異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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二皿目 モーニングセット

「ではな、店長。明久よ」

 

「はい、またのお越しを」

 

「ありがとうございました」

 

赤いドレスを着た人がドアから出ると、店長と明久の二人は深々と溜め息を吐き

 

「明久、お疲れ」

 

「お疲れさまでした、店長」

 

と互いに労った

そして、店内を軽く掃除して

 

「あー……食器類の片付けは、明日にするか」

 

「ですねぇ……あー、疲れた」

 

と厨房奥の、エレベーターに向かった

その時、明久が

 

「あ、コーンスープが残ってたんだ」

 

とコンロに置かれた鍋の中を見た

すると店長が

 

「まあ、明日の俺達の朝飯だな」

 

と言った

そして店長は、厨房とフロアーの電気を消してから

 

「ほんじゃあ、お疲れさま」

 

と言って、エレベーターに乗ったのだった

この直後だった

実は、店の入り口が一度開いていたことを、二人は知らなかった

そして、翌日

洋食のねこやの唯一の定休日の日曜日

明久と店長の二人は、店の上階の自室からエレベーターで店に降りた

そして、厨房に入った時

 

「うおっ!?」

 

と店長が驚いた

何せ、厨房の床で一人の少女が寝ていたからだ

その少女を見て、二人は

 

「この子、何処から……」

 

「と言っても、答えは一つですよ。店長」

 

と小声で会話していた

その時、その少女が目覚めて起き上がった

その拍子に、その少女が被っていた帽子が落ちた

すると、その少女の両側頭部には、羊を彷彿させる角があった

 

(こりゃぁ、完全に向こうの人だな)

 

(ですね……魔族ってやつかな?)

 

二人が小声で話していると、その少女も意識がはっきりしたらしく

 

「わあ!? 帽子! 私の帽子!?」

 

店長と明久の二人を見て、慌てて落とした帽子を探し始めた

すると店長が、帽子を拾い

 

「探し物は、これかい?」

 

と手渡した

そして、少女が帽子を被ると明久が

 

「それで、君の名前は?」

 

と問い掛けた

すると少女は、帽子を少し目深に被りながら

 

「……アレッタです」

 

と名乗った

その後三人は、フロアーに移動

アレッタを座らせて、話を聞くことにした

そして要約すると、アレッタは明久が察した通りに魔族

正確には、半魔族だった

ただそれは、なんでも約70年前に起きた大戦以降はある一定数居るらしい

しかし、土曜に開くドア向こうの世界では、蔑みの対象らしい

だから、彼女のような半魔族は人里離れた山奥等に、集落を作って住む

しかし、彼女の両親が流行り病に掛かって他界

頼れる人物が居なかった彼女は、その集落から出て街に入った

しかし、中々働く場所が見つからない

そして、両親が残したお金も無くなり、ある廃屋で寝泊まりしていたら

 

「ここに入るドアを見つけた……と」

 

「は、はい!」

 

アレッタの話を聞き終えた店長は、イタズラを含めてリモコンで直上の電気を点けた

それを見た明久は

 

「あ、リモコンでも点いたんですね」

 

と店長に問い掛けた

それに、店長が答えている間アレッタは

 

(どうしよう……まさか、魔術師様の家に入ってしまったなんて!)

 

と内心で慌てていた

実際は料理店なのだが

 

(しかも、お鍋の中の黄色いスープも全部飲んじゃったし! どうなるんだろ、私!?)

 

とグルグルと考えていると、店長と明久が

 

「まあこの際、コーンスープはいいとしてだ」

 

「僕達も、お腹空いてますしね」

 

と話していた

そして、少しすると

 

「アレッタさん……だったか?」

 

とアレッタに視線を向けた

 

「は、はい!」

 

呼ばれたアレッタは、体を大きく震わせた

それを見ながら、店長が

 

「朝飯、食ってくかね?」

 

と問い掛けた

するとアレッタは、キョトンとして

 

「で、でも……」

 

と言葉を濁した

すると、明久が

 

「僕達、朝食がまだなんだ。それで、僕達だけ食べるのも気が引けるしね……」

 

と言った

それを聞いても、アレッタは躊躇っていた

すると店長が

 

「タダだが、どうする?」

 

「いただきます! はっ!?」

 

店長の問い掛けを聞いて、アレッタは即答した

それを聞いて、二人は笑みを浮かべながら立ち上がり

 

「それじゃあ、待ってな」

 

「すぐに作るからね」

 

と言って、厨房に入った

そして二人は、手早く料理を作り始めた

それを見たアレッタは

 

「凄い……この方達、料理人なんだ……」

 

と感嘆した様子で、呟いた

そして、数十分後

 

「ほいよ」

 

「ねこや特製のモーニングセットだよ」

 

と二人が、作った料理を持ってきた

メインはプレーンなオムレツだ

そして、付け合わせにサラダとスープ、パンが付いている

それを置くと、二人は座り

 

「それじゃあ、食べようか」

 

と言った

それを聞いて、アレッタは

 

「崇高なる我等が魔族の神よ……」

 

唱え始めた

それを聞いて、二人が首を傾げると

 

「わぁぁ!? 何でもないです!」

 

と慌てた

だが、内心では

 

(この方達……私が魔族と知っても、差別しない?)

 

と首を傾げていた

すると明久が

 

「ほら、冷めない内に食べて」

 

と薦めた

薦められたアレッタは、スプーンを持つと

 

(はしたないかもしれないけど、真ん中から食べよう)

 

とオムレツの真ん中に、スプーンを刺した

するとスプーンは、何の抵抗もなくオムレツに埋まった

 

(わっ! まるで、空気みたい!)

 

そう思いながらも、アレッタはスプーンでオムレツを掬った

そして

 

(無くならないうちに、食べないと)

 

と思って、口に運んだ

そして、二度目の驚愕を感じた

 

「なに、これ!?」

 

それは、アレッタが食べたことのない味だった

フワリとしながらも、濃厚な味わい

だというのに、クドくない

まさしく、幾らでも食べられる

それだった

そして何よりも、暖かかった

だから、アレッタの目から涙を流した

暖かい料理は、久しぶりだった

すると、アレッタが泣いてることに気づいた二人は

 

「うぉ、どうした!?」

 

「ごめん、嫌いな食物が混じってた!?」

 

と慌てて問い掛けた

すると、アレッタは

 

「違います……こんな暖かい料理が……久しぶりで……」

 

と泣きながら、語った

それを聞いた二人は、顔を見合わせて

 

「それは良かった……」

 

「お代わり、いるかい?」

 

と問い掛け、アレッタが頷いたので、明久は厨房に入ったのだった

そして、数十分後

 

「ごちそうさまでした」

 

と三人は言った

すると、店長が

 

「なあ、アレッタさん……良ければ、うちで働かないか?」

 

と問い掛けたのだった


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