異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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ガッデムホット
お待たせしました


92皿目 アイスクリーム

「本当、毎度不安になるな……これ」

 

「そうですね。何て書いてあるのか、僕たちには分からないですから……」

 

入り口付近のボードに張り出した紙に書かれてる不思議な文字を見て、店長と明久は不安になっていた。

パソコンのファイル名は確認したが、やはり読めないというのは不安になる。

その時、ドアが開き

 

『おはようございます』

 

「おはようございます!」

 

(おはようございます)

 

と霊夢と妖夢、アレッタ、クロが入ってきた。

すると、クロが

 

(アイスクリームの種類、追加中……?)

 

と紙の文字を読んだらしい。

合っていて、店長と明久は安堵した。

 

「アイスクリームって、あれですよね? あの溶けやすい冷たくて甘いデザートの」

 

「そうそれ」

 

「一応ねこやだと、通常は三種だけなんだけど。夏だと種類を増やしておくんだ」

 

アレッタ達に説明しながら、開店準備を始めた。

そして、最初にその張り紙に気付いたのは、仲間を連れてやってきた光の高司祭。セレスティーヌだった。

 

「あの、すいません」

 

「はい、何でしょうか?」

 

そしてセレスティーヌは、近くに居た早希を呼んでアイスクリームの種類について問い掛けた。

すると早希は、アイスクリームの種類が書かれた冊子をセレスティーヌに差し出しながら

 

「こちらに書かれたものが、今の時期のみ追加されたアイスクリームになります」

 

と説明した。

セレスティーヌが知っている普段からあるアイスクリームは、バニラ、チョコ、ストロベリーの三種になる。

しかし夏季のみだが、大幅にアイスクリームの種類を増やす。これは、大樹が熱い日に来てくれるお客様の為に、何か出来る事はないか、と考えた末に行き着いた答えだった。

やはり熱い日には、冷たい飲み物やデザートがよく出る。ならば、三種だけより増やしてみよう。

最初は大樹が直接選んだアイスメーカーから仕入れていたが、フライングパピーと共同購入する事で更に安く仕入れるように出来た。

だから、大樹の時より更に種類を増やしているのが、今の店長のアイスの種類だった。

そして、それを仲間と一緒に見ていたセレスティーヌは

 

「ええ!? ラムレーズン味のアイスクリームがあるんですか!?」

 

と驚いた。

 

「はい。今年に入り増やしたそうですが、そちらに書いてあるのは全てあるそうです」

 

セレスティーヌからの問い掛けに、早希は答えた。

するとセレスティーヌは、少し考えてから

 

「では私は、パウンドケーキのセットに、ラムレーズンのアイスクリームをお願いします」

 

と注文した。

それに続くように

 

「私も同じものを」

 

「私は、パウンドケーキのティーセットに、イチゴヨーグルトのアイスクリームをお願いします」

 

「私は、パウンドケーキセットとチョコチップのアイスクリームを」

 

と注文した。

そして少しすると

 

「お待たせしました。先にアイスをお持ちしました。パウンドケーキセットは、もう少しお待ちください」

 

と霊夢がやってきて、四人の前にアイスが盛られた器を置いた。僅かに黄色み掛かったアイスの中に、見慣れた茶色い干し葡萄がある丸いアイスに、セレスティーヌは唾を飲んだ。

アイスクリームとラムレーズン自体は、よく知っている。バニラ味のアイスクリームは、乳を凍らせた菓子(再現しようとしているが、出来るのは似ても似つかない物になる)だというのは知っている。

しかし、その両方を混ぜたとなると、味の想像がつかない。

大きな期待を込めながら、スプーンで一口分掬って口に運んだ。

 

(ああ、冷たくて美味しい……)

 

期待を裏切らないその味に、セレスティーヌは感動していた。アイスクリームの濃厚なラムレーズン味わいが、口の中に広がる。

酒精の僅かな苦味とラムレーズンの強い甘味。

まるで真冬の雪のような冷たいアイスクリームは、口の中で溶けていき、口の中いっぱいに広がる。

その冷たさが、火照っていた体に染み渡るようだった。

 

「うん、美味しい。ベリーとヨーグルトの甘さと酸っぱい味は、よく合う……」

 

「やはり、このチョコレートなるお菓子は良いですわね。しかし、アルフェイド商会でも知らないとなると、私たちの世界では入手出来ないのでしょうか?」

 

セレスティーヌが堪能しているように、弟子達も自分達が注文したアイスクリームを堪能していた。

 

「うん。やっぱりあたしは、こういうお酒の風味がするのが好きですね」

 

酒好きのカルロッタが、セレスティーヌと同じラムレーズンのアイスクリームを食べている。

 

(そういえば、西の方のドワーフが果物を漬けた酒を作ってると聞いたような……)

 

商人でもある光の信徒から聞いた話を、カルロッタは思い出した。

約10年程前から、西のある島で果物を酒に浸した物を造り、販売しているドワーフが居るという。

よく知られる果物の絞り汁を発酵させた物ではなく、ドワーフが好んで造る火酒に果物を漬け込み、果物の風味を酒に移したというその酒は、砂糖をたっぷりと使っているらしく、非常に甘く女性でも飲みやすいと聞いた。

それだけでなく、酒に漬け込んだ果物も長持ちし、普通の果物には無い風味が着いて、普通の果物より高く売れるという話だった。

 

(もしかしたら、この店で出された物を誰かが再現したのかもしれないわね)

 

思えば、師たるセレスティーヌもラムレーズンを再現しようとしている。

色々な酒を取り寄せ、砂糖を取り寄せ、干し葡萄を取り寄せて漬け込んでいる。

セレスティーヌ的には失敗作と言われる物は、大事な光の神殿の収入源の一つになっているし、セレスティーヌが所属している神殿では、一丸となって再現していた。

 

(私たちも頑張って、ラムレーズンを再現しようっと)

 

そんな事を考えながら、カルロッタは更にラムレーズンのアイスクリームを口に運んだ。

 

(うん。やっぱり、酸っぱい味が甘さを引き立たせる)

 

イチゴヨーグルト味を一口一口を味わって食べながら、アンナは自身の選択が間違っていないと確信する。

アンナは甘さ単体より、甘さの中に酸味があるのを強く好む傾向があり、ヨーグルト系のデザートを好んでいる。

だからこそ、アイスクリームもイチゴヨーグルトを選んでいた。

今回頼んだイチゴヨーグルトは、ヨーグルトの白の中にイチゴの砂糖煮の赤が美しい縞模様を作り出しているが、イチゴの砂糖煮の甘さだけでなく、ヨーグルトの酸味も調和していて爽やかな余韻を口の中に残している。

 

(やっぱり私は、このヨーグルトの菓子を作りたい)

 

彼女達の世界では、ヨーグルトはそのまま食べるか、甘さを足して食べるしか知られていない。しかし店長達の世界では、一口にヨーグルトと言っても、様々な食べ方や味が工夫されている。

それを、自分達の世界でもやりたい、とアンナは考えていた。

 

(やはり、このチョコレートというお菓子は格別ですわね)

 

ジュリアンヌは、口の中で溶けていく苦さと甘さを両立したチョコレートを堪能していた。

基本となるバニラの濃厚な味とほのかな甘さとチョコレートの苦さと甘さが口の中に広がり、溶けていく。

 

(正直甘さが足りませんが、この複雑さは素晴らしいですわ)

 

アイスクリームもだが、この異世界の菓子類は貴族の中の貴族として育ったジュリアンヌからしたら、甘さが足りなかった。

しかし、様々な味が見事に調和している異世界の菓子は、自分達の世界の菓子には無い複雑な味わいがあり、ジュリアンヌは魅了されていた。

 

(それにしても、このチョコレート……私たちの世界でも再現出来ないでしょうか)

 

今まで食べた菓子の中で、ジュリアンヌが特に気に入っていたのが、チョコレートだった。

セレスティーヌの弟子たるジュリアンヌも、セレスティーヌの再現を真面目に取り組む為に、貴族の伝を頼ってアルフェイド商会に辿り着き、様々な食材を取り寄せてきた。

だが、そのアルフェイド商会でもチョコレートの原材料たるカラオ豆(カカオ)は入手出来なかった。

 

(カタリーナ様は、チョコレートの原材料はカラオ豆だ、と仰ってましたけど……)

 

そのカラオ豆という物から、アルフェイド商会は知らなかった。

 

(今度は、あの光の高司祭らしいお方にも、話を聞いてみましょうか)

 

ジュリアンヌはそう考えながら、チョコチップアイスを堪能した。

全員がアイスクリームを食べ終わったタイミングで、パウンドケーキセットが来たので、彼女達の何時ものお茶会が始まる。

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