東大陸では珍しい山脈地帯にある小国。そこの第ニ王子のアルフリートは、先祖伝来の家宝の名剣たるミスリルの剣を片手に、警戒しながら《菜園》を歩いていた。
アルベルトの国には、菜園と呼ばれる古代遺跡が存在する。その菜園は、遥か古代に古代エルフ達が、古今東西の珍しい植物を集め、独占的に栽培しようと建設した施設が由来だとされている。
千年以上も放置された今は、管理の為に造られ放置された無数の古代ゴーレムや、菜園に住み着いた獣型や虫型の魔物。果てには巨大化した危険な植物型の魔物が無数存在する、国内でも随一の危険地帯でもあった。
「本当に、こんな場所にあるのか……?」
アルフリートは自分の首目掛けてツルを伸ばしてきた植物型の魔物を切り裂き、一人呟いた。
それは、今や国王となっている自分の父親。アルベルトから聞いた話だ。
菜園の中心に、異世界食堂に繋がる黒い扉がある。
国王になったからもう何年も行けてないアルベルトが、悔しそうにしながらアルフリートに一回だけ語った事だ。
そのアルベルトは、度胸試しに突入して見つけたという。
巡回していた古代ゴーレムを、植物の陰に隠れてやり過ごし、獣型の魔物を切り捨てて進むこと、十数分後。
「……本当にあった……」
菜園の中心、恐らくは綺麗な噴水広場だったと思われる広場の今は枯れた噴水の前に、その扉はあった。
念の為にアルフリートは周囲に魔物が居ないか確認しながら近づき、ミスリルの剣を鞘に納めてから扉を開けた。
「いらっしゃいませ。洋食のねこやにようこそ」
そう出迎えたのは、店長だった。
「本当に、菜園から来れた……」
「菜園? ……もしかして、アルベルトさんのお知り合いで?」
アルフリートの言葉を聞いた店長が確認すると、アルフリートは
「父上を知っているのか?」
「俺は先代から聞いたんですがね? ぶつくさ文句を言いながらも、よく来る客が居たって。それで、アルベルトさんは?」
「父上は国王になったから、来れなくなってな……私は、その父上が気まぐれに語った言葉を聞いて、本当にあるか確認しに来たのだ」
アルフリートの言葉に、店長は安堵した。
店長達からしたら、彼らの世界は非情な世界で、つい一週間前に来店したお客が、二度と来れなくなる可能性が高いというのは分かってる。
それでも、何時までも来て、美味しく料理を食べてほしいと願ってしまう。
「では、お好きな席へどうぞ。後ほどお冷とメニューをお持ちしますので……」
「いや、注文は決まっている。ポークチャップ、とやらを頼む」
「承りました。少々お待ちください」
店長はキッチンに向かい、アルフリートは近くの空いてる席に座った。
そして、周囲の他の客を見て
「……確かに、父上の言った通りだな……客層が謎過ぎる……」
タツゴロウやハインリヒ、アルトリウスは分かる。
そして、ドワーフのガルドとギレムやハーフエルフのヴィクトリアはまだ分かる。
しかし、ガガンボやライオネルが居るのが、アルフリートには分からなかった。
だが全員に共通しているのが、幸せそうに料理を食べている事だった。
「……異世界食堂か……なるほど……異世界だから、か」
アルフリートはそう呟きながら、霊夢が置いた水を一口飲んだ。
待ってる間、アルフリートはアルベルトから聞いたポークチャップの話を思い出した。
ポークチャップは豚肉と、アルフリートの国でしか作られない
話を聞いただけだから、どんな料理か予想出来ない。
楽しみに待っていると
「お待たせしました、ポークチャップです。こちらのパンとスープはおかわり自由ですので、おかわりの時はお声がけください。それでは」
とアレッタが、アルフリートの前に料理を置いて離れた。
見送ったアルフリートは、改めて料理を見た。
全体的に赤みが強い料理で、その色合いは確かにアルフリートもよく知るマルメットに近い。
「さて、どんな料理なのか……」
アルフリートはフォークとナイフを取り、皿を見つめた。
そして先に、付け合わせの野菜から一口食べた。
その野菜は、アルフリートの国でも作られている
だが、すぐに違いに気付いた。
「な、なんだ、これは!?」
(瑞々しさもだが、甘さも違う! 同じ野菜なのに、何故だ!?)
アルフリートの国は、様々な野菜の生産と専売契約が獲得資金の大きな割合を占めており、それもあって年々野菜の改良をしている。
だがそれでも、提供されている野菜には敵わない。
次に白パン。柔らかくモチモチしていて、一口食べると甘さを感じる。
(材料は同じ筈なのに、どうしてこうも味が違うのだ!?)
そしてスープは、黄色いスープ。コーンスープなのだが
(この小さな粒も、野菜か? 見たことない野菜だ……アルフェイド商会に聞いてみるか)
と考えながら、一口飲んだ。
そして濃厚なスープと、シャキシャキかつ甘いコーンに驚いた。
そうして、いよいよメインの肉になる。
分厚い肉にフォークを刺し、ナイフを入れたのだが
(柔らかい! 野生の豚は、堅い肉質なのに……!)
まず、豚肉の柔らかさに驚いた。
アルフリートは王子だが、小国な為に害獣駆除等で陣頭指揮を執る事も多々ある。
そんな時、倒した豚や鹿、熊を食べる事もあり、その肉質の硬さを知っている。
しかし、目の前の豚肉は驚く程柔らかい。
その豚肉を、口に運んだ。
(これは美味い!! 脂がしつこくないし、マルメットのソースが調和している!)
肉に絡まっているケチャップの酸味が、脂っこさを緩和している。そこでアルフリートは思い付きで、残っているパンの一つを半分に切り、そこに肉とタマナを挟んだ。
ゴクリと唾を飲んでから、一気に半分齧り付いた。
(美味い! これは止まらない!!)
アルフリートは急いで、パンとスープのおかわりを頼んだ。
その後食べ終わり、コーヒーを頼んで一息吐きながら
(帰りはまた、気が抜けない時間がくる……うーむ、口の堅い護衛を頼むべきか?)
と悩んでいたのだった。