異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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16皿目 オムライス

青尻尾一族の勇者、ガガンポ

彼は、青尻尾一族の勇者の義務を果たしに行く準備をしていた

勇者の義務

それは、七日に一度出てくるドアの向こう

つまりは、異世界食堂に行き、ある料理を持ち帰ること

それが勇者の義務になった理由は、今から約二十年程前

青尻尾一族が流浪の民だった頃、今の村の中心地にそのドアが現れた

そのドアを最初に潜ったのが、当時の青尻尾一族の勇者だった

そして青尻尾一族にて勇者を決める方法は、一年に一度、村の若者のオス達が戦い合い、最強を決めるのだ

 

「ガガンポよ……勇者の義務、頼んだぞ」

 

「は、長よ!」

 

村の子供達から金貨、銀貨、銅貨が入った袋と、木製のお皿を受け取ると、ガガンポはドアを潜った

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

入ったガガンポを出迎えたのは、アレッタだ

クロは、ハーフエルフの女性の応対をしている

 

「ム、キタ」

 

ガガンポはそう言うと、持っていた木製の皿を手渡して

 

「オムライス、大盛リ。ソレト、オムレツヲ3ツ」

 

と注文した

皿を受け取ったアレッタは

 

「はい、分かりました! お持ち帰り用のオムレツ三個は、帰る際に渡します!」

 

と言って、奥に言った

それを見送ったガガンポは、近くの椅子に座った

そして、店内を見渡した

今日はどうやら、あまり客はいないらしい

何時もより、かなり静かだった

そして、待つこと少し

 

「お待たせしました! オムライスの大盛りです!」

 

とアレッタが、オムライスを持ってきた

それを見たガガンポは、両手を合わせて

 

「イタダキマス」

 

と言った

ガガンポは礼儀を重んじており、店長から食べる際に言う言葉を聞いて、実践している

曰く

 

『戦士ナラバ、礼儀ヲ尽クスモノ』

 

との事だ

閑話休題

ガガンポはスプーンを持つと、スプーン一杯にオムライスを乗せてから、口に運んだ

 

(美味い……どうすれば、このような焼き方が出来るのか……)

 

ガガンポが知る卵料理は、どうにも味が薄い

しかしオムライスは、卵もだが中に詰まっているオレンジ色のご飯

チキンライスも、素材を活かしつつ、素晴らしい味が口に広がる

何度も食べているが、初めて食べた時の事を思い出した

ふと気付けば、既に半分以上食べていた

それに気付いたガガンポは、近くに来たクロに

 

「オムライス、オカワリ」

 

と注文した

 

(承りました)

 

クロは頷くと、奥に消えた

そして、一つ目のオムライスを食べ終わる直前に

 

(お待たせしました、オムライスの大盛りです)

 

と新しいオムライスを持ってきた

 

「ム、アリガトウ」

 

ガガンポはそう言うと、一皿目の最後の一口を口に運んだ

 

(一口食べる度に、口の中に様々な味が広がる……卵、肉、野菜……それらが纏めあげられて、調和している……)

 

空になった一皿目を、クロが持っていく間、ガガンポは口の中の味を反芻

確りと味わっていた

そうして、二皿目に取り掛かった

そして、二皿目を食べ終わった

そこに

 

「お待たせしました。お持ち帰り用の、パーティーオムレツ3種です」

 

明久、クロ、アレッタの三人が、一皿ずつオムレツが乗せられた皿を持ってきた

それを見たガガンポは、腰の袋を取って

 

「オカンジョウ」

 

と言った

それを聞いた明久は、自分が持っていた皿を置いて

 

「えっと……はい、貰いました」

 

と袋の中から、銅貨を数枚取った

なおガガンポ達青尻尾一族にとって、金の使い道は無く利用する機会は、このねこやのみだ

では、どうやって獲得しているのか

それは、彼等が住む場所には、時おり旅をしている冒険者等が来る

その冒険者や商人が、魔物に襲われて命を落としたり、荷物を放り投げて逃げる場合が多々ある

その者達が落とした硬貨を見つけては、回収

洗って、保存しているのだ

会計が終わると、ガガンポは袋を腰に戻し、両手と尻尾で一皿ずつ持って

 

「マタナ」

 

と言って、器用にドアを開けた

 

「はい! また七日後にお越しください!」

 

明久はそう言うと、深々と頭を下げた

そして、ドアを潜ると

 

「おお! ガガンポが帰ってきたぞ!」

 

「お帰り!!」

 

と村の者達が、総出で出迎えた

 

「戻ったぞ。料理も、この通りだ」

 

ガガンポはそう言って、オムレツを近くの机に置いた

そこに、長老が来て

 

「では、切り分けるかの」

 

と言って、ラップを切ってからオムレツを切り分け始めた

そして、青尻尾一族の全員が食べるのを、ガガンポは少し離れた場所から見ていた

勇者は、オムライスを食べられる代わりに、オムレツが食べられないのだ

それを少し残念に思うが、ガガンポは

 

(まだ勇者を譲るつもりはない……次の儀式も勝って勇者になり、また一年間オムライスを味わおう)

 

と心に決めて、尻尾で地面を叩いたのだった


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