「こ、米を使った料理……で、ございますか」
アルフェイド商会帝国は帝都支店長のリンダ・アルフェイドは西大陸は砂の国から来たという褐色肌の大使から、注文を聞いた。
「うむ、そうだ。正式に帝国の姫と我が国の王太子殿下の婚約が決まり、近い内にこの帝都にある大使館にて各国の大使館の代表を招いたパーティーが開かれる。それに見合う料理を出したい」
「砂の国を彷彿させる料理を、という事でございますね……」
大使の堅い表情に気付いたリンダの言葉に、大使は頷いた。
「うむ……そちらは海の国の料理も知ると聞く……なれば、砂の国の料理も再現出来るやもしれん……出来るなら、あそこの料理人達を連れてこれれば良かったのだが……」
大使はそう言うと、机の上のベルを取り鳴らしながら
「アイーシャ! 来なさい!」
と呼んだ。すると、ドアが開いて静かに入ってきた。
(へえ、これは中々……)
その少女は褐色肌に艷やかな長い黒髪の美少女で、その後ろには帝国出身と思える執事も居た。
「なんでしょうか、お父様」
「彼女を、あの店に連れて行きなさい。確か、今日がドヨウの日だっただろう?」
(ドヨウの日?)
大使の言葉に、リンダは内心で首を傾げた。
するとアイーシャは
「確かに今日ですが、よろしいのですか?」
アイーシャの問い掛けに大使が頷くと、アイーシャはリンダに歩み寄り
「よろしければ、これからご一緒にお食事でもどうですか?」
とリンダに問い掛けてきた。
「はい、お供します」
そう言うと、リンダは大使に会釈して大使館から出た。
リンダ・アルフェイド
アルフェイド商会のシリウスの親戚に当たる人物で、長年帝国帝都支店の支店長をしてきた一家の次期店長だ。
母親から今回の一大取引を任され、緊張しながらアイーシャの後ろに続いていた。
「流石に、まだ朝は寒いですね。大丈夫ですか?」
「はい。私も、帝都に住んで長いので」
アイーシャからの問い掛けに、リンダは答えた。
そして、周囲を見回し
「こんな場所に、料理屋があるのですか?」
「ええ。そこは少々、風変わりなお店でしてね」
リンダからの問い掛けに、執事が答えた。
今三人は、帝都の路地裏を歩いていた。なんでも、アイーシャと執事の話では、その路地裏に美味しい食事を出す料理屋があるらしいのだが、リンダからしたら信じられず、そんな料理屋があったら噂に聞いていると思ったからだ。
「あちらです」
「なんですか、あのドアは……」
執事の指差した先には、黒いドアがあった。
「洋食のねこや。通称、異世界食堂です」
アイーシャはそう言って、ドアを開いた。
「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」
三人を出迎えたのは、アレッタだった。
「お召し物、お預かりしますか?」
「ええ、お願いするわ。リンダさんもどうかしら?」
「え、ええ……お願いします」
「はい! 分かりました!」
三人が着ていたロングコートを預かり、ハンガーに掛けると、アレッタは
「では、お席にご案内します!」
と三人を空いてる席に案内した。
「こちら、メニューになります! 注文が決まりましたら、お呼びください!」
アレッタはメニューを置くと
「はーい! すぐ伺います!」
と離れていった。
するとリンダは、小声で
「先ほど、ここが異世界食堂と言っていましたが……」
「はい。このお店は、私達からしたら異世界にあります。ここで出される料理は、全て美味です」
「そしてこのお店では、料理人達の方針で全ての客に平等に料理を出してくれます。それは、周りを見れば分かるかと」
アイーシャと執事の言葉に、リンダは頷いた。
それは、先ほど案内してくれたアレッタからも分かる事だった。
リンダは母親の指示で、一時期行商人として東大陸の各地を巡った事があり、その過半数を超える場所で、アレッタのような半魔族は散々な扱いをされ、ボロボロだった。
しかしこの店では、身綺麗な格好で笑みを浮かべていた。そこからも、この店が違うのが分かった。
「すいません!」
「はい、なんでしょうか?」
執事が呼ぶと、早希が歩み寄ってきた。
「今日は、エビドリアを三人分お願いするわ。後で色々追加するかもしれないけど、とりあえずはそれで」
「はい、畏まりました」
アイーシャからの注文を紙に書いて、早希はキッチンの方に向かっていった。
「エビドリアとは、米を使った料理なのですか?」
「ええ。私達には作れないけど、そちらなら作れると思っています」
リンダからの問い掛けに、アイーシャは笑みを浮かべながら答えた。
それから、歓談して十数分後。
「お待たせしました。エビドリアです」
と霊夢と妖夢の二人が、エビドリアを持ってきて、三人の前に置いた。
「容器はまだ熱いので、注意してください。持つのでしたら、木製の台の方をお持ちください。それでは、ごゆっくり」
二人が下がると、リンダは改めて料理を見た。
まだ焼き立てと分かる湯気に、ブツブツと音を立てているチーズ。そしてホワイトソース。
(この料理、チーズと騎士のソースが使われてるのね……こっちのピンク色のは、何かしら)
騎士のソースは、アルフェイド商会にとっては慣れ親しんだ商品だ。最近では少しずつ、帝国でも人気になりつつある。
だから選ばれたのかな、と思いながら、リンダは冷ましながら一口食べて驚愕した。
「これ、シュライプ!?」
「貴女達の店には、シュライプを腐らせずに運ぶ魔導具があるって聞いたわ」
シュライプは痛み易く、遠方に運ぶのが困難な海鮮商品の一つである。
塩漬けも難しく、個人の行商人では簡単には運べなかったが、アルフェイド商会は本店の意向で公国から冷蔵庫なる魔導具を大量に購入し、各支店で運用を開始。
それにより、少しずつだが塩漬け以外の魚等の扱いも始めていた。それを、アイーシャは把握していたらしい。
リンダは更に一口食べて
(とりあえず、シュライプ抜きで試作……いえ、この料理はシュライプと米が主役と言える料理ね……)
と考え始めた。
今まで食べてきた中でも、特に大きいエビ。噛めば噛むほどにプリプリとした食感に、風味が口の中に広がる。
それだけでなく、ホワイトソースがたっぶりと絡まった米に、こんがりと焼かれたチーズ。
それらを一緒に食べる事で、このエビドリアは完成している。とリンダは感じた。
しかし問題もある。ホワイトソースに負けないエビでなければ、エビドリアにはならない。
(これは、直接私が買い付けにいかないといけないわね)
リンダはそう考えながら、頭の中の地図から、候補地を選び始めた。
そして退店すると
「今度、我が商会の料理人を連れてきてもよろしいでしょうか?」
とアイーシャに問い掛けた。
「……私も一緒なら、良いわ」
さりげなく、自分の要求も飲ませたアイーシャであった。
後日来店した時、シリウスと会ったのは余談である。