異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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作者初のメシテロ作品じゃい!


一皿目 メンチカツ

イスに座ったサラ・ゴールドは、明久に手渡されたメニューを開いた

様々な種類の料理があり、それらの説明文も記載されている

しかし、どのような料理かはサラには想像出来なかった

だからサラは、なにか分かればと周囲で料理を食べている人々を見た

 

(あのリザードマンが食べてるのは、玉子を使った料理かしら? あっちの剣客が食べてるのは、肉料理……みたいね)

 

しかし、全員が違う料理を食べているために参考にならない

だが、一つ分かったことがあった

それは、提供されている全ての料理が、どれも見たことない料理だということ

 

(どうしたものかしら……)

 

とサラが、悩んでいた

その時、店長が近づき

 

「注文は決まりましたか?」

 

とサラに問い掛けた

するとサラは、意を決して

 

「それじゃあ、日替りランチを頼もうかしら」

 

と言った

すると、それを聞いた店長がピクリと反応

それに気づいたサラは

 

「なにかしら?」

 

と店長に問い掛けた

すると、店長は

 

「いえね……これも何かの縁なんでしょうね」

 

と懐かしそうに言いながら、日替りランチの内容が書かれてる入り口のボードを見た

サラも追って見てみれば、そこに書かれてるメニューの名は《メンチカツ》だった

 

「メンチカツは、ウィリアムさんの好きなメニューなんです」

 

店長は僅かに目を細めて、そう言った

すると、リザードマンの客が

 

「マスター……オムライス、オカワリ」

 

と言った

それを聞いた店長は

 

「あ、はい!」

 

とそのリザードマンに返事した

そして、キッチンの方に顔を向けて

 

「明久! 日替り頼む!」

 

と言った

すると、キッチンの方から

 

「分かりました!」

 

と返事がされた

そして、店長は

 

「では、メニューをお下げします」

 

とサラが持っていたメニューを持って、下がった

それを見送ったサラは

 

「お爺ちゃんが、好きだった料理……」

 

と呟いた

それから、数分後

 

「お待たせしました。本日の日替りランチの、メンチカツ定食です」

 

と、明久が料理を持ってきた

作りたてだからだろう、時おりパチパチと音がする

そして、明久は

 

「こちらは、コンソメスープと焼きたてのパンです。おかわり自由ですので、何時でもお申し付けください。それと、そちらのソースとレモンの果汁を掛けても、美味しいですよ」

 

と説明し、下がった

サラはそれを見送り、改めてメンチカツを見た

サラから見たメンチカツの第一印象は

 

(なんか……石みたい)

 

と思った

色が茶色で、トゲトゲしていたからだ

サラは僅かに考えて

 

「まずは、こっちからね」

 

と言って、パンを手に取った

 

「うわ……この白パン、柔らかい……」

 

サラが知っていたパンは黒いパンなのだが、かなり固いのだ

しかも、塩が多目に使われているので、少ししょっぱい

保存向けだから、ある意味仕方ないだろう

だが、提供された白パンは柔らかくモッチリしていて、食べてみれば、ほのかに甘かった

 

(この白パン、いい素材が使われてるのね……)

 

サラはそう思いながら、次はコンソメスープを飲んだ

そして、一口飲むと

 

(このスープは、様々な野菜の旨味が凝縮されてるのね……最後の一滴まで、飲み干したくなる……)

 

と思った

そして、最後のメンチカツ

それを見たサラは、用意されていたフォークとナイフを持ち

 

(この料理は、味が予想出来ないわ……)

 

と思った

そして、恐る恐るとナイフとフォークをメンチカツに当てた

 

(固く……ない! むしろ、柔らかいわ!)

 

石みたいだと思っていたサラは、予想外の柔らかさに驚いた

そして、一個目のメンチカツを四等分して

 

(どんな味なのかしら……)

 

と思い、喉を鳴らした

そして、ゆっくりと口に運んだ

その直後、サラの口の中にジューシーな脂が溢れた

 

「こ、これって……!」

 

驚愕から、サラは思わず声を漏らした

 

(これ、良質な肉を小麦粉で包んで揚げたのね! それにより、良質な肉の旨味が、この中にギュッと詰まってるんだわ!!)

 

サラはそう思いながら、一個目のメンチカツを無我夢中で食べた

そして、二個目を同じように四等分した時

 

(確か、あの料理人はソースっていうのと、この黄色い果実を掛けると美味しいって言ってたわね)

 

と明久の言葉を思い出した

そしてサラは、机に備え付けられていたソースと、皿に乗っていたレモンの汁を掛けた

それを、フォークで口に運んだ

その直後、サラは再び驚愕した

 

(凄い! このソースっていう様々な素材の旨味が凝縮されたので、更に美味しくなった! それに、少しくどい位だった脂が、酸味の強い果実の汁でさっぱりするわ!)

 

その味は、サラの予想を良い方向に裏切った

そしてサラは

 

(メンチカツは、これで完成した料理なのね!!)

 

と思った

そしてすぐに

 

(こんなの、一皿で終われる訳がないわ!)

 

と思った

だから、キッチンの方に顔を向けて

 

「メンチカツおかわり!!」

 

と言った

すると、明久がひょいと顔を覗かせて

 

「はい、分かりました!」

 

と言った

その後サラは、メンチカツを夢中で食べ続けた

そして、入店して数十分後

 

「ふう……ご馳走さま」

 

と言った

すると、店長が姿を現し

 

「どうぞ」

 

と一つの箱を、サラの前に置いた

それを見たサラは、店長を見て

 

「これは?」

 

と問い掛けた

すると、店長は

 

「こちらは、メンチカツサンドです」

 

と言った

そして続けて

 

「お客さんの食いっぷりが気持ちよくて、思わず作ってしまいました……ウィリアムさん、帰る時には必ずこちらも注文していたんです」

 

と語った

それを聞いたサラは

 

「でも、私……手持ちがそんなに……」

 

と首を振った

すると店長は、ニカリと笑みを浮かべて

 

「なに、今日はウィリアムさんの奢りってことにしておきますよ!」

 

と言った

それを、キッチンで聞いていた明久は

 

(ウィリアムさんの知らぬ間に、ウィリアムさんの財布がピンチに……)

 

と苦笑いを浮かべた

それを聞いたサラは、ゆっくりと紙箱の入ったビニール袋を受け取り

 

「そういうことなら、貰うわ」

 

と言った

そして、サラが立ち上がると

 

「あ、そういえば、ウィリアムさんは……」

 

と店長がサラに問い掛けた

その理由は、この三年程来店していなかったからだ

すると、サラは

 

「三年前に、死んだわ……大往生だったわ」

 

と言った

それを聞いた店長は

 

「そうですか……」

 

と僅かに肩を落とした

すると、サラが

 

「でも、最後まで書いてた日記には、ここの料理が食べられないのが、悔しかったみたいよ」

 

と微笑みながら言った

そして、店長に

 

「美味しかったわ、また来るわね」

 

と言った

それを聞いた店長は、頭を下げながら

 

「はい、またのご来店をお待ちしてます。また7日後にいらしてください」

 

と言った

それを聞いたサラは、ドアを潜ったのだった

すると、一連の光景をカウンター席で見ていた老賢者が

 

「言うならば、メンチカツ二世だな……」

 

と呟いた

それを聞いた隣の席の侍は

 

「メンチカツ二世?」

 

と首を傾げた

どうやら、意味が分からないらしい

すると、老賢者は

 

「なに、言った通りじゃよ」

 

と言った

そして、店長に

 

「マスター、ビールおかわり」

 

と言った

それを聞いた店長は

 

「はい、ビールですね」

 

と言って、奥に消えた

その時になって、侍は

 

「ああ! メンチカツ二世か!!」

 

と納得した様子で声を上げた

そして、心中で

 

(ここ数年見ていなかったな、メンチカツの奴は)

 

と思った

そして、ビールを持ってきた店長と、キッチンで料理を作っている明久を見て

 

「時は巡る……か」

 

と呟いたのだった

場所は変わり、廃坑道

ドアを潜ったサラは、後ろを振り向いた

すると、ドアはスッと消えた

それを見たサラは

 

「異世界食堂……か」

 

と言って、その場から離れた

そして、ビニール袋に入った紙箱を見下ろして

 

「これが、ウィリアム・ゴールドの秘宝……か」

 

と昔を思い出したのだった

サラが幼かった頃、サラが隠した秘蔵の焼き菓子(クッキー)をウィリアムが見つけて食べてしまったのだ

それをサラが怒ると

 

『俺には、どんなに隠しても見つけてしまうぞ! 特に、旨い物はな!』

 

と自慢気に言っていたのだ

そしてサラは、メンチカツの味を思い出し

 

「まさに、ウィリアム・ゴールドらしい秘宝だわ」

 

と言ったのだった

 


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