「んっー……終わったぁ……」
と背伸びしたのは、肩辺りまで伸ばした水色の髪が特徴の中性的な人物だった。
その人物の前には、見事な木製の机がある。
どうやら、執務室のようだ。
「お疲れ様でした、リムル樣」
その人物、リムル・テンペストを労ったのはスーツを着た巨乳に紫色の髪に額から生えた角が特徴の鬼人の美女のシオンである。
そのシオンは、リムルが処理した大量の書類を抱えて退室した。それと入れ替わるように、今度は着物を着た薄桃色の髪にシオンと同じように額から角が生えている鬼人の美少女たるシュナが入ってきて
「リムル樣、ご休憩にしませんか?」
と首を傾げた。すると、リムルは
「あー……そうだな。長時間座って、疲れたし」
と言って、その身をスライムにした。
実は、リムルの正体はスライムなのだ。
ジュラ・テンペスト連邦の代表、リムル・テンペスト。
なぜ、最弱の魔物の筈のリムルが一国の主となっているのか。
色々とあったのだが、簡潔に纏めると様々な魔物や襲撃してくる敵を繰り返し迎撃し、吸収・進化を繰り返してきた結果になる。
それにより、リムルはスライムなのに人と魔物が共存し繁栄している国の主となっているのだ。
「でしたら、私が作った御菓子という物をどうぞ!」
そこにシオンが、両手でトレイを持って戻ってきた。のだが、その手に持っているトレイの上のお皿の上には、何とも形容し難いモノが乗っていた。
具体的に言えば、紫色の煙を噴き出す青紫色のモノが皿の上に有った。
それを見たリムルは、思わず
「シオン……それは?」
と問い掛けた。
すると、シオンは
「はい! 街の菓子職人から聞きました、御菓子なる物です!」
と自信満々と言った表情で、告げた。
しかし、リムルだけでなくシュナも嫌な予感がしてならなかった。
シオンだが、彼女は過去に料理(本人談)を作り、仲間を一人卒倒させたという経歴がある。
つまりは、毒料理を作ってしまったのだ。
その時、シオンの元上役だったベニマルというシュナの兄の鬼人に味見役(もとい、毒見役とも言う)を
『リムル樣……最近俺、毒耐性スキルを覚えたんですよ……』
と哀愁と悲壮感溢れる報告を聞き、リムルは内心で罪悪感を抱いたのを覚えている。
耐性系のスキルは、幾度もそれを経験することで得られるスキルで、そこから分かるのは、ベニマルが何度もシオンの毒料理を食べたということだ。
そしてリムルは、自身の直感からスプーンで掬ったそれを、観葉植物の植わっていた鉢植えに落とした。
その直後、観葉植物が枯れた。
「シオン……」
「あ、あれ……?」
シュナが呆れた視線を向けると、シオンは可笑しいなぁという様子で首を傾げた。
すると、リムルは
「シオン……暫くは、作らなくっていいからな……」
と命じた。
「……はい……」
シオンも何か思うところがあったのか、リムルの命令に素直に頷いた。
その時、シュナが
「リムル樣、あれを!」
とある方向を指差した。
その先は暖炉と壁があるだけの筈だったが、気付けば一つのドアがあった。
猫の彫刻が見事な、黒い木製のドアが
「お下がりください、リムル樣」
とシオンが壁に立て掛けていた大剣を掴んで、リムルの前に立ちはだかった。
しかし、リムルは
「いや、大丈夫だ」
と言って、人の姿になってドアの前に立った。
リムルは実は、以前は人間として日本に住んでいた。その時の名前は明かさないが。そして彼は、日本に住んでいた時、実は何回か来店していたことがあるのだ。
「懐かしいな……」
リムルはそう言いながら、ドアの取っ手を掴んで、開けた。
「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!!」
そんなリムル達を、明るい声が出迎えた。