異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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タグ回収なり


14皿目 味噌カツ丼

「っはぁ……今日も、疲れたぁ……」

 

と言ったのは、白を基調にした服を着た日本人の青年

藤丸立夏だった

その隣には、白いパーカーを着て、眼鏡を掛けた少女が居て

 

「お疲れ様です、先輩」

 

と労った

そんな彼女の名前は、マシュ・キリエライト

今この二人は、前代未聞の大偉業を為している途中なのだ

 

「今日は、どうしようかな……」

 

立夏はそう言いながら、自室に向かおうとした

その時

 

「あれ……」

 

と足を止めた

 

「どうしました、先輩?」

 

マシュがそう問い掛けると、立夏はある方向を指差して

 

「あんな扉、有ったっけ?」

 

とマシュに問い掛けた

問われたマシュは、その方向を見て

 

「いえ……初めて見ました、あのような扉……」

 

と呟いた

その先にあったのは、一つの木製の扉

二人はその扉に近づいて

 

「えっと……って、日本語だこれ」

 

立夏はその扉に書かれている文字を見て、思わず驚いた

何故なら、今居る場所では英語が日常的に用いられている

立夏も、ある程度は英語が話せるので苦ではない

しかし、久し振りに日本語を見たので、驚いたのだ

 

「なんて、書いてあるんです?」

 

「洋食のねこや……だね」

 

マシュの問い掛けに、立夏はそう答えながら、扉を開けた

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!」

 

入店した二人を出迎えたのは、ウェイター

アレッタだった

今まで様々な場所を巡った二人たが、目の前のアレッタのように、流暢な日本語を話す亜人は余り会ったことが無かった

だから固まっていると

 

「どうしたのかな?」

 

と、キッチンから一人の成年

明久が出てきた

 

「あ、明久さん」

 

「え」

 

「ひ、人!?」

 

そんな明久を見て、立夏とマシュは驚きの声を上げたのだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「なるほどね……人理焼却か……」

 

と言ったのは、立夏とマシュの二人から話を聞いた明久である

 

「つまり、それによって人類が全滅するかもしれない……っと」

 

「はい」

 

「その通りです」

 

明久の言葉を聞いて、立夏とマシュは頷いた

今三人が居るのは、本来は従業員の休憩室だ

 

「よく頑張ってるね、君たちは……僕より、若いだろうに……」

 

明久がそう言うと、立夏が

 

「でも、俺達にしか出来ないのなら、やります」

 

と力強く断言した

それを聞いた明久は、頷くと

 

「よし、料理を出してあげるよ」

 

と言って、立ち上がった

すると、立夏が

 

「けど、俺達は今お金が……」

 

と慌てていた

立夏達はねこやに来る少し前に、人理焼却に関する旅から戻ったばかりで、財布を持っていなかった

 

「ん? 大丈夫。ツケでいいよ」

 

明久はそう言うと、通常のメニューを二人に出して

 

「何がいいかな? なんなら、メニューに無いのも、ある程度は出せるよ?」

 

と言った

それを聞いたマシュは、メニューを開いて見始めた

だが立夏は、少し迷った様子で

 

「あの……」

 

と明久に、視線を向けた

 

「なにかな?」

 

明久が問い掛けると、立夏は遠慮気味に

 

「味噌カツ丼……いいですか?」

 

と明久に問い掛けた

マシュが視線を向けると、立夏は懐かしむように

 

「その……母さんの得意料理だったので……」

 

と言った

それを聞いた明久は

 

「ん、了解」

 

と二人を、休憩室からホールの方に移動させた

料理が出されるまでの間、二人はホールに居る様々な種族の客を見ていた

 

「さっきの方……吉井明久さんは、異世界食堂と言ってましたが……納得ですね」

 

「うん……あそこに居るのは……竜人っていうのかな? あっちは、エルフ……あれは、侍みたいだね……」

 

と二人は、珍しそうに見ていた

そこに

 

(お待たせしました、味噌カツ丼です)

 

と頭の中に、声が聞こえた

そして目の前に、一つずつ丼が置かれた

丼を置いたクロは

 

(では、ごゆっくり)

 

と言って、去っていった

見送った二人は、丼の蓋を開けた

 

「これが……味噌カツ丼……」

 

「うん……懐かしい……」

 

二人の鼻に、味噌の濃厚な匂いが漂ってくる

二人は、箸を持つと

 

「では」

 

「いただきます」

 

と挨拶してから、食べ始めた

 

「わっ……凄く美味しいです! 味噌の濃厚さと、出汁が合わさって、トンカツの脂を包み込んでます! エミヤさんのも凄く美味しいですが、流石は本職の方です!」

 

一口食べたマシュは、興奮した様子でそう言った

エミヤというのは、よくキッチンに立っている赤い弓兵である

なぜ弓兵が、キッチンに立っているのかは、気にしてはいけない(戒め)

味噌カツ丼を一口食べた立夏は、薄く涙を流しながら

 

「……うん、美味しいね……」

 

とマシュに同意した

少し味に差違はあるが、立夏にとっては懐かしい味だった

母親が、よく祝いの日に作ってくれた

明久が作ったのは、その味に迫っていた

それが、立夏に涙を流させていた

そして同時に、改めて決意させた

 

「絶対に、人理焼却を防ぐ……!」

 

立夏はそう言うと、味噌カツ丼を食べることに意識を集中させた

それを見ていた明久は、呟くように

 

「うん……頑張れ、二人共……」

 

と言ったのだった


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