異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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少女との面接

「……完全に風邪ですね」

 

と言ったのは、体温計を見た明久である

その明久の前には、布団で寝ている店長の姿がある

 

「体調管理は……気を付けてたんだがな……」

 

「まあ最近は、気温差が激しかったですからね……」

 

明久はそう言うと、横にDA○ARAのペットボトルを置いて立ち上がり

 

「とりあえず、今日はゆっくりと休んでください。僕が何とかしますから」

 

と言って、部屋から出ようとした

すると、店長が

 

「あー……今日、俺の親戚がバイトの面接に来るから……頼んだぞ」

 

と言った

それを聞いた明久は、ドアを潜って

 

「分かりました。丁寧に対応します」

 

と言ったのだった

この時明久は、その店長が若干笑みを浮かべていることに気づかなかったのだった

そして、開店してから少しして

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

と一人の少女を、アレッタが出迎えた

 

「え、えっと……お客さんってわけじゃなくて……」

 

「?」

 

入ってきた少女

早希の言葉に、アレッタは首を傾げた

すると、早希は

 

「え、えっと……店長さん、呼んでください」

 

と言った

それを聞いたアレッタは

 

「えっと、店長はちょっと体調不良でおやすみなんです。ですので、もう一人の方を呼んできますね!」

 

と言って、キッチンに消えた

それを聞いた早希は、思わず首を傾げた

 

(そう言えば、二人目って誰だろ……?)

 

早希は祖母から店長のことは聞いていたが、二人目のことは何も聞いていなかった

そう考えていたら、アレッタが一人の料理人と共に出てきた

その人物を見て、早希は頭の中が真っ白になった

なにせその人物は、早希の憧れの人物

自分が通っている、料理学校の伝説を打ち立てた人物なのだから

 

(え!? な、なんでここに彼が!?)

 

と早希が狼狽している間に、アレッタともう一人の料理人

明久が近寄り

 

「えっと、もしかして君が店長が言ってた親戚さんかな?」

 

と早希に問い掛けた

その問い掛けに早希は、思わず無言で頷いた

それを見た明久は

 

「良かった。それじゃあ、こっちに来て」

 

と早希を、キッチンの方に招き入れた

そして早希を、キッチンの奥

休憩フロアに入れた

案内される短い間、早希は混乱しながらも必死に考えていた

 

(な、なんで彼がここに!? 彼は確か、卒業後は日本一周をしてた……そこまでは、月刊料理人に掲載されてた。けど、その後はまた行方が分からなくなってた筈……噂では、海外に行ったって言われてたけど……)

 

と思考している間に、休憩フロアに到着

明久に促されて、早希は椅子に座った

すると、明久は

 

「えっと……店長からはバイトの面接って聞いたけど……」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、早希はコクコクと頷きながら

 

「こ、こちらに履歴書を用意しました!」

 

と言って、机の上にカバンを置いて開けた

その拍子に、カバンが倒れて、カバンの中が机の上に広がった

そして、明久はある一冊の雑誌が目に入り

 

「ぶっ!?」

 

と吹き出した

それは、以前に店長が出した月刊料理人の明久を取り扱った特集号だった

 

「あ、わあ!?」

 

それに気付いた早希は、慌てて雑誌をカバンに仕舞った

しかし、明久はバッチリ見ていて

 

「もしかして、君の通っている学校って……」

 

と問い掛けた

すると、早希は

 

「はい……栄哲料理学校です……貴方が一年で卒業した……」

 

と言った

それを聞いた明久は、右手で顔を覆って

 

「あちゃー……」

 

と声を漏らした

しかし、すぐに背筋を伸ばして

 

「だけど、それとこれは別……キチンと、面接するからね……」

 

と言った

それを聞いた早希は、頷き

 

「お、お願いします!」

 

と頭を下げた

 

「まず、君は何を目指してるのかな?」

 

「はい、料理人です! 美味しい料理を提供出来る料理人になりたいです!」

 

明久の問い掛けに、早希はそう答えた

それを聞いた明久は、コクリと頷き

 

「それじゃあ、ここを受けた理由は?」

 

と問い掛けた

すると、早希は

 

「最初は祖母の紹介でしたが、調べているうちにここで働きたいと思いました」

 

と答えた

その後も、少しの間面接は続いた

それが終わると、明久は

 

「これで、面接を終えます。お疲れ様でした」

 

と頭を下げた

すると、早希も頭を下げて

 

「ありがとうございました!」

 

と言った

それに頷くと、明久は

 

「えっと、一つ聞きたいんだけど……」

 

「はい、なんでしょうか!」

 

明久が問い掛けると、早希は思わず背筋を伸ばした

それを見た明久は、半ば確信しながらも

 

「君が憧れてる料理人は、誰?」

 

と問い掛けた

すると早希は、少し顔を赤らめて

 

「その……貴方です……吉井明久さん」

 

と告げた

それを聞いて、明久は

 

「まあ、同じ料理学校だもんね……僕のことを知ってるか……」

 

と呟いた

そして、早希に

 

「だけど、僕は君が憧れるような人物じゃあ……」

 

と言いかけた

だが、それを遮るように早希は

 

「いえ、貴方は私が憧れる料理人です……学校に残っていた、映像……その手際は、既に一流の域でした……しかし貴方は、それに満足することなく、飽くなき探求心で卒業後は、味の探求のために日本を一周……その姿は、正に私が目指す料理人の姿でした」

 

と言った

それを聞いた明久は、恥ずかしそうに頭を掻いた

そして、立ち上がり

 

「それじゃあ、何か食べるかい?」

 

と問い掛けた


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