異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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三皿目 トウフステーキ

「いらっしゃいませ! 洋食のねこやにようこそ!」

 

アレッタはそう言いながら、訪れたお客達を出迎えた

訪れたお客は様々で、色々な料理を注文していく

そんな中、一人のお客が来店した

森に住む種族、エルフの女性だ

そのエルフの女性

ファルダニアは、来店すると

 

「ここは……」

 

と不思議そうに、店内を見回した

するとアレッタは

 

「ここは、洋食のねこやです!」

 

と説明した

それを聞いたファルダニアは

 

「ねこや?」

 

と首を傾げた

するとアレッタは

 

「はい! 料理をお出しするお店です!」

 

と言った

そして、席に案内

メニューを手渡した

それから数分後

 

「メニューは決まりましたでしょうか?」

 

とアレッタが問い掛けた

すると、ファルダニアは

 

「卵も牛乳も肉も魚も使わない料理、あるかしら?」

 

と問い掛けた

それを聞いたアレッタは、困惑した様子で

 

「し、少々お待ちください! 確認してきます!」

 

と言って、キッチンに向かった

なぜ、ファルダニアはそんな注文をしたのか

それは、彼女がエルフだということが挙げられる

エルフというのは、森で動物達と共存する種族だ

だからエルフたる彼女からしたら、動物は獲物ではなく森で共に住む仲間

そんな仲間を殺して食すというのは、エルフからしたら野蛮な行為という考えだった

では、そんなエルフ達の食生活はというと、基本的には自分達が育てた農作物と森に自生している野草やキノコ等を調理して食べるのだ

だから、先のような注文をしたのだ

しかも彼女、ファルダニアは扉が出た森のエルフの中では、随一の料理研究家としても知られている

そんなファルダニアからしたら、(この世界の)人間の料理というのは、未熟に過ぎた

そんな彼女は、少しして

 

(ダメそうだし、帰ろうかしら……)

 

と思った

その時、アレッタと一緒に店長と明久がやってきて

 

「注文承りました。こちらにお任せという、形でよろしいですか?」

 

とファルダニアに問い掛けた

それを聞いたファルダニアは、思わず立ち上がり

 

「ねえ、分かってるの? 私は、動物系は一切口にしないし、少し入ってても分かるからね!?」

 

と店長達に食って掛かった

すると明久は、微笑みを崩さず

 

「ええ、大丈夫ですよ。流石にスープ等は出せませんが、その他でしたら、問題なく提供出来ます」

 

と答えた

明久の自信満々な表情を見て、ファルダニアは

 

「そう……分かったわ」

 

と引き下がった

それを聞いた店長達は、恭しく頭を下げながら

 

「承りました、少々お待ちください」

 

と言って、下がった

料理が来るまでの間、ファルダニアは周囲を見回した

ねこやの料理を知るためである

 

(基本的には、知らない料理ばかりね……ただ、どれもこれも動物を材料に使ってる……)

 

動物を材料にしているだけでファルダニアからしたら、大きな減点だった

しかし、食べている客は誰も彼もが幸せそうに食べている

 

(本当に、動物を使わないで作れるの?)

 

とファルダニアは疑っていた

その考えが覆されたのは、それから十数分後だった

トレイを持ったアレッタが現れて

 

「お待たせしました! トウフステーキです!」

 

と机に置いた

出された料理を見て、ファルダニアは

 

「トウフステーキ……?」

 

と驚いた

ファルダニアが知る限り、ステーキは動物の肉を焼いた料理だったからだ

しかし、提供されたトウフステーキは違った

 

「はい。こちらのポンズソースを掛けても、美味しいですよ」

 

アレッタはそう説明すると、今度はご飯が盛られた皿を置いて

 

「では、ごゆっくり」

 

と頭を下げてから、下がった

ファルダニアはアレッタを見送ってから、鉄板で焼かれている豆腐を見て

 

(ステーキって、動物の肉を焼いた料理の筈よね……なのに、これは違う……多分、この白いのがトウフって食材かしら?)

 

と考え始めた

トウフステーキの見た目は肉厚で、ボリュームが有るように見える

表面には焼き目があり、香ばしい匂いがしている

その匂いを嗅ぎつつ、ファルダニアはフォークとナイフを持って

 

(問題は、味よ)

 

とフォークを刺した

その瞬間、驚いた

 

(なにこれ! 柔らかい!? 見た目と違って、簡単にフォークが刺さった!)

 

豆腐に刺したフォークは、抵抗なく簡単に刺さった

その柔らかさを考慮しつつ、今度はナイフで適度な大きさに切った

そして、少し持ち上げると

 

(本当に柔らかいのね……こんなに震えるなんて……)

 

と思った

そしてファルダニアは、意を決して口に入れた

その直後、ファルダニアの口の中に熱さが広がった

だがそれと同時に、口の中に濃厚な味が広がった

 

「なにこれ!?」

 

その濃厚さに、ファルダニアは思わず声が出た

味としては、かなり淡白なほうだろう

しかし、素材の濃厚な味わいが口の中に一気に広がった

 

(この料理、シンプルだけど凄い美味しいわ!)

 

ファルダニアはそう思うと、また豆腐を口に運び、続けてご飯を口にした

 

(このライスというのは、仄かに甘いわ……料理の引き立て役になるのね……)

 

ファルダニアはそう思いながら、水を飲んだ

そして、また豆腐を食べようとした時

 

(そう言えば、このポンズソース……だったかしら? これを掛けると、更に良いって言ってたわね)

 

とアレッタの言葉を思い出した

だからファルダニアは、横に置いてあった銀の器を持ち上げて、中の黒い液を満遍なく掛けた

すると、まだ熱かった鉄板に液が触れて、パチパチと弾ける音が響いた

それと同時に、先ほどまでとは違う良い匂いが鼻腔をくすぐった

その匂いに、ファルダニアは

 

(この匂い……酸味が強い果実を使ってるのかしら?)

 

と内心で首を傾げながら、一口サイズに豆腐を切った

そして見てみると、先ほどまで白かった面が僅かに黒くなっていた

それは、先ほど掛けた液の色

 

(どんな味になっているのかしら……)

 

ファルダニアはそう期待しながら、豆腐を口に運んだ

そして、驚いた

 

(凄い! 淡白だった味が、味わい深くなったわ!)

 

今ファルダニアの口の中には、様々な味が広がっていた

先ほど匂いで分かった、酸味の強い果実

それだけでなく、ソースのベースとなっているのだろうしょっぱい味

なによりも、根幹となっているのは特徴的な潮の香りの素材

それらの味わいが一気に口に広がって、ファルダニアに食欲を増進させた

気が付けばファルダニアは、無我夢中で料理を口に運び続けた

そして、食べ始めて十数分後

 

「ごちそうさま」

 

とファルダニアは言いながら、フォークとナイフを置いた

すると、店長が近寄り

 

「如何でした?」

 

と問い掛けた

すると、ファルダニアは

 

「悔しいけど、美味しかったわ」

 

と素直に答えた

その答えに、店長は満足そうに頷いた

その直後、ファルダニアは店長をビシッと指差し

 

「でも、いい!? 私がこのまま、負けるだなんて思わないで! 必ず、貴方達より美味しい料理を作ってみせるわ!!」

 

と言った

どうやら、負けたままというのは嫌なようだ

言いたいことを言ったからか、ファルダニアは満足そうに鼻を鳴らした

それを見た店長は

 

「分かりました……我々も、負けぬように常に精進しましょう」

 

と答えた

すると、明久も同意するようにカウンター向こうから親指を立てていた

するとファルダニアは、笑みを浮かべて

 

「それじゃあね」

 

とねこやから去った

この後、ファルダニアは亡くなった母親を思い出しながらねこやの料理を振り返り、料理研究の旅に出ることになるのだった


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