異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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106皿目 リンゴとサツマイモのタルト

 

 

 

「ふむ……まだまだだな……」

 

そう呟くのは、垂直に上昇している光の高司祭のアントニオだ。彼の僅か下には、失速しつつあるアントニオの息子。グスターボの姿があった。

ようやく青年と呼べる年齢のグスターボは、アントニオと同じ光の龍を神と崇める若手の神父である。

グスターボも最近になり、アントニオと同じように龍の翼を出せて飛べるようになったという。

今日はそのお祝いに、異世界食堂に案内するつもりだ。

 

「ここまでだな」

 

アントニオはそう言うと、落ちそうになったグスターボの首根っこを掴み

 

「まだまだ、修行が足りないな。励め」

 

「は、はい……父上……」

 

息も荒いグスターボを抱えて、アントニオは一息に目的地たるねこやの扉のある崖に立った。

 

「父上……こ、この扉は……」

 

「異世界食堂の扉である」

 

グスターボからの問い掛けに答えながら、アントニオは扉を開けた。

心地良いベルの音がして

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

入った二人を、アレッタが出迎えた。

そして、アレッタに空いている席に案内され

 

「ご注文は……」

 

「予約の物を。それと、温めたミルクを頼む」

 

アントニオの注文を聞いたアレッタは、頷いてからその場を離れた。見送ったグスターボが

 

「父上、今の娘……混沌の民ですよね? 対処しなくて、良いのですか?」

 

「構わないのである。それどころか、この店に迷惑を掛ける方が申し訳ない。この店には、神が直接来る……神に泥を塗る訳にはいかない」

 

グスターボからの問い掛けに、アントニオは毅然と答えた。そして、周囲に居る吸血鬼や黒の神官を気にしているグスターボに

 

「今日は、お前が翼を得た記念だ。今から運ばれてくる料理を楽しみなさい」

 

と告げた。

その僅か後

 

「お待たせしました、リンゴとサツマイモのタルトとホットミルクです。ごゆっくりどうぞ」

 

と早希が二人の前に、円形のタルトとカップに入ったホットミルクを置いた。

 

「この黄金色は……クマーラ、ですか?」

 

「そうだ。ここの店長に何か、クマーラを使った記念に良い品があるか、と聞いたら、このタルトとやらを教えてもらった」

 

グスターボに答えながら、アントニオは切られていたタルトを皿に乗せて、グスターボの前に置いた。

正直に言うと、アントニオも初めての品だが、スイートポテトの味を知っているので、不安は無い。

 

「さあ、食うとしよう……このままは、酷であろう」

 

育ち盛りで食べ盛りのグスターボに、食べるな、というのは残酷極まりないだろう。

 

「お前から先に食え。此度はお前の祝いだからな」

 

「わ、分かりました……」

 

アントニオに促されて、グスターボはフォークで尖端部分を小さく切った。

 

(こんな綺麗な黄金色のクマーラは初めてだが、簡単に切れる位に柔らかい……不思議だ)

 

グスターボはそう思いながら、切った部分をフォークで刺して、ゆっくりと口に運んだ。

その直後、口のいっぱいに濃厚なクマーラ(サツマイモ)の風味と甘さが広がり、すぐにアザル(リンゴ)の甘酸っぱい風味が和らげ、調和する。

 

「こりゃ美味い……」

 

それしか、言葉が出なかった。

初めての美味に、グスターボが固まっていると

 

「ふむ、では我も」

 

とアントニオも口に運んだ。

 

(これはイカン……)

 

初めて食べたタルトの味に、アントニオは驚いた。

初めてスイートポテトを食べた時もそうだったが、まだまだ異世界食堂には美味な菓子が有ると思った。

 

「父上……この店には、こんな美味い菓子があるのですね……」

 

「そうであろう。我も驚いている……次は、我がよく食べるスイートポテトを一緒に食べよう」

 

アントニオはそう言いながら、グスターボを見て、驚いた。

なんとグスターボは、短い間に3切れ目を食べようと腕を伸ばしていたのだ。

 

(イカン。ボヤボヤしていたら、グスターボに食べられてしまう)

 

アントニオとしてはゆっくりと味わいたかったが、グスターボの食べる勢いに取り分が減ってしまうと考えて、食べるペースを上げた。

小一時間後、タルトを食べ終わった二人は、結局追加でスイートポテトを注文して食べた。

 

「馳走になった、店主……一つ聞きたいが、最初のタルト。持ち帰りは出来るか? 金は払う」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

店長がそう言ってアレッタに指示すると、アレッタは紙の箱を持って現れた。その紙の箱を丁寧にアントニオに差し出し

 

「どうぞ。リンゴとサツマイモのタルトのお持ち帰りの分です」

 

「うむ、ありがたい」

 

受け取ったアントニオは、懐から取り出した財布からお金を取り出し、店長に渡した。

 

「確かに……では、またのご来店をお待ちしています」

 

料理を運んで現れた明久や霊夢、妖夢にも見送られて、アントニオ達は退店した。

消えていく扉を見ながら、グスターボは

 

「不思議な店でしたね、父上……」

 

「そうだな。だが、確かな事がある……旨い料理を出す店では、争いなど起こらない……さあ、帰ろう」

 

また翼を出して、二人は家がある崖下に降りていった。

 

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