異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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10皿目 カレーライス

「お待たせしました! カレーライスの大盛です!」

 

と言いながらアレッタは、皿を一人の男性

公国の最強提督と名高い、アルフォンス・フリューゲルの前に置いた

するとアルフォンスは、満足そうに

 

「うむ! やはり、カレーライスこそ至高! テリヤキやらカツ丼やらオムライスは邪道よ!」

 

と言った

それを聞いた各注文者は、アルフォンスを睨んだ

しかし、そこは最強と名高きアルフォンス

各人の怒気を、サラリと受け流した

そして、スプーンで一掬いして、一気に一口

 

「うむ、美味い!」

 

アルフォンスは満足そうに、そう告げた

その後食べ終わると、アレッタが皿の回収に来た

すると、アルフォンスが

 

「千回食べてきたが、飽きる気がしないな」

 

と言った

それを聞いたアレッタは、驚いた表情で

 

「千回もですか! 凄いですね!!」

 

と言った

それを聞いて、アルフォンスは

 

「ああ、そういえば君には話していなかったね」

 

と思い出すように言った

それの意味が分からず、アレッタが首を傾げていると

 

「あれは、厚い雲に覆われた酷い嵐の夜だった……」

 

とアルフォンスは、語りだした

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それは、今から約二十数年前のことだった

アルフォンスは当時、公国艦隊の提督として商船団の護衛をしていた

その商船団に、海の魔物

クラーケンが襲い掛かった

もちろんアルフォンスは、その商船団を守るために艦隊に攻撃するように指示を下した

しかし、相手は伝説級の海の魔物たる、クラーケン

アルフォンスが指揮する艦隊は、大打撃を受けながらも果敢にクラーケンに攻撃を敢行した

そんな時、アルフォンスはクラーケンに体当たり

アルフォンスの乗っていた船は、体当たりとクラーケンの攻撃で砕け散った

その後アルフォンスは、人が居ない島

つまり、無人島に流れ着いた

しかもその無人島には、数多くの魔物が住み着いていた

アルフォンスは鍛えた剣技を活かし、その魔物達を倒し続けた

それよりも、アルフォンスとして悪かったのは、その無人島の位置だった

アルフォンスはほぼ毎日、崖から船が通らないか遠くを見続けた

しかし、影すら見えない

どうやらその無人島は、航路から外れているようだった

それでもアルフォンスは、船を待ち続けた

だが無人島で一人過ごし続けるアルフォンスを、絶望が覆いかけた

そんな時だった

ある崖の上に、それを見つけた

異世界食堂への、扉を

それが気になったアルフォンスは、ナイフを構えながらドアを開けた

 

「なんだ……ここは……」

 

内装を見たアルフォンスは、思わずそう呟いてしまった

そこに

 

「いらっしゃい。あんた、随分とボロボロだな」

 

と先代店長が現れた

その先代店長に案内されて、アルフォンスは椅子に座ると

 

「金なら、こんなにある。この店で、一番美味いのをくれ!」

 

と注文した

それを聞いた先代店長は、少しするとカレーライスを出した

その匂いにアルフォンスは、空腹感を刺激させられた

久し振りの料理らしい料理に、アルフォンスは喉を鳴らした

そして先ずは、スプーンで茶色いスープ

つまりは、ルーを一掬いして口に入れた

その直後、アルフォンスを猛烈な辛さが襲った

その辛さにアルフォンスは、思わずコップの水を飲み干した

だが次の瞬間には、その辛さが絶望に覆われかけていたアルフォンスを目覚めさせた

そこからアルフォンスは、無我夢中にカレーライスを頬張った

辛いから止まりそうになるが、むしろその辛さがスプーンを動かし続けた

時々、端に盛られている福神漬けで辛さを和らげて、口の中の味のリセットを図る

そしてある程度食べると、汗を拭って水を飲む

それから約二十年、アルフォンスは七日に一度異世界食堂に訪れては、カレーライスを食べた

だがその生活も、終わりを告げる時が来た

それは、アルフォンスがその島に訪れた時と同じような酷い嵐の翌日

なんと島に、船団が来たのだ

それも、アルフォンスの祖国たる公国の船団だった

そのことに呆然としていると、アルフォンスの前に船から降りてきた捜索隊が現れた

その捜索隊は、アルフォンスと出会うと驚いた

まず、地図にも乗っていない島に人が居たこと

そしてなにより、それが死亡したと思われていたアルフォンスだったこと

なお船団が島に来た理由だが、船団の内の一隻が先日の嵐で破損

その破損では航行が難しく、更に船内に備蓄していた木材では足りなかったのだ

だから、たまたま見えたその島に接岸したのだ

そして勿論だが、修理には数日を要する

その最終日前日に、アルフォンスは異世界食堂に来店

今までと同じように、カレーライスを注文

食べた

その時、店長は代替わり

更に、新しく明久が居た

その二人に

 

「店長達よ、今までありがとうな」

 

と言って、退店した

だがアルフォンスは、その店に様々な人種や公国の一人の騎士が居たことを思い出し

 

(ふむ……どうせ、公国に帰っても引退は決まっている……ならば、扉を探してみようか)

 

と決めた

それから、約三ヶ月後

元々は、農業用開拓地の一角だった場所

そこにあった、もはや誰もが忘れてしまっただろうボロボロの物置小屋

そこに、異世界食堂への扉があったのだ

 

「あった……やはり、探してみるものだな」

 

アルフォンスはそう言うと、扉を開けて入店

三ヶ月振りのカレーライスを食べたのだ

 

「我ながら、波乱に満ちた人生だな……」

 

語り終わったアルフォンスは、改めて認識したという感じで、そう呟いた

すると、話を聞き終わったアレッタが

 

「ご苦労なさったんですね……」

 

と涙を拭きながら、そう言った

そこに、明久が現れて

 

「アレッタちゃーん、仕事サボらないでねぇ」

 

と言いながら、頭に手を置いた

それを傍目に、アルフォンスは店内を見回した

店長は代替わりし、更には新しい料理人たる明久と給士としてアレッタが働いている

最初は、先代店長と限られた客しか居なかったが、今や客は大勢来る

その違いを思い出したアルフォンスは

 

(私も、歳を取るわけだ……)

 

と内心で納得していた

すると明久が

 

「アルフォンスさん。カレーライスのお代わりは、どうしますか?」

 

と問い掛けてきた

その問い掛けに、アルフォンスは

 

「勿論、お代わりするぞ! それも、大盛だ!」

 

と言った

それを聞いた明久は、頷こうとした

だが、何かを思い出したように

 

「そうだ、アルフォンスさん。実は、折り入ってご相談があるんです」

 

と言った

それを聞いたアルフォンスが、明久の方に視線を向けた

すると、店長も来て

 

「実は、宗教上の理由で豚肉は食べられないけど、鶏肉は食べられる。という外国の方々からの要望で、新しく作ったんです」

 

と言った

それを聞いたアルフォンスは、興奮した様子で

 

「異世界の異国の、新しいカレーライス!」

 

と言った

そして、二人に

 

「して、そのカレーライスの名前は!?」

 

と問い掛けた

すると、明久が

 

「はい、チキンカレーです」

 

と教えた


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