異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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18皿目 牛丼

「では、またな。店主に早く治るように、言っておいてくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

赤の女王に頭を下げて、明久は赤の女王を見送った

そして、退店すると

 

「よし、お疲れ様」

 

とクロとアレッタを労った

 

(お疲れ様でした)

 

「お疲れ様でした」

 

すると二人も、労いの言葉を口にした

そして、明久は

 

「それじゃあ、夜食を食べようか」

 

と二人と一緒に、奥の休憩フロアに入った

そして、明久は

 

「クロさんは、チキンカレーね」

 

とクロの前に、チキンカレーを置いた

表情は変わらないが、嬉しいのだろう

耳がピコピコと動いている

それを微笑ましく思いながらも、明久はアレッタの前に一つのどんぶりを置いた

 

「今日の夜食は……牛丼だよ」

 

「牛丼……?」

 

アレッタは首を傾げながら、どんぶりの蓋を開けた

すると見えたのは、茶色の食べ物だった

 

「これが、牛丼……」

 

「うん。牛肉とオラニエを甘辛く煮た料理だよ。食べ方は、豪快に掻き込む」

 

明久はそう言うと、今自分で言った通りに牛丼を掻き込むように食べ始めた

それを見たアレッタは、何時もの言葉(省略版)を言ってから、一口食べた

次の瞬間、アレッタは驚いた

口の中に、力強い牛肉の味が広がった

 

「ふわぁ……」

 

その味に、アレッタは思わず吐息を漏らした

 

(甘辛い味に煮られながら、牛肉の風味が損なわれてない……! それに、オラニエも!)

 

柔らかく煮られた牛肉とオラニエ(タマネギ)

その二つとタレが染みたご飯

それが、一体となって美味しかった

だからか、アレッタは気づけば牛丼を掻き込んでいた

そして、一杯食べ終わると

 

「うん。ようやく、何時もの笑顔だね」

 

と明久が言った

それを聞いたアレッタは、キョトンとした

すると明久は

 

「今日のアレッタちゃん。朝からずっと、何処か心ここに有らずって感じで、気落ちしてたみたいだったからね」

 

と言った

それを聞いたアレッタは、どんぶりを置くと

 

「……その……仕事が、なかなか見つからないんです……」

 

と語りだした

アレッタは半魔族であり、半魔族は忌避されていた

だからアレッタのような半魔族は、隠れ里に住んでいた

しかし、アレッタの両親は病気で死んでしまった

それを期にアレッタは、大きな街に入り過ごそうと思った

それは、街に憧れていたから

だが、現実は厳しかった

仕事はなかなか見つからず、両親が残してくれたお金は最早残り僅か

そんな矢先に、アレッタはねこやのドアを見つけ、今はウェイターとして働いている

それにより、ある程度の余裕は出来てきた

しかし、無駄使いは出来ない

だからアレッタは、仕事を探し続けた

しかし、今のところ全て空振り

その理由の過半数が、半魔族だから

仕事斡旋所で教えてもらった先に行っても、拒否されるか、安い賃金で過酷な労働ばかりだった

流石に長く続き、アレッタも精神的の参っていたのである

 

「なるほどね……」

 

「すいません……仕事に影響するなんて……」

 

明久が頷くと、アレッタは申し訳なさそうに頭を下げた

すると、明久は

 

「仕方ないよ……それは、気落ちするさ……」

 

と頭を撫でた

そして、アレッタに

 

「でも、大丈夫……アレッタちゃんなら、きっと見つけられるさ……その笑顔を、忘れなければね」

 

と微笑みを浮かべながら、告げた

この後、アレッタはもう一杯牛丼を食べた後に帰宅

そして翌日、仕事斡旋所に行き、ある一ヶ所を教えてもらった

そこは、町外れの一軒家

 

「今度こそ……」

 

アレッタはそい意気込むと、ドアをノックして

 

「あの、すいません! 斡旋所から紹介されてきました!!」

 

と言った

すると、ドアが開いて

 

「待ってたわ! 困ってたのよ!!」

 

と中から出てきたのは、ねこやの常連の一人

サラだった

 

「あ、え……貴女……」

 

「メンチカツの……」

 

二人は最初、呆然と見つめあった

そんな時、サラがアレッタを抱き締めて

 

「採用!!」

 

と言った

こうして、アレッタは新しい仕事を見つけたのだった


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