異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

127 / 143
96皿目 カオマンガイ

「暑い、焼ける、焦げる、灰になる……」

 

「先輩、頑張ってください」

 

少しだらしない少年、暁古城(あかつきこじょう)と美少女の姫柊雪菜(ひめらぎゆきな)が居るのは、暁の帝国の絃神市国だ。

絃神市国は日本本土から、南に約300km離れた人工島で、少し前までは日本の領土だった。

しかし、第四真祖(・・・・)の古城が領主となって日本から独立し夜の帝国(ドミニオン)になったのだ。

世界に四人しか居ない、吸血鬼の祖。その最後の一人が、古城だった。

一応まだ高校生なので、高校に行ってから執務をしており、吸血鬼じゃなかったら過労死している可能性も高い。

それはさておき、今二人は執務も終わって帰っている最中だ。

 

「腹減った……あー、でも凪沙は部活で日本本土に行ってるんだったな……」

 

「はい。チアリーディング大会に出場する為に、日本本土に行っています」

 

凪沙というのは、古城の妹だ。少し前まである理由で体が弱く、時々入院していた。だが元気な妹で、部活はチアリーディング部に所属。

今はアジア大会が開かれている日本本土に行っている。

問題は、妹が家での家事全般を担っている事だ。

一応補足すると、古城も家事は得意である。

しかし吸血鬼になってからは、どうにも気だるく、やる気が出ないでいる。

 

「さて、飯はどうすっかな……」

 

そう言いながら古城は、家のドアを開けて、固まった。

 

「なんだ、この魔力は……」

 

家の中に、異様な魔力が充満していた。それは、後から入った雪菜も気付いたようで、背負っていたギターケースから素早く雪霞狼を展開し、構えた。

 

「凄まじい魔力ですね……これは、真祖並みです」

 

「だな……だが、入国局からは誰か来たなんて聞いてないぞ」

 

古城と雪菜の二人は、警戒しながら中に入った。

そして、居間でそれを見つけた。猫の彫刻がある看板が掛かった黒い扉だ。

 

「なんだ、このドア……」

 

「洋食のねこや……って書かれてますね……レストラン……でしょうか」

 

初めて見る扉に、古城と雪菜の二人は困惑していた。

何故人の家の居間にある、とか考えていたのだが、古城と雪菜の腹はかなり限界に近い。

古城は頭をガリガリと掻いてから

 

「なあ、ここで飯にしないか?」

 

「……入ってみましょうか……」

 

簡単に言うと、深く考えるのも馬鹿馬鹿しくなり、二人は構えを解いて扉を開けた。

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ」

 

そんな二人を出迎えたのは、早希だった。

しかし古城と雪菜は、店内に居る様々な見た目の魔族に驚き、固まっていた。

そこに、店長が現れ

 

「どうしました?」

 

と二人に声を掛けた。

そして

 

「ほう……人間と魔族が共存する国……」

 

「はい。俺はその国のトップの暁古城です」

 

「私は……血の伴侶の一人。姫柊雪菜です」

 

店長からの問い掛けに、古城はまだ慣れてない様子で、雪菜は少し恥ずかしそうに答えた。

なお古城は、吸血鬼と説明し、鋭い犬歯を見せている。

 

「血の伴侶ってことは、奥さんってこと? 若いね」

 

「やむにやまれぬ事情ですね……」

 

店長の言葉に、雪菜は顔を赤くした。

そして、店長は

 

「何か食べますか? メニューに無くても、ある程度は作れますよ」

 

と二人にメニューを差し出した。

二人に出したのは、普通のメニューだ。

 

「おー……品揃え豊富だな」

 

「本当ですね。悩んでしまいます」

 

悩み始めた二人を見て、店長は

 

「ゆっくり決めていいからな。決まったら、近くの店員に言ってくれな」

 

店長はそう言って、二人が座っていた席から離れた。

見送った二人は、改めてメニューを見詰めた。

 

「あ、先輩。これどうでしょうか?」

 

「ん? ……あー、良さそうだな。それにするか」

 

雪菜が選んだ料理を受け入れて、古城は近くを通っていたアレッタに注文した。

そして、十数分後。

 

「お待たせしました、カオマンガイです」

 

と二人の前に、料理が運ばれてきた。

 

「熱いので、お気をつけください。それでは、ごゆっくり」

 

霊夢が下がると、二人は料理を見た。

タイの代表的な料理の1つ、カオマンガイ。二人も名前は知っていたが、食べるのは初めてである。

少し茶色く見えるご飯の上にタレが掛けられたチキンと野菜が乗っていて、彩りも豊かだ。

 

「良い匂いですね」

 

「だな。早速食うか」

 

古城はそう言って、霊夢が置いたフォークを持った。

まず古城は、ご飯を口に運んだ。すると口の中に、ご飯の甘味の他に鶏の風味が広がった。

 

「このご飯、鶏ガラで炊いてあるのか」

 

「ですね。鶏ガラの炊き込みご飯のようです」

 

鶏ガラで炊いたご飯というのは、日本では非常に珍しく、二人も予想していなかったようだ。

次に古城が食べたのは、チキンだ。

見た目的には、普通に煮たチキンに見える。一口食べて、古城は驚いた。

鶏肉はしっとりジューシーで、口の中にニンニクの風味が広がる。古城は吸血鬼な為にニンニクは多少苦手だが、そこまでキツくないので大丈夫だった。

むしろ、そのニンニクの風味が食欲を増加させる。

それに調和するように、甘辛いみそダレが絡み合う。

時々添えてある野菜を食べて、辛さをリセット。そこから、ご飯とチキンを一緒に食べる。

気付けば、古城はカオマンガイを掻き込むように食べていた。

そして、あっという間に食べ終わり

 

「旨かった……」

 

「本当ですね」

 

二人は満足感を覚えながら、水を飲んでいた。

すると、明久が近寄り

 

「こちらをどうぞ」

 

と二人の前に、ビニール袋に入った紙箱を置いた。

 

「これは……」

 

「店長から話は聞きました。国の代表とその奥さんなんですよね? だったら、忙しいかと思いましてね。サービスのおにぎりセットです」

 

雪菜が明久を見ると、明久は笑みを浮かべながら説明した。実際二人はかなり忙しく、時々夜中に呼び出される事もあった。

 

「ありがとうございます」

 

雪菜が頭を下げた時、古城があっと声を上げた。

 

「先輩?」

 

「姫柊……俺達、金持ってないぞ」

 

「あっ」

 

古城の言葉に、雪菜は顔を青ざめた。

絃神市国は、少し前まで日本の領土だったので、使うお金は基本的に円になる。

しかし絃神市国は、最近IDカードによる支払いが主流になってきており、古城と雪菜もそれによりIDカードしか持っていなかったのだ。

一応家には財布があり、そちらには現金もある。

 

「ああ、でしたらツケで構いませんよ。次に払っていただければ」

 

「本当ですか?」

 

明久の言葉に、雪菜は思わず問い掛けた。

 

「ええ。異世界に繋がる店なんですが、時々何らかの理由で財布を持ってないって人も居ます。そういう人の為に、ツケもOKにしてるんです」

 

明久がそこまで説明すると、二人は顔を見合わせて

 

「すいません」

 

「次には持ってきます」

 

と頭を下げた。

 

「ええ、大丈夫ですよ。あ、もしかしたら店長から聞いてるかもしれませんが、一回扉が現れたら、一週間に一回来れるようになりますよ」

 

明久はそう二人に説明し、退店する二人を見送った。

二人は、消えていく扉を見ながら

 

「時々行くか」

 

「次は、凪沙ちゃんや藍羽先輩達と来ましょう」

 

と話し合った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。