「し、しかし……私は、面接に来たのに……」
「幸いにも、今日はお客さんが中々来ないし。それに……料理屋に来たのに、何も出さないっていうのは、僕の矜持に反する」
早希が躊躇っていると、明久はそう言った
それを聞いた早希は、少し考えて
「では……ハンバーグをお願いします。和風で」
と言った
それを聞いた明久は、少し考えて
「ふむ……紫蘇は?」
と問い掛けた
その問い掛けに、早希は
「あ、お願いします」
と言った
それを聞いた明久は、頷いてからキッチンに入った
そして、十数分後
「お待たせしました。和風ハンバーグです」
と早希の目の前に、ハンバーグが置かれた
そして明久は
「それじゃあ、ごゆっくり」
と下がった
それを見送ると、早希は置かれた和風ハンバーグを見た
大根おろしが掛けられたハンバーグは、見事な焼き色をしている
なぜ、ハンバーグを注文したのか
早希の考えだが、ハンバーグはオムレツと並ぶ洋食の基本にして、料理人の腕が如実に現れる料理だと思っている
挽き肉の割合から、捏ね方、焼き方
それらが調和して、完成する
なおハンバーグだが、発祥は意外と日本だったりする
(焼き色は、完璧……)
まだ未熟だが、料理人の早希からしたら、明久の焼いたハンバーグの焼き色は完璧だった
適度な焦げ目で、食欲を増進させてくる
(問題は、味だけど……)
早希はそう思いながら、フォークとナイフを使って切り分けた
切り分けたハンバーグの断面から、肉汁が溢れてくる
(凄い……焼きすぎず、生焼けでもない……)
そのハンバーグは、かなり厚い
だと言うのに、生焼けになっていない
そして早希は、特製らしいソースを使ったと思われる大根おろしを少し付けて、口に運び驚いた
(何処に紫蘇が有るのかと思ったら、細かく刻まれて、ハンバーグに混ぜてある! それに、肉汁から仄かに和風出汁が感じられる……! お肉自体の味付けは、最低限にしてあるんだ!)
明久の創意工夫に、早希は驚いていた
和風ハンバーグで紫蘇を入れるとしたら、大根おろしに切って混ぜるか、ハンバーグの表面だろう
しかし明久は、意表を突くハンバーグに混ぜるという方法でしてきた
口の中で噛む度に、紫蘇と肉の風味が広がり混じり合う
予想外の調理法
しかも、紫蘇の風味を損なわずに焼くという技量まで見せた
それらと、大根おろしのタレが見事に、口の中でハーモニーを奏でていた
(学校に居た時から、凄い技量だと思ってた……けど、今も凄い!)
明久の技量に、早希は素直に尊敬の念を抱いた
恐らく、そのアイディアも日本を一周している間に考えたのかもしれない
だが、それを実現するには多大な努力と苦労が伺える
しかし、それを苦にしながらも、諦めずに実現
お客に提供している
それは一重に、美味しい料理を食べてほしいから
それこそ、早希が目指す料理人の姿だった
(やはり、尊敬出来ます……)
早希はそう思うと、料理を食べることに意識を集中させた
出された料理を、美味しい内に食べなければ、勿体無いと思ったからだ
そして、食べ終わると
「御馳走様でした……」
と呟いた
そこに、コーヒーを持った明久が来て
「はい、食後のコーヒー」
と提供した
早希は、それに砂糖とミルクを入れて
「美味しかったです……」
と素直に称賛し、コーヒーを一口飲んだ
それを聞いた明久は、微笑んで
「ありがとうございます」
と頭を下げた
そして、早希に
「面接結果は、店長伝いに連絡されるはずだからね」
と早希に言った
「はい」
「まあ、君なら間違いなく採用だから。頑張ろうね」
早希が頷くと、明久はそう言いながら、右手を差し出した
それを見た早希は、一度明久を見てから
「よ、よろしくお願いします……」
と握手に応じた
こうして、ねこやに新しいウェイトレス兼料理人見習いが加わった
なお帰る時、オムライスを食べていたあるリザードマンに驚くことになるのだった