異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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25皿目 豚のしょうが焼き

その少年狩人

ハリスは、山を駆けていた

ハリスは最近彼の村作物を荒らすイノシシを、狩りに来ていた

 

「……落ち着け……」

 

そしてハリスは、自分に言い聞かせながら弓に矢をつがえた

今ハリスが使っているのは、狩りの師匠であり死んだ父親から受け継いだ物だ

そんなハリスの視線の先には、一体のイノシシが横倒しになって倒れていて、胴体には既に二本程矢が刺さっている

狩りというのは、最後まで気を抜いてはいけない

父親がよく言っていたことだ

瀕死の獲物に気を抜いて近づき、最後の気力での一撃で死んでしまう

というのは、枚挙に暇がない

だからハリスは、最後の確認にと矢を放った

ハリスが放った矢は、イノシシの腹部に刺さった

だが、イノシシは動かない

すると安全だと悟ったらしく、足下に居た犬

愛犬のタロが、一鳴きした

ハリスは、そんなタロの頭を撫でて

 

「よぉし、よく頑張ったな!」

 

と褒めた

タロが居なければ、ハリスはイノシシの突進を受けていただろうからだ

そしてハリスは、弓を背負うと倒れているイノシシに歩みより

 

「にしても、かなり大きいな……」

 

と呟いた

鼻先から尾部までの大きさは、ハリスより大きい

よく狩れたものだ、とハリスは思う

やはり致命傷になったのは、頭に深々と刺さっている矢だろう

この矢は、よく放てたと思っている

タロを振り切り、ハリスに向かってきたイノシシ

ハリスは避けられるギリギリまでイノシシを引き付けて、矢を放った

少しでも失敗していたら、ハリスは死んでいただろう

その後は、イノシシの臭いをタロが追跡

今に至る

 

「さてと……解体するか」

 

イノシシの大きさが大きさなので、流石に持って帰るのは無理だ

だから、最優先で持って帰るのは毛皮と牙だ

これ程の大きさならば、行商人も高く買ってくれるはずである

ハリスはなんとかイノシシを木に吊るし、血抜きしながら解体を始めた

そして、数十分後

 

「よし……これだけあれば、村も少しは持つはずだ」

 

とハリスは、自分が解体した量に、満足そうに頷いた

その時、タロが不意に唸り始めた

 

「タロ……つっ」

 

タロに視線を向けたハリスは、違和感を感じて弓を構えた

違和感を感じた方角にあったのは、一つの洞窟

しかもその洞窟の中には、不釣り合いな物があった

 

「これって……ドア?」

 

ハリスはそのドア

ねこやのドアを見て、首を傾げた

大きな町ですら、中々見ない高級感感じるドア

一先ずハリスは、その周囲に危険が無いか確認

 

「……開けてみよう」

 

そう呟いて、ドアを開けたら

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!」

 

山の中に居たはずなのに、何故か店に居た

ハリスが混乱していると

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

とアレッタが問い掛けてきた

その言葉で、ハリスは我に帰り

 

「こ、ここは一体……」

 

とアレッタに問い掛けた

 

「ここは洋食のねこや。別名が異世界食堂と言います。分かりやすく言えば、レストランです」

 

「レストラン……山の中に?」

 

アレッタの言葉に、ハリスは頭上に疑問符を乱舞させた

そこに

 

「んー……本当は、犬はお断りしてるけど……躾がキチンとされてるみたいで……」

 

と明久が、ハリスの足下でお座りしているタロを見た

やはり食べ物を提供しているので、基本的に動物の連れ込みは断っているのだ

すると、ハリスは

 

「あ、タロはキチンと躾てあります。僕の言うことは聞きますから……」

 

と説明した

すると、店長が来て

 

「まあ、来ちまったのは仕方ない。頼みますから、大人しくさせててくださいね?」

 

とハリスに頼んだ

そしてハリスを席に案内すると

 

「あの……これを使って、料理を作れませんか? お金を持っていないので……」

 

と言って、先ほど解体したばかりのイノシシの肉を見せた

それを見た明久は、思わず唸った

本来、ねこやは食材の持ち込みは断っている

感染症や食中毒のリスクを負わないためにだ

そのために、今入荷している食材は先代店長が自ら選び、搬入を近場の八百屋や食材店に頼んでいる

先代からの付き合いなので、一部の人は特別営業を知っている人も居る

さて、どうすらか……

と明久が首を傾げていると、店長が

 

「仕方ない……特別に、作るか」

 

と言った

そしてハリスに

 

「ちなみに、これは何の肉だい?」

 

と問い掛けた

すると、ハリスは

 

「イノシシです」

 

と答えた

それを聞いた店長は、少し悩むと

 

「メニューはこちらにお任せで、よろしいですか?」

 

とハリスに問い掛けた

その問い掛けに、ハリスは無言で頷いた

それを見た店長と明久は、頷いて

 

「では、少々お待ちください」

 

と言って、キッチンに入っていった

それから、十数分後

 

「お待たせしました、豚のしょうが焼きです」

 

とハリスの前に、香ばしい匂いのする料理が置かれた

 

「君には、こっちね」

 

と早希は、タロの前にも皿を置いた

そちらは、犬にも配慮して作ったものである

 

「おお……」

 

「ライスはお代わり自由ですので、お代わりはお申し付けください」

 

ハリスが感嘆の声を漏らしている間に、早希はそう言って下がった

タロを見ると、尻尾をブンブンと振りながらハリスの言葉を待っている

 

「食べてよし」

 

ハリスがそう言った直後、タロは肉にかぶりついた

そしてハリスも、箸で肉を持ち上げた

 

「いい匂い……この匂いは、ジンジャーかな?」

 

芳ばしく香る匂いに、ハリスはそう呟いてから一口食べた

その瞬間、口の中に生姜の匂いが一気に広がった

イノシシは独特の風味がする食材だが、その風味は感じない

強い生姜の風味と甘辛いタレの味が、口一杯に広がる

その味に思わず、ハリスはライスが盛られた皿を手に取って、ライスを掻き込んだ

 

(美味しい! 今まで食べたこと無い!!)

 

その味に、ハリスは箸が止まらなかった

時々肉で千切りにしてあるキャベツを包み、一緒に食べると、口の中でシャキシャキとした食感とキャベツの仄かな甘みが広がり、生姜の味を抑えてくれる

今まで何回か食べたイノシシが、まさかこんなに美味しくなるとは、思っていなかった

その後ハリスは、ライスを二杯お代わりして、豚のしょうが焼きを食べた

生姜の効能で、体に活力が溢れる

三日間の野宿とイノシシを追い掛けた疲労を、感じないほどだ

 

「ごちそうさまでした……」

 

とハリスが両手を合わせると、明久が

 

「はい、これ」

 

と紙の箱を差し出した

 

「これは……」

 

「さっきの豚のしょうが焼きを、サンドイッチにした物です。その様子じゃ、野宿なんでしょう? 夜食にどうぞ」

 

ハリスの問い掛けに、明久はそう言った

サンドイッチなのは、片手で食べられるように配慮したのだろう

 

「ありがとうございます……いただきます」

 

「いえ……ここは、七日に一度開きますから、またお越しください」

 

ハリスが感謝の言葉を言うと、明久はそう言った

その後ハリスは、タロと共に退店

消えていくドアを見ながら

 

「異世界食堂……か……また来たいな……よし、稼がないと!」

 

と歩き出した

村に、イノシシを狩ったことを知らせるために


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