異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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82皿目 オイルサーディン

海国に無数にある島の一つに、ドワーフが住む島がある。その島は火山により形成された島で、農作物に向いていない代わりに、鉱物が豊富な為に鍛冶が盛んで、ドワーフが住み着いた。

ドワーフ達は鍛冶で作った商品を売り、食糧や作業に使う炭を入手してきた。

そんな島に住むドワーフの一人、老女のメイファンは痛む関節の節々に沁みる温泉に身を任せながら

 

「いやぁ……沁みるねぇ……」

 

とため息混じりに呟いた。

そしてメイファンは、ゆっくりと沈んでいく太陽を見た。温泉は島でもかなり高い位置の海に面しており、絶景を楽しめるのが特徴的だ。

しかしそんな立地の為、その温泉に入りに来る人数は少ない。実際、今もメイファン一人しか居ない。

この温泉は湯治にも使われる程に効能が良いが、来るのは鍛冶仕事から引退したドワーフばかりになる。

実際、メイファンも鍛冶の一線からは退き、孫まで取り上げた経験のある熟練の一人だ。

この温泉には、関節の痛みを取る為という名目で7日に一度来ている。

温泉と夕焼けを楽しみながら、メイファンはある程度すると

 

「そろそろ、行くかね」

 

と言って、温泉から上がって服を着た。

温泉から少し離れた林の中、少し開けた場所にそれはあった。通称異世界食堂、洋食のねこやのドアだ。

 

「いらっしゃい」

 

メイファンがドアを開けると、店長が出迎えた。

 

「注文は何時も通りに、ビールで?」

 

「ああ、頼むよ。喉がカラカラでね」

 

店長にそう返しながら、メイファンは近くの席に座った。そして、初めて異世界食堂に来た時を思い出した。

その時は、店長は先代店長。つまり、大樹だった。

豪快な性格だが、出された料理はその美味しさに驚いた。

見た目に反して、繊細だと驚いた。それからもう30年近く来ているが、店長は代わり、更に店員も大幅に増えた。

 

「……まあ、あたしも大分歳を重ねたからね……」

 

「お待たせしました。ビールです」

 

メイファンが小さく呟くと、霊夢が大ジョッキのビールをメイファンの前に置いた。

メイファンの中で、決まっている最初の飲み物。それがビールだ。ねこやで初めて飲んで、それ以来嵌まっている。

 

「料理はもう少々お待ちください。それでは」

 

霊夢はそう言って離れ、メイファンはまず一口飲んだ。

キンキンに冷えたビールが喉を通り、胃に入っていく。その感覚は、最初から変わらない。

 

「ふぅ……旨い……」

 

適度に効いたクーラーで、火照っていた体が冷えていくのを感じつつ、ビールの苦さを堪能する。

 

(やっぱり、一人に限るね。同胞の男と来たら、酷いことになる)

 

ドワーフの男達が一緒に飲んだら、それはもう潰れるまで飲み食いする。別にそれが嫌いな訳ではないが、やはり雰囲気に合わない。

 

「お待たせしました! 鰯のオイルサーディンです!」

 

アレッタはそう言って、底の深いお皿をメイファンの前に置いた。中には頭と内臓を取った鰯が僅かに焼かれた状態でたっぷりの油の中に浸かっていた。

 

「こちら、ケチャップとマヨネーズ。醤油です。ご自由にお使いください」

 

「ああ、悪いんだけど。新しくウメシュを瓶で」

 

「はい、わかりました! 後程お持ちしますね」

 

追加注文で新しくお酒を追加し、それを聞いたアレッタはキッチンに消えた。それを見送ってから、メイファンはオイルサーディンを見た。

これも、初めて食べたのは大樹の時だった。

メイファンにとって魚は食べなれた食材で、味は知り尽くしていたつもりだった。

しかし、油漬け(オイルサーディン)は初めてだった。

そして驚いたのは、その柔らかさ。

オイルサーディンは骨まで柔らかくなる程に煮込んであり、小骨に至ってはまるで無いように食べられる。

初めて食べた時は、こんな料理があるのか、と驚いたものだ。

 

(先代は、これを自家製だって言ってたね……上等な鰯が入った時だけって)

 

トガラン(トウガラシ)ガレオン(ニンニク)の風味が口の中に広がる。恐らく、自家製なのは今も変わらないだろう。

ゆっくりと食べていると

 

「お待たせしました。梅酒の瓶です」

 

と早希が新しく梅酒を持ってきた。入れ替わりに、飲み干した大ジョッキを回収し

 

「それでは、ごゆっくり」

 

と言って、下がっていった。

 

(……変わったね。この店も)

 

最初は大樹と少々無愛想な暦の二人だけだったが、途中で暦が居なくなり、代わりに今の店長が入り、大樹が居なくなって、気付けば青年の明久が入り、アレッタが入り、クロが入り、早希が入り、霊夢が入った。

 

(あたしもそろそろ、誰かに教えるかね……)

 

メイファンはそう考えながら、梅酒を飲む。

 

(む。また美味しくなってる……どうやったら、こんな味になるんだい)

 

実は、メイファンは鍛冶から引退した後、梅酒造りを始めた。今や島でも一番高く取り引きされており、上物は金貨で取り引きされている。

それは、この店で初めて飲んだ時に感動し、再現を始めたのが始まりだった。

年々改良を繰り返しているが、未だにメイファンは満足していない。

 

(さて、また解析するかね。今に満足しないように)

 

メイファンはそう考えながら、梅酒とオイルサーディンをゆっくりと楽しんだ。

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