「ではな。また来る」
「はい、ありがとうございます」
「またの御来店をお待ちしてます」
夜9時、最後のお客たる赤を見送ると
「お疲れ様、皆」
『お疲れ様でした!』
全員がフロアに集まり、片付けを始めた。
「初めての仕事、どうだった?」
「店長さんと明久さんの料理の腕に、終始圧倒されてました……お二人とも、早く正確でした……」
早希からの問い掛けに、妖夢は1日を振り返って呟いた。妖夢も料理の腕にはかなりの自信があったが、店長と明久は素早くかつ的確に調理。それだけでなく、常連の様子から野菜を多くしたりと対応していた。
気遣いとの両立、それに妖夢は少しばかり意気消沈しているらしい。
すると、霊夢が
「なに弱気になってるのよ、妖夢」
と妖夢の頬を両手で挟んだ。
「確かに、今はまだ追い付けないかもしれないわ……けど、だからって最初から諦めてたら意味ないでしょう。少しずつでもいいから、上達する。それが一番確実でしょ?」
「……うん、頑張る」
霊夢の激励に、妖夢は頷いた。それを見ていた早希が、微笑んだ時
「間違いないわ! ここじゃ!」
「本当にあったよ……」
と二人の客が入ってきた。
それは、数日前に遡る事になる。
「ああ? 料理屋を探してる?」
「そうじゃ……二三日前、知り合いのドワーフと酒盛りをしての……べろべろに酔っぱらって入った店で、上手い粥を食ったんじゃが……その店の位置や名前を覚えてないんじゃ……」
その町は、王国の王都から港の途中にある町で、それなりの規模を誇る。そんな町の衛士となれば、厄介事が持ち込まれる事が多々ある。
ウルリックはそんな町の衛士になった元傭兵で、三年程前にその町の花屋の娘に一目惚れし、傭兵から衛士になった。
そんなウルリックに、白髪と白い髭の老人。ソウジュンが頼み事を持ってきたのだ。
それが、料理屋を探してほしいというものだった。
「ドワーフと一緒に火酒を大量に飲んでたから、どんな店かは覚えてないと……」
「うむ……ただ、少し変わった店で、旨い粥を食ったのは覚えておるんじゃ……」
ソウジュンの話に、ウルリックは頭を抱えた。
ドワーフもだが、ソウジュンも町では結構知られた酒飲みで、べろべろになるまで飲んだとなると、かなり夜遅い時間だろうが、そんな時間まで経営している料理屋をウルリックは知らないし、粥を出すという店も知らなかった。
「悪いが、知らないな……」
「むう、そうか……衛士でも知らないとなると……簡単には見つからないじゃろうな……」
ウルリックの言葉にソウジュンは、肩を落としながらその日は帰ったのだが、それから数日後に事態は大きく動いた。
「はい、不法侵入で拘束する。どうせ物取りだろうが、残念だったな。ソウジュン爺さんの家には、俺らじゃ理解出来ない薬品ばっかりだ。素人が触ったら、大変な目にあうぜ」
「物取りじゃないって! 確かに勝手に入ったのは謝るけど、オイラはあの家の物置小屋にあるドアを使いたいんだ!」
「物置小屋のドア?」
一人のハーフリングがソウジュンの家の敷地に入り込もうとしたのを、ウルリックが発見し、拘束。
するとそのハーフリングは、ソウジュンの家の端にある物置小屋にドアがあると言った。
それを聞いたウルリックは、街中に居たソウジュンを捕まえて、一緒に物置小屋に向かったのだが
「このドア! 覚えておる!」
「なんだ、このドア」
「知らないのかい? このドアは、異世界食堂のドアさ。旨い飯や酒が安く食べられる店だよ。だけど、人が住んだら使えないね……今回は勝手に入ろうとしてごめんなさい。仲間達には、入らないように伝えておくよ」
とりあえず、そのハーフリングは釈放し、ウルリックとソウジュンは異世界食堂に入ったのだ。
そしてソウジュンは、戻ってきた店長に
「以前食べた粥が食べたいんじゃが、頼めるか!?」
と頼んだ。すると店長は、思い出したように
「もしかして、中華粥の事ですか? あれは元々賄い料理で、お出しするのにも少々お時間を貰いますが……」
「構わんわい! 無理言ってるのはワシじゃからの!」
店長の言葉に、ソウジュンは頷いた。
そしてソウジュンは、ウルリックを見て
「ウルリックはどうするんじゃ?」
「どうせだ。最後まで付き合うさ。それに、俺も腹減ったしな」
ソウジュンとウルリックはそう言って、近くの席に座った。そして、ウルリックにはメニューを手渡して、ウルリックはソーセージの盛り合わせと適当にお酒を注文した。
そして、約一時間後
「大変お待たせしました。中華粥です。お鍋は熱いので、こちらの取っ手以外は触らないようにして、こちらの器に盛り付けて食べてください。それと、こちらの調味料とザーサイ。揚げパンはご自由にお使いください。それでは」
とソウジュンとウルリックの前に、それなりの大きさのお鍋で作った中華粥を出した。まだグツグツと言っており、熱いからか湯気も立っている。
「旨そうな匂いだな……」
「そっちの盛り合わせをくれるなら、食わせてやるわい」
そうしてウルリックはソーセージの盛り合わせを分けるかわりに、中華粥を一緒に食べることにした。言われた通りに取っ手部分以外は触らないようにしながら器に粥を盛り付けていく。
ソウジュンは
(ああ……この味じゃ……)
プリプリのシュライプに、ホロホロで煮込まれた鶏肉。そして不思議な食感の
「旨っ! なんだこれ!? ビールにも合うし! 止まらん!」
「あ、こら! ワシの分も残せ!」
ウルリックはソーセージとビールも一緒に食べているが、がつがつと粥も食べていく。
二杯目には、ザーサイも乗っけて食べた。
ザーサイのコリコリとした食感と、ほのかな酸味。そして、ソウジュンの故郷で使われていた魚醤の風味が口の中に広がり、旨かった。
そして三杯目は、揚げパンを使って食べた。サクサクとしながらも柔らかい揚げパンで少しずつ中華粥を掬っては食べて、途中で用意されていた醤油を使って味を変えて満喫した。
そうして気付けば、それなりの大きさの鍋の中身は無くなっていた。
「ふう……満足したわい」
ソウジュンはそう呟くと、ウルリックを見て
(まあ、こやつと嫁くらいには使わせてやるかの)
と思ったのだった。