「次元世界に、その次元世界を管理する時空管理局……」
「はい。私はそこで、教導隊に所属してます、高町なのは一尉です」
「同じく、執務官のフェイト・T・ハラオウンです」
「海上警備部隊隊長の八神はやてです」
三人が名乗ると、明久は
「これはどうも。僕はねこやで副料理人を勤めてます、吉井明久です」
と頭を下げた
そこで一拍置くと、明久は
「それで、なんでしたか……ロスト……ロギア?」
と首を傾げた
ロストロギアというのは、なのは達曰く
かつて繁栄し、何らかの理由で滅んでしまった高度技術文明の失われた技術によって作られた、オーパーツ
効果は様々で、中には世界を滅ぼしてしまうことすらある物も存在する
「はい……あれはどうやら、異空間を繋げる類いのようですが……」
明久の言葉を聞いたフェイトは、ドアを視界の端で見た
「まあ、そうですね……海鳴っていったら……確か、神奈川の港町でしたよね?」
「はい」
なのは達の街の名前は、明久も知っていた
横須賀ほどではないが、神奈川にある少し大きめの港町だ
「だけど……ミッドチルダや魔法か……魔法はお客さんがたまに使いますが、ミッドチルダは知らないかなぁ……」
明久はそう言いながら、トンカツを食べているアルトリウスを見た
たまにやってくる礼儀知らずや、我が儘な客を追い出した時のことを思い出したようだ
「……まあ、基本的に時空管理局は地球は管理外としてますから……」
明久の言葉に、なのははそう言った
しかし、時折不思議な事件に巻き込まれるのが地球である
明久も、たまに変な事件だなぁ。とテレビを見て思うことがある
(なのはちゃん、フェイトちゃん。気づいとるか? ここの客……)
(うん……桁外れな実力者が多い……)
(あの老魔法使いもそうだし、あの侍……それに、あの黒い給仕服のエルフ……かな? なんて、凄い魔力を感じる……)
そしてなのは達は、今居る客やクロが、とんでもなく強いと察した
彼女達も名の知られた実力者だが、そんな客やクロ達を相手にして、無傷で勝てる気がしなかった
(どないする? どうやらあのドアは、基本的に異世界にランダムに現れるだけみたいや)
(様子見かな……それほど、危険だと思わないし)
(うん……お客さんも、料理を食べに来てるだけみたいだし……基本的には放置かな? ただ、他の局員……特に、タカ派の人達に見つかったら面倒だし……隠蔽魔法で隠しておこう)
と三人は、明久と話ながら念話で会議した
「分かりました。基本的に、私達はあのドアのことは上層部には報告もしません」
「ありがとうございます。良かった……営業が続けられるよ」
はやての言葉に、明久は安堵の息を漏らした
ふと気づけば、聞こえていたらしい店長も安堵の息を漏らしている
すると、明久は
「さてと……何か食べます?」
と三人に問い掛けた
「あのドア、時間は合ってるんです……だから、お昼……まだですよね?」
と明久が問い掛けると、三人はまだ昼食を食べてないことを思い出した
「早希さん、通常のメニューを持ってきてください」
「分かりました」
明久の言葉を聞いて、早希は奥に消えた
そして、少しすると
「どうぞ」
とメニューを三人に手渡した
「洋食って言ってますが、基本的に色々あります。食材によりますが、メニューに無いのもお出しできます」
それを聞いた三人は、顔を見合わせた
確かに空腹で、まだ午後の仕事が残っている
それを考えると、食べないと体力が持たない
そして三人は、メニューを開いた
彼女達三人も料理は作るが、やはりレパートリーは本職には及ばない
様々なメニューがあった
メニューを見ている間、明久は一度キッチンに戻り、水を三人分持ってきた
「お決まりになりましたら、ウェイターにお申し付けください」
明久は恭しく一礼すると、キッチンに入った
「なんにしよう……」
「こんなにあると、悩むわぁ」
フェイトとはやては悩んでいるようだが、なのははあるメニューに目が行った
そして、数分後
(注文は決まりましたか?)
とクロが問い掛けた
いきなりのテレパシーに驚いたが、フェイトとはやてはなんとか注文
そして、なのはは
「ハヤシライスを、お願いします」
と注文した
そして、十数分後
「お待たせしました、ハヤシライスです」
となのはの前に、カレーライスによく似た料理
ハヤシライスが置かれた
早希は付け合わせの小サラダを置いてから、幾つかのドレッシングを置いて
「こちらのドレッシングは、お好みで使ってください。それでは」
と言って、下がった
「おお、美味しそうやなぁ」
「本当に」
はやての言葉に、フェイトは同意するように頷いた
フェイトの前には、海老フライ
はやての前には、ミートソーススパゲッティがある
「うん……久しぶりだなぁ」
ハヤシライス
それは、なのはにとって思い出深い料理だ
昔高町家は、一時期大変だった
父親が護衛の仕事で重傷を負い、母親はその時期に夢だった自分の店を開店させた
兄と姉は武術の鍛練をしながら、母親の店の手伝いをしていた
それを見たなのはは、幼いながらも迷惑を掛けられないと思い、我が儘を言わず、一人で過ごした
一人で遊び、一人で勉強していた
家族が異変に気づいたのは、父親の意識が戻り、退院した後だった
我が儘も言わず、一人で過ごしていたなのは
その姿は、まさに理想の親思いの子供の姿だろう
しかし、普通は違う
子供というのは、構ってほしいものだ
愛情一杯に、接してほしいのだ
でなければ、
事実なのはは、愛情を知らずに小学生まで育ってしまった
そんな折に、母親を含めた家族は後悔した
なぜ、気づいてあげられなかったのかと
忙しかったなど、ただの言い訳
末の家族を放置していたなど、家族失格だ
だからある日、家族一同はなのはに謝った
今まで放置して、ごめんと
兄と姉はよく構うようになり、父親は護衛の仕事を引退
家に居るようになり、それまで出来てしまったなのはとの溝を埋めるように、買い物等に連れていくようになった
そして母親は、なのはに自分が作ったデザートを中心に食べさしたり、教えるようになった
そんな中で、何かを達成したりしたら出すようになったのが、ハヤシライスだった
「本当に……懐かしい……」
最近は一人立ちし、地球からミッドチルダに移住したために自分で作る機会は減った
「あむ……ん、美味しい」
やはり本職なだけあって、ブイヤベースから本格だった
様々な食材の旨味が凝縮されており、更に調和している
コクが見事に濃縮されており、料理人の腕が分かる
店長だけでなく、明久の腕もかなりのものだ
しかし記憶補整なのか、母親が作ってくれたハヤシライスのほうが美味しいと思ってしまう
「な、なのは?」
「だ、大丈夫なんか?」
そんな時、フェイトとはやての二人が狼狽した様子で問い掛けてきた
「ふえ? なんで?」
訳が分からず、なのはは首を傾げた
すると、フェイトが
「だって、なのは……泣いてるよ?」
と言った
その時ようやく、なのはは涙を流していることに気づいた
するとなのはは
「にゃはは……大丈夫だよ、二人共……少し、懐かしいことを思い出しただけだから」
と笑顔を浮かべた
その笑顔は不自然なものではなく、自然な笑顔だった
それをカウンター越しに見た明久は
「ふむ……憑き物が落ちた感じかな?」
と呟いた
その後なのはは、もう一杯ハヤシライスをお代わり
その後、たまたま日本円を持っていたフェイトがお代を精算した
「あ、これをお持ちください」
「これは?」
そして三人が帰ろうとした時、明久が紙箱を差し出した
「サンドイッチです。どうやらお忙しい仕事みたいですし、片手で食べられる物を用意しました」
フェイトの問い掛けに、明久は微笑みながらそう告げた
「けど、お代は……」
「今回はサービスしますから、お気になさらず。もし良ければ、以後もご贔屓に願います」
明久はそう言いながら、頭を下げた
それを聞いた三人は、顔を見合わせてから
「分かりました」
「今度は、家族と来るな」
「では、また」
と言って、ドアを潜った
そして消えるドアを見ながら
「一週間毎に現れるドアか……」
「しかも、増えるようやな」
「だね。見つけたら、魔法で隠すようにしないとね」
と呟いた
そしてなのはは、紙箱を見て
「……近い内に休暇貰って、ヴィヴィオと一緒に実家に行こうっと」
と呟いたのだった