異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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85皿目 モンブラン

王国出身の冒険者トーマスは、その素晴らしい味に驚きと感激を覚えていた。

 

(嘘だろ!? 菓子ってのは、こんなに旨いものなのか!?)

 

トーマスが食べている菓子は、マローネ()がふんだんに使われていて、トーマスが知る菓子とは大きく外れたものだった。

菓子のてっぺんに乗っている見事なまでに黄色く、芯まで甘く煮込まれた一粒のマローネ。

そして、口に入れただけで融けるクリームにも、マローネの風味を濃厚に感じる。だが、甘さがくどくない。

トーマスが知る菓子は、甘さがくどくて一度食べたら暫くは食べたくなくなる程だった。

しかし、その菓子。

モンブランは、また食べたくなる物だった。

 

「そこの嬢ちゃん! このモンブランっての、もう1つくれ!」

 

「はい、分かりました!」

 

トーマスの注文を聞いて、早希はキッチンの方に消えた。それを確認したトーマスは、残ったモンブランを口にしながら

 

(最初はたかが菓子探しに銀貨3000なんて、バカげてるって思っていたが……これなら、納得する! こいつは、亡くなったメイド頭の婆さんに感謝だな)

 

トーマスはそう思いながら、心中で顔も知らないお婆さんに感謝した。

発端は、今から約10日前になる。

探し物専門の冒険者、《探し屋トーマス》はある貴族。

マローネの名産地の領主の奥方のエレアノールの依頼を受けて、王都から3日かけてその領主の館に来た。

そうして依頼されたのが、モンブランの捜索願いだった。

その領地の東側には、よく手入れされたマローネの木が立ち並び、秋になれば大量のマローネが収穫され、そのマローネを用いた料理で栄えてきた。

そうした由来の為に、通称でマローネの町と呼ばれ、そして、王国国内で使われるマローネの約9割はこのマローネの町から流通した物が使われるという。

ある意味で、王国には欠かせない町の支配者。それが、エレアノールなのだ。

 

「で、では……その……」

 

「はい……マローネを使った菓子。モンブランを探しだしてほしいのです」

 

まさかの超高額報酬に見合わない探し物の内容に、トーマスは耳を疑った。

 

(正気か? たかが菓子に、銀貨3000枚も出すか?)

 

20代半ばで既に子持ちとは思えない妖艶さのエレアノールは、事の経緯を放し始めた。

それは、エレアノールの祖父の時から仕えていたベテラン中のベテランのメイドだった元メイド頭だった女性は、今から数年前から町の特産品たるマローネを使った素晴らしい菓子を何処からか買い付け、それを主人に提供してきたらしい。

それは、今まで食べてきたどの菓子よりも素晴らしく、エレアノールも含めて領主一家をあっという間に魅了した。

一度は毎日食べたいと言ったらしいが、そのメイド頭は7日に一度しか無理です。と言ったらしい。

それからは、毎年秋の時期が楽しみになっていた。

だが

 

「昨年にそのメイド頭さんが亡くなってしまい、何処で買っていたのかが分からなくなってしまった……と」

 

「ええ……私達も方々まで手を尽くしたのですが……」

 

昨年の冬に、その元メイド頭は風邪を引き、その風邪が悪化して掛かった肺の病気が原因で帰らぬ人になった。

それ自体は、よくある事だ。

人間というのは、何が原因で亡くなるか分からない。

しかし問題は、その元メイド頭しかモンブランの販売店を知らなかった事である。

元メイド頭は自分の年齢を考えて、次代のメイド頭を育てていた為に、通常の業務上では混乱無く引き継ぎが出来た。

しかし、モンブランの販売店の事を教える前に元メイド頭は亡くなってしまった。

最初は、町の特産品を使った菓子なのだから、簡単に見つかると思ったという。しかし、町中を探しても、伝を使って探しても見つからなかった。

そこでエレアノールは、冒険者に依頼を出して、それをトーマスが引き受けたのだ。

 

「……だが、これは困った……」

 

依頼を引き受けたトーマスは、まず町で調査をした。

元メイド頭は人柄もよく、町中の人達がよく覚えていた。

そして町の有力者や町に来る貴族は、元メイド頭が買ってくるモンブランが好き、とよく言っていた。

モンブランは、領主だけでなく、町や町に来る貴族も魅了し、この町の発展に深く関わっていたのだ。

エレアノールは例え見つからなくても、トーマスに害は出ないようにする、と言ったが、そのプレッシャーは半端ない。

トーマスは約七日間の調査の末、ある場所にたどり着いた。それは、領主の館のメイド達が住まう離れの家、そこから少し離れた物置小屋だった。

元メイド頭は七日に一度、その物置小屋に行っていた、という証言があった。

元メイド頭はその領主の館では、重要な立ち位置だった。そんな立場の人物が、七日に一度とは言っても休みをとって遠くに行ける訳がない。

ならば、七日に一度入ったその物置小屋が怪しいとトーマスは睨んだ。

そして三日間、その物置小屋を毎日見回りしていた三日目の朝方に、それを見つけた。

 

「なんだこりゃ……」

 

古い人形や小さなドレスが納められた物置小屋の片隅に、見慣れないドアを見つけた。

しかも、トーマスにも分かる東大陸語で異世界食堂と書かれてある看板が掛かっている。

 

「まさか……これか……?」

 

トーマスは半信半疑で、そのドアを開けた。

 

「おっと、随分と早いお客様だ」

 

「いらっしゃいませ。洋食のねこやにようこそ」

 

そんなトーマスを出迎えたのは、純白の料理人服を着た二人の男だった。

 

「洋食のねこや……?」

 

「ええ。そちらからしたら、異世界になりますので、別名で異世界食堂とも言われています」

 

トーマスの呟きに、若い男。明久が答えた。

それを聞いたトーマスは、ある噂を思い出した。

そこは、通常では考えられない値段でとてつもなく美味しい料理が食べられるという異世界食堂の噂。

まさか実在するとは思っていなかったトーマスだが、まさかと思って

 

「……モンブラン、あるか?」

 

と問い掛けた。すると、髭を生やした中年の男性。店長が

 

「モンブラン? ……もしかして、ジゼルさんのお知り合いですか?」

 

その名前を聞いて、トーマスは内心で大当たりとガッツポーズした。ジゼルというのは、元メイド頭の名前だ。

 

「ああ……顔も知らないがね」

 

そこから、トーマスは元メイド頭が亡くなった事を教え、モンブランが買えるか聞いた。

すると、明久が

 

「ええ、買えますよ」

 

と教え、モンブランの味が気になっていたトーマスは、一個食べてみる事にしたのだ。

そして、驚きと共に一個で満足出来る訳もなく、結局は四個もトーマスはモンブランを食べた。

そこに、アレッタと霊夢が来て

 

「お待たせしました! お持ち帰り用のモンブラン、6個です!」

 

とトーマスに二つのビニール袋を差し出し、トーマスは銀貨3枚を払って、退店した。

そして消えていくドアを見ながら、トーマスは

 

「けど、もったいねぇな……」

 

と呟いた。何せ、今回はモンブランだけを食べたが、他にも後から来た客達が様々な美味しそうな料理を食べていた。それらも食べてみたいと思ったが、今回は依頼を優先し、帰ってきた。

モンブランを渡して報告したら、もう領主の館の敷地には簡単には入れなくなるのは道理だ。

 

「……だがま、俺は探し屋トーマスだ。自分で見つけてやらぁ」

 

トーマスはそう結論すると、エレアノールに報告する為に本館に向かっていったのだった。

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