異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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新しい仲間

「ふう……美味かったぞ!」

 

アルフォンスが満足そうに言うと、明久が近寄り

 

「どうでしたか、アルフォンスさん?」

 

と問い掛けた

するとアルフォンスは

 

「うむ! 文句なしだ! これならば、また食べたい!」

 

と太鼓判を押した

それを聞いた明久は

 

「ありがとうございます、それならメニュー入りは間違いなしですね」

 

と笑顔を浮かべた

アルフォンスが満足気に頷くと、少女がスッと皿を出した

どうやら、まだ食べたいらしい

それを見たアルフォンスは、嬉しそうに

 

「おお、同好の志が出来たのは嬉しいな! よし、この少女の分は私のツケから払っといてくれ! ではな!」

 

と言って、退店した

それを見送りつつ、明久は少女からお皿を受け取り

 

「そんなに、美味しかったですか?」

 

と問い掛けた

すると少女は、無言でコクコクと頷いた

それを見た明久は、嬉しそうに

 

「うん、良かった」

 

と頷き、キッチンに入った

そのキッチンでは、店長がシチューが入ったお鍋を掻き回していた

最後のお客

あの赤の女王のために、焦がさないように掻き回しているのだ

 

「店長、チキンカレーはメニュー入り決定ですよ。アルフォンスさんの太鼓判でした」

 

「おお、それは良かった! 少し不安だったからな」

 

明久の言葉を聞いて、店長は安堵の溜め息を吐いた

すると明久は

 

「じゃあ、新しいカレーを更に作りますか」

 

「それは、明久に任せていいか? そろそろ、最後のお客が来る頃だ」

 

明久の言葉を聞いて、店長はそう言った

それを聞いた明久は、時計を見て

 

「あ、そうですね。あの人が来る時間ですね」

 

と同意しながら、チキンカレーをよそい、アレッタに渡した

そのチキンカレーを、少女の前に置いた

その直後

 

「店主達よ、来たぞ!!」

 

と元気よく、赤の女王が入店してきた

だが赤の女王は、チキンカレーを食べ始めた少女を見ると、驚いた表情を浮かべた

それは、少女も同じだった

少女も、赤の女王を見て驚いていた

 

(なんと……珍しい奴と再会した……なあ、黒よ)

 

赤の女王は、その少女

黒の龍と同じだった

否、彼女達は遥か過去に共に戦った仲間だった

世界を救いし六柱の龍

その一柱が、常連客の一人たる赤の女王

そしてもう一柱が、今チキンカレーを食べている黒の龍なのだ

入店した赤の女王は、ビーフシチューを注文すると、黒の龍の前に座った

それを見た店長は

 

「珍しい……あの人が、誰かと一緒に食べるなんてな……」

 

と呟いた

その黒と赤だが、端目に見たらただ黙々と食べているようにしか見えない

だが実際には

 

(久しいな、黒よ……何万年振りか)

 

(約三万年……赤は、相変わらずだ……)

 

とテレパシーで、会話していた

 

(まさか、かの場所にも扉が現れるとはな……)

 

(赤は、あの扉を知ってるんだ……)

 

(ああ。約30年前から出ている。この店に来るための扉だ)

 

黒からの問い掛けに、赤はそう教えた

 

(この店に……)

 

(ああ。我々は、この店を異世界食堂と呼んでいる。このような食事、知らぬだろう?)

 

赤の問い掛けに、黒は無言で頷いた

すると、赤は

 

(さて質問だが、この店で一番美味しいと思うのは?)

 

と問い掛けた

その問い掛けに、黒はチキンカレーを指差した

すると、赤は

 

(ふむ。お前はそれか……まあ、間違いだがな)

 

と言いながら、胸元に手を突っ込んだ

そして取り出したのは、一枚の金貨

 

(そして、ここの料理を食べるには、こういった金が必要だ)

 

赤がそう教えると、黒は少し固まり

 

(……持ってない……)

 

と俯いた

それを聞いた赤は

 

(やはり、かの場所に有る訳がないか……)

 

と納得していた

 

(ここの料理は、また食べたい……)

 

(ならば、我に任せろ)

 

黒の言葉を聞いて、赤はそう言って

 

「店主達よ! 少しいいか!」

 

と店長達を呼んだ

 

「はい」

 

「どうしました?」

 

と店長と明久が現れると、赤は黒を指差し

 

「すまぬが、こいつは金を知らないのだ。まあ、かなり辺境に住んでるからな。だから、こいつをこの店で雇ってくれぬか?」

 

と提案した

それを聞いた、店長、明久、黒は驚いた表情で赤を見た

 

(赤! 私が居たら、人間は!)

 

(安心しろ、黒よ。あれから、どれほど時が経ったと思っている? 今の人間達は、かなり頑丈になっている。それに、この店に来る連中はここの料理を食べて、生命力に溢れている)

 

黒の抗議に、赤はそう答えた

黒が司るのは、死

数万年前の人間や亜人達は、その黒が放つ気に当てられただけで命を落としていた

今はかなり押さえるために、人の姿を取っている

だが、流れていない訳ではない

ほんの僅かずつだが、流れている

それを危惧したのである

 

(まあ、我に任せろ)

 

赤はそう言うと、店長と明久に

 

「どうする?」

 

と問い掛けた

すると、二人は

 

「いやまあ、今でもかなりギリギリですから、助かるっちゃあ助かりますが……」

 

「お客さんは、それでいいんですか?」

 

と黒に問い掛けた

その問い掛けに、黒は躊躇った

そんな黒の肩を、赤は優しく叩き

 

(お前は、永い間待ったんだ……もういい筈だ)

 

と促した

それを聞いた黒は、数秒間悩んでから、コクりと頷いた

それを見た二人は

 

「わかりました」

 

「それじゃあ、これからよろしくね」

 

と受け入れた

その後、彼女はクロと呼ぶことが決まり、お金を払う代わりに三食チキンカレーを出すことで決まった

こうして、新しいウェイターが加わったのだった


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