異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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スパニッシュオムレツの中身は、どうやら色々あるようなので、中身は敢えて書きませんでした


88皿目 スパニッシュオムレツ

街から常人だったら優に3日は掛かる山の中の小屋に、同族の中でも一際大きい体躯を誇る狼の獣人族の男。カルロスは、大きな荷物を大事に運びながら姉の住む小屋を見つけた。

 

「あ! カルロス!」

 

「アデリア姉。久しぶり」

 

その小屋の前には、カルロスより大分小さく愛らしい姉。緑の神官のアデリアが居て、ピョンピョンと跳ねながら大きく手を振っていた。

カルロスとアデリアは家族だが、アデリアは母親の血が濃いのかカルロスより大分小柄で、愛らしい。

しかし、その戦闘力はカルロスを凌駕している。

アデリアは一族の中でも突出した弓の腕前と俊敏さを誇り、その2つと神官戦士として同年代では特に期待されていて、大神官に最も近いと評されている。

 

「ごめんね、カルロス。何時も持ってきてもらって」

 

「気にするな。アデリア姉は、強くなる事だけ考えていれば良い」

 

「うん……」

 

カルロスの言葉に、アデリアは少し悲しそうな表情を浮かべた。実は、アデリアはそんなに戦う事が好きではなかった。

それは、アデリアが優しい事が起因している。

魔物相手は仕方ないと割り切って戦えるが、人間同士では戦いたくない、と考えている。

これは、戦う事、強くなる事を旨とする獣人種ではかなり珍しい気質であった。

そしてカルロスは、食糧や衣類。薬と次々とアデリアに頼まれたり、家族からのお土産を倉庫に入れていくが、最後に少し怪訝な表情を浮かべて

 

「だけど、本当に要るのか? この銀貨50枚は」

 

と銀貨が詰まった革袋を差し出した。

それを受け取り、アデリアは

 

「良かった! もうすぐで払うお金が無くなるところだったよー!」

 

と満面の笑みを浮かべた。それを聞いて、カルロスは首をかしげた。今居る場所では、お金を使う機会など殆ど無い筈なのだ。

するとアデリアは

 

「うーん、そうだね……そういえば、今日がドヨウの日だし……直接見た方が良いね。カルロス、着いてきて」

 

と言って、歩き出した。それから向かったのは、普段はアデリアの修行場所として使われている岩場で、転がっている幾つもの岩に、アデリアのだろう爪痕が刻まれている。

その岩の中で、一際大きい岩の上に、黒いドアが鎮座していた。

 

「……アデリア姉、これはなんだ?」

 

「ん? 異世界食堂の入り口だよ」

 

カルロスの問い掛けに答えながら、アデリアはドアを開けた。カルロスは入る事を躊躇しているが、アデリアが

 

「ほら。早く入って! 入れなくなるから」

 

とカルロスの腕を掴み、引っ張った。

ドアを潜ると、カルロスは驚いた。アデリアの修行場所はかなり寒かったのだが、暖かかった。それだけでなく、明るい。

 

「ここが……」

 

「そう! 異世界食堂! 色んな食べ物が美味しいお店だよ!」

 

カルロスが周囲を見回していると、アレッタを見つけて

 

「アレッタちゃん! スパ……なんだっけ、芋を卵で包むやつ! あれのパーテーさいず頂戴!」

 

「はい! スパニッシュオムレツですね! 少々お待ちください!」

 

アデリアの言葉から料理を特定したアレッタは、両手にお皿を持ちながら奥へと消えた。

するとカルロスは、小声で

 

「今の、混沌の教徒だろ? 殺さなくても、いいのか?」

 

とアデリアに問い掛けた。

各神の信徒たる神官の役目は、各地で混沌の復活を阻止する為、混沌の教徒を抹殺する事。

それに従うならば、アレッタもその対象に選ばれる。

しかし、アデリアは

 

「いいのいいの! アレッタちゃん、良い子だから!」

 

と告げて、近くの空いてる席に座った。

 

(アデリア姉が言うなら、いいか……)

 

カルロスはそう結論着けて、アデリアの対面に座った。

なおアデリアとしては、変な事をして《出入り禁止》になる方が嫌だから、カルロスを止めた。

そして、久しぶりに談笑している間に

 

「お待たせしました。スパニッシュオムレツのパーティーサイズです」

 

と霊夢が、料理を持ってきた。

まず、二人の前に小さな取り皿とフォーク、ナイフを置いた。そして、大きな皿を置いた。

 

「これは、パン? ……いや、卵焼き!?」

 

カルロスは、そのサイズの卵焼きを初めて見て驚いた。

カルロスからしたら、卵を5個は使っているサイズの料理で、そんな料理を初めて見たからだ。

 

「そうだよ、凄いよね。これで、銀貨1枚なんだって」

 

そして、アデリアから告げられた値段に、再度驚いた。

カルロスが知っている値段は、卵一個で銅貨が5、6枚する。しかし、卵を5個は使っているスパニッシュオムレツが銀貨一枚という破格の値段。

アデリアはナイフで切ったひとつを、ナイフとフォークを使って、カルロスの皿に置いて

 

「さ、食べよう」

 

「お、おう」

 

アデリアに促されて、カルロスは大きく一口食べた。

 

「……ふめぇ!!」

 

初めての味に、カルロスは驚いた。

卵焼きの中には様々な具が入っていて、それらもだが卵焼き自体にもうっすらと塩味が利いていて、胡椒の辛味とほんのりとチーズの味わいが絡み合い、カルロスはあっという間に皿に置かれた一切れを食べてしまった。

 

(ダメだ、全然足りん!)

 

と考えたカルロスが、さらに切っていた時、アデリアが赤い何かをスパニッシュオムレツにかけている事に気付いて

 

「アデリア姉、それは?」

 

と問い掛けた。

 

「あ、これ? ケチャップって言って、マルメットをお酢とか色々使って作ったソースなんだって。かけると美味しいよ」

 

アデリアはそう言って、ケチャップの容器をカルロスに手渡した。

アデリアはケチャップがかかったスパニッシュオムレツを美味しそうに食べ、それを見たカルロスも僅かにケチャップをスパニッシュオムレツにかけた。

色合いはまるで血を彷彿させるが、匂いは全然違う。

酸味が利いているらしく、すっぱい匂いがする。

ケチャップが付いた部分を食べたカルロスは、驚きで目を見開いた。

確かにケチャップをかけないでも十分に美味しかったが、ケチャップの味わいが更に深みを増してくれて、ケチャップが無いと物足りなさすら感じる程だ。

 

「旨いな、これ!」

 

「だよね。大体の卵料理に、このケチャップが合うんだー」

 

まるで子供時代に戻ったかのような弟の反応に、アデリアは満面の笑みを浮かべながらスパニッシュオムレツを頬張った。

そして、半分以上食べ終わると

 

「まだ食べる?」

 

「他に、どんな料理があるんだ!?」

 

アデリアからの問い掛けに、カルロスは目を輝かせながら問い掛けてきた。そんなカルロスにクスリと笑みを浮かべ

 

「じゃあ、色々食べてみようか。後、お酒も。すいません!」

 

近くを通ったクロに、アデリアは更に追加の注文を出した。その後、後からやって来たソフィも交えて、談笑しながら料理を食べる二人だった。


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