異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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80皿目 ナポリタン

カウベルの音が鳴り、店員の霊夢に出迎えられながらシリウスとレウスの二人は席に行く途中で

 

「ぼっちゃん、私はこれで」

 

「ああ。見て学んでこい」

 

と別れて、レウスはキッチンの入り口近くの席に座った。最近来る度に、レウスはキッチン入り口近くの席が空いていたら、そこに座って中を見るようになっていた。当然明久や店長は気付いているが、止める理由は無いからと放置している。やはり、腕利きの人の行動を見ると、学べる事があるからだ。

レウスは近くに来た早希に、シーフードピザを注文した。

 

(本当に熱心だな、レウスは)

 

中をジッと見るレウスに、シリウスは呆れながらもメニューを開いた。今レウスが座っている席は、レウス曰く料理人の特等席との事だった。

それはさておき、シリウスは近くを通ったアレッタを呼び

 

「すまないが、ナポリタンをウインナーで頼む。それと、食後にカフェオレを」

 

と注文した。

 

「はい、分かりました!」

 

シリウスからしたら異世界で、ベーコンと呼ばれる燻製肉とウインナーと呼ばれる腸詰め料理。その2つを使った料理たるナポリタンは、シリウスのお気に入り料理になる。

今はこのナポリタンの料理の再現に取り組んでおり、レウスとは別にやっている。

それはさておき、シリウスは店内を見回して

 

(だけど、やっぱりお客の出身が読めない)

 

と思った。

実は最近、ある噂が出回っているのだが、それはシリウスからしたら有り得ないと思っていた。

それは、南大陸に渡れる方法を見つけて、更に南大陸からの商人が東大陸と西大陸に来ている。というものだった。

シリウスが居る東大陸とアルフェイド商会として、あまり交流が多くない西大陸。そして、今まで情報があまり無い南大陸。

東大陸と西大陸。そして南大陸の間には、竜神海という魔の海域が存在する。シリウスが知る限り、その竜神海に入った船は例外無く全て沈められた。

長い間、様々な方法が試されて突破しようとしたが、成功した者は居らず、今では帰らずの海域とすら言われ、誰も近寄ろうとしない。

そもそも、本当に人が居るのかすら分からないのが実状だ。しかしシリウスは、はたと気付いた。

異世界食堂には、様々な場所から色んな人がやってくる。もしかして、南大陸の人が居るのではないかと、シリウスは改めて観察を始めた。

見慣れた東大陸の服を着た人族、エルフ、リリパッドや旅小人。そして、魔族。

次に、あまり見慣れない服を着た肌の黒い男女。恐らく、西大陸一の大国。砂の国の人達(シャリーフとラナー)

とそこまで確認したシリウスだったが、重要なポイントに気付いた。

 

(しまった……南大陸の人達の服を知らないから、分からない!)

 

自分のうっかりに、シリウスは頭を抱えた。しかし、噂が有るのならば確実に南大陸にも扉は有る筈であり、もしかしたら来店者の誰かがその情報を得て、流したのではないか、と考えた。

 

(出来ることなら、その人に出会って、情報を聞きたい)

 

アルフェイド商会の若き代表として、シリウスは商機を掴もうと思った。その時

 

(お待たせしました。ナポリタンです)

 

と近くにクロが来ていた。

クロはトレイの上にあった色鮮やかな麺料理をシリウスの前に置き

 

(こちらのお2つは、お好みでご使用ください。それでは)

 

と下がっていった。そして、赤みが強い橙色の麺料理。ナポリタンを見たシリウスは、頭を軽く振って、先ほどまでの考えを頭の中から追い出した。

これは、シリウスの祖父であり、アルフェイド商会先代代表たるトマスの教育の賜物だった。

 

『我々アルフェイド商会は、食べ物を扱う商会だ。だから、食べ物には真摯に向き合いなさい』

 

この教育には、シリウスも同感を覚えていた。

故にシリウスは、先ほどまでの考えを一旦追い出して、ナポリタンに意識を集中させた。

そしてこの姿勢が、シリウスが若くしてアルフェイド商会の代表に選ばれた理由だった。

舌の繊細さと料理に対する姿勢、これがシリウスの父親より優れていたので、シリウスが新しい代表に選ばれたのだ。

それはさておき、シリウスはナポリタンを観察した。

マルメット(トマト)を使ったソースたるケチャップによって、綺麗に色づいた麺。見たことの無い緑色の野菜(ピーマン)の細切りと異世界のキノコ(マッシュルーム)。そして、ほのかに歯ごたえが残っているオラニエ(タマネギ)

鮮やかな赤いナポリタンは、お菓子を除いて最も華やかな料理だ、とシリウスは思っている。

 

(さて、頂こう)

 

シリウスはフォークを持つと、ケチャップとバターの匂いが香るナポリタンを一口分巻くと、口に運んだ。

 

(うん……やはり、炒めると風味が変わるな……)

 

口の中に広がるのは、茹でただけでは得られない香ばしさだった。ケチャップの柔らかい酸味とバターの味が絡み付いた麺は、それだけでご馳走だとシリウスは思った。普段食べている麺料理とは違う風味の違いは、その調理法にあった。

これは、特等席で見ていたレウスが気付いたのだが、普段の麺料理は茹でた麺と別に作ったソースを和えるだけである。

しかしナポリタンは、茹でた麺と別に作ったソース。具材を一緒に炒めていたのだ。それこそが、ナポリタンの香ばしさの秘訣だった。

 

(うん……やはり具材は美味いが、多すぎるとバランスを損なうな)

 

一緒に炒めてある具材を食べて、シリウスは頷いた。

ナポリタンの具材は、一般的なマルメット(トマト)ソースを使った料理と比べて少ない。

だが、バターと一緒に炒められた具材は、それらには無い旨味が凝縮されている。具材が多くなれば、主役の麺が脇役になってしまう。それらを考えると、やはり具材は少ない方が良い、とシリウスは判断した。

 

(やっぱり、具材は麺を引き立ててこそだな……)

 

更に味わっていて、シリウスは更に具材に別の役割があることに気付いた。具材と一緒に食べると、それぞれの旨味が麺に付加される。

麺と具材が一体になったのが、ナポリタンだとシリウスは評価していた。

 

(さて、そろそろ味付けを変えるか)

 

そう思ったシリウスは、クロが後に置いた2つ。

緑色の容器の粉チーズとガラス瓶のタバスコを取った。

両方とも、かけ過ぎないように慎重にかけていく。

そして、一口食べるとシリウスを襲ったのは猛烈な辛さ。しかし、すぐにチーズがその辛さを和らげる。

 

(よし! 今回は完璧に出来た!)

 

自分好みの味わいになり、そこからシリウスは、無我夢中でナポリタンを食べた。

国でも屈指の大商会たるアルフェイド商会の若き代表のシリウスだが、今の姿は年相応の食べ盛りの青年の姿だった。

食べ終わると、霊夢が持ってきたカフェオレを飲み干して、シリウスはキチンとお金を払い、レウスと一緒に退店した。

扉を潜った瞬間、シリウスの表情は若き代表の物に変わった。ここからは、経営者としてレウスと一緒に料理の再現に励む。

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