異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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75皿目 親子丼

産まれも育ちも山国で、今も山々の間や上にある村々や町を巡りながら芸をする旅の芸人。

ハチロウは、お手製の地図を片手に山道を歩いていた。

まだ日が登り始めたばかりの時間な為に暗く、視界は悪かった。慣れてるとはいえ、山道は基本的に危険だらけだ。今歩いてる道も、柵などは無いので踏み外せば深い崖に落ちて命を落とすし、時々危険な魔物に遭遇することもある。

だから、山国での移動は常に危険と隣り合わせだ。

ハチロウは周囲に気を配りながら、目的地に着実に向かった。

そして歩き始めてから、暫く。完全に朝日が昇りきった時間に、目的地。ねこやのドアがある場所に到着した。

一年に一度、春から夏に移り変わるタイミンに来るのが約束になっている。

 

(おっとうとおっかあは元気だろうか)

 

手拭いで汗を拭きながら、ハチロウはそう思っていた。ハチロウの《おっとうとおっかあ》の二人も、ハチロウと同じように旅の芸人であり、簡単に会うことは出来ない。

そこでハチロウは、互いの無事を確認する意味も含めて、《おっとうとおっかあ》が知っていた異世界食堂で一年に一度会う約束をしたのだ。

汗を拭き終わったハチロウは、最近年老いてきた《おっとうとおっかあ》を思い出しながら、ドアを開けた。

 

(いらっしゃいませ)

 

偶々近くに居たクロがハチロウに気付いたようで、頭を下げた。

 

(お席にご案内します。メニューを……)

 

「あ、頼む料理は決まってますけど、人を待ちたいんです。その人達が来たら、その時に注文します」

 

(分かりました。お席はこちらです)

 

クロに案内されて、ハチロウは席に座った。ハチロウの《おっとうとおっかあ》の姿は、まだない。

そこから、一抹の不安が頭を過る。だがその不安な考えを、頭を振って無理やりにでも消し去った。

でなければ、不安に押し潰されそうな気がしたからだ。

それから十数分程の間、ドアが開く度にそちらに視線を向けてはガッカリするのを繰り返した。

その時、ドアが開き

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!」

 

と小さな二人を、アレッタが出迎えた。

 

「二人なんだが……」

 

「おや、ハチロウが先に居るでねぇか。待たせてしまったかの」

 

「おっとう! おっかあ!」

 

ハチロウに近寄ってきたのは、年老いた旅小人(ハーフリング)の夫婦だった。

ハチロウと二人の出会いは、ハチロウがまだ幼い頃に村の口減らしの為に元の村からかなり離れた山の中で捨てられていたのだ。

この旅小人の夫婦は、ハチロウと出会った時は自分達の子供が全員独り立ちしてから、暫くした時の事だった。

その時ハチロウは泣いていて、流石に泣いてる子供を無視出来なかった為に拾い、色々と教え込んだのだ。

山道の歩き方、身を護る為の護身術、字の読み書き、生計を建てられる大道芸を教えて、その後の十年は一緒に旅をした。

その後、ハチロウが青年と呼べる年齢になったら、ハチロウと別れて夫婦二人の気ままな旅に戻った。

その時に約束したのが、一年に一度。異世界食堂で会って話そうだった。

 

「おっとうにおっかあ、少し遅かっただな」

 

「いやはや、歳は取りたくないでな……」

 

「近くのドアの場所が、山の上の方でな……山道を歩くのに、時間が掛かってしまったんじゃ」

 

ハチロウが心配して聞くと、二人は軽く腰を叩きながら答えた。幾ら旅好きな旅小人とはいっても、寄る歳には勝てないのだ。話を聞くに、この一年の間に自分達でも分かる位に歩くのが辛くなってきていたらしい。

そこで最近考えているのが、旅を辞めて一ヶ所に定住すること。扉の近くに家を建てれば、問題ないだろう。

 

「けど、お金は……」

 

「それならば、蓄えがあるわ」

 

「そうだな。余生を過ごすには、十分だな」

 

ハチロウの問い掛けに、二人は顔を見合わせてから答えた。二人はハチロウより長く旅の芸人をしていたベテランの旅小人だ。蓄えは、ハチロウより大量にある。

 

「食費は……」

 

「そっちも大丈夫だ」

 

「歳を取って、大分減ったからね」

 

旅小人は、かなりの大食いだ。それこそ、その小柄な体の何処に入るのかと疑う程で、ねこやもそれなりに食糧は備蓄しているが、足りなくなることが起きる程だ。

しかしどうやら、歳を取ったらその食べる量も減るらしい。

その時、アレッタと霊夢が来て

 

「お待たせしました。親子丼です」

 

「失礼します」

 

と三人の前に、一つの丼と味噌汁の入ったお椀を置いた。そして、霊夢が

 

「お箸とスプーン、どちらをお使いになられますか?」

 

「ワシらはスプーンを」

 

「俺は箸を」

 

霊夢は、夫婦にスプーン。ハチロウの前に箸を置いて

 

「それでは、ごゆっくり」

 

と頭を下げて、下がった。

蓋を開けると、中には黄色と白の斑模様の中に多数の肉が混じった料理。親子丼が見えた。

親子丼、これは鶏の卵とその鶏の肉を使った料理なので、親子を使った料理だから親子丼となった、とされている。

これをハチロウは、二人に拾われた日に食べた。

その時は先代店長が作ってくれて、初めて食べた親子丼に感動したのを覚えている。

実の両親に捨てられ、落ち込んでいたハチロウを二人が引き取ってねこやに案内してくれて、初めて三人で食べた思い出の料理。

その時に、二人から

 

『これはな、親子丼っちゅう料理でな』

 

『親と子一緒に食う……でな、こう思うんじゃよ。この親子丼を一緒に食ったワシらも、もう親子じゃよ』

 

その言葉に、幼かったハチロウは救われた。

そして、一口食べたハチロウは、空腹感からがむしゃらに食べた。夜明け前から山道を登った為に、かなり空腹だったのだ。それは二人も一発で、軽く親子丼を食べ終わり

 

「ふぅ……食ったわい」

 

「んだな。次は、何を食べようかのう……」

 

「そうだなぁ……次は……」

 

まだ食べたい三人は、メニューを見ながら次に頼む料理を決めて、親子三人の会話を穏やかにしたのだった。

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