞きます。体格の良い女性達かもしれませんね」

「……あるいは姉様のような見目麗しい人達かも。噂では美人だと聞きますよ」

「従者バラハとどちらが強いかな?」

「……それはどういう意味ですか、レメディオス団長」

 

 ただでさえ怒りの形相が更に凶悪に歪むネイア・バラハ。――今は本当に怒っているようです。

 まるで憤怒の魔将(イビルロード・ラース)のようだと、他の部下達が戦々恐々としました。

 彼女の顔は団長の実力と同等と言われるほど恐れられています。しかし、それでもレメディオスには通用しません。

 彼女はネイアの顔程度で動じるような一般人ではありませんでした。

 聖王国最強であり西国無双の聖騎士(パラディン)は伊達ではないのです。

 

        §

 

 そうして移動を開始してから数日後――

 王国の冒険者『蒼の薔薇』の一団と聖王国の聖騎士団があい見(まみ)えます。

 それはまるで決戦の現場に到着したような感覚を覚えさせます。

 

「我らは聖王国から来た聖騎士団のものだ」

「我々は王国から来た冒険者……『蒼の薔薇』です。お初にお目にかかります」

 

 馬上にて互いの代表者が一礼する。

 ラキュース以外の情報をレメディオスは持ち合わせていませんでしたが、それぞれ名乗りを上げていきます。

 名前についてはケラルトに任せて早速レメディオスは彼女達の近くまで馬を進めます。

 

「……それが有名な魔剣キリネイラムか……」

 

 ラキュースが背負っている物体を見て言いました。

 一般的な剣と違って横幅のある二メートルほどの大剣ともなれば目立つものです。

 

「大きくてごめんなさいね。貴女が……聖騎士(パラディン)達を率いるレメディオス・カストディオ様ですね?」

「そうだ。改めて、よろしく」

 

 二人の英雄あい見(まみ)える。――そう部下達の小声が聞こえてきたがレメディオスは無視し、ラキュースは苦笑しました。

 どちらも有名人であり、その二人が出会ったのだから驚かれても不思議はありません。

 それから少し言葉を交わしつつ移動を始めます。

 まずは途中に造っておいた旅人用の拠点まで――

 聖王国までは馬でも数日は掛かる距離がありますので――馬の体力を考慮しなければならないので――一気にはたどり着けません。

 

        §

 

 最初の拠点にて地面に降り立ち一息つきます。

 部下達はそれぞれの馬の世話をしつつ客人対応に追われます。――もちろんレメディオス達も自分達の荷物整理などをします。

 今回は少人数での移動なので自分達も動かなければなりません。

 

「長旅を癒すような満足な施設ではないが……。どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 物腰の柔らかいリーダー、ラキュース。それに対して姿勢正しく振舞うレメディオス。

 離れた位置から見れば二人共負けず劣らずの美人戦士。

 共に有名な武器を持っています。その実力を確かめたいと誰もが思っておりました。――けれども今は蒼の薔薇は聖王国にとっての客人です。滅多な事があっては国の沽券に関わりますし――なによりもカルカが怒り狂います。

 つい先日にカスポンドの身体が木っ端微塵になり、部屋に飛び散った血や肉片の雨を受けながら『天罰』という文字のオーラが彼女(聖王女カルカ・ベサーレス)の背中で激しく光っていたような光景を幻視したばかりです。――すぐさま蘇生魔法の儀式に入りましたが――余計な散財になった事にカルカはしばらく意気消沈しました。

 何があったのか、最強の聖騎士(パラディン)たるレメディオスでも怖(・)く(・)て(・)聞けなかったそうです。

 

「亜人討伐を終えたばかりで我が国は忙しい。満足な出迎えが出来そうにない事をまずは詫びておく」

 

 レメディオスは軽く頭を下げます。

 脳筋と言われている彼女は別に他人に頭を下げない人間ではありません。

 ある程度のものの分別はできます。――ただ、それが噂によって色々と歪められ、他国でのレメディオスの印象は恐らく聖王国以上に酷いものになっている、かもしれません。その証拠にラキュース達がひどく驚いていました。

 

「え、あ、あの……。我々は気にしてませんよ。ええ、その辺りの事情は把握しておりますので……。お気遣い無く……」

 

 それよりも従者ネイアが先ほどから怖い顔で睨んでくるのが、と小さな呟きが聞こえてきました。

 レメディオスがさっと彼女に顔を向けるとい(・)つ(・)も(・)の(・)顔(・)で特に問題がありそうには思えませんでした。

 

「従者バラハの顔は……、これでも自顔なのです」

 

 と、ケラルトが補足しました。

 自顔が怒りに染まっている――。それを理解するのに数分を要したようです。

 納得した蒼の薔薇の面々――、後ろに控えていた女性達は早速ネイアに近付いて質問責めにします。

 

「従者バラハ。彼女達の相手を任せる。あまり遠くに行かないように」

「えっ!? わ、分かりました」

「共に戦士だ。……多少、口が悪くても仕方があるまい」

 

 ネイアの場合は口より顔では、とケラルトは思いましたが言葉には出しませんでした。

 姉はネイアの顔が一般人と大差がない、と本(・)気(・)で(・)思っているのですから。

 おそらく、ネイアの顔を気にしないのはケラルトとレメディオスを除けばカルカくらいしか居ないかもしれません。――それと彼女の両親が居ました。

 

        §

 

 休息の合間にレメディオスとラキュースは戦士としての交流を始めます。ケラルトは暴走しないように補佐に回り、王国の冒険者の日常などを訪ねました。

 蒼の薔薇にはラキュースの他に魔法詠唱者(マジック・キャスター)として有名な『イビルアイ』という仮面をかぶった小柄な人間が居ます。

 高い位階魔法を扱う事だ(・)け(・)は知っていたケラルトは早速様々なことを尋ねました。

 難しい話を妹に任せて外に出たレメディオスとラキュースは互いの剣を見せ合います。

 普(・)通(・)の(・)女子ならば貴金属の交換などをするものですが、彼女達は普通ではありません。歴戦のつ(・)わ(・)も(・)の(・)です。

 

「四大暗黒剣の一振りか……。こちらは四大聖剣の一振りだ」

「実物を見るのは初めてですが……。どうせなら私も聖剣の類(たぐい)の方が良かったわね」

「役に立てなければ聖剣とてそこらの剣と大差がない。……私は広い世界を見てしまった」

 

 強大な悪魔に一撃で倒され、なすすべが無かった自分を思い出します。

 剣を持っていても身体が潰されれば意味がありません。

 武器だけ良くても――

 

「カストディオ様も(・)……ですか?」

 

 ラキュースの言葉に対してレメディオスは素直に頷きます。――というか頭脳労働は相変わらず苦手分野でありました。

 世間は確かに広い。そう二人は呟きました。

 歩んできた人生はまだ短いかもしれない。けれども既に何度も死地を巡った二人の戦士は黙って過去を僅かに思い出すのです。

 それぞれ歯が立たなかった強敵との死闘などを――

 

「……それにしても先ほどから気になっていたが……」

 

 ふとレメディオスはラキュースの背中に視線を移します。

 彼女の背中には浮遊する剣のような物体が六本浮いているのです。

 これこそラキュースの持ち武器の一つ『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』です。

 使用者の意思により自在に動き回ります。

 

「普段はちゃんと仕舞いますが……、カストディオ様にお見せする為に持ってきました」

「私は剣一本しか無い。……同時に複数の行動を取るのは苦手だから仕方がないのだが……」

 

 世の中には敵だけではなく、摩訶不思議なマジックアイテムが多数存在します。

 もちろんレメディオスもいくつか知っていますが、実物を見ると感心してしまいます。

 

        §

 

 せっかくだからといって浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)をレメディオスが装備することは難しい。

 専用の特殊技術(スキル)や職業(クラス)を修めていないと何も出来ない事が多々あります。

 ラキュースは神官職を持つ聖騎士(パラディン)に近く、信仰系は第五位階まで扱える万能の戦士です。

 それが何故、魔剣持ちなのかはレメディオスには分かりません。

 

「……もしや悪属性なのか?」

「ふふっ、秘密です……。これは……、魔剣といっても無属性武器なので持っても人体に影響はありません」

 

 にこやかに話してくれるラキュース。しかし、すぐに顔を暗くしました。――しかしながらレメディオスはその機微には全く気付きませんでした。

 魔剣の影響は精神に及び、度々奇声を上げたり、人格が乗っ取られる、という痴(・)態(・)を(・)誰(・)か(・)に(・)見(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)か(・)ビクビクする毎日を送っているなど口が裂けても言えません。

 キリネイラムは本物の魔剣です。効果もちゃんと発揮します。――ただ、使用者の性格がち(・)ょ(・)っ(・)と(・)破天荒なだけなのです。

 

「……キリネイラムを装備してみますか?」

「いいのか? ……いや、その……、いいんですか?」

 

 客人対応について妹から色々と指導を受けていたので、即座に言い直したレメディオス。しかし、口調はそう簡単には変えられません。

 レメディオス自身としては他人の武器は気になります。特に有名なものは――

 二メートル近い長さの大剣を手渡され、それを受け取るとズシリと最初は重みを感じました。ただ、思っていたほどは重くなかったことに驚きます。

 

「……見事な色合いの魔剣……。美しい宝石のようだ」

「魔力を込めれば誰でも無属性の波動を放てます。……もちろん剣なので戦士職を持っていないといけませんが……」

 

 専用の職業(クラス)を修めていないと武具もろ(・)く(・)に(・)装(・)備(・)で(・)き(・)な(・)い(・)のは世の中の常識になっています。

 重装備の鎧を着る事もままならない。

 レメディオスは受け取った魔剣を早速装備しました。

 手に凄く馴染み、重さはすでに気にならない。

 聖騎士(パラディン)とて装備できない剣というものはあるけれど、無属性ということで条件が満たされたようです。

 これが悪属性であれば取り落としているところです。

 

        §

 

 魔剣の代わりに聖剣を持たせてもらったラキュースは早速数回ほど素振りします。

 手に馴染む感覚はとても清々しいものでした。

 聖属性の剣は久方ぶりの相棒という感じです。

 

「……不謹慎をあえて言わせて頂きたい」

 

 魔剣を持つレメディオスは静かに言いました。

 妹からは穏便にするよう何度も言われていましたが――やはり戦士として――試さずにはいられません。

 

 歴戦の戦士との一騎打ちを。

 

 もちろん殺し合いになってはいけないので観客を集めることをラキュースに求めました。――もちろん即答で許可が下りました。

 ラキュースもつわものと剣を交えたい衝動と戦う戦士でした。だからこそ――互いに理解し合い、そこにはもはや言葉は不要――

 ――互いの剣は返還しました。さすがに慣れ親しんだ獲物でなければ物足りないと思ったので。

 レメディオス側はケラルトとネイアを。

 ラキュースは他の蒼の薔薇の面々をそれぞれ呼び集めました。――一般兵士には声はかけません。それほど見物人は必要だと思わなかったので。――けれども大きな音を立てれば勝手に集まってしまいます。ですが、その時は仕方がないと思う事にしました。

 

「鬼ボスと戦う挑戦者が現れたか」

「鬼リーダーがんばって」

 

 双子の忍者姉妹ティアとティナは自分達のリーダーたるラキュースを応援します。しかし、それと同時に相手側の実力にとても興味津々で早々に視線を変えました。

 大柄な戦士ガガーランは腕を組んで戦いを見守ります。――というかかける言葉が浮かばなかっただけですが。

 最後の一人である仮面をかぶった魔法詠唱者(マジック・キャスター)イビルアイは少し呆れていました。

 遅かれ早かれこ(・)う(・)な(・)る(・)予感がしていたので。

 

        §

 

 ラキュースは魔剣以外に装備していた『浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)』を仲間に預け、軽く飛び跳ねます。

 対するレメディオスは聖剣を握ったまま目を瞑り、精神統一します。

 

「……鬼リーダーか……」

「ティア達が勝手に言っているだけです」

 

 頬を膨らませて不機嫌になるラキュース。

 

「この戦いは正しく鬼(・)退(・)治(・)だな。勝って故郷(聖王国)に居るカルカ様に誉めて頂こう」

「……姉様。客人に剣を向けて誉められると本気で思っているのですか?」

 

 と、呆れ気味に言うもケラルト自身、この戦いにとても興味がありました。

 聖剣と魔剣を持つ者同士の戦いなのですから。

 騎士団に所属している者や蒼の薔薇の名声を知る者達にとって目が離せない一戦なのは間違いありません。今、この場に居ない事を非常に悔やむ者の数はとても多いと思います。

 苦言を立場上呈するカルカといえどレメディオスの活躍は是非とも耳に入れたいに違いがありません。――なにしろ彼女達(レメディオスとケラルト)の育ての親ですから。気にしないでいられるわけがないのです。

 聖王女という立場ですがカルカもまた武人――

 拳(こぶし)一つで聖王国の頂点に昇り詰めた傑物でもあります。――普段は魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての側面を見せていますが――

 以前の二つ名は『聖拳女帝』だとか――。その真偽を確かめる術は今の聖王国には存在しないようです――

 

「……カルカ様。今一度、私に加護を……」

「……水神よ……、この戦いを捧げます」

 

 準備が整った二者はそれぞれ距離を取り、向かい合います。――そして、互いの剣を構えます。

 

「我が名はレメディオス・カストディオ。聖王女カルカ様の剣(つるぎ)なりっ!」

「黙れ! そして、聞けぇ! 我はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ!」

 

 それぞれ突発的に思い付いた名乗りを上げます。それを笑うのはティア達とケラルトの三名。残りは首を傾げました。

 いきなり何を言っているんだ、と。

 しかしながら、そんな名乗りであっても闘志に火が付けば何でもいいのです。

 戦士とは結局のところその場の勢いが大切です。

 聖剣サファルリシアに自身の魔力を注ぐレメディオスと魔剣キリネイラムに魔力を注ぐラキュース。――キリネイラムは魔力を注ぐと横幅が更に広くなります。

 より大きく変化した大剣に驚くレメディオスとケラルトとネイア。

 

「……くそっ。こっちは何の変化もしないとは……」

「姉様……。変な対抗意識を持たなくても……」

 

 本(・)気(・)で(・)悔しがっているレメディオスに呆れるケラルト。

 外野であるティアとティナは苦笑していました。――あの人、面白いと――

 

        §

 

 二人の美しき戦士達の戦いが――慌しくも――始まりました。

 いきなり突貫せずに自身の力を高めたり、魔法による身体強化に努めます。

 モンスターとの戦闘とは違い、形式的な様相は一種――美しささえ感じました。

 

「どちらの剣技が勝るか勝負っ!」

「王国を代表する冒険者として負ける訳にはまいりません!」

 

 武器の勝負ではキリネイラムは攻撃で勝(まさ)り、サファルリシアは技で勝(まさ)る。――見た目での判断では。だが、実際にどういう戦いになるのかはこれから判明することでしょう。

 外野が静寂に包まれていきます。

 聖剣と魔剣の戦いが歴史に一ページを刻むのです。それを邪魔する事は誰にも許されません。

 二人共小細工なしでぶつかる覚悟を決めます。

 これは非公式ながら聖騎士(パラディン)と神官戦士(テンプラー)の真っ向勝負――。殺し合いではないとしても二度目があるとは限らない希少な試合です。

 これはいわば――

 

 女剣豪一本勝負。

 

 最強の戦いに火蓋は切って落とされました。

 

「我が聖剣は無敵なりっ! 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)・光輝の勝利剣(ソード・オブ・ブライト・ヴィクトリィ)〉!」

「我が魔剣は古今無双っ! 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)・闇黒の征服剣(ソード・オブ・ダーク・トライアンフ)〉!」

「ゆくぞっ!」

「応ともっ!」

 

 二人の美女が声高らかに叫び、示し合わせたように言葉を重ねます。――苦笑が混じるのは致し方ありませんが、試合後はきっと――

 無二の親友になるか、互いに殺すべき仇敵と見るのか――は分かりませんが。

 それぞれ武器に光と闇の強化魔法を付与し、いざ――尋常に勝負。

 この戦いの結果がどのようなものになったのか――。目撃者は黙して語らず――非公式に始めた試合でもあったので仕方がありません。

 物語はここで幕引きと致します。

 

『おしまい』

 

 

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