異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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83皿目 かき氷・抹茶宇治金時

青い空の浮かぶとある孤島で、イルゼカントは大あくびをして

 

「……ああ、暇だ……」

 

と呟いた。何処までも続く青い空と、ゴーレム達により手入れが行き届いた庭園。生きる事には困らない、全てが揃った空に飛ぶ島。それが、イルゼカントが居る所だった。

島内のあらゆる木には様々な種類の果実がたわわに実り、生活に必要な事は島中に配置されているゴーレム達がやってくれて、寒暖差もなく、命を脅かすような危険な生物も居ない。

両親から聞いた口伝と大量の書物。それが、250年余り生きてきたイルゼカントの知識であり、世界の全てだった。

 

「最近は、研究も飽きてきたなぁ……」

 

衰弱し動けなくなった両親から頼まれた、千年を超える年月を費やしたある魔法の研究。今から200年前に死んだ両親から頼まれてから暫くは打ち込んだ研究だったが、最近は最早意味らしい意味を見出だせず、ダラダラと過ごしていた。

今から200年前に眠るように死んだ両親によれば、イルゼカントはエルフと呼ばれる種族らしい。

両親によれば、エルフは他種族を遥かに凌駕する寿命と遥かに高度な知識。そして何より魔法により、世界を支配する権利があると言っていた。

しかし、今から数百年前に衰退したという。

その理由は、大疫病だったという。両親が野蛮だと言っていた龍種か、もしくは過去には頻繁に侵攻していた異世界からかは分からないが、未知の病気が大流行し、エルフを滅亡寸前まで減らしたのだという。

たった20年で滅亡の危機に瀕したエルフは、覇者の地位から陥落。幾人もの偉大な魔法使いと今や口伝と書物に記されただけの魔法が喪われ、エルフは覇者から転げ落ちた。

それが許せなかった一部のエルフ達は、ある賭けに出た。残されていた魔道具。飛行島を起動させ、何人たりとも近づけないように幾重にも結界を張り、空に研究所を設立し、喪われた魔法を復活させようとした。

そして、その末裔にして最後の一人がイルゼカントだ。

 

「まあ、空に逃げたから俺が産まれたんだから、そこは感謝するけど……」

 

最初はその好奇心から、両親から引き継いだ魔法の研究をしていた。しかし、たった一人で二百年も研究しても、他人と検証が出来ない為に、研究に意味を見出だせなくなった。

 

「さて、今日は何をしようか……」

 

最早何をすればいいか分からず、そんな日々が後七百年は続くと考えたら、恐ろしさすら覚えた。

しかし

 

「ん……何やら、妙な魔力の流れが……」

 

普段とは違う魔力を感じて、イルゼカントはその場所にゴーレムに乗って向かった。

そこは、魔道具の真上。最も魔力の濃い場所であり、両親の墓所だった。

 

「へえ、これは……転移魔法か。それも、異世界に繋がる類い……珍しいな」

 

イルゼカントはようやく、次の暇潰しを見つけたと言わんばかりに無造作にねこやのドアに歩み寄った。

罠かもしれない、という思考すら抱かず、イルゼカントはドアを開けた。

 

「ほう……これはまた。初めてくる場所だな」

 

イルゼカントは入った場所。ねこやの調度品を見ながら、そう呟いた。すると、キッチンの方から店長と明久が姿を見せたのだが

 

「ん? なんだお前達は。そこまで魔力が無い人間が居るのか?」

 

イルゼカントは、店長と明久から全く魔力を感じられず、思わず首を傾げた。

 

「えっと……お客さんですかね」

 

「私たちは、この店の店長と料理人ですが」

 

「店? 確か、お金を対価に物品を提供する場所だったか……」

 

イルゼカントの言葉を聞いて、明久と店長はよほどの田舎者か世間知らずが来たな、と思った。

 

「ええ、まあ。ここは料理屋ですが」

 

「料理屋ということは、料理を出す場所か」

 

料理は、知識としては知っている。

飛行島には料理する必要のある物は無かったが、煮たり焼いたりして、本来なら単品で食べられない物を食べられるようにすることだ。

因みに、死んだ両親は栄養さえ足りてればいいという思考で、それは若干ながらイルゼカントにも引き継がれている。

 

「では、その料理をくれ。なるべく珍しいやつを」

 

「珍しい……」

 

「実は、まだ開店準備中でして……軽めの物になりますが。デザートとか」

 

「構わん」

 

そこまで会話した時、ドアが開き、アレッタが入ってきて

 

「おはようございます……あ、いらっしゃいませ」 

 

と若干眠そうなアレッタが現れた。アレッタを見て、イルゼカントは

 

「ほう……混沌の神の眷属か。実物は初めて見た」

 

とアレッタを観察し始めた。すると、店長が

 

「すいません、お客さん。彼女は着替えないといけないので」

 

「ほら、アレッタちゃん。シャワー浴びて、着替えてきて」

 

そこに、いつの間にか来ていた早希が、アレッタと御幣を持っていた霊夢を連れて奥へと消えた。

その後、イルゼカントは適当な席に座って周囲を見ていたら

 

「お待たせしました。かき氷の抹茶宇治金時です」

 

と早希が、イルゼカントの前に透明な器に盛られたそれを置いた。

 

「これは……」

 

「かき氷と言いまして、伝統的なデザートの一つで、今回はそのかき氷の内の抹茶宇治金時となります。では、ごゆっくり」

 

早希はイルゼカントに教えながら、イルゼカントの前にスプーンとお茶を置いて離れた。早希を見送ったイルゼカントは、かき氷を見た後器を触り

 

「この冷たさ……中に入ってるのは、雪……なのか?」

 

と考えた。次に見たのは、深緑色の抹茶。

 

「この草色のはなんだ? 薬草の煮汁に似ているが……」

 

本当に小さかった頃、一度体調を崩した際に両親が薬草を煮たのをイルゼカントに飲ませた事があった。

その時の苦さを思い出し、苦い表情を浮かべながらスプーンで口に運び、固まった。

 

(確かに苦いが、優しい苦さに……甘い)

 

予想に反した味が口の中に広がり、冷たい。

次に口に運んだのは、濃い紫色に見えるべちゃっとした物。アンコだ。

 

(見た目は固そうだが、予想より柔らかいな……それにこれは……豆か? 仄かに甘い……)

 

そしてイルゼカントは、その2つと氷をスプーンで一気にすくい、食べた。次の瞬間、ズキリとした痛みが一瞬だけして、イルゼカントは止まった。

 

「くうっ……今のは、一度に多く食べたからか……」

 

そして次に、白くて丸い物。白玉団子を口にした。

 

「ふむ……面白い食感だが、大して味は……」

 

途中まで言ってイルゼカントは、ある考えに至り、全て纏めて口に運んで、目を見開いた。

 

(やはりそうか! これらは、全部を纏めて食べれば調和する! これが、料理というものか!!)

 

初めての経験に、イルゼカントは感動しながらかき氷を食べた。時々くる頭痛に耐えながら、イルゼカントはかき氷を食べ終わると、今はお金が無い事を告げて、ツケにして退店。

消えていくドアを見ながら

 

「なるほど……この世界も異世界も、捨てた物ではないらしい……」

 

と呟き、次には祖先が念のためにと残したお金を持っていこう、と心に決めた。

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