異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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20皿目 フライドチキン

「ふう……」

 

と一息吐きながら、タツゴロウは愛刀を鞘に納めた

そして、腕を回しながら

 

「私も、年を取ったな……」

 

と呟いた

今しがた彼は、旅の途中で寄った村の村長からの依頼で、近くの街に通じる洞窟に住み着いた魔物を討伐したところだった

タツゴロウの前に別の冒険者に頼んだそうだが、帰ってこなかったから、偶然来たタツゴロウに依頼してきたそうだ

相手は力と耐久に優れていたために、討伐するのに多少手こずってしまった

だが、タツゴロウ自身に負傷はない

いくら力自慢だろうが、大振りの攻撃に当たる程ボケてはいない

しかし、やはり年なのだろう

戦ってる間は気にならなかったが、終わった途端に体の節々が痛みだす

 

「さて、この後はどうするか……」

 

とタツゴロウは呟いた

村に戻れば、村人達が祝いの宴を開くだろう

魔物が洞窟に陣取ってしまったために、街から必要な物品が得られなくなっていたらしい

食糧は狩りや山菜、河魚等でどうにかなっていたようだ

 

「む、そういえば……この近くに扉があったな……」

 

ふとタツゴロウは、今居る場所の近く

とは言え歩いて一日あるが、にねこやの扉があることを思い出した

扉が出るのは、二日後

今日は村でゆっくりと休み、明日出れば、十分に間に合う

 

「……考えてみれば、一月振りか」

 

前回ねこやに行ったのは、約一ヶ月前になる

その後タツゴロウは、気ままに旅をしていた

その間、土曜日でも近くに扉が無かったり、近くでも日程が合わなかったりと、運が悪く、涙を飲んでいた

 

「……我ながら、現金なものだ」

 

ねこやに行けると思ったら、体の痛みが引いた

その現金さに、思わず苦笑してしまった

 

「さて……倒した証拠を持っていかないとな……何処がいいか……」

 

体長5mに迫る巨人の遺体を見上げて、タツゴロウは思わずそう呟いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そして二日後

 

「ふむ……誰も、使ってないな」

 

ねこやの扉のルールは、幾つかある

例えば、一つの扉を使えるのは一日に一回だけ

つまり、先に誰か他の人が使っていたら、使えない

だからタツゴロウは、先に誰か使っていないか、地面を見た

そして、ドアノブを掴んで開いた

 

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

とタツゴロウを出迎えたのは、早希だ

アレッタは、別の客

ハインリヒにエビフライを出している

 

「君は……」

 

「あ、新しく給士になった早希と言います」

 

タツゴロウが問い掛けると、早希はそう言いながら頭を下げた

それを聞いたタツゴロウは、椅子に腰かけて

 

「すまんが、フライドチキンとウィスキーを頼む」

 

と注文した

 

「はい、わかりました」

 

注文を聞いた早希は、キッチンに消えた

何時もならば、お気に入りの照り焼きチキンを頼むが、今日は二日前に魔物を討伐したからか、どうも気が昂ってしまい、より風味の強い肉を食べたい気分だった

そして頼んだフライドチキンだが、強くスパイスが効いており、更に油で揚げてあるので、どうも胃もたれする料理だ

そんなフライドチキンに合う酒が、清酒ではなく、ウィスキーだ

こちらもまた、独特の風味がする酒で、以前に飲んだドワーフの火酒に近いが、火酒より飲みやすい酒だ

すると、近くに座っていたライオネルが

 

「随分と、気が昂っているな」

 

とタツゴロウに声を掛けてきた

その言葉に、タツゴロウは

 

「いやなにな……二日ばかり前に、強い魔物と戦ってな……どうにも、気が昂っているのだ」

 

と答えた

するとライオネルは

 

「なるほどな……気持ちは分かる」

 

と頷いた

今や最強の剣闘師と名高いライオネルだが、時々手強い相手と戦うこともあり、その後は気が昂ってしまう

それを思い出したようだ

そこに

 

「お待たせしました、ウィスキーです」

 

と早希が、ウィスキーを持ってきた

そして、それと入れ替わるように

 

(フライドチキンです、お待たせしました)

 

とクロが、フライドチキンが盛られた皿を持ってきた

そのクロを見送ったタツゴロウは

 

「……あのエルフ……ただのエルフではないな……」

 

と呟いた

だが、すぐにフライドチキンに視線を戻し

 

「では、いただく」

 

と一言言ってから、フライドチキンを手に取った

骨ごと揚げたフライドチキンは、まだ熱い

だが、タツゴロウはそのまま衣に包まれた鶏肉にかぶり付いた

鶏肉の弾力のある肉を噛み千切ると、口の中に油と一緒にスパイスの風味が広がる

照り焼きチキンとは違い、かなり脂っこい

しかし、今はそれが美味しかった

一つを食べ終わると、コップに注がれたウィスキーを一気に飲み干した

それにより、酒の風味が口の中に広がり、喉を焼いた

このウィスキーは、かなりアルコールが強く、一気に体が火照る

それが収まらない内に、新しいフライドチキンにかぶり付いた

普段は礼節を弁えるタツゴロウだが、やはり気が昂っている影響で食べ方もどこか荒々しい

まるで肉食の獣のように、骨から鶏肉を噛み千切って、咀嚼していく

まあ、明日は胃もたれに襲われるだろうが、いい薬も入手している

なんとかなるだろう

タツゴロウはそう結論着けて、ウィスキーを飲み干した

そして、フと

 

(一度国に戻ったら、素質のある奴にこの店のことを教えてやろう)

 

と決めた

そうこうしている内に、皿のフライドチキンが残り僅かになり

 

「すまんが、もう一皿フライドチキンを頼む」

 

と近くを通った早希に頼んだ

今日は、何時もより食べるつもりだ

臨時収入があったから、懐に余裕もあるのだから


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