「え、食堂が使えない?」
「はい……今イリーナさんが、調べてるんですが……火が起こせないんです……」
少女、世界樹の精霊であるユーの問い掛けに、ダークエルフのソフィーは、困ったという表情を浮かべながらそう答えた。
すると、キッチンの方から小柄な少女。ドワリンドのイリーナが現れて
「原因は分かりましたが、直すには時間が掛かりそうであります。昼食には、間に合わないかと思われます」
と告げた。
機械が得意なイリーナでも、時間が掛かるということは直ぐには直せないだろう。しかし、もうすぐ昼食の時間だ。二人の話を聞いて、冥王は
「さて、困ったな」
と腕組みした。
そうしている間にも、続々と生徒でもありアイリスたる少女達が食堂に続く廊下に集まってきた。
その時だった。冥王が作った
「ご主人様、あちらを」
と壁を指差した。言われた冥王も、壁を見た。そこには、見慣れぬドアがあった。
黒猫が彫られてある、黒いドアだった。
それを見た騎士のアシュリー・アルヴァスティが、冥王の前に立って
「主、お下がりください」
と剣の柄に手を添えた。気付けば、他の面々もそれぞれ簡易ながら戦闘態勢を取った。
それを、冥王は片手で制して
「大丈夫。確かに膨大な魔力は感じるけど、害意は感じない……」
と告げた。
その時、侍のコトが
「んん? これ、私の故郷の言葉じゃん」
と思わず首を傾げた。
「コト。それ、本当?」
「うん。見たの久しぶり過ぎて、思い出すのに時間掛かったよ」
ヴァンピールのヴァレリアの問い掛けに、コトは答えながらドアに書かれてある文字を読んでいる。
今や冥界に居るコトだが、嘗ては極東の島国で産まれ育ち、その後は訳あって世界中を旅していた。
それ故に、故郷の言葉を見るのは久しぶりだったのだ。
「それで、なんて書いてあるんだ?」
「んーと……洋食のねこや……だね」
冥界の問い掛けに、コトはそう教えた。
「つまりは、レストラン……ということかな?」
「……ベア」
「ここに」
眼鏡を掛けた少女のクレアが首を傾げると、冥王はベアトリーチェを呼び、冥王の意図を察したベアトリーチェはスッと財布を取り出して、冥王に差し出した。
財布を受け取った冥王は、財布の中身を確認し
「よし……今日は、ここで昼食にしようか」
と提案した。
すると、訓練帰りだからか、海賊のような服を着たギゼリックが
「つまりは、冥王の奢りって訳かい? 太っ腹だねぇ」
と快活に笑いながら言った。
それに対して、冥王は
「俺は仮にも、学園長でもあるからな。学生が困ってるなら、それを助ける義務がある」
と返答し、ドアの取っ手に手を掛けた。
「開けるぞ」
冥王は一言そう言って、ドアを開けた。
すると、カウベルの音が鳴り響き
「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!」
とアレッタが、冥王御一行を出迎えたのだった。