異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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99皿目 ジャーキー

「あ!? お客様、忘れ物!!」

 

皿を下げる為に一つの机に近寄った早希は、椅子の下に麻袋がある事に気付き、扉を開けた客。アデリアに大声で知らせたが、アデリアはもう扉を越えていた。

アデリアも忘れ物に気付いたらしく、あちゃーという表情を浮かべていて、扉はしまった。

閉まってしまったからには仕方なく、早希は袋の中を見た。葉っぱで包まれているが、隙間からピンク色の肉が見える。

 

「う……結構重い……」

 

「どうした?」

 

「あ、叔父さん……アデリアさんが、荷物を忘れて……しかも生肉みたいで……」

 

早希が大声を出したからか、店長がキッチンから出てきて早希に訪ね、早希はアデリアが忘れた荷物を見せた。

クロの協力でキッチンまで運び、麻袋から出したら、それは確かに生肉だった。

しかし、今まで様々な食材をトマスやシリウスを通じて入手してきたが、その生肉は初めて見た。

しかしそれも無理はない。その生肉は、飛龍。ワイバーンの肉だからだ。

何故アデリアがワイバーンの肉を持っていたかと言えば、前日に近くの村からワイバーンが現れたから、退治してほしいと頼まれたのだ。

基本的に戦う事は好きじゃないアデリアだが、かといって村人を見捨てる訳にもいかないから、ワイバーンを退治した。

神たる六龍によく似ているが、全然違うのがワイバーンで、知性も理性もなく、ただただ暴れまわり、人々や動物に危害を加えるのがワイバーンである。

ただし、ただの害獣という訳ではない。

鱗は並の鎧より硬い防具になり、翼膜は防寒性や断熱性が優れた頑丈な外套に、骨や腱は強力な弓の素材になる。そして肉は、非常に美味なのだ。

助けられた村人達は、お礼に肉だけでも、と大量の肉をアデリアに押し付けた。しかし悲しいかな、アデリアには高度な調理技能は無かった。

そこでアデリアは、翌日が異世界食堂に行ける日という事を思い出して、店長達に頼もうと思って持ってきていたのだ。

だが、料理に満足してしまい、肝心なワイバーンの生肉の事をすっかり忘れて退店してしまったのだ。

 

「どうします? 冷凍にしますか?」

 

「いや、此方では良くても、向こうには冷蔵庫はまだ無いからな……冷凍されたら、基本的には一気に使うしかないみたいだ」

 

明久からの問い掛けに、店長はそう返す。すると、アレッタが

 

「はい、その通りです。一応最近、少しずつですが長期保存出来る魔道具は増えてきてますが、凄く高いみたいで……」

 

因みにだが、魔法使いでも長期保存や冷凍出来るのはほんの一握りだけらしく、使えるのはエルフやフェアリー、導師や賢者と呼ばれる魔法使いのみとなる。

 

「ふむ……ジャーキーにしてみるか」

 

「え、叔父さん、作れるの?」

 

店長の呟きに、早希が驚いた表情をしていた。

 

「ああ。昔、じいさんが生きてた時に何回か一緒に作った事がある」

 

先代店長。大樹は、常に新しい料理を作る事を忘れず、様々な料理に挑戦してきた。知らない料理がテレビで紹介されたら、あらゆる手段でレシピや調味料を集め、再現してきた。

 

「まあ、中には買った方が安く済む、って判断して作らなくなった物もあるけどな……ジャーキーに関しては、時々やってたな」

 

材料費やら何やら考えたら、買った方が安い。と判断したのも幾つかあるが、その中で時々やっていたのが、ジャーキーを含めた燻製だった。

 

「それに、燻製もまたやりたいって考えてたしな」

 

「あ、僕も付き合っていいですか? 挑戦したかったので」

 

そうして、二人でジャーキー作りが始まった。

会場は、ねこやのあるビルの屋上だ。流石に屋内だと、火災報知機が作動してしまう可能性があるので、ビルの管理人に頼んで鍵を借りた。

先ずは肉を食べやすいサイズに切り分け、ある程度下処理をした。この場合、知り合いの肉屋に頼んで、寄生虫が居ないか確認したり、変な病気がないかの確認だ。

それが終わると、特製のタレにつけて、昔に使っていた燻製器に吊るし、買ったチップで燻し始めた。

 

「なんか、キャンプみたいですね」

 

「確かにな」

 

二人は楽しみながら、次々と燻し続けた。

そして、二週間後。

 

「うー……なんか、入りづらい……」

 

前回忘れ物をした事でお店に迷惑を掛けた、と思っているアデリアは、ドアの前でうろうろしていた。

そうして一週間前は、気付いたら夜になっていて、入りそびれてしまった。

 

「って、ダメダメ……また夜になっちゃうし……ヨシッ!!」

 

自分の頬を強く叩いて気合いを入れたアデリアは、ドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ……あ、アデリアさん!」

 

「や、やあ……アレッタちゃん……」

 

出迎えたアレッタは、アデリアが近くの椅子におずおずと座ると

 

「前回忘れてしまったお肉なんですが」

 

とアデリアに切り出した。

するとアデリアは、頭を下げて

 

「実はねあのお肉で、何か作ってもらおうと思って持ってきたんだ」

 

と説明した。すると、明久がトートバッグを持って現れて

 

「じゃあ、丁度良かった。実は保存食を作ったんだ。ただ、使った事の無いお肉だったので、店長が食べて感想を欲しいって言ってましてね。」

 

と告げた。

 

「保存食? 干し肉とか?」

 

「ジャーキーって言ってね。干し肉に近い料理だよ」

 

「一応私たちで味見しまして、美味しかったです!」

 

アレッタがそこまで言うと、明久は

 

「とりあえず、先にこちらはお渡ししておきます。今日は何を注文しますか?」

 

と何時ものやり取りを始めた。

翌日、アデリアはトートバッグの中から紙の箱を複数取り出し、中を見た。

見たことの無い透明な袋に大量に入っている。

帰り際に見せられた方法で、開けたり閉めたりを繰り返してから、改めて中からジャーキーを取り出した。

実はアデリアは、干し肉が苦手なのだ。

水分が無くなるまで干しているのでパサパサしていて、口の中の水分が無くなってしまう。

ただ、ジャーキーは違う。どんな味付けにしたのか分からないが、ピンクだったお肉が赤黒くなっているし、表面には何か粒々したのが付着している。

しかし、匂いで分かった。

 

トガラン(トウガラシ)ガレオ(にんにく)……それに確か……ショーユってやつの匂いだ……」

 

ずいぶん前に店長から教えてもらった調味料で、かなり塩気が強く、あのお店にしては強い味付けだな、って思った記憶がある。

しかし、確かに不思議なお店だが、不味い料理は出さないから、試しに食べてみようとアデリアは判断。

 

(よし、一つ食べてみよう)

 

と持っていたジャーキーを食べた。最初は干し肉に近い食感だが、パサパサはしていなかった。

しかしすぐに、醤油のしょっぱい味が口の中に広がる。

 

(うっ……やっぱりしょっぱい……それに、トガランやガレオも……)

 

獣人族のアデリア、というよりも狼人族や犬人族は基本的に匂いが強い食べ物は忌避する傾向がある。これは、嗅覚が優れているからだ。醤油もだが、トウガラシやにんにくはかなり匂いが強い為に、どうも食べる気になれなかったのだ。

しかし、噛み続けていたら、変化があった。

 

(あ、美味しくなってきた……)

 

口の中で様々な味が混ざりあい、調和している。

そうして夢中になっていたら

 

「あ……もう一袋無くなった……」

 

気付けば、一つの袋分を食べきってしまった。

しかし、まだまだジャーキーの入った透明な袋(ジップロック)はある。

 

「うん……次に入手出来たら、今度はお金を払って頼もう。そして、カルロスにお願いして故郷に持っていってもらおうかな」

 

中々手に入らないワイバーンの生肉だが、次からは積極的に狩りに行こうかな、とアデリアは考えた。

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