異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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84皿目 ホットドッグ

「おお! 今日がドヨウノヒだったか!」

 

数日前から毎日来ていたトウイチロウは、小さい頃からの遊び場だった巨木の根元にネコヤのドアを見つけて、嬉しそうにした。

事情があり、今から約8年程前から来れなくなってしまったねこや。

ねこやのドアは、殆ど自分の記憶通りだった。違うのは、東大陸語が書かれた看板が掛かっている事。

 

「……さあ、行こうか。ア……」

 

そう言って振り向いた先には、誰も居ない。それに気付いたトウイチロウは、少し寂しい様子で

 

「そうだった……今は、一人だったな」

 

小さく呟きながら、トウイチロウはゆっくりとドアを開けた。カウベルの音が鳴り

 

「……懐かしいな。8年前と、変わらない……」

 

内装を見たトウイチロウは、目を細めながら呟いた。

そこに、アレッタが近づき

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

とトウイチロウを出迎えた。そのアレッタの声に、料理を持ってきていた店長が反応し、トウイチロウを見て

 

「おや、もしかしてトウイチロウさん? お久し振りですね……今日は、お一人ですか?」

 

と問い掛けた。

店長の記憶では、以前トウイチロウは幼馴染みの少女のアヤと一緒に来ていた。そしてトウイチロウからしたら、記憶よりも幾分か老けたが、間違いなく店長だった。

 

「ああ。だから今日は、ほっとどっぐとこーらを一人分で頼む」

 

「はいよ……お一人分ですか?」

 

「ああ……今日は拙者の分だけだ。しかし、土産用に三人分頼む」

 

トウイチロウはそう言いながら、手近な席に座った。

そして店長は、約8年の間に何か大きな変化があったのは理解しながら、キッチンに戻っていった。

席に座ったトウイチロウは、久しぶりのねこやに感慨深くなりながら、店内を見回した。

殆ど変わらない落ち着きのある内装に、思い出が甦る。

初めて来たのは、今から約10年程前だった。

当時トウイチロウは、武者修行の旅に出る為に知り合いから剣の手解きを受けて、前衛も出来る支援系。巫女の役割のアヤと一緒に特訓していた。

そんなある日、大木の根元にねこやのドアが現れた。

ちょうどお腹が空いていた二人は中に入り、その時に試作品という形で出されたホットドッグに魅了された。

それからは特訓し、帰る少し前の腹ごしらえにホットドッグを食べてから帰る、というのが習慣になった。

 

(思えば、この店に来たから、世界の広さを知ったのだったな……)

 

それは、料理を食べに来る客の混沌さだった。

その大半がトウイチロウ達と同じ人だが、魔族や半魔族、亜人とその当時は村の事しか知らなかった二人からしたら、予想外過ぎる見た目の人達に度肝を抜かれた。

しかし、それがあったからこそ、トウイチロウ達は旅先で出会った様々な人達と会話する事が出来た。

 

(まあ、旅ももう終わりだがな……)

 

約8年、世界中を旅して、それなりに名前は売れたと思う。しかし、アヤとの関係の変化が武者修行の旅に終止符を打って、故郷に帰ってきたのだ。

 

「お待たせしました! ホットドッグとコーラのセットです!」

 

そこに、トウイチロウからしたら、異世界の服を着たアレッタがやってきて、料理を置いた。

旅立つ前には店長一人だけだったが、8年の間に店員は大分増えたようだ。

 

(変わらぬものは無い、か……)

 

以前旅先で出会った最強の剣士の言葉を思い出しながら、トウイチロウはその料理。ホットドッグとコーラのセットを置いたアレッタを見た。

 

「お持ち帰りの分は、後程お持ちします!」

 

「すまぬな、娘」

 

「それでは、ごゆっくり!」

 

アレッタは元気よく頭を下げて、去っていった。

 

「では、頂くとしよう」

 

アレッタを見送ったトウイチロウは、そう言ってホットドッグを見た。

真っ白なお皿に乗せられた、見事な焼き色の付いたパンに挟まれた豚の腸詰め(ソーセージ)と赤と黄色のソース。

料理としたらかなりシンプルな物だが、未だにこのねこやでしか食べられない料理だ。

 

(この料理は、握り飯と同じように素手で食べるものだ)

 

トウイチロウはそう思いながら、皿の上のホットドッグを掴んだ。やはり焼きたてなのだろう、仄かに暖かく、パリッとしたパンと、熱気が分かる太いソーセージ。

それに、トウイチロウは大きくかぶり付いた。

その瞬間、口の中で味が爆発した。

溢れる肉汁、仄かな酸味の赤いソース(ケチャップ)、そして黄色のソース(マスタード)の辛味が、口の中で絡み合い、深い味わいに変わる。

久しぶりに味わい、特訓していた時の事を思い出す。

 

(思えば、あの頃はこれが普通だと思っていた……)

 

米が当たり前だった山国のトウイチロウとアヤからしたら、パンが主食の東大陸で食べられると思っていたのだが、実際に食べてみて、歴然の差に二人して肩を落としたものだ。

 

(むう……このおらにえとたまなが、またいい味だ……)

 

辛味が無くなり、むしろ甘く感じるオラニエ(タマネギ)とソーセージの下に敷いてあるたまな(レタス)が、口の中の肪をさっぱりさせる。

 

(やはり、ほっとどっぐは出来立てが一番だな……アヤにも、出来立てを食べさせてやりたかった)

 

今は隣に居ないアヤを思い出しながら、トウイチロウは残りのホットドッグを食べ、コーラを飲み干すと

 

「ごちそうさま……」

 

と手を合わせた。そこに、店長と明久が歩み寄り

 

「お待たせしました。こちら、お持ち帰り用のホットドッグです」

 

とトウイチロウの前に、ビニール袋を置いた。

それを確認したトウイチロウは、懐から財布を取り出して

 

「会計を頼む」

 

と財布を差し出した。

トウイチロウはどうにも、金勘定に疎い。そこもアヤが担っていたのだが、店長ならば信じられると思っていた。

店長は財布の中から必要なお金を取り出し

 

「はい、毎度あり」

 

と財布をトウイチロウに返した。

 

「では、また来る」

 

「はい。お待ちしています」

 

トウイチロウの言葉に、明久が微笑みを浮かべながら頭を下げた。

そしてトウイチロウは退店すると、消えていく扉からすぐに目を離して

 

「待っていろよ、アヤ……すぐに、このほっとどっぐを食べさせてやるからな」

 

と急ぎながら、かつ転ばないように、村に帰り始めた。

二人の間に産まれた愛し子の世話で、家から離れられないアヤに、暖かいホットドッグを食べさせたい為に、トウイチロウは走った。

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