異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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19皿目 マルゲリータピザ

「ダメだ! これも失敗だ!」

 

と少年

シリウスは、レシピを書いた羊皮紙をグシャグシャにした

若き経営者、シリウス・アルフェイドは祖父から受け継いだアルフェイド商会を繁盛させようと、ねこやレシピの再現を試みていた

だが、上手くいっていなかった

その大きな理由は

 

「なんで、僕には料理の才能が無かったんだ……」

 

正確には、高い料理の才能が無いだ

大商会の若き経営者となったシリウスだが、ある程度ならば料理も作れる

しかし、それほど高い料理技能を有していなかった

祖父たるトマスは、かなりの料理技能を有していたので、“一人で“ねこやのレシピをある程度再現出来た

しかし、そのトマス程の料理技能を有していないシリウスは、再現に苦慮していた

 

「早く、新しいレシピを出す必要が有るのに……!」

 

新しいレシピの再現の為に、シリウスはここ数日は自室に込もっていた

別に義務では無いのだが、シリウスは早く出したかった

商会の各支部の支部長の中には、シリウスを軽く見ている者も居る

その支部長を従わせる意味も込めて、新しいレシピを出したかった

そこに

 

「ぼっちゃん! 大丈夫ですか!?」

 

「お前、何処から入ってきてる!?」

 

窓から、褐色肌の料理人が入ってきた

なお、シリウスの自室は二階にある

壁の凹凸を登ってきたようだ

その若い料理人は、アルフェイド商会お抱え料理人の一人であり、シリウスの幼馴染みの一人

レウス・アルイーダだ

 

「ぼっちゃん、この三日まともに食事すら摂ってないじゃないですか!」

 

「ああ……そんなに経ってたか……」

 

レウスに言われて、シリウスは頭を掻いた

どうやら、日数感覚がおかしくなっていたようだ

そしてシリウスは指折り数えると

 

(あ、明日は……)

 

とあることに気づいた

そして、レウスを見た

レウスは若いが、今のお抱え料理人達の中では、頭一つ抜けた料理の才能を有している

そして何より、口も堅い

 

(……よし)

 

シリウスは自分を見て首を傾げるレウスに

 

「レウス。明日だが、朝早くに第一倉庫に来てくれ」

 

と言った

そして、翌日

 

「ぼっちゃん、本当にいいんですか? 自分なんかが、大事な場所に……」

 

「お前だから、連れていくんだ」

 

シリウスはそう言うと、ある空の木箱を退かした

その先に見えたのは、倉庫からは予想出来ない木製のドア

ねこやのドアだった

 

「このドアは……」

 

「旨い料理を出す店……異世界食堂の入り口だ」

 

シリウスはそう言って、ドアを開けた

すると

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

とアレッタやクロ、早希が出迎えた

 

「ん、貴女は……」

 

「新しく給士になりました、早希と言います」

 

シリウスが視線を向けると、早希はそう言った

そして二人を席に案内すると、アレッタが

 

「こちら、メニューになります」

 

とメニューを渡そうとした

だが、シリウスは首を左右に振って

 

「いや、すまないが決まってるんだ……マルゲリータピザをくれ」

 

と注文した

それを聞いたアレッタはキッチンに行き、入れ替わりに早希が

 

「お冷です。おかわりは自由ですので、お気軽に声をお掛けください」

 

と言って、下がった

すると、水を一口飲んだレウスが

 

「なるほど……薄く柑橘が搾ってあるんですね……」

 

と即座に、看破した

レウスが若くしてお抱え料理人なってる所以は、料理の才能と舌の繊細さだった

すると、シリウスは

 

「うん、流石だ。レウス。やはり、お前を連れてきて正解だった」

 

と頷いた

そしてシリウスは、レウスに

 

「いいか、レウス……ここの料理を再現すること……それが、アルフェイド商会の商機に繋がる……」

 

と言った

それを聞いたレウスは

 

「そこまで、ですか……」

 

と呟いた

その言葉を聞いたシリウスは、軽く回りを見ながら

 

「レウスなら分かるだろ? ここの調度品が、どういうのか」

 

と言った

それを聞いたレウスは、ソースの容器を持ち上げて

 

「はい……これもですが、この灯りや、あの小さい箱? みたいなの……どれも、見たことがありません……」

 

と言った

レウスが言った箱というのは、ピアノの上に置いてあるラジオのことだ

 

「ああ……洋食のねこや……またの名前を、異世界食堂……ここは、僕達からしたら、異世界にあるんだ……」

 

とシリウスが言った

そこに

 

「お待たせしました、マルゲリータピザです」

 

と早希が、料理を持ってきた

そして、二枚の小皿とタバスコを置き

 

「こちらは、お好みでお使いください。では、ごゆっくり」

 

と言って、下がった

それを見たシリウスは

 

「じゃあ、食べようか。これは、熱いうちに食べるのが旨いんだ」

 

と言って、一枚掴み上げた

それを見たレウスは、シリウスのマネをして一枚掴もうとしたが

 

「熱っ!」

 

熱さに驚き、思わず取り落とした

だが、今度は掴み上げて

 

「おお……これは、チーズか? 凄い伸びる……」

 

と呟いてから、一口食べた

そして、目を見開き

 

「この赤いソースは、マルメットか……」

 

と呟いた

それを聞いて、シリウスは

 

「やはり、気づいたか」

 

と言った

すると、レウスは

 

「このソース……茹でたマルメットの皮を剥いて、それをすりつぶし、幾つかの香辛料……ハーブとコショウ……か? それを混ぜてる……」

 

と呟いた

たった一口食べようだけで、レウスはシリウスが苦労して割り出したソースの味に気づいた

 

(流石だ、レウス!)

 

シリウスは心中でレウスを称賛しながら、マルゲリータピザを見て

 

「この料理は、我がアルフェイド商会が独占してるマルメットと大部分を握ってる小麦を使っている……」

 

と言った

すると、レウスは頷いて

 

「はい……この生地は、小麦に塩と……お湯でしょうか? 水では、この柔らかさは苦労します」

 

と分析していた

そして、具の一つ

ベーコンを食べて

 

「この肉も……燻製してあるんですね……しかも、野菜もわざと、生で乗せて焼いている……それが、このシャキシャキ感に繋がってるんですね……」

 

と呟いた

そこまで聞いたシリウスは、更に一口食べて

 

「この料理の素晴らしさは、ベースがシンプルだということだ……薄いパン生地に、マルメットのソース」

 

「その上に乗せる具を変えれば、色々な種類の料理が出来ます!」

 

シリウスの言葉を継ぐ形で、レウスはそう言った

それは、シリウスの考えと全く同じだった

 

「更に言えば、このソースも、麺に応用出来る筈だ」

 

と言った

それを聞いたレウスは、思わずと言った様子で

 

「た、確かにそうです!」

 

と納得していた

そこから二人は、更に分析するためにマルゲリータピザを食べた

 

「このチーズ……少し、酸味を感じる……発酵に秘密があるのか……」

 

「端の部分……厚いだけじゃなく、フワフワしている……これは、どうすれば……」

 

そして議論を重ねていくうちに、一枚食べ尽くした

すると、シリウスは

 

「……よし、味を比べたい……レウス、一緒にミートソーススパゲッティを食べるぞ」

 

とレウスに提案した

すると、レウスは

 

「はい! ここまで来たら、最後までお付き合いします!」

 

と意気込んだ

その後二人は、クロが運んできたミートソーススパゲッティを食べた

そして、二人は帰宅

早速、再現に取り掛かった

その数日後、引退していたトマスを唸らせる料理

ピザを高いレベルで、再現

そのレシピを、各支部に伝わらせた

これを期に、シリウスはアルフェイド商会での立場を磐石にする

 

(これが、僕のやり方です。お爺様!)

 

アルフェイド商会を長年栄えさせる、二人が産まれたのだった


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