来年も、よろしくお願いします
「お、雪が降ってる……寒い訳だ」
倉庫の窓から外を見た店長は、雪が降っている事に気付いて、溜め息を吐いた。
もうすぐ年が変わる年末。今日も今日とて、異世界食堂は開店する。
「店長、年始用の小豆、ありました」
「お、ありがとう。後は……」
店長は霊夢と一緒に、倉庫で必要な食材を探していた。
そして、順調に営業していき、最後の客も帰ったのを確認し
「うし……今年一年、皆お疲れ様でした」
『お疲れ様でした!』
「今年一年、皆の協力もあって無事に終われました。また来年も、よろしくお願いします」
『はい!』
店長は、そこで一度ポンと手を叩いた。
「今年はちょっと年越しそばは間に合わなかったんだけども……代わりに、お鍋にしました」
と言った。
そして十数分後、机の上に置いた2台のガスコンロの上に、それぞれ大きな土鍋が置かれた。
「今回は……ミルフィーユ鍋だ」
店長と明久が蓋を開けると、中は白菜と豚バラ肉を潤沢に使ったお鍋だった。
ミルフィーユ鍋はミルフィーユケーキから着想を得て、白菜と豚バラ肉をまるで樹木の年輪のように重ねてお鍋の中に敷き詰めてから、煮込んだ料理である。
そもそもミルフィーユというのは、フランス語で千枚の葉っぱという意味があり、フランスでは重ねている、という風に使われる言葉らしい。
「こんなに白菜と豚肉を使ったお鍋が……」
「聞いた事は有りましたが……」
妖夢は土鍋満杯の白菜と豚バラ肉に驚き、早希は初めて見たお鍋に驚いていた。
「一応味鶏ガラベースの醤油で煮込んであるが、お好みでポン酢も使ってみてくれ」
「分かりました!」
「それじゃあ……いただきます」
『いただきます!』
何時もの言葉を紡いだ後、それぞれ器によそってから食べ始めた。
「白菜と豚肉だけで、こんなに美味しいんですね……」
「本当です!」
「けど、鶏ガラが良い出汁になってます……」
「ポン酢でサッパリして、美味しいわね……」
ミルフィーユ鍋は中々に高評価で、店長は安堵した。
実はミルフィーユ鍋だが、店長も今回が初挑戦の料理だった。
使う材料は白菜と豚バラ肉のみというシンプルさ故に、料理人の腕とセンスが問われる鍋料理でもある。
「上手くいって良かった」
店長は小さく呟きながら、また一口口に運んだ。
一度新しく入れてからまた煮込み、それすら食べ尽くすと
「んじゃ、締めはおじやで行くぞ」
店長はそう言って、残った出汁にご飯を入れて、火力を調節。煮立ち始めたら、溶き卵を回すように入れてから、新しく豚小間肉を入れる。
そこから数分間煮込んで、最後に三つ葉を乗せたら完成だ。
「熱いから、気を付けてな」
「はい、霊夢ちゃん」
「ありがとうございます」
明久と店長が全員の器によそい、口に運んだ。
「お米に素材の味が染み込んでて、凄く美味しいです」
「私達が知ってるお鍋と、全然違うわね」
妖夢と霊夢は、幻想郷では和食が中心な為に、当然鍋料理も知っている。しかし、初めての味に感嘆していた。
そうして、土鍋一杯に作ったおじやも完食して
「来年も、またよろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
ねこやの一年間の営業は、平和に終わった。