最後のお客を見送り、少しした時。アレッタはエレベーター近くで在庫の確認をしていた。
その時エレベーターが到着した音がして、アレッタは反射的に振り向いた。
すると、エレベーターから降りてきたのは、アレッタの世界ではグールと呼ばれるアンデッドの一種だった。
「ひあぁぁぁぁぁ!?」
とアレッタが悲鳴を挙げると、キッチンの方からドタドタと走る音がして
「どうしたの!?」
「何事!?」
と早希と明久が現れ
「って……」
「店長……それ、気持ち悪いから却下って話になったじゃないですか……」
と二人はグールを見て呆れていた。
そこに遅れて、霊夢、妖夢、クロが現れると、
「やっぱダメか」
とグールが自身の頭を外して、中から店長が顔を見せた。
「自信作だったんだがな……」
「子供見たら泣きますよ、それ」
明久が文句を言っている間に、驚きで座り込んでしまったアレッタを早希が助け起こして
「ごめんね、アレッタちゃん。この時期、私たちの世界だとハロウィンっていうイベントがあってね。今年はお店側もコスプレして来てくれた子供たちにお菓子を渡すってことに決まったんだけど……店長があんなの作っちゃってね……」
と説明した。
つまり、店長の自作だと分かった。
「店長、意外と上手ですよね。そういうの」
「昔から、何か作るのは好きだったからな……リアルにし過ぎたか……」
店長は自作したグールの頭を見て、唸っている。
眼窩からぶら下がる左目に、骨が見える頬。髪が無くなり、爛れた皮膚とかなりの力作と分かる。
ひとまず、頭を棚に置いた店長が
「いや、脅かして悪かったな。アレッタちゃん。とりあえず、一足早いが……あった、はい。これ」
とアレッタ、霊夢、妖夢、クロに袋を渡した。
「これは……パンプキンフィナンシェって言ってな。今年はフライングパピーと共同で作ったんだ」
アレッタ達が首を傾げていると、店長が説明した。
恐らく、ハロウィンで配る予定のお菓子なのだろう。全体的に黄色みが強く、ハロウィン仕様なのか、様々な顔のような模様が描かれている。
「という訳で……今日の夜の賄いは脅かした罰で、店長が作ってくださいね」
「うぐっ……そうきたか……まあ仕方ないか……先に着替えていい? これ、燃えやすい素材で作ったから」
「着替えてください」
そう言って店長は、棚の頭を回収してまたエレベーターに乗ったのだった。
翌日、アレッタは別荘にやってきたシアに
「ということで、私がお世話になってます店長さんから、パンプキンフィナンシェ……? というのを貰いました」
とパンプキンフィナンシェを袋のまま、シアの前に出した。
置かれたパンプキンフィナンシェを見ながら、シアは心中で
(隠しておけば、一人で食べれたでしょうに……バカ正直な子ね、アレッタって)
と思っていた。
度々姉の生存確認の為に来るシアを、今日もアレッタが出迎えて、早速とばかりにパンプキンフィナンシェを出したのだ。
「じゃあ、この茶葉で一緒にお茶を淹れてくれるかしら? 今度新しくお店に出す試供品よ」
「あ、分かりました。ちょうどお湯を沸かしている途中だったので、すぐに出しますね!」
シアから茶葉の入った木箱を受け取ると、アレッタは台所の方に向かった。
その間に、シアは袋のままだがパンプキンフィナンシェを手に取り、様々な角度から見た。
(パンプキンフィナンシェ……初めて聞いたから、間違いなくこちらの世界には無いわね……これ、種、かしら……なんか、見覚えあるわね……)
と考えていた。
すると、如何にも高級そうな白い陶器製のお茶入れを持ってきた。それもシアからの試供品の一つで、ゴールド商会の輸入商品の一つだ。
そうしてアレッタは、バーのマスター仕込みのお茶の淹れ方を披露し、安物だが、サラがよく落とす為に重宝している木のカップをシアの前に置き
「どうぞ、シア様」
「アレッタも一緒にお茶しましょう。気兼ねなくね」
「あ、はい。分かりました!」
シアの言葉にアレッタは、台所からもう1つ木のカップを持ってきて、お茶を淹れた。
「それじゃあ、いただくわね」
シアはそう言って、ビニールを開けて、中からパンプキンフィナンシェを取り出した、
こうして、二人だけだがお茶会が始まった。
(これも不思議よね……袋と分かるけど、私たちの世界だと見たこと無いし、縫い目も無いし、口も無いのに、中に入ってる……魔術師達が見たら、高値で買いそうだけど……)
シアはビニールを見ながらそう考えるが、すぐに意識をパンプキンフィナンシェに戻して
(焼き菓子よね……? 少し柔らかいけど)
と少し困惑していた。
シアが知っている焼き菓子といえば、硬いのばかり。
しかしパンプキンフィナンシェは、かなり柔らかい方だった。
表面は何か顔のような模様だが、裏面には
(美味しいのは、間違いないんでしょうね)
今までアレッタが持ち帰ってきたお菓子類が美味しかったので、不味いとは考えていないシアだった。
口に運ぶと、ホロホロと崩れるパンプキンフィナンシェ。
一番最初に感じたのは、強い甘味を含んだ油。バターの味だった。
(バターをふんだんに使ったのね……)
バターは高級品で、貴族向けならばあるが、大量に菓子に使うような物ではなく、採算性が釣り合わない為に使われていないのだが、それがじわじわと口の中に広がっていく。
砂糖は控えめだが、大量に使われているバターが焼かれた事で香ばしい風味となり、口の中に広がる。
(砂糖控えめなのに、甘いわね……素材の味かしら……)
野菜のような風味を感じるが、それが普段と違う味わいとなって、シアを魅了する。
二口目で種を齧ったらしく、香ばしい風味の中に僅かに塩味を感じた。
甘味の中に突如感じた塩味に少し驚いたが、不快にはならず、むしろ楽しいとすら思えた。
「あの……どうでしょうか、シア様」
シアがずっと無言だったから気になったアレッタが声を掛けると、シアはハッと我に返り
「勿論美味しいわ……本当に、この菓子を作った職人は天才ね……アレッタも食べなさい」
シアに促されて、アレッタもパンプキンフィナンシェを一口食べた。
普段なら食い意地の張っている
大商会の娘たるシアからしたら、お茶会など日常の一つと言える。
しかし貴族同士のお茶会というのは、腹の探り合いである為に気を抜く事が一切出来ないのだ。
しかし、根がバカ正直かつ真面目で優しいアレッタ相手に、そんな必要はなく、シアは年相応にお茶会を楽しむ事にしたのだった。