異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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はい、この子に出てもらいます


少女の一歩

「ここ……だよね……」

 

と言ったのは、一人の日本人の少女だった

長い黒髪が特徴で、年齢は二十になったばかりだ

そんな彼女が見ているのは、一軒の店の扉

 

「今日は休業日らしいけど……大丈夫、だよね……お婆ちゃんから、鍵借りたし」

 

その少女、早希はそう言いながら、ポケットの中から出した鍵を見た

それは、彼女の祖母から貸し出された鍵だ

彼女の両親は厳格な人物で、二十歳まではバイト禁止にしていた

学生は学業が本分で、バイトに時間を割いて成績を落とす訳にはいかない

と言っていた

それは早希も納得していて、二十歳になるまでは我慢していた

そんな彼女だが、やはり周りでバイトして欲しい物を買っていた友達には羨ましいと思っていた

そして、約一ヶ月前に二十歳を迎えた

だから早希は、近場でバイト先を探していた

そこに、祖母が現れた

そうして手渡されたのは、一つの古びた鍵

 

「洋食のねこや……お爺ちゃんがお婆ちゃんと開いた店みたいだけど……」

 

彼女だが、今通っているのは料理学校だ

もうすぐで卒業だが、何時かは自分で店を切り盛りしたいと思っている

そして何より、憧れの人物が居た

それは、自分が通っている学校でのある意味で伝説とも呼べる偉業を成した人物

 

「……今、何処に居るんだろ……」

 

早希はそう言いながら、ある一冊の雑誌を取り出した

それは、ある人物を扱った特集号

 

「一年で卒業して、その後は日本全国を旅……その理由が、味の探究……料理人ならではの理由だなぁ……」

 

その人物の年は、卒業時には19歳

今は22歳になっている筈だ

 

「そういえば、お婆ちゃんは早希なら大丈夫な筈だって言ってたけど……どういう意味だろ……?」

 

それは、鍵を手渡された時だった

祖母は鍵を渡す時に、少し意味深な笑みを浮かべて

 

『まあ、少し特殊だけど……早希なら大丈夫な筈だよ』

 

と言っていたのだ

その意味が、まだ早希には分からない

 

「そもそも、亡くなったお爺ちゃんのこともよく知らないし……」

 

今から行こうと思っている、洋食のねこやの先代店主

山方大樹

そのモットーは、料理人は美味い料理を提供出来ればそれでよし

その代わり、値引きもボッタクリもしない

それを信条として、戦後少しした後に店を開いたらしい

お爺ちゃんとの出会いは、戦時中と聞いていた

詳しくは聞いていないが、大変だったらしい

 

「今は、叔父さんが経営してるんだよね……」

 

丁度よく周りに、ねこやで働いている友人が居たから聞いた

 

『時給は安いけど、賄いが凄く美味しい』

 

『今はもう一人の料理人のおかげで、賄いのレパートリーが劇的に増えた』

 

とのことだった

そのもう一人の料理人というのは、結局教えてもらえなかったが、まあ会えば分かるだろう

早希はそう思って、ペットボトルを飲み干して、階段を降りたのだった


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