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「魔物と人間が共存する国……」
「まあ、俺がその国。ジュラ・テンペスト連邦の主なんですが」
明久にそう説明しながら、リムルは人間の姿からスライムの姿になった。それを見た早希が
「ねえ、アレッタちゃんの世界にもスライムって居るの?」
「居ますけど、狂暴な魔物なんです。内部に取り込んだ獲物を、溶かすみたいで……」
「うわ……」
アレッタの話を聞いて、早希は体を震わせた。
確かに、そんなことにはなりたくないだろう。
「まあ、俺はそんなことをしないから。大丈夫だよ」
リムルはそう言いながら、人間の姿に変身した。
そして
「シオン、シュナ。ここで飯にするぞ」
「リムル樣の判断なら、従いますが……」
「ここで、ですか?」
リムルの言葉に、二人は首を傾げた。
恐らくだが、味に疑問を覚えているのかもしれない。だが、リムルが
「大丈夫。ここの味は、保障するさ」
と二人に伝えた。
それを聞いた店長は
(ウチのことを知ってるのか?)
と片眉を上げた。
そしてリムル達は、アレッタに促されて机に座った。そこに、早希がメニューを人数分持っていったのだが、それをリムルは
「ああ、二人分だけでいい。俺は決まってるから」
と告げた。
それを聞いた早希は、少し驚いた表情を浮かべつつも、リムルに言われた通り、シオンとシュナの二人の前にメニューを置いた。
そして数分後、シオンとシュナの二人は料理が決まったらしく、メニューを閉じた。それを確認したリムルは、片手を上げてたまたま近くに来たクロを呼んだ。
(御注文は、お決まりですか?)
三人は頭の中に響いた声に一瞬驚くが、すぐに気を取り直し
「私は、トンカツとやらをください」
「私は、このカレーライスとやらを」
とシオンとシュナは、それぞれ注文した。
そして、最後にリムルが
「俺は、シーフードドリア。付け合わせのサラダなんだが、シーザーサラダで頼む」
と細かく注文した。
(畏まりました)
注文を聞いたクロは、頷いた後にメニューを回収して離れた。
それを三人は
「あの方……とてつもない魔力です……」
「A……いえ、Sすら越えてる……」
「体感的には、ミリムに近い強さだな……」
と漏らした。
そして、十数分後
「お待たせしました、シーフードドリアとシーザーサラダです」
とアレッタが、リムルの前に料理を置いた。
料理が届けられた順番としては、リムルが一番最後なのだが、シオンとシュナの二人はまだ料理を食べていなかった。
「ったく、俺を待たなくてよかったんだぞ?」
「いえ、リムル樣」
「リムル樣を待たずに食べれる訳がありません」
リムルの苦言に、シオンとシュナの二人は笑みを浮かべながらそう答えた。
そして、三人は
『いただきます』
と揃って食べ始めた。
そしてリムルが、最初の一口を口に運び
「うん、美味い……」
と呟くと、シオンとシュナも食べ始めた。
(懐かしいなあ……会社で働いてた時は、昼休みとかに来たな……)
リムルは懐かしみながら、一口ずつ食べていた。
元人間だったリムルは、ねこやビルの近くにあったある会社で働いていて、昼休みの時はよく後輩と一緒に食べに来ていたのだ。
しかし、訳あって今居る世界に転生。
それ以来、食べていなかったのが、今食べているシーフードドリアだった。
耐熱性の器の底にご飯を敷き詰めて、その上にねこや特製のデミグラスソースとホワイトソースを掛けて、その上にイカや魚の切り身、タコを乗せてから、チーズをまぶして焼いてある料理だ。
人間だった頃は一人暮らしだったために、どうにも簡単なご飯しか食べておらず、ねこやでのお昼が数少ない楽しみだと言っても過言ではなかった。
(また、食べられるとはなぁ……)
とリムルが食べていると、それをたまたま見た店長が
(ん?)
リムルの姿に、別の人間の姿が重なった。
大柄な体格に、少し無愛想ながらも後輩の面倒見が良かった一人の男性。
(まさか……な)
と店長は首を傾げながらも、新たな料理を作るのに意識を戻した。
そして、食べ終わると
「いいか、シオン。料理ってのは、これを言うんだ。見た目と味の両立……それこそが、料理だ」
「はい、勉強になります……」
とリムルは、シオンに教えていた。
その光景に明久は、何故か悪寒が走った。
「明久さん? どうかしたんですか?」
身震いした明久を見て、早希が問い掛けると
「大丈夫、高校時代を思い出しただけだから」
と明久は答えて、調理に意識を戻した。
そして、三人は立ち上がると
「すいません、お代なんですが……」
とリムルが、金貨を取り出した。
それを見た明久が
「えっと、金貨と銀貨、銅貨のレートは、どうなってますかね?」
とリムルに問い掛けた。
それにリムルが答えると
「うん、同じですね」
とおつりを返した。そして
「ここは、七日に一度開いてますので、またお越しください」
と頭を下げた。
退店したリムルは、消えていくドアを見ながら
「また行けるようになるとはな……」
と呟いたのだった。