その日、たまたまヴィルヘイムがお店に来店し、その最中に大樹は一度材料が少なくなったので買い物に行った。
そこに、幼かった店長がやってきて、学校で育てたじゃがいもを持っていた。
最初はそれが野菜だとは知らなかったヴィルヘイムだが、当時の店長が
『これで、じいちゃんにコロッケ作ってもらおうと思ってたんだけど』
という言葉を聞いて、じゃがいもがコロッケの重要な材料と知った。ヴィルヘイムはじゃがいもを、店長から金貨一枚で買い取り、帰還した。
当初はそれで、自分の分のコロッケが作れればいいと思っていた。
しかし、じゃがいもは建国し、領土を広げてきてあまり土壌の良くなかった土地でも、大量に作れた。
そこからヴィルヘイムは、じゃがいもを国中に広めた。
それが、小麦が作れず食糧難に苦しめられていた帝国を大いに救い、そこからヴィルヘイムはついでに劣化版だったがコロッケのレシピを公開。
一気に、帝国ではじゃがいもを使った料理が開発され続けた。
なお、そんな経緯故に帝国では六柱の龍神の中では大地の神たる緑の龍が広く信仰されている。
これは、ヴィルヘイムがじゃがいもを神から授かった実だと発表したからに他ならない。
発表されてから、年に10以上のペースでじゃがいもを扱う開拓地が拓かれ続けてきた。
なお緑の龍は、基本的に直接的戦闘力は高くない。
緑の龍は、黒や赤の龍を支援するのが主体だった。
混沌との戦闘が終わった後、緑の龍は豊穣の神として扱われ、神官達も豊作の為に働いた。
ダンシャクを深く研究し、帝国各地に広げていった。
この数年の間に急激に増えた開拓地と、それらの開拓地を結ぶ街。その街の一つに新しく赴任した緑の神官の一人たるソフィは、1日の務めを終えて、秘密を守る為に尾行に注意しながら街郊外の森に向かっていた。
(ああ、お腹空いた……早く行かないと)
その森は、各開拓地の中に決められている森林保護区になっており、勝手に木を切るのは禁止されている。
ソフィが向かう先にあるのは、その保護区を管理する為という名目で建てられた小さな小屋である。
中に入れるのは、決められた人員のみになる。
つまり、この場合はソフィだけだ。
そして、その小屋の中にねこやのドアは有った。ドアを見つけたのは、着任した時になる。
そしてソフィは、期待に胸を膨らませながら、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ。洋食のねこやにようこそ」
そんなソフィを霊夢が出迎え、近くの空いてる席に案内しようとしたら
「あ、彼女と相席いいかしら?」
と一つの席を指差した。そこには、同じ緑の神官を示す神官服を着た一人の獣人が居て、ガフガフと何か食べている。
「少々お待ちください」
霊夢は一言断り、その獣人神官に確認し
「どうぞ」
とその席に案内した。
入れ替わりに、早希がやってきて
「お冷です。ご注文は……」
「何時も通り、ビールとポテトチップスの大盛! 味付けは、塩と塩のり、チーズでお願い!」
早希の確認の言葉に被せ気味に、ソフィは注文した。
ソフィからしたら、7日に一度の貴重な時だから、我慢の限界だったのだ。
注文を受けた早希が離れると、ソフィは目の前の神官。
アデリアを見て
「久しぶりね、アデリア。元気してた?」
と笑みを浮かべて、問い掛けた。
するとアデリアは、食べていた
「久しぶり、ソフィ。忙しくって中々来れなかったよ。次には、弟も連れてくるね」
と答えた。
ソフィが居る帝国から遠く離れた、西大陸の緑の神官のアデリア。因みに、ソフィは緑の司祭であり、その若さから考えるとかなりの出世になる。
そんな二人が出会ったのは、やはりこのねこやになる。
ソフィが初めて来た時、既に何回か来店していたアデリアがねこやの事を教えたのだ。
その時から、ソフィとアデリアは仲良くなり、時々一緒になったら相席して料理を食べるようになる。
歳も近く、半魔族に対する差別意識もなかったソフィと明るく朗らかなアデリア。同じ緑の龍を奉じるという共通もあったからだ。
そもそも、緑の龍を奉じる人種というのは非常に珍しく、緑の龍を奉じるのは大半がアデリアのように半魔族だ。実は司祭のソフィが開拓地に着任したのも、ある意味でそこが起因しており、帝都で居心地が悪かった為に志願して開拓地に来たのだ。
帝国では半魔族も積極的に受け入れている為に、帝都の司祭や高司祭、神官は半魔族ばかりだった。
ソフィ自体に差別意識は無くとも、居心地が悪かったのは仕方なかったのかもしれない。
それはさておき、ソフィとアデリアは久しぶりの再会に談笑していた。アデリアはどうやら弟が移住してきたようで、それと合わせて忙しかったようだ。
そこに
(お待たせしました。ビールとポテトチップスの大盛です)
とクロがソフィの前に、料理を置いた。
(お熱いので、気をつけてください。それでは、ごゆっくり)
クロを見送った後、ソフィは料理に視線を向けた。
非常に薄くスライスしたじゃがいもを一気に揚げて、味付けする。という料理としては非常にシンプルだが、ソフィはポテトチップスが好きだった。
「大地を見守る我らが神よ。我らに実りと糧をもたらしいただき、感謝します」
何時もの祈りを捧げてから、ソフィは素手でポテトチップスを一枚取った。
(うん。やっぱり、揚げたてが一番よね)
まずは、塩から食べる。
薄くとも確かに感じるじゃがいもの風味に、うっすらと感じる塩気が合わさる。
パリパリという食感は、じゃがいもと油が良質な証拠。
(うん! やっぱり、ポテトチップスは皮の部分が美味しい!)
ソフィは自分の考えが正しいと信じつつ、ビールを飲んだ。
帝都ではコロッケが有名だが、同じ位有名なのがフライドポテトだ。
ソフィの実家はフライドポテトの店を出しており、帝都ではフライドポテトはホクホクとしつつもホロホロとした実が旨いという主張と、油でカラリと揚がった皮の方が旨い、という主張により日夜議論が交わされている。
因みにソフィは、皮派である。
そんな彼女にとって、薄くスライスされ揚げられたポテトチップスは皮に等しい物だった。
(それに、味付けも良い!)
実家では塩味が基本的だが、塩も高い調味料な為に非常に薄味になることもある。
しかし、ねこやでは塩味だけでなくのり塩とチーズというソフィからしたら予想外の味付けに出会い、思わず実家に手紙で提案した程の衝撃だった。
のりに関しては、その磯の風味から海に関すると予想し、何とか入手しようと手を尽くしているが、中々見つからない。
次にチーズは、中々合うのが見つからないという。
是非頑張ってほしい、とソフィは思った。
のり塩は磯の風味がするのりに塩が非常にマッチし、口の中に海を感じた。
そして、チーズ。
細かく挽かれたチーズだが、濃厚な味がじゃがいもと合わさり、幸福感に包まれる。
気付けばビールを二杯おかわりし、大盛のポテトチップスを食べながら、アデリアと会話を楽しんだ。
途中でポテトチップスは冷めてしまったが、ポテトフライとは違って、ポテトチップスは冷めても美味しい。
ポテトフライは冷めてしまうと、しんなりして歯ごたえも微妙になってしまう。しかしポテトチップスは、冷めてもサクサクのままで最後まで食べられる。
それが、ソフィがポテトチップスを気に入った理由だった。
流石に持って帰って数日すると湿気ってしまうが、火傷せずに美味しく食べられるのは衝撃だった。
最近、実家ではポテトチップスの再現に取り組んでおり、それにより日に日に売り上げが上がってきていると手紙に書いてあった。
(ポテトチップスは美味しいし、実家は売り上げが上がってきたし、最高だね!)
その日は久しぶりのアデリアと会話を楽しみながら、ソフィは満足いくまでポテトチップスを堪能したのであった。