異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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11皿目 チキンカレー

それは、長い永い時の中、その場所で考え続けていた

そこには、その存在しか居ることを許されていない空間

普通の生命では、生きること叶わぬ場所

そこに居るのは、巨大な黒い龍

それは、悠久の時を生きてきた伝説の龍の一体だった

今から約十数万年以上昔、その世界は混沌が支配していた

それに立ち向かったのが、伝説の六体の龍だった

金、青、緑、白、赤、黒

その六体にはそれぞれ支配する属性があり、六体はその属性を駆使して混沌に立ち向かった

何度も負けかけて、何度も混沌を滅し続けた

気の遠くなるほど戦い続けた

その結果、混沌を滅ぼすことに成功

しかしそれにより、一つ弊害があった

混沌の討伐により、星の生命体は黒の放つ死の力に耐えられなくなってしまったのだ

それを憂いた黒は、自ら月に住むことにした

誰も死なせたくないから

そうして、長い永い時の間、思考し続けた

そんなある日、黒の前に一つの扉が有った

 

(扉……?)

 

長い間月に居た黒だったが、その扉は初めて見た

普段だったら、無視していただろう

だが長い間一人で居た孤独からか

はたまた気紛れかは、分からない

だが黒は

 

(入ってみよう……準備しなきゃ……)

 

と考えて、ある姿になったのだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「チキンカレーか……」

 

「はい。是非、アルフォンスさんに試食してほしいんです。あ、お代は頂きません」

 

明久がそう言うと、アルフォンスは暫く考えて

 

「よし、分かった。食べてみよう! 一皿くれ!」

 

と言った

すると、明久、店長、アレッタの頭の中に

 

(私にも……ソレ、頂戴……)

 

と声が聞こえた

 

「承りました、では二人前で……ん?」

 

「……あれ?」

 

「今、頭の中に声が……って!?」

 

一番先に見つけたのは、ドアの方に視線を向けた明久だった

ドアの前には、珍しく髪の黒いエルフらしき少女が裸で立っていた

 

「おおお、お客さん! 服は!?」

 

「デジャヴ!?」

 

「まさかの二度目!?」

 

三人が困惑していると、その少女は

 

(服? ……ああ、なるほど……少し待って)

 

アレッタをジッと見てから、コクリと頷いた

次の瞬間、色違いではあるが、アレッタの着ているウェイトレス服と全く同じ服を構成した

ウェイトレス服だった理由は、恐らくだが女の子がアレッタだけだっただからだろう

魔法に疎い殆どの人員は感嘆するのみだが、一人だけ飲み掛けていたビールを吹き出した

 

(これでいい?)

 

「あ、はい……いやぁ、魔法って凄いな……」

 

「ですね。テレパシーまで……そういえば、アレッタちゃんは?」

 

「私は、人間の血が濃い方で、使えませんよ!?」

 

店長達は呆気に取られていたが、吹き出した人物

老賢者、アルトリウスは

 

(魔法だと? 今アレは、何の触媒も使わずに、魔力とイメージのみで服を編み上げた……そんなの、ワシにも不可能だ……)

 

とその少女が行ったことに、戦慄していた

そして、その少女を見て

 

(もしや、あ奴……赤の同類か?)

 

とその少女の正体に、行き着いた

その間に、その少女を席に座らせて、明久とアレッタがトレイに料理を乗せてきて

 

「お待たせしました、チキンカレーです!」

 

とそれぞれの前に置いた

すると、チキンカレーを見たアルフォンスが

 

「ほう……あのカレーライスとは、大分違うな」

 

と呟いた

すると、明久が

 

「はい。今まで出していたカレーライスより、かなり辛いですから、気を着けてください。もし良ければ、こちらの粉チーズを使ってみてください」

 

と説明した

そして、明久が離れると、アルフォンスは

 

「まずは、スープからだな」

 

と言って、スプーンで赤いルーを掬った

それを倣い、少女もルーを掬って口に運んだ

 

「むうっ!? い、いかん! これは辛い!!」

 

ルーを味わったアルフォンスは、猛烈な辛さに襲われて、慌ててコップの水を飲み干した

だが、少女は多少驚いてはいるが、平然としている

すると、落ち着いたアルフォンスが

 

「なるほど……野菜が見当たらないと思えば、溶けてなくなるまで煮込んであるのか」

 

と呟き始めた

それを聞いた少女は

 

(この男の言っていることは、分かる……このスープの中に、様々な味が溶け出して混ざりあっている……)

 

と思った

するとアルフォンスが、再びスプーンを持ち

 

「やはりカレーは、ライスと共に、だな」

 

と言って、ルーと一緒にご飯を掬った

そして、一口頬張った

すると

 

「やはりか!!」

 

とアルフォンスは、納得の声を上げ、少女は驚きで目を見開いていた

 

「ライスと一緒に食べることで、先ほど感じた猛烈な辛さが和らいで、先ほどよりも溶けている野菜の旨味をより感じる!!」

 

アルフォンスのその言葉に、少女は思わず頷いた

 

「そして何より、このチキンだ! チキンの味だけでなく、溶けている野菜の旨味が合わさって、まさに主役だ!」

 

(うん、確かに……この力強さ……彼女を思い出す……)

 

アルフォンスの言葉に頷く少女の脳裏には、遥か昔に共に戦った烈火の如き人物が思い浮かんでいた

すると、アルフォンスは

 

「おお。そういえば、あの若者が言っていたな。これを掛けても、美味しいと」

 

と言って、粉チーズの入った容器を持ち上げた

そして少し振って、一部に粉チーズを掛けて

 

「ふむ……中々の色合いだな……それに、カレーの熱さでチーズが溶けて伸びる」

 

とスプーンで持ち上げて、食べた

その直後、目を見開き

 

「おお! 更に辛さが和らぎ、食べやすい! それだけでなく、チーズの濃厚な乳の風味が合わさって、ハーモニーを奏でている!!」

 

と絶賛

アルフォンスは残っているチキンカレーの半分に、粉チーズを掛け、残り半分には掛けなかった

どうやら、そうやって二種類の味を楽しむようだ

気付けば、少女も同じようにしていた

そして、食べている二人を、キッチンから見ていた一同は

 

「同じカレーを食べてるとは、思えないですよね……」

 

「確かにな」

 

「対極的だしね」

 

と会話していた

アルフォンスは汗を流しながらに対して、少女は汗もかかずに食べている

余りにも、対極的だろう

それを見て、アレッタが

 

「だけど……幸せそうです」

 

と嬉しそうに言ったのだった

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