今回は店長達は出ません
帰った日の夕食、妖夢は用意した食材と、新しく自分で人里から得た調味料を見て
「よし……やるぞぉ!」
と意気込んだ。
異世界食堂ことねこやで働き始めて、少し経った。時々ウェイトレスとして働きながら、沙希と並んで店長や明久の調理の補佐をしてきた。
店長と明久の調理は今まで見た事がなく、どれも刺激的だった。
「料理は基礎を固めて……そこから一歩踏み出す……!」
かつて店長達から言われた事を小さく呟いてから、妖夢は調理を始めた。
今回妖夢は、主たる幽々子が主催する宴の料理を作っている。
幻想郷で行われる宴は、主に二種類。幻想郷を揺るがす何らかの事件が解決したタイミングで行われる解決祝いの宴。
そしてもう一つは、季節柄の宴だ。
今回は後者の宴になる。
妖夢は効率よく、大量に料理を作っていく。
幽々子が健啖家なのもそうだが、お客が大量に来る。
だから、用意されている食材も外に台車が5台分はまだある。
妖夢が先に手をつけ始めたのは、魔理沙厳選のきのこの盛り合わせだ。
魔理沙は魔導具の店を経営しているが、同時に人里の八百屋にきのこ類を卸している。
魔導具を含む魔法使いが多数住む、通称魔女の森は多数の凶暴な知性無き妖怪が跋扈しており、戦闘力が無い一般人が入るには命懸けの場所になる。
しかしその環境は、きのこの栽培に適している。
そこで魔理沙は、魔導具開発の傍らにきのこの栽培も始めて、上手く経営しているのだ。
そしてその魔理沙から、今の時期に採れるきのこの盛り合わせを提供してもらったのだ。
そのきのこ類を、今回の宴に使う料理に合わせて調理していく。
天ぷら、お鍋、炊き込みご飯。
きのこは汎用性が高い食材だから、料理人の腕が問われるとは、明久の談だ。
「火が入りやすいように、切れ込みを入れる……」
間違えないように小さく呟きながら調理するのは、妖夢の癖のようなものだ。
次々と調理して、ザルや籠に分類していく。
次に始めたのは、野菜類。。
今の時期に採れる旬の野菜を、次々と調理する。
その中に、栗も混ざっている。栗は野菜というより果物に分類されるが、何もデザートだけでなく主食にも使える。
今回は揚げ物と煮物。ご飯に使う予定になっている。
その時、中庭の方から歓声が聞こえた。
「……早い人が、お酒を飲み始めたかな……?」
幻想郷には酒豪が何人か居て、宴があると必ずと言って現れる。そして、その酒豪に巻き込まれて呑まされて、潰れて翌日に二日酔いになる人も居る。
「はぁ……予定には無かったけど、なめこのお味噌汁作っておこうっと……」
妖夢はため息混じりに、使う予定は無かったなめこを取った。
なめこのぬめりには、消化器官の働きを助ける効果がある為、二日酔いになった人やお酒に潰れた人には最適な料理の一つだ。
それはさておき、妖夢はテキパキと調理を進める。
そうして、大部分の調理が終わり、出来上がりを待っていた時、今度は大爆発によるだろう轟音が聞こえた。
「……中庭、大丈夫かな……」
念の為に刀を掴んだ妖夢だったが、霊夢が現れて
「ごめんね、妖夢。ちょっとバカが一人暴れそうだったから、鎮圧したわ」
と報せにきた。
「ありがとう……その暴れそうだった人は?」
「無力化して、吊るしたわ」
わりと何時もの光景だから、時間が経ったら誰か下ろすだろう、と考えて、妖夢は刀から手を離した。
「料理お疲れ様、どう?」
「後は出来上がりを待つだけ」
霊夢からお茶を貰い、一口飲みながら妖夢は答えた。
すると、魔理沙が現れて
「おーい、中庭に出来てた穴はとりあえず塞いだぞー」
と告げてきた。
まあ、これも慣れたものである。異変もだが、宴で出来た穴は大概近くに居る誰かが直すのだ。
特に魔法使いはそういった事に重宝される。
「ありがとう、魔理沙」
「おーう。ただ、土で適当に埋めただけだから、庭の整備はやってくれよー?」
魔理沙の話を聞いた妖夢は、近くにあった紙に〈要庭整備〉と書いて、目立つ場所にピン留めした。
そして、時間を確認して、各料理の確認を始める。
そして、一通り確認を終えると
「よし、完成。持っていこうかな」
「手伝うわ、妖夢」
「アタシもな!」
完成した料理を、霊夢、魔理沙と一緒に持っていく。
「まず、第一陣です!」
「待ってました!」
妖夢達が台車で運んできた事に気付き、宴に参加していた客達が歓声をあげる。
次々と机に並べられる料理。
そこに、主の幽々子が現れて
「朝からありがとう、妖夢」
と妖夢を労った。
「いえ、大丈夫です。幽々子様」
そう言って妖夢は、一人分の料理が乗せられた御膳を幽々子に差し出した。
「幽々子様……こちらをどうぞ」
「……分かったわ」
その御膳を幽々子は受け取り、椅子に座った。
「今回の御膳は、栗おこわ御膳です」
幽々子が蓋を開けたと同時に、妖夢は説明した。
ご飯は、その名前の通りに栗おこわ。茶色のご飯の中に大粒の黄色い栗が見える。
そして、煮物と揚げ物にサラダがバランスよく収められている。
「これが、今の私の料理です」
緊張した面持ちの妖夢に、幽々子は両手を合わせて
「いただきます」
と言ってから、食べ始めた。
まず最初に口に運んだのは、煮物。
「これは……栗を使った煮物?」
「はい。栗ときのこ。それと鶏肉を使った煮物になります」
幽々子からしたら、予想外の料理。
幽々子の記憶では、栗は焼き栗と栗ご飯しか知らない。
ホクホクとした栗と鶏肉で、まるで肉じゃがのように思える味わいだが、それだけでなく、サッパリとした味になっている。
「これは……お酢?」
「はい。最後にお酢を入れる事でサッパリとした味にしました」
以前にはなかった工夫。
次に口に運んだのは、球体の揚げ物。
見た目からでは、どんな料理かは分からなかったが
「あら、これも栗?」
「はい。栗コロッケになります。僅かに牛肉と牛乳を混ぜる事で、しっとりさせました」
幽々子は知らない料理に、目を輝かせつつも一つ目の栗コロッケを食べた。
そうして最後に、栗おこわ。
幽々子が知る栗ご飯は白いお米だが、こちらは茶色く染まっている。
「これ……醤油が使ってあるのね? それも、豚肉が入ってるし、爽やかな風味もあるわ」
「はい。中華風にした栗おこわです。実は上に柑橘類の皮を少し剃ったのを振り掛けてあります」
食べたのは少量だが、どれも美味であり、幽々子は満足感を感じていた。
「これが、今の私の料理です……あそこの店長さん達にはまだ遠く及びませんが……」
「いえ……成長したわね、妖夢」
幽々子は御膳を机に置くと、妖夢の頭を撫でた。
「そのまま頑張りなさい。貴女の行動、見守るわ」
「……はい!」
庭師であり、料理人であり、剣士である半霊の少女は、前に進む。