異世界食堂 おバカな料理人   作:京勇樹

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ロボットマニア率いる騎士団

「っん……はぁ……」

 

その部屋の主たる美少年。エルネスティ・エチェバルリアは、引いていた設計図から目を離すと凝り固まっていた背筋を伸ばした。

そのタイミングで、ドアが開き

 

「エルくん! お昼にしよう!」

 

と一人の可愛らしい少女。アデルトルート・オルターが入室してきた。すると、エルネスティ。愛称エルが

 

「そうですね、アディ。いい時間みたいですし」

 

と同意しながら、窓から外を見た。

この二人は、フレメヴィーラ王国にてその名と規模をあっという間に広げた新進気鋭の騎士団。銀鳳(ぎんおう)騎士団の団長とその補佐官にして、若いというよりも幼いが、夫婦である。

そしてエルだが、実は彼は今は銀髪の美少年の姿だが、中身は30代半ばのおっさんである。

そこ、事案言うな。今の肉体年齢は間違いなく十代前半なので、問題ない。

以前の彼は、地球は日本のあるゲーム会社に勤める凄腕プログラマーであった。

そんな彼の趣味は、ロボットであった。あらゆるロボットアニメの視聴やゲームをプレイし、暇な時には買ったプラモデルを組み立てては部屋に飾っていた。

しかしある日、彼は帰宅中に居眠り運転のトラックに轢かれて死亡。

気付けば、この世界に生まれ変わっていた。

時代と世界観的には、中世の欧州といった雰囲気の世界に。ただ違ったのは、魔法だった。

才能によるが、魔法が使える世界だった。しかし、彼にとってはどうでもいいことだった。

彼にとって、ロボットの存在こそが至上だった。

生まれ変わった時は

 

(せめて、ロボットの世界に産まれたかった)

 

と思った程だった。

そんなある日、彼とこの世界の母親と祖父が乗った馬車が、巨大な魔獣に襲われた。馬車は破壊され、護衛に居た騎士は太刀打ち出来なかった。

また死んでしまうのか、と思った時、巨大な人影が現れた。

それは、この世界で造られた人型兵器。幻晶騎士(シルエットナイト)だった。

その幻晶騎士に乗っていたのは、この世界の父親だが、彼にとってはどうでも良かった。

彼にとって興味を引かれたのは、その幻晶騎士だった。それは正しく、ロボットだった。その後彼は、その幻晶騎士を使う為には魔法が重要で、魔法を使うために体力と魔力を着ける為に訓練した。その最中で、幼馴染みになるアーキッドとアデルトルート・オルター双子に出会った。

その後は、三人で幻晶騎士の操縦者。

騎操士(ナイトランナー)になるために、学校に通い、数々の偉業を成し遂げて、ある訓練中に起きた事件から、在学しながらも騎士団の長になり、次々と新型機を世に産み出した。

そんな彼は、今はある新型武装の設計図を引いていたのだ。期限が短いためにかなり無茶をしている自覚があり、最近はご飯も不規則になってきている。

だが、妻たるアデルトルートから催促されたら、無下には出来ない。

 

「でも、今日はどうしようか? 新しくきた鍛治の人達で、食堂は凄い混んでるよ?」

 

「あー……確かに、そうですねぇ」

 

アデルトルートの話を聞いて、エルネスティは少し悩み始めた。鍛治師というのは、幻晶騎士を作る職人のことで、常に新型を作り続ける銀鳳騎士団への所属を希望してきたらしく、その人物達を受け入れている。

そのために、拡張予定の食堂では少し手狭だった。

 

「んー……ん?」

 

少し悩んでいたエルネスティは、少し首を傾げた拍子に違和感を感じて、ある方向を見た。

 

「エルくん、どうしたの……あれ、何あのドア?」

 

エルネスティに僅かに遅れて、アデルトルートもその方向。部屋に据え付けられている暖炉のある壁の方向を見た。

今は季節柄故に使ってない暖炉の隣に、木製の黒いドアが有った。それも、エルネスティからしたら懐かしい文字。日本語と共に。

 

「むむ……ちょっと、調べたほうが……」

 

「いえ、大丈夫ですよ、アディ。このドアからは確かに、膨大な魔力を感じますが、害意は感じません……」

 

ドアを調べるために銃杖を取り出したアディを静止し、エルネスティは改めてそのドアを見た。

洋食のねこや、と書かれた看板を黒猫が咬えている。

 

「ふむ……入ってみましょうか、アディ」

 

「本当に大丈夫なのー?」

 

不安がるアデルトルートを引きずる形で、エルネスティはドアを開けた。その直後、カウベルの音が響き

 

「いらっしゃいませ、洋食のねこやにようこそ!」

 

と長い黒髪の少女が、二人を出迎えた。


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