まだ秋の少し肌寒い朝とも言えない、夜。
ヴィクトリアは、一人緊張しながら着替えていた。
(今日が依頼があった日……)
ヴィクトリアは一応王族の一人な為、冒険者ではない。しかし、師匠たるアルトリウスからある役割を任されていた。
それは、通称異世界食堂のメニューの試食と、新しいメニュー表作りだ。
着替えている内に日が登り始め、それと同時に何時もの場所にドアが現れた。
「……行きましょうか」
新しいメニューに胸を高鳴らせながら、ヴィクトリアはドアを開けた。
「いらっしゃい」
「今日は、ありがとうございます」
ヴィクトリアを出迎えたのは、店長と明久の二人だった。そして店長はキッチンに向かい、明久はヴィクトリアを近くの席に案内した。
「……それで、今日は何かしら?」
「本日試食してもらうのは、フルーツグラタンです」
明久がそう説明した時、店長がヴィクトリアの前に置いたのは、ヴィクトリアが知るグラタンより一回り小さい器だった。
ヴィクトリアが知るグラタンは、
そして今置かれたフルーツグラタンも、騎士のソースに似たのがたっぷりのフルーツに掛けられていて、グラタンと言うだけあって焼き目もある。
「熱いので、お気をつけください」
「ありがとう」
店長と明久を見送り、入ってきたアレッタに挨拶してから、ヴィクトリアは改めてフルーツグラタンを見て
(彼らの事だから、変な料理は出さないだろうけど……)
若干だが、フルーツグラタンという料理を警戒していた。異世界食堂のメニュー表、それを書いたのはヴィクトリアとアルトリウスの二人である。
これは先代から続いてきた事で、アルトリウスが先代の頃からの料理を書き、ヴィクトリアが今の店長が入ってから始めたデザート類の実際に食べて書いたのだ。
二人は味の表現が的確な為に、頼むようになったのだ。
ちなみに、ヴィクトリアがデザート類を担当しているのは、アルトリウスが甘いのを苦手としているからだ。
(よく見たら、ソースが黄色い……騎士のソースじゃない……)
淡い黄色いソースを見たヴィクトリアは、あるクリームを思い出して、小さいスプーンを持ち、焼いた事で出来ていた薄いパリパリとした皮を破って、その下にあったフルーツとソースを掬って口に運んだ。
(……カスタードクリームじゃない……)
口の中に広がる味に、ヴィクトリアはクリームの正体を探り始めた。
まずフルーツだが、これは一度甘く煮込まれたものだとヴィクトリアは察した。
その理由だが、本来のフルーツよりも柔らかく、噛む度に甘い汁が溢れたからだ。
そして問題のソース。
ヴィクトリアが最初、それをカスタードクリームと予想したのは、色合いから自分が愛してやまないプリンと色合いが酷似していたからだ。
しかし、風味が違う。
(これは……乳は使っていない……代わりに、葡萄酒の香りがする)
今度はソースだけを僅かに口に運び、ヴィクトリアは何が使われているか察した。
(そうか……熱するから、カスタードクリームだと相性が悪い……だから、葡萄酒の入ったクリームを使っているのか……)
ヴィクトリアはそう考えながら、また一口食べた。
(酒精は完全に飛んでるけど、葡萄酒の香りが楽しめる……これはこれで美味しい)
ヴィクトリアからしたら、新しい分類のデザート。
様々なフルーツも味わえる。恐らくフルーツは、季節によって変わるだろう。
そう考えながらヴィクトリアは、全て食べ終えると店側が用意していた紙に詳細に書き始めた。
そして書き終わると
「はい、これでいいかしら?」
「はい。何時もありがとうございます」
食べ終わった器を回収しに来た店長に、差し出した。
すると、明久が近寄ってきて
「こちら、何時ものプリンになります」
とヴィクトリアの前に、何時も食べるプリン・ア・ラ・モードを置いた。
するとヴィクトリアが
「このフルーツグラタン……お持ち帰りって出来るかしら?」
と問い掛けてきた。
「はい。少々お時間を貰いますが、出来ますよ。冷めたのは、また違った味わいになりますよ」
「じゃあ、3つお願い」
「承りました」
ヴィクトリアは最近よく来る双子に、食べさせてもいいか、と思った。
その時、ドアが勢いよく開き
『わあぁぁぁ!?』
と霊夢と一緒に、二人の少女達が現れた。
「え、何事?」
明久が驚きながら近付くと、押し倒されていた霊夢が申し訳なさそうに
「……ごめんなさい……騒がしく来ちゃって……」
と謝罪した。