異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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12皿目 シーフードフライの盛り合わせ

「おい、ギレム……確か、美味い魚料理を食える店に連れていくと言っていたな……?」

 

「おう!」

 

と会話しながら歩いていたのは、二人のドワーフだった

そんな二人が歩いているのは、険しい山道だ

 

「だったらなぜワシらは……山道を歩いておるんじゃ……」

 

「この先に、その美味い魚料理を出す場所が有るからに決まってるからじゃろ」

 

ギレムの言葉を聞いて、ガルドは額に青筋を浮かべて

 

 

「山の上の方にか!?」

 

と怒鳴った

その言葉に、ギレムは満面の笑みを浮かべて親指を立てた

 

「のう、ギレム……ワシはお前さんのことを、友人じゃと思っておったわ……だがな!」

 

そのジェスチャーに怒り、ガルドは腰に携えていた斧に、手を伸ばした

その時、ガルドはその先に、一軒の不細工な山小屋があることに気付き

 

「なんじゃ……あの山小屋は……」

 

と呟いた

すると、ギレムが

 

「おう! ワシが建てたんじゃ! 流石に専門外だから、ちと不格好じゃがの」

 

と答えた

それを聞いたガルドは、怒りで顔を赤くしながら

 

「おい……まさか、此処じゃとか言わんよな……?」

 

と低い声で、問い掛けた

すると、ギレムは

 

「おう! 此処が入り口じゃ!」

 

と言った

その瞬間、ガルドは斧を抜いて振り上げた

その時、その山小屋の奥に、趣の違うドアがあることに気付いた

 

「ん? なんじゃ、あの扉は……?」

 

「あれが、目的の店……異世界食堂じゃ!」

 

ギレムはそう言って、ドアを開けた

すると、二人の耳にカウベルの音が聞こえて

 

(いらっしゃいませ)

 

と頭の中に、声が聞こえた

それを聞いたガルドは、条件反射の域で斧を掴んだ

 

「待て! 周りを見てみい」

 

だがそんなガルドを、ギレムは制止

周囲を見た

誰も、慌てていない

 

「どうやら……此が今の普通のようじゃな」

 

ギレムがそう言うと、アレッタが近寄り

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

ともてなした

すると、ギレムは

 

「おう! 今日のシーフードフライの盛り合わせは、なんじゃ?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、アレッタは

 

「はい! 今日はタラとイカ、それとホタテです!」

 

と説明した

それを聞いたギレムは、椅子に座りながら

 

「おう! それじゃあ、そのシーフードフライの盛り合わせを二人前とビールを大ジョッキで二つじゃ!」

 

と注文した

その注文を受けたアレッタは、クロと一緒にキッチンに消えた

それを見たギレムは、物珍しそうに周囲を見ているガルドに

 

「ガルド、お前さんも座ったらどうじゃ」

 

と座るように、促した

 

「お、おお……」

 

促されたガルドは、小声で

 

「ギレム、ここは一体……?」

 

と問い掛けた

するとギレムは、得意気に

 

「ここはな、異世界食堂じゃ! 魚料理だけでなく、あらゆる美味い料理や美味い酒がたんまりあるわい!」

 

と語った

それを聞いたガルドは、改めて店内を見回した

確かに、異世界と言われて納得してしまっている自分が居た

出身国だけでなく、様々な種族の者達がそれぞれ、料理を美味しそうに食べている

すると、クロとアレッタが大ジョッキを一つずつ持って現れて

 

「お待たせしました。ビールの大ジョッキです。シーフードフライの盛り合わせは、もう少々お待ちください」

 

と言って、大ジョッキを置いてから離れた

それを見送りながら、ギレムは

 

「このビールちゅうのはな、冷えた状態で飲むのが、一番美味い!」

 

と力説し、大ジョッキを持ち上げた

それにガルドも追随し、大ジョッキを持ち上げた

そして

 

「乾杯!!」

 

と言いながら、大ジョッキをぶつけてから、一気に飲み始めた

そして、半分以上飲み干すと

 

「っかぁぁぁ! 旨いもんじゃな! このビールっちゅうんわ!!」

 

とガルドが、上機嫌に言った

それを聞いたギレムは

 

「そうじゃろ! そうじゃろ! この喉ごしが堪らんわい!」

 

と同意した

そして、二人して

 

「嬢ちゃん! このビールをお代わりじゃ!」

 

「もちろん、大ジョッキじゃ!」

 

と注文した

それを聞いたアレッタが返事すると、二人は残っていたビールを飲み干した

そして

 

「ビールも旨いが、このジョッキじゃ……これ程透明に作るのには、相当の腕が要る」

 

とガルドが、大ジョッキを軽く叩いた

ガルドは、ガラス職人なのだ

 

「ふむ。お主が言うんじゃから、間違いないな……しかし、普段は細工を中心にしたお主から見たら、もの足りんのではないかの?」

 

ギレムのその言葉に、ガルドは首を左右に振って

 

「いや……ここまでになると、これ自体が一つの芸術作品……装飾は、要らぬ」

 

と断言した

そして、ジッとジョッキを見て

 

「今度、作ってみるか」

 

と呟いた

そこに

 

(お待たせしました。ビールの大ジョッキです)

 

と二人の頭の中に、声が聞こえた

気付けば、クロが両手に大ジョッキを持っていた

そしてクロが大ジョッキを置き、空の大ジョッキを持っていくと、入れ換わりに

 

「お待たせしました! シーフードフライの盛り合わせです!」

 

とアレッタが現れた

そして二人の前に、狐色に揚げられた山盛りのシーフードフライの盛られた皿を置いた

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

アレッタがそう言って下がると、ギレムが

 

「うむ! 今回も美味そうじゃわい!」

 

と嬉しそうに言った

すると、ガルドが

 

「これが、魚料理……」

 

と怪しんでいた

無理もないだろう

ガルドが知る魚料理というのは、保存のためにしょっぱかったり生臭かったりで、美味しいと思ったことがなかったのだ

彼等の住むドワーフの国は、周囲を高い山に囲まれている

そんな地形ゆえ、商人達も中々来ないのだ

来ても、山を越えるために保存用に塩漬けされている

だからガルドは、魚の味を殆ど知らないのだ

 

「して、これらはなんじゃ?」

 

「この葉っぱみたいのが、タラ。この丸いのがホタテっう貝。それに、ワシもよく知らん、イカという魚だ」

 

ガルドの問い掛けに、ギレムは一つずつ指差しながら教えた

そして、フォークを持ち

 

「さて、食うぞ!!」

 

と意気込んだ

ガルドは半信半疑ながらも、フォークで最初にタラのフライを刺して、口に運んだ

 

「ふおぉぉ! これは美味い!! これが、魚の味か!?」

 

初めての魚の味に、ガルドはそう声を上げた

すると、ギレムは

 

「そうじゃろ! そうじゃろ!」

 

と同意しながら、バクバクと食べていく

ガルドも負けじと食べながら

 

「淡白ながら、このフワフワとした食感が堪らんわい! それに……っぷはぁ! ビールにも合う!!」

 

と上機嫌に笑った

それにギレムは

 

「まったくじゃ! おい! ビールのお代わりじゃ!」

 

とビールを軽く飲み干し、注文した

そしてガルドは、次に円形のフライ

ホタテのフライを刺して、口に運んだ

 

「ほぉぉぉ! これも、また旨い! 不思議な柔らかさだが、中から旨味が溢れてくる!」

 

「まったくよ! このイカというのは、独特の噛みごたえだが、噛む度に味が染み出すようだ!」

 

二人はそうやって、皿に盛られていたシーフードフライを、次々と食べていく

そして、最後の一つをガルドが食べていると

 

「む? それは、なんじゃ?」

 

とギレムが、シーフードフライに何かを付けていることに気付いた

するとギレムは、それ

タルタルソースの盛られた器を指差して

 

「おお! これは、タルタルソースつうてな。シーフードフライを食べる時には、外せんソースじゃ!」

 

と言った

それを聞いたガルドは

 

「そういうことは、先に言わんかい!」

 

と怒声を張り上げた

そして、アレッタに

 

「嬢ちゃん! シーフードフライの盛り合わせ、お代わりじゃ!」

 

と注文した

その後、二人は飲み食いを繰り返した

そして気付けば、二人はあの山小屋の床に寝転がっていた

起きたガルドは、周囲を見回して

 

「あそこは……夢じゃなかったようじゃな」

 

ガルドは近くに転がっていた酒の空瓶を見て、そう呟いた

そして、酔い潰れているギレムを見て

 

「こいつには、感謝じゃの」

 

と呟いた

そうして、机に触れて

 

「まずは、この山小屋をもっと立派な見た目にせんとな」

 

と言った

その後、ある山に立派な山小屋が建ち、山を越えてくる旅人達の休憩所になった

しかし、その山小屋の一角に、分厚い鋼のドアをが有った

そのドアの奥には、何も無いと山小屋を建てたドワーフは言うが、その山小屋に定期的に二人のドワーフです足しげく通い続けるのだった

美味い料理と酒を、堪能するために


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