この異世界食堂には、常連と呼べる客が数多く居る。
彼等は自分が見つけて確保している扉を使って、7日に一度、異世界食堂に来る。
そうして、異世界の料理を堪能することが生活の一部になっているような客だ。
様々な場所に現れる扉で、客を選ばず。だからか、非常に個性豊かな人物達が訪れる。
特に、常連客は個性的な人物が多い。
世界各地から集まった
世界にその名を馳せた有名人、天敵、仲の悪い相手が居てもお互いに見てみぬ振りが暗黙の了解になっている。
何しろ、来ているのは異世界食堂。自分達の常識は通用しないし、通用すると思ってはいけない。
更に言えば、下手なことをして店主達から《入店拒否》されたら、目も当てられない。
そんなわけで、お互いを尊重するし初めてきた客がそういったことをしてきたりしたら、止めに入る。(過去に実例アリ)
しかし、そんな常連達でも譲れないことがある。
それが、料理だ。長年通っていたり、頻繁に来る客は大好物の一品が必ず有り、それが異世界食堂で一番美味しいと確信している。
もし、どの料理が一番美味しいかという言葉が出たら、そこから口論に発展することも多々ある。
そして、今日はたまたまその日だったようで
「だーかーら! サンドイッチにしても一番美味しいのは、メンチカツだって!」
「いいや、エビカツサンドこそが!」
発端は、たまたま同じ席に座ったサラとハインリヒの二人だった。
二人共に同じ揚げ物系ということで、本当に気紛れレベルで互いに一口ずつメンチカツとエビフライを交換し、食べた。
そこから、どちらがサンドイッチに合うかということになったのだ。
しかも、そこに
「カツサンドも忘れてはならんぞ」
とアルトリウスも参戦。赤い顔から察するに、少し酔っているのかもしれない。
更には
「僕としては、ナポリタンドッグもおすすめしたいですね!」
若き経営者、シリウスが参戦。彼としては、商会が独占している商品が関わっているから、というところだろう。幼馴染みの料理人のシリウスは、厨房が見える位置の席で中を見ている。どうやら、店主や明久の料理を見て勉強したいらしい。
「あ、あの……フルーツサンドは、どうでしょうか?」
そこで意外にも、アーデルハイド姫が参戦してきた。
まさかアーデルハイド姫が参戦するとは思っていなかったシャリーフは、回りの人達の視線に萎縮していて、妹のラナーは溜め息を吐いている。
「お主は参戦せんのか、テリヤキの」
「確かにテリヤキチキンは、サンドイッチにしても合うが、やはりライスこそ……」
「つまり、負けるのが怖いか」
「その話、乗ってやる」
アルトリウスの挑発に、タツゴロウが参戦。やはり、アルトリウスは若干酔っているのかもしれない。
「先輩は、いかないんですか?」
「んー……僕は、なんでも大丈夫だから」
マシュの問い掛けに、立夏は無難に返答。巻き込まれるのを恐れたか。
しかし、それが正しい。
「なのはママは?」
「ママは、なんでも大丈夫だよ?」
金髪少女、ヴィヴィオの問い掛けに、なのはは母親として答えている。大人としてでか、事を荒立てる気は無いようだ。
「ゴブリンスレイヤーさんは、好きなサンドイッチはあるんですか?」
「……食に関しては、よくわからん」
ゴブリンスレイヤーの短い返答に、受付嬢は僅かに唇を尖らせた。
彼に関しては、食もだが女心を理解する努力をするべきだろう。
「リムル様は、どのようなサンドイッチがお好きなんですか?」
「ん? 俺は、シンプルに玉子サンドだな」
シュナの問い掛けに、リムルは素直に答えていた。シオンの姿が無いことから、たまたまなのか二人で来たようだ。
そして議論していた一同が
「こうなったら、実際に食べて決めようじゃないの!」
「それが、一番手っ取り早いようだな!」
「店主よ!!」
と一斉に、厨房の入口にまで来ていた店主に視線を向けた。店主は、もしさらに過激化するようならば
そして、店主は
「あいよ! 明久!」
「オーダー承りました!!」
店主の言葉を聞いた明久は、素早く食パンを取り出した。
そして、数十分後
「お待たせしました!」
「サンドイッチです!」
三つの大皿に、大量のサンドイッチが乗せられた状態で机の上に置かれた。
面倒だったからか、聞こえてきたサンドイッチは全て作ってある。
そして、試食の結果だが……それは読者の皆様にお任せします。