異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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13皿目 カツ丼

「店長達よ! 何時ものを頼むぞ!!」

 

と大声で注文しながら入店してきたのは、獅子の頭の魔族だった

その人物を見て、明久は

 

「ああ、ライオネルさん。カツ丼大盛りですね。席に座って、待っててください」

 

と言って、キッチンに入った

それを聞いたライオネルは、適当な席に着席

出された水を飲みながら、ふと過去に思いを馳せた

それは、今から約二十年程前だった

彼はそれまで、旧き時代の魔族の生き方をしていた

約数十年も前に魔王が討たれてから、ずっと

彼はそれが当然だと信じ、繰り返していた

しかしある日、それは脆くも崩れ去った

その生活を壊したのは、たった一人のハーフエルフだった

ハーフエルフの剣士

嘗て魔王を討伐した、四英雄の一人

アレクサンドル

アレクサンドルにより、ライオネルが率いてた部下は全滅

そしてライオネル自身も、一太刀で敗北した

その後、ライオネルは剣闘奴隷として

ライオネルの部下達は、ライオネルの身分が決まるまで牢獄に監禁されることに決まった

剣闘奴隷から解放されるには、部下の分も含めて、金貨一万枚が必要と説明されたが、ライオネルは勝つ気がしなかった

たった一度の敗北が、ライオネルが長年築きあげた自信を、跡形もなく破壊していた

だからライオネルは、勝つ自信が一切沸かずに頭を抱えて悩んでいた

その時、ライオネルの居た牢獄の奥に扉があることに気付いた

それを見たライオネルは、最初は不思議に思った

なぜ、牢獄の中に別の扉が有るのかと

だがライオネルは、それは直ぐに頭の角に追いやり、扉を開けるために、ドアノブに手を伸ばした

 

(どうせ、どうなるかは決まってる……だったら、どうにでも……)

 

と半ば自棄になりながらも、扉を開けた

すると

 

『いらっしゃい』

 

と予想外の言葉が、ライオネルに掛けられた

ライオネルは室内を見回すと

 

『なんだ、ここは……』

 

と迎え入れた人物

先代店長に問い掛けた

すると先代店長は

 

『ここはな、洋食のねこやっつう飯屋だ! いやぁ、デカイお客さんだな!』

 

と朗らかに答えた

それを聞いたライオネルは、改めて店内を見回して

 

『あまり流行っているようには、見えないな』

 

と中々に辛辣なことを言った

すると先代店長は、豪快に笑いながら

 

『まあ、そうだわな! まあ、あんたらの世界には、まだ扉は少ないから、仕方ないわな!』

 

と言った

それを聞いたライオネルは、不思議そうに首を傾げた

だが先代店長は、気にせずに

 

『とりあえず、席に座ってくんな! それで、何を食う?』

 

と席に座るように、促した

ライオネルは適当に座ると、先代店長に

 

『何が有るんだ?』

 

と問い掛けた

その問い掛けに、先代店長は

 

『そりゃあんた、何だってあるぞ! 料理屋だからな!』

 

と断言した

それを聞いたライオネルは、少し俯きながら

 

『……だったら、肉が食いたい……それに……戦いに、勝てそうな……』

 

と呟くように言った

すると、直ぐに頭を上げて

 

『あ、いや! 気にしないでくれ!』

 

と言った

だが、先代店長は

 

『よし、待っててくんな!』

 

と言った

それを聞いたライオネルは、驚いた表情で

 

『あ、あるのか!?』

 

と問い掛けた

すると、先代店長は

 

『まあ、半分こじつけだがな!』

 

と言って、キッチンに入っていった

その時、少し離れた席に座っていた別の客

アルフォンスが

 

『店長よ! カレーライス、お代わり!』

 

と注文していた

それから、数分後

 

『お待ちどおさん! カツ丼だ』

 

と先代店長が、ライオネルの前に丼を置いた

 

『肉と卵。それに、オラニエとライスで栄養抜群だ! 食いな!』

 

『あ、ああ……』

 

ライオネルが頷くと、先代店長はまたキッチンに消えた

それを見送ってから、ライオネルはフォークを取った

そして先に、見えていた肉をフォークで刺して、口に運んだ

 

『おぉ! 柔らかい!』

 

その柔らかさに、ライオネルは驚愕の声を漏らした

そして、別の肉を刺して断面図を見て

 

(食べるために育てた豚か! 話には聞いていたが、こんなに美味くなるのか!)

 

と驚いていた

ライオネルが知っている豚肉は、野生の物なので少し硬い

その違いに驚いたのだ

そして、再び肉を食べると、肉の下にライスがあることに気づいた

そのライスを、フォークに乗せて口に運んだ

 

(んん? 甘辛いタレが掛かってるから、不味くはねぇが……ようは、水増しってやつか?)

 

とライオネルが首を傾げていると、アルフォンスが

 

『ふむ! やはり、カレーはライスと共にだな!』

 

と言った

それを聞いたライオネルは、少し考えてから

 

(一緒にか……)

 

とフォークの上に、ライスとカツを乗せた

 

(見た目は、中々だな……)

 

ライオネルはそう思うと、口に運んだ

その直後

 

『うめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

と、文字通り吼えた

そして、丼を見ながら

 

(なるほど! 肉だけじゃあ、味が少し濃い! 逆に、ライスだけじゃあ少し薄い! その二つと、甘く煮られているオラニエ! 三つを一緒に食べることで、バランス良く、絶妙な味わいになる! これで、カツ丼は完成してるのか!!)

 

と思った

そこから、ライオネルは文字通りにカツ丼を掻き込み始めた

余りの美味しさに、止まらなくなったのだ

そして、一杯食べ終わったのだが

 

『足りねえ……全然、足りねえ……』

 

とライオネルは呟いた

そこに

 

『ほいよ、カツ丼お代わりだ』

 

と先代店長が、新たな丼を置いた

するとライオネルは

 

『いや、しかし……今俺は、手持ちが……』

 

と申し訳無さそうにした

すると、先代店長は

 

『ん? 気にしなくていいぞ? つけで』

 

と言った

それでも、ライオネルは躊躇っていた

すると先代店長は

 

『嫌なら、俺の飯になっちまうぜ? 金なら、ある時払いの催促無しだ』

 

と言った

それを聞いたライオネルは

 

『……ありがてえ』

 

とそのカツ丼を、受け取った

結局ライオネルは、カツ丼を三杯お代わりした

すると、そこに先代店長が歩みより

 

『さて、お代だが……』

 

と言い掛けた

それを聞いたライオネルは

 

『おいおい、ある時払いって言ったじゃねえか』

 

と言った

すると先代店長は、わざとらしい顔で

 

『おっと、そうだったか?』

 

と首を傾げた

その仕草を見て、ライオネルは気付いた

先代店長は言外に、何時でも来いと言っているのだと

魔族と知りながらも、暖かく出迎えてくれているのだと

実を言えばライオネルは、魔族としての力を振るって、食べ物を強奪することも考えた

だが、一人の客として暖かく出迎えてくれた先代店長に、そんなことはしたくなかったのだ

だからライオネルは、去り際に

 

『また来るぞ、店長……今度は、金を持ってな!』

 

と言って、退店した

その後ライオネルは、強力な魔物たるマンティコアをたった三撃で撃破

それを皮切りに、その闘技場で無敗の王者として君臨するようになり、嘗ての部下達は警備係として働くことになったのだ

 

(お待たせしました、カツ丼の大盛りです)

 

頭の中に聞こえた声で、ライオネルの意識は今に戻った

そして、カツ丼を置いたクロを見て

 

(あいつ……かなり強いな……)

 

と思った

だが、すぐにカツ丼の蓋を開けて

 

(だが、ここでは戦わん。ここは飯屋なんだ……飯を食う所で、戦う訳にはいかん……何時かは、戦ってみたいがな)

 

と思うと、何時ものようにカツ丼を一口食べ

 

「美味い!!」

 

と咆哮をあげたのだった


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