「くっ……しつこいにも、程がある……!」
「ロメロ……!」
ある森の中を、一組の男女が駆けていた。
その二人は必死な様子で駆けていて、時折後方を確認している。
「このままでは、捕まるか……!」
と黒いコートを着た男性は、焦りが滲む表情で後ろを見た。
木々の隙間から、凄まじい数の松明が見える。
その時、白いドレスを着た女性が
「ロメロ! あそこ!」
とある方向転換指差した。その先には、ある神を奉納する祠があるのだが、その裏に小さい洞窟が見えた。
入り口は、ギリギリで人一人が通れる大きさだろう。
二人は祠に触らないように、なんとかその洞窟に隠れた。
狭いのは入り口のみで、中はそれなりの広さがあった。
二人、ロメロとジュリエッタは簡単に見つからないようにと、なるべく奥に座った。
その時、洞窟の入り口が明るくなり始めた。
どうやら、太陽が出てきたようだ。
「……どのみち、暫く出られないな……」
「でも、このままじゃあ、見つかってしまうわ……」
ロメロの言葉を聞いたジュリエッタは、何か考えるように周囲に視線を巡らせた。
(私だけならば、まだ諦めもつく……だが、ジュリエッタを死なせる訳にはいかない……)
とロメロが考えていると、ジュリエッタが
「ロメロ! あれを見て!」
とある方向を指差した。
ジュリエッタが指差した方向を見てみれば、そこには一つのドアが有った。
「なんだ、あのドアは……さっきまでは、無かったはず……」
ロメロは太陽光に当たらないように、ゆっくりとそのドアに近寄った。
その時、外から
「この辺りに居るはずだ! 探せぇ!!」
「奴は、見つけたら即始末しろ!!」
と怒鳴り声が聞こえた。
それを聞いたジュリエッタが
「ロメロ、時間がないわ……」
と急かしてきた。
確かに、迷っている時間は無いだろう。捕まれば、高位の吸血鬼たるロメロは討伐され、ハーフの吸血鬼になったジュリエッタはどうなるか分からない。
二人の出会いは、本当に偶然だった。
ジュリエッタが望まぬ政略結婚に使われそうになっていたある日の夜、ジュリエッタの部屋にロメロが現れた。
その時ロメロは、直前に光の高司祭と遭遇し交戦。なんとか、離脱した時だった。
ロメロはがむしゃらに逃げたために、蝙蝠変化で何処まで逃げたのか分からなかった。逃げた先は、ジュリエッタの部屋だった。
最初は怖がったジュリエッタだったが、ロメロが危害を加えるつもりはなく、偶々逃げてきただけと謝罪。そして、また別の場所に行こうとした。
だが、ロメロは直前の交戦による消耗もあり、蝙蝠変化すら出来なくなっていた。
それに気付いたジュリエッタは、ロメロに自身の血を僅かに吸わせたのだ。
そこから、二人の付き合いは始まった。
ジュリエッタはロメロを匿いながら、血を僅かずつ与え続け治療を、ロメロはそんなジュリエッタに彼女が知らなかった外の世界の事を話した。
そんな二人は、気付けば互いに惹かれあっていた。
身分処か、種族すら違う二人。
そんな時、等々ジュリエッタに婚約者が宛がわれることになった。勿論、ジュリエッタは反対した。
しかし、父親は結婚を強行しようとした。
その時、ある程度まで力を取り戻したロメロが、ある作戦を提示した。
それは、ロメロが結婚式直前にジュリエッタを誘拐するという内容だった。
なお、事前にジュリエッタはロメロに自身とロメロの血を交換することを提案した。
それが、人間がハーフの吸血鬼になる方法だった。
そして作戦を発動させ、逃げていたのだ。
しかし舘には、父親が呼び寄せた光の司祭が居たのは誤算だった。その司祭の祈祷により、ロメロの能力が大幅に制限されてしまい、上手く蝙蝠変化による逃走が出来なくなってしまい、今に至る。
「こうなったら、賭けるしかない……」
ロメロはそう意気込むと、ジュリエッタの手を握りながら、ドアを開けた。
すると、視界に光が満ちた。最初は罠かと勘ぐった二人だったが、肌が焼かれるような感覚がない。
「おっと!?」
「随分と、早いお客様だ……」
ロメロとジュリエッタを出迎えたのは、コックの服装の二人の男性。店長と明久だった。
実は二人も、上から降りてきて店の電気を着けたばかりで、それと同時に入ってきた二人に、思わず驚いてしまった。
勿論だが、アレッタ、クロ、早希の姿はまだない。
「ここは……」
「洋食のねこやという料理屋です。通称で、異世界食堂と言われてます」
ジュリエッタが内装を見回していると、明久がそう教えた。
すると、店長が
「何やら顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」
と二人に問い掛けた。
すると、ロメロが
「ああ、大丈夫だ。顔色はこうだが、私達の体調は良好だ」
と答えた。実際、確かに寝不足ではあるが、二人の体調は問題ないレベルだった。
すると、ジュリエッタが
「ロメロ、何か頼みましょう……料理屋さんみたいだし、注文すれば、私達はお客になるんだし……」
とロメロに耳打ちした。
それを聞いたロメロは、頷いてから
「すまないが、この店で一番高い料理を出してくれるか? お金なら、この通りある」
と懐から、金貨の詰まった袋を出した。
それを聞いた明久と店長は、顔を見合わせて
「まあ、構いませんが……」
「ただまあ、まだ準備が完了してない部分がありますから、多少お時間を頂きますが……大丈夫ですか?」
と問い掛けた。その問い掛けに、ロメロは
「構わない。頼む……それと、葡萄酒もあれば出してほしい」
と追加した。
それを聞いた二人は
「承りました」
「少々お待ちください」
と告げて、キッチンに下がった。
その後、料理を待っている間にクロ、アレッタ、早希の三人が来て、働き始めたのだが
「……あのエルフ……」
「あれは恐らく、黒の女王陛下だ……」
と二人は、クロの正体に気が付いた。
吸血鬼というのは、黒の眷族になる。吸血鬼の二人だから、気付けたことだ。
その時、早希が
「お待たせしました、ビーフステーキです」
と二人の前に、ビーフステーキを出した。勿論、
「牛の肉を焼いただけの料理が、一番高い料理か……」
「だけど、少し違うみたい……」
二人が知る肉焼き料理は、肉が非常に固いものだ。
しかし、今出されたビーフステーキは違うと、ジュリエッタは気付いた。
その理由が、ビーフステーキの切った際の手応えだった。
ナイフはスッと大した抵抗もなく、肉を切った。
すると、ロメロが
「これは……そうか、食べるための牛というやつか」
と気付いた。
二人も、噂には聞いている。食べるためだけに育てる牛があると。
「……ん」
「これは……美味い……」
ビーフステーキを一口食べた二人は、染み出してきた肉汁に驚いた。
大量の肉汁はしつこくなく、濃厚な味わいだ。
しかし、オラニエを使ったソースが肉の味を引き立てつつ、サッパリさせている。
「この葡萄酒も、美味いな……」
「本当……よほど、いい葡萄酒なのね……」
二人は葡萄酒とビーフステーキの味に、満足そうに頷いていた。
その後、二人は様々な料理を注文。赤の女王が来る直前に退店した。
「異世界食堂……か……いい店に出会えた」
「そうね……ただ、途中で来たあの光の高司祭達には、驚いたけれどね」
二人はそう会話しながら、洞窟から出た。
既に太陽は沈み、月の優しい光が二人を照らしている。
周りに人の気配はなく、二人は安堵した。
そして、二人は顔を見合わせて
「それじゃあ、行こうか……ジュリエッタ」
「ええ、ロメロ……」
と頷きあい、蝙蝠変化で夜空に消えていったのだった。